本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP

「忙しいのに成果が出ない」のは、忙しさが勝手に増えるから

更新日:
約6分で読めます 思考法・問題解決
目次

アンケートを書き終えた学生に、15分の待ち時間ができました。回答用紙はすぐ外に出して座って待ってもいいし、往復12〜15分かかる遠くの場所まで歩いて届けてもいい。どちらでもチョコレートが1つもらえます。

2か所で同じチョコを配ると、遠くを選んだのは32%でした。ところが、場所ごとにチョコの種類を分けただけで、遠くを選ぶ人は59%に増えます。事前の調査では、どちらのチョコも同じくらい好まれていたにもかかわらずです。

そして歩いた人のほうが、座って待った人より、この15分の気分がよかったと答えていました。

人は暇を嫌います。ただ、忙しくなるには理由が要る。その理由は、チョコの種類の違い程度でも足ります。

忙しいのに成果が出ないとき、私たちは自分の能力や段取りを疑います。でも忙しさには、成果とは別の理由で増えていく仕組みがあります。

忙しさと成果は、別々に積み上がる

コンサルタントの内田和成さんは『アウトプット思考』で、「仕事」と「作業」を分けています。仕事は、ある目的を達成すること。作業は、そのための手段です。情報収集、会議、企画書づくり、メール作成は作業にあたります。

内田さんが怖いと書いているのは、作業をこなしていると「仕事をした気」になることです。作業の達人になっても、仕事の達人になれるとは限りません。

安宅和人さんの『イシューからはじめよ』も、同じ場所を別の角度から指しています。問題かもしれないと思われているもののうち、いま答えを出すべき問題は100個のうち2、3個だ、と。

二人の指摘を重ねると、構造が見えてきます。忙しさは、手を動かした量で積み上がる。成果は、その2、3個の問題が前に進んだかで決まる。

二つは別々の帳簿についているので、片方が増えても、もう片方は動きません。しかも手を動かした量のほうは、毎日きちんと実感できます。

では、なぜ忙しさの帳簿ばかりが増えるのか。研究からは、個人の側と職場の側に一つずつ理由が見えてきます。

人は、もっともらしい理由があれば忙しいほうを選ぶ

冒頭の実験は、シカゴ大学のクリストファー・シー氏らが2010年に Psychological Science 誌で報告したものです。参加したのは大学生98人でした。

気分は5段階で聞いています。同じチョコを配った条件では、歩いた人の平均が4.07、座って待った人が2.72でした。

続く実験では、別の54人に行き先を指定しました。選ばせずに歩かせても、歩いた人は4.01、待たされた人は2.36です。自分で選んだかどうかに関係なく、手を動かしていた人のほうが気分がよかったことになります。

シー氏らは、人が掲げる目標の多くは、実は忙しくしているための口実なのかもしれない、と述べています。

これを職場に置き換えてみます。たとえば、急ぎでない資料のフォントをそろえる。届いたばかりのメールに即レスする。念のため、もう一つ会議に出る。

どれにも、もっともらしい理由がつきます。そして片づけるたびに、手応えが返ってくる。

一方、2、3個の本当の問題は、考えても答えがすぐには出ません。手応えのない時間が続きます。理由さえあれば忙しいほうを選ぶ私たちにとって、作業はいちばん選びやすい忙しさなんです(この当てはめは私の解釈です)。

ただし、実験は15分の待ち時間と大学生という小さな場面です。著者たち自身も、扱ったのはほどほどの暇とほどほどの忙しさだけだと断っています。

チームの忙しさは、一人の努力では止まらない

もう一つの理由は、忙しさが人から人へうつることです。

当時ミシガン大学にいたレスリー・パーロウ氏(現在はハーバード・ビジネス・スクール教授)は、フォーチュン500企業のソフトウェア開発チームに9か月間入り込み、1999年に Administrative Science Quarterly 誌で報告しました。チームは、ふだん3〜5年かける製品を9か月で開発するよう求められていました。

12人のエンジニアが1日の行動を記録した35日分を分析すると、一人で作業する時間は勤務の6割近くありました。ところが、その時間は細切れでした。邪魔の入らない一人作業のまとまりのうち75%が1時間以下で、さらにその6割は30分以下です。

細切れにしていたのは、同僚との打ち合わせや質問でした。エンジニア自身の判断では、そうしたやりとりの96%は役に立っていました。でも急ぎだったのは10%だけで、86%は後に回しても誰も困らないものでした。それなのに、95%はその場で突然始まっていました。

パーロウ氏は、この状態が続く理由を二つ挙げています。いつも目の前の危機に追われていること。そして、危機を救った人がヒーローとして評価されることです。

評価されたい人は、自分の仕事を最優先にして、必要なときに必要な相手を呼び止める。呼び止められた人の仕事が遅れ、それが次の危機になる。パーロウ氏はこれを、仕事時間の悪循環と呼びました。

そこで試されたのが「静かな時間」です。週3日、正午までは互いに話しかけない。17人に聞くと、生産性がふだんより高かったと答えた人は59%でした。話しかけてよい時間を中心に組み替えた時期は41%に下がり、静かな時間に戻すと65%に上がっています。

製品は予定どおりに発売され、事業部の副社長はこの取り組みのおかげだと語りました。事業部の歴史で2度目の、予定どおりの発売でした。

ただ、この話には続きがあります。発売から半年後に再訪すると、静かな時間はほとんど残っていませんでした。エンジニアの一人は「静かな時間だけではうまくいかない。守る動機がなかった」と話しています。

割り込みを生んでいたのは、危機とヒーローを評価する仕組みでした。時間割だけ変えても、その仕組みが残る限り元に戻ります。数字が自己評価であることも含め、1チームの事例として読む必要はあります。

忙しさを減らす前に、「どの問題に効いたか」を書く

誤解:忙しさは、時間の使い方がうまくなれば減る → ここまで見たとおり、成果と無関係に忙しさが増える理由があります。効率だけ上げても、空いた時間は理由のつく作業ですぐ埋まります。

正しいアプローチ:作業の横に「どの問題に効いたか」を書く → 内田さんは、1週間の業務を書き出して仕事と作業に仕分けることを勧めています。ここに一列足して、それぞれが安宅さんの言う2、3個のどれに効いたかを書く。たとえば「定例資料の体裁直し」がどの問題にも効いていなければ、それが理由のついた忙しさの候補です。

正しいアプローチ:1日1回、進み具合を見て計画を捨てる → 木下勝寿さんは『時間最短化、成果最大化の法則』で、1日1回進み具合を確かめ、目標に届きそうにないと判断したら今の業務を止めて戦略を練り直すよう勧めています。忙しさの帳簿ではなく、成果の帳簿で1日を締める習慣です。

正しいアプローチ:割り込みは、チームで扱う → たとえば「急ぎでない質問は、午後4時にまとめて聞く」とチームで決める。パーロウ氏の事例に照らせば、決めるだけでは続きません。火消しに走った人より、火事を起こさなかった人を評価する話し合いまでをセットにします。

今日5分でできることもあります。明日の予定表を開き、2、3個の問題のどれにも効いていない予定に印をつける。印がついた予定は、なくしたら誰が困るのかを一つずつ確かめます。

おわりに

忙しさは、理由さえあれば自分で増やせてしまい、チームの中では人から人へうつります。だから、忙しいことは成果が出ていることの証拠になりません。

今日の作業を一つ選んで、それが2、3個の問題のどれに効いたかを書いてみてください。書けない作業は、忙しさの帳簿にしかついていません。


この記事で参考にした本

『アウトプット思考』内田和成さん → 「仕事」と「作業」を分け、作業が「仕事をした気」を生むという指摘

『イシューからはじめよ[改訂版]』安宅和人さん → いま答えを出すべき問題は100個のうち2、3個という、成果の帳簿の付け方

『時間最短化、成果最大化の法則』木下勝寿さん → 1日1回進み具合を確かめ、届かないなら業務を止めて戦略を練り直す習慣


合わせて読みたい

『ロングゲーム』ドリー・クラーク氏|「忙しい」は、有能さではなく無力さの証だった 「忙しい」を誇る感覚そのものを問い直す本です。本記事で「成果の帳簿」と呼んだものを、10年単位のキャリアで考えたい人に向いています。

『一点集中術』デボラ・ザック|1日中働いたのに、何も終わってない理由 細切れの時間が一人の頭の中で何を起こすかを扱った本です。パーロウ氏の調査をチームの話とすれば、こちらは個人の側の話として読めます。

「正しい答え」を出しても、問いが間違っていたら意味がない 2、3個の問題をどう見極めるかに踏み込んだコラムです。「どの問題に効いたか」を書こうとして手が止まったときに役立ちます。