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『FACTFULNESS』ハンス・ロスリング氏|世界は、あなたが思うほど悪くない

学習・インプット
『FACTFULNESS』

「世界の貧困は、この20年でどう変わったか」と聞かれたら、あなたはどう答えるでしょうか。

「半分になった」が正解です。ところが、この問いに正しく答えられた人は、世界中でたった7%しかいませんでした。

しかも間違えたのは、無知な人ではありません。ノーベル賞受賞者や、ダボス会議に集う世界のリーダーたちです。三択クイズなのに、チンパンジーがランダムに選んだ正答率(33%)にすら届かない。

『FACTFULNESS』は、この奇妙な現象の正体を暴いた一冊です。著者は公衆衛生学者のハンス・ロスリング氏。彼が突き止めた犯人は、私たちの脳に組み込まれた「10の思い込み」でした。

こんな人におすすめ

この本の核心――事実は、感情より優しい

本書の主張は一行で言えます。「世界はあなたが思うほどドラマチックではない」。

私たちは世界を実際より怖く、貧しく、悪化していると感じています。ロスリング氏はその原因を、知識不足ではなく脳の機能に求めました。

「ドラマチックすぎる世界の見方」を変えるのはとても難しい。そして、その原因は脳の機能にあるということだ。

人類は生き残るために、危険を瞬時に察知し、ドラマチックな物語に耳を傾ける本能を進化させてきました。その本能が、データにあふれる現代では裏目に出ます。

面白いのは、著者の立ち位置です。彼は自分を楽観主義者とは呼びません。「可能主義者(ポシビリスト)」だと言います。世界が良くなっている事実を認めつつ、残された課題からも目をそらさない人のことです。

実際、地球温暖化、極度の貧困、感染症の世界的流行、第三次世界大戦、金融危機という5つのリスクには、強い危機感を示しています。「良くなっている」と「まだ問題がある」は両立する。ここが本書の誠実なところです。

世界を「先進国と途上国」で分けてはいけない

最初に壊すべき思い込みが「分断本能」です。世界を金持ちと貧乏、先進国と途上国に二分し、その間に深い溝があると感じる癖のことです。

事実は違います。世界の人々の約75%は、極度の貧困でも大富豪でもない「中所得」の暮らしをしています。溝などなく、大多数は真ん中にいるのです。

そこでロスリング氏が提案するのが、世界を所得で4段階に分ける見方です。

レベル1(1日2ドル未満) 極度の貧困。裸足で歩き、薪で調理し、汚れた水を飲む暮らし。約10億人。

レベル2(1日2〜8ドル) 自転車を持ち、ガスボンベで料理し、子供を学校に通わせられる段階。

レベル3(1日8〜32ドル) バイクと水道の蛇口、電球のある安定した生活。

レベル4(1日32ドル以上) 自動車、室内の温水、高度な教育、海外旅行。これを読んでいるあなたの暮らしです。

人類の大半はレベル2と3に分布しています。「途上国の貧しい人々」という古いイメージを持ったままだと、アジアやアフリカで膨れ上がる巨大な中間層という、歴史的なチャンスを見落とします。

ちなみに著者らは「ドル・ストリート」というツールも作りました。世界中の家庭の歯ブラシやベッドやコンロを所得順に写真で並べたものです。眺めると、生活様式を決めるのは国や宗教ではなく所得だと実感できます。

私たちを惑わせる10の本能、その全リスト

本書の中心は、世界を歪めて見せる10の思い込みです。網羅版として、すべて並べます。

1. 分断本能 世界は2つに分断されているという思い込み。実際は大多数が中間にいます。

2. ネガティブ本能 世界はどんどん悪くなっているという思い込み。私たちは良い面より悪い面に気づきやすくできています。ゆっくりした進歩はニュースになりません。だから脳に届く情報は、最初から悪い方へ偏っています。著者はこれを「関心フィルター」と呼びます。

3. 直線本能 今の傾向がまっすぐ続くという思い込み。人口も売上も、直線で伸び続けるグラフのほうがむしろ珍しい。S字カーブやコブ型もあります。

4. 恐怖本能 危険でないことを恐ろしいと感じる思い込み。テロや飛行機事故は目を引きますが、実際のリスクとは別物です。

5. 過大視本能 目の前のひとつの数字を過大に見てしまう思い込み。比較と割り算でほどけます。

6. パターン化本能 ひとつの例をすべてに当てはめる思い込み。ステレオタイプは思考停止を招きます。

7. 宿命本能 すべては変わらず決まっているという思い込み。文化も社会も、小さな変化を積み重ねて動いています。

8. 単純化本能 世界をひとつの切り口で理解できるという思い込み。著者は「トンカチを持つと、何でもくぎに見える」と言います。

9. 犯人捜し本能 誰かを責めれば解決するという思い込み。犯人ではなく原因を見るべきです。

10. 焦り本能 今すぐ手を打たないと大変だという思い込み。焦りは冷静な分析力を奪います。

残りの4つも、一言ずつ補っておきます。

パターン化本能は、ひとつの国や世代をひとくくりにする癖です。同じ集団の中の違いと、違う集団の間の共通点を探すと外れます。

宿命本能は「あの文化は昔から変わらない」という諦め。でも所得が上がれば子供の数が減るように、どんな文化もゆっくり動いています。

単純化本能は、ひとつの専門知識で全部を説明したくなる誘惑です。自分の考えの弱点を、わざと探す習慣が効きます。

10個並べたところで、特に日常で効く3つを少し掘り下げます。

ネガティブ本能――「悪い」と「良くなっている」は別の話

私たちが世界を悲観するのは、メディアが悪いニュースを優先するからです。戦争、災害、病気は報じられ、静かな改善は素通りされます。

でも長期データを見れば、極度の貧困は20年で半減し、平均寿命はすべての国で伸びています。ここでロスリング氏は鋭い区別を持ち込みます。

「悪い」と「良くなっている」は両立する。「悪い」は現在の状態、「良くなっている」は変化の方向。

今が悪いことと、昨日より良くなっていることは、矛盾しません。プロジェクトが炎上中でも進捗が前進しているのと同じです。両者を分けて見られると、不必要な絶望から解放されます。

恐怖本能――恐ろしさと危険は、まったく違う

ニュースが連日伝えるテロ、自然災害、飛行機事故。これらを合わせても、世界の全死亡数の1%にも届きません。自然災害は約0.1%、テロは0.05%です。

それでも私たちが怯えるのは、脳が「身体的な危害」「拘束」「毒」に過剰反応するからです。

「恐怖」と「危険」はまったく違う。恐ろしいと思うことは、リスクがあるように「見える」だけだ。

ロスリング氏はリスクの計算式まで示します。リスク=「危険度」×「頻度」。恐ろしさは、この式に入っていません。新しい挑戦をためらうとき、漠然とした恐怖ではなく、実際の頻度と損害規模を掛け算してみる。それだけで判断の質が変わります。

過大視本能――ひとつの数字に、振り回されない

「被害額○億円」という大きな数字を見せられると、私たちはそれだけで圧倒されます。これを防ぐ道具が2つあります。

ひとつは比較。「何と比べて大きいのか」を問う。もうひとつは割り算。「一人あたりにすると、いくらか」を出す。同じ数字でも、まったく違う意味が見えてきます。

たくさんの数字が並んだときは「80・20ルール」も有効です。全体の8割を占める最大の項目を先に見つけ、そこに集中する。小さな数字に惑わされなくなります。

明日から何を変えるか

本書の知恵を、今日から動かせる3つの行動にします。

1. 悲惨なニュースを見たら、ひとつ自問する 「もし同じくらい良い出来事が起きていたら、それはニュースになって自分の耳に届いただろうか」。多くの場合、答えはノーです。届いていない改善が、世界では静かに進んでいます。

2. 大きな数字を見たら、必ず割り算する 会議で売上や被害額の大きな数字が出たら、鵜呑みにせず「一社あたり」「過去と比べて」を計算してから発言する。比較と割り算を口癖にします。

3. トラブルが起きたら、犯人ではなく仕組みを探す ミスが出たとき「誰がやったか」を追及するのをやめ、「どんな仕組みがこのミスを誘発したか」をチームで話す。

犯人ではなく、原因を探そう。誰かがわざと仕掛けなくても、悪いことは起きる。

責める相手を見つけても、問題は一ミリも解決しません。仕組みを直して初めて、同じミスが止まります。

おわりに

このクイズには、もうひとつ怖い事実があります。知識は、驚くほど早く古くなります。学校で習った世界地図は、もう現実とずれています。著者の作ったクイズですら、いずれ使えなくなると本人が認めています。

だからこそ、ロスリング氏が最後に残した言葉は、知識そのものではありませんでした。

なによりも、謙虚さと好奇心を持つことを子供たちに教えよう。

世界を正しく見る習慣は、難しい統計の暗記から始まるのではありません。「自分の見方は古いかもしれない」と疑い、「なぜそうなのか」と問い直す。そのささやかな構えから始まります。

次にスマホで暗いニュースを見て気が滅入ったとき、ひとつだけ思い出してみてください。世界は、あなたが思うほど悪くないのです。


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