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ブクドリ | BOOK DRIP

「全体を見る」ほど、問題が見えなくなる理由

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約6分で読めます 思考法・問題解決
目次

既存客も新規客も、客単価は上がった。それなのに、会社全体の客単価は下がっている。

計算ミスではありません。たとえば、ある店の昨年の客は既存客が800人で客単価5,000円、新規客が200人で2,000円でした。店全体でならすと、客単価は4,400円です。

今年は既存客が500人で5,200円、新規客が500人で2,200円。どちらのグループも200円上がっています。ところが全体の客単価は3,700円で、700円も下がりました。

会議で「客単価が16%落ちています」とだけ報告されたら、値引きのしすぎや接客の質を疑いたくなります。でも、この店で変わったのは客の顔ぶれです。全体の数字は、中にあるグループの数字を、人数の比率で混ぜ合わせた結果にすぎません。

こうして混ぜ合わせた数字は、少なくとも3つのことを隠します。変化の本当の向き、問題が固まっている場所、そして分けたあとに残る偶然の揺れです。順に見ていきます。

全体の数字は、中身の「混ぜ方」だけでも動く

冒頭の例で、全体の客単価を下げたのは単価の安い新規客の比率が20%から50%に増えたことでした。グループごとの数字が同じ方向に動いていても、全体は逆に動くことがあります。統計学では、これをシンプソンのパラドックスと呼びます。

有名な実例が、カリフォルニア大学バークレー校の大学院入試です。1973年秋、男性の志願者8,442人のうち44%が合格したのに対し、女性の志願者4,321人の合格率は35%でした。9ポイントの差は、女性に不利な選考を疑わせるのに十分です。

統計学者のビッケル氏らは、この数字を学部ごとに分けて分析し、1975年に『Science』誌で発表しました。志願者の多かった6学部で見ると、6学部中4学部で女性の合格率のほうが高く出ます。最も合格率の高い学部では、女性82%に対して男性62%でした。

では、なぜ全体では女性が不利に見えたのか。出願先が違ったからです。6学部のうち合格率が6割を超える2学部に出願した人は、男性では約51%、女性では約7%でした。女性の多くは、合格率が1〜4割の狭き門の学部に出願していたのです。

9ポイントの差を生んでいたのは、学部ごとの合否よりも、誰がどの学部に出願したかという構成の違いでした。ただし、論文はこれで「問題なし」とは結論していません。女性が志願者の多い狭き門の分野へ向かう背景には、それまでの教育や社会の影響があると指摘しています。

分けて見ることで、問いが「選考は公平か」から「なぜ出願先が偏るのか」に移ったわけです。全体を眺めているだけでは、この問いには行き着けません。

問題は、全体に薄く広がってはいない

合計や平均は、問題の大きさを教えてくれても、場所までは教えてくれません。トヨタの現場で問題解決を指導してきたOJTソリューションズの『トヨタの問題解決』は、この場所を探す作業を「層別」と呼んでいます。

同書は問題解決を8つのステップに分け、最初の2ステップで「問題解決の70%は決まる」と言います。その2ステップ目が、問題を「何が、どこで、いつ、誰が」という切り口で分け、ばらつきを見つける作業です。

同書が挙げる例を追ってみます。ある工場は、クレーム品の発生件数が工場別でワースト1位でした。18件のクレームを部門別に分けると、10件が製造部門に集中していました。製造部門の10件を商品別に分けると、6件が商品Aです。商品Aの6件を内容別に分けると、4件がラベルの貼り間違いでした。

「クレームを減らそう」という全体の目標のままなら、打ち手は全員への注意喚起くらいしか出てきません。「商品Aのラベル貼り間違い」まで絞れば、貼る工程を見に行けます。同書はこれを、大きな幹にいきなり挑まず「小枝から攻める」と表現しています。

気をつけたいことが、もう1つあります。分けた先の区分も、それ自体がひとつの「全体」です。ハンス・ロスリング氏は『FACTFULNESS』で、ひとつの分類をすべてに当てはめてしまう傾向を「パターン化本能」と呼びました。抑えるには、同じ集団の中にある違いを探すことだと言います。

「製造部門」というくくりも、中を割れば商品ごとに差があります。一段分けて満足せず、偏りが見つかる限り、もう一段下りる。層別の作業は、この繰り返しです。

分けすぎると、今度は偶然が問題に見える

では、とにかく細かく分ければいいのか。ここにも落とし穴があります。アクセンチュアのデータ&AIグループは『外資系コンサルのデータ分析技法』で、クロス集計は単純な集計では見えない傾向を見つけられる一方、軸を増やしすぎると1つの区分に入るデータが減ると注意しています。

データが減ると、何が起きるのか。統計学者のハワード・ウェイナー氏が2007年に『American Scientist』誌で紹介した分析が参考になります。米ペンシルベニア州の学力テストで、5年生の読解の平均点が出ている1,662校を学校の規模別に調べたものです。

成績上位50校のうち6校、割合にして12%が、規模で最も小さい3%の学校でした。規模と成績が無関係なら3%程度のはずなので、4倍の偏りです。ところが成績下位50校を見ると、こちらにも最も小さい規模の学校が9校含まれていました。

生徒の少ない学校は、数人の出来不出来で平均点が大きく揺れます。だから上にも下にも極端な学校が出やすい。実際、5年生のデータでは規模と成績の関係はほぼ平らでした。

1990年代末から、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などは小規模校づくりを後押しし、同財団の教育分野への助成は2001年までに約17億ドルに達しました。ウェイナー氏は、上位だけを見て「小さい学校ほど成績が良い」と読むのは、この揺れを見落とした解釈だと論じています。同財団は2005年に、大きな高校を小さく分割する方針から軸足を移したと報じられました。

職場の数字でも同じことが起きます。たとえば支店別の解約率を並べて、いちばん悪い支店が契約30件の小さな支店だったとします。その1位は、2件の解約で入れ替わるかもしれません。

全体の数字が動いたときの、分け方の手順

ここまでの3つの知見を、明日の会議で使える形にします。

誤解:全体の数字が動いたら、全体に効く対策を考える → まず「各グループの数字の変化」と「グループの構成比の変化」を分けます。冒頭の客単価なら、既存客と新規客の単価と人数を4つ並べるだけで、構成比が原因だとわかります。構成比が原因なら、値引きや接客を見直しても数字は戻りません。

誤解:分けるなら、思いつく軸で一度に全部割る → 「何が、どこで、いつ、誰が」のうち1つの軸で割り、偏りがいちばん大きい区分だけを次の軸で割ります。軸を掛け合わせるのは、一段ずつ下りたあとで十分です。表を一度に細かくすると、1マスあたりの件数が減り、次の落とし穴に入ります。

誤解:いちばん極端な区分が、いちばんの問題 → 分けた表には、必ず件数の列を付けます。件数の少ない区分で極端な値が出たら、前の期間や前年同月でも同じ区分が極端かを確かめてから動きます。2期続けて出るなら偶然ではない可能性が高まります。

おわりに

全体の数字は、問題があることを知らせる警報としては優秀です。ただ、どこにあるのかは教えてくれませんし、混ぜ方しだいで向きまで変わります。

次の会議で全体の数字が報告されたら、「その数字は、何と何を混ぜたものですか」と聞いてみてください。その問いが、分け始める最初の一歩になります。


この記事で参考にした本

『トヨタの問題解決』(株)OJTソリューションズ → 問題を「何が、どこで、いつ、誰が」で層別し、小枝から攻める手順と、クレーム18件を4件まで絞り込む例

『FACTFULNESS』ハンス・ロスリング氏 → ひとつの分類を全員に当てはめる「パターン化本能」と、同じ集団の中の違いを探すという対処

『外資系コンサルのデータ分析技法』アクセンチュア データ&AIグループ → クロス集計で見えるものと、軸を増やしすぎたときに区分あたりのデータが減る注意点


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平均値の罠:平均は、誰もいない場所を指すことがある 平均値がばらつきや二極化を隠す話です。この記事がグループの混ぜ方を扱ったのに対し、1つのグループの中の分布を見る視点を補えます。

『実践 顧客起点マーケティング』西口一希さん|平均を見ても、人の心は動かせない 顧客を分けていった先の、たった一人の顧客から打ち手を考える本です。層別を最後まで進めたときに何が見えるかがわかります。

同じ数字を見ているのに結論が違うのは、数字の「形」が違うから 分ける前に確かめたい、数字の定義のずれを扱っています。解約率の分母の違いのように、混ぜ方以前の食い違いに気づけます。