「正しい答え」を出しても、問いが間違っていたら意味がない
目次
ある空調メーカーは、8年間、ひとつの部品の素材を探し続けました。
始まりは、エネルギー危機のさなかに他社から持ち込まれた太陽熱ヒートポンプのアイデアです。販売ライセンスと引き換えに、心臓部の「ヒートホイール」を開発する。湿気を保ち、しかも壊れにくい素材さえ見つかれば、製品は完成するはずでした。
素材は、8年たっても見つかりませんでした。計画が打ち切られたのは、エネルギー価格が下がり、省エネ製品を急ぐ理由が消えたときです。
オハイオ州立大学のポール・ナット氏がこの事例で問題にしたのは、技術者の力量ではありません。その間、誰も「ヒートホイールなしで設計し直せないか」「省エネの冷暖房を別のやり方で届けられないか」と問わなかったことです。
組織は、与えられた問いには驚くほど粘り強く答えます。危ないのは、その問いがどこから来たのかを誰も確かめないことです。
会社の「問い」は、会議の前に決まっている
ナット氏が集めたのは、米国とカナダの中規模から大規模の組織で、上級管理職が下した356件の意思決定です。関係者への聞き取りで進め方を記録し、2年間追跡しました(1999年、Academy of Management Executive誌)。新製品、設備投資、組織再編といった日常の経営判断です。
論文のタイトルは「意外だが本当だ。組織の意思決定の半分は失敗する」。ここでの失敗は、決めたことが実行されない、途中で取りやめになる、2年後には一部しか使われていない、という意味です。
失敗を分けたのは外部環境より、管理職が選んだ進め方でした。特に差が出たのが、最初に「何を目指すか」を決める段階です。
コンサルタントのトーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ氏が17か国、91社の経営幹部106人に尋ねた調査では、85%が「自社は問題の診断が下手だ」に同意し、87%が「そのせいで大きなコストが出ている」と答えました(Harvard Business Review、2017年)。自己評価のアンケートですが、経営者自身もここを弱点だと感じています。
「案」から始めても「問題」から始めても、探す範囲は狭くなる
論文の分類では、組織が方向を決めるやり方は4つありました。
- 案から始める(37%):持ち込まれたアイデアを、そのまま解決策に仕立てる
- 問題から始める(26%):何が悪いのかを定義し、その特徴を分析して手がかりを探す
- 目標から始める(30%):実現したい結果だけを示し、手段は広く探させる
- 介入から始める(7%):評価の高い組織の水準と比べて現状の差を示し、動く必要性を関係者と共有する
2年後も全面的に使われていた割合は、案から始めた判断で42%、問題から始めた判断で44%でした。目標から始めると58%、介入から始めると92%まで上がります。倍以上の開きです。
冒頭のヒートポンプは典型的な「案から始める」です。意外なのは、「問題から始める」の成績がそれとほぼ同じだったことです。
たとえば、米オハイオ州の行政機関の例です。社会保障給付をめぐる不服申し立ての積み残しが増え、所長らは処理手順を見直しました。似た案件をまとめて一括処理する方式です。
ところが、分析は「積み残し」という症状に向き、「なぜ申し立てが増えているのか」には向いていませんでした。処理に1年かかるほど積み残しが膨らんだころ、所長は法律の抜け穴に偶然気づきます。受給資格が、意図せず緩くなっていました。原因は処理の外にあったのです。議会が抜け穴を塞ぐまで、機関は批判と訴訟にさらされ続けました。
問題から始める進め方がつまずく理由を、論文は2つ挙げています。
1つは、探す範囲が問題の名前に縛られることです。「広告に問題がある」と定義した瞬間、広告以外の打ち手は検討の外に出ます。
もう1つは、問題を並べると関係者が身構えることです。問題には責任者がいます。人は解決策を探すより、自分が責められないための立ち回りに力を使い始めます。
結果だけを示す「目標から始める」進め方なら、手段はどこから探してもよく、犯人探しの空気も生まれにくくなります。
ただし、この研究の「成功」は、決めたことが使われ続けたかどうかで測っています。その決定がどれだけ利益を生んだかは測っていません。進め方と成功の関係も観察データなので、目標を掲げれば必ずうまくいくとまでは言えません。目標が高すぎると逆に失敗を招く、とナット氏自身も注意しています。
問いは「検証できる形」にしておく
だからといって、分析を捨てる必要はありません。大前研一さんの『企業参謀』が示しているのは、問いの形を変えるやり方です。
大前さんは、社内からアイデアを募る「提案箱」がうまく働かない理由を、「設問そのものが解決策指向的でないから」と書いています。たとえば「売上を伸ばすには?」と聞けば、営業強化も広告の増額も値下げも、すべて答えになります。どれが正しいか確かめる手段がありません。
代わりに大前さんが勧めるのは、「当社の売り上げが伸びないのは、シェアが伸びていないからなのか?」のように、YESかNOで答えざるを得ない問いです。この形にすると、市場全体の伸びと自社シェアの推移を調べないと答えられません。答えがNOなら、その仮説を捨てて次の候補へ進めます。
ただし大前さんは、解決策指向の設問を立てるには、問題点そのものが事前に正しく把握されている必要がある、とも書いています。
オハイオの事例に当てはめると、違いがはっきりします。「積み残しをどう減らすか」は、手段を処理手順に固定する問いでした。「積み残しが増えたのは、処理が遅くなったからか。申し立ての件数が増えたからか」と問えば、分析は症状の手前にある原因へ向かいます。
ナット氏の「目標」と大前さんの「YES/NOの問い」は、役割が違います。目標は探す範囲を広げ、YES/NOの問いは、その範囲のどこに差があるかを1つずつ確かめます。
過去の成功が、問いの枠を貸してくる
組織の問いをゆがめる経路は、もう1つあります。以前うまくいった問いを、そのまま新しい状況に持ち込むことです。
2007年4月、マイクロソフトのCEOだったスティーブ・バルマー氏は、USAトゥデイ紙に「iPhoneが大きなシェアを取る可能性はない」と語りました。さらに、世界で売れる13億台の携帯電話のうち、アップルが取るかもしれない2〜3%より、自社のソフトが60〜80%に入るほうがいい、と続けています。
リチャード・P・ルメルト氏は『戦略の要諦』で、この予測の外れより、背後にあった見方を分析しています。マイクロソフトやノキアは、携帯電話の市場をPC業界と同じ構造だと捉えていました。その結果、iPhoneをニッチ製品とみなし、価格競争になれば利益は出ないと考えたのです。
PCの成功体験に立つと、問いは「何台の端末に自社のソフトを載せるか」になります。バルマー氏の発言は、まさにこの問いです。その中では、高価で台数の少ないiPhoneは脅威に見えません。ルメルト氏によれば、マイクロソフトは同じ時期、資源を当時の主力製品Windows Vistaに注いでいました。
ルメルト氏が戦略の出発点に置くのは、取り組む課題を選ぶことです。重要で、しかも自社が手を打てる課題を、氏は「ASC(取り組み可能な戦略的課題)」と呼びます。同書では、インテルが抱える課題を「重要度」と「取り組みやすさ」の2軸に並べて、どこに集中するかを検討しています。過去の成功から借りた問いは、この選択を飛ばしてしまいます。課題を選んだつもりで、前の時代の課題を解き続けることになるからです。
ここで1つ、言葉の混同を避けておきます。ルメルト氏は、業績目標を掲げることを戦略と取り違える経営を厳しく批判しています。一方、ナット氏の「目標」は、手段を探す範囲を開くための「実現したい結果」の記述です。数字を掲げれば戦略になる、という意味ではありません。
会議の議題を、1行だけ書き換える
誤解:議題は「〇〇をどうするか」と書けば十分 → 「在庫をどう減らすか」「広告をどう改善するか」は、手段の範囲を最初から決めています。先の分類でいえば、案や問題から始める進め方です。
正しいアプローチ:議題の1行目に「実現したい結果」を書く → たとえば「在庫をどう減らすか」を「欠品を増やさずに、3か月で運転資金を〇〇円減らす」に書き換えます。すると、支払い条件や発注の単位といった在庫以外の手段も検討に入ってきます。次の会議の招集メールで、5分あれば試せます。
誤解:問題を細かく分析すれば、正しい問いにたどり着く → 分析が症状に向いたままだと、オハイオの事例のように、手の込んだ対症療法ができあがるだけです。
正しいアプローチ:「なぜ増えたのか」をYES/NOの問いに直す → 「問い合わせが増えたのは、顧客数が増えたからか。1人あたりの問い合わせが増えたからか」。答えが出る形にすれば、どの仮説を捨てるかが決まります。
正しいアプローチ:「この問いは、どの成功から借りてきたか」を1行書く → 問いには、それが生まれた時代の市場構造が埋め込まれています。書き出せば、その前提が今も成り立つかを確かめられます。
目的が2つ並んでいるときも注意が要ります。『失敗の本質』は、ミッドウェー作戦の敗因の1つに、島の攻略と米艦隊の撃滅という作戦目的の二重性を挙げています。優先順位が決まっていないと、状況が変わったとき、現場はどちらの問いに答えるべきか判断できません。重点施策が5つ並んでいるなら、衝突したときの順位を先に決めておくことです。
おわりに
冒頭の空調メーカーで8年間の開発を止めたのは、社内の問い直しではなく、エネルギー価格の下落でした。
問いは、放っておいても外の環境がいずれ変えてくれます。ただ、そのときにはたいてい、時間と資金をかなり使い終えています。
次の会議の議題を開いたら、1行目が「どうするか」で始まっていないか、見てみてください。
この記事で参考にした本
『企業参謀』大前研一さん → 「提案箱」が機能しない理由と、YESかNOで答えざるを得ない問いの立て方
『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト氏 → 戦略は取り組む課題を選ぶことから始まるという視点と、マイクロソフトやノキアがPC業界の類推でスマートフォン市場を見誤ったという分析
『失敗の本質』戸部良一さんほか → ミッドウェー作戦に見る、作戦目的の二重性という組織の失敗
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