平均値の罠:平均は、誰もいない場所を指すことがある
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満足度の平均が、どちらも3.0点の商品が2つあります。
A商品は、回答者のほぼ全員が「3点」をつけました。B商品は、半分が「5点」、残りの半分が「1点」です。どちらも平均は3.0点で、報告書の上では同じ顔をしています。
でも、打つべき手はまるで違います。Aは全員がそこそこ満足している商品で、Bは熱烈なファンと強い不満を持つ人に割れた商品です。しかもBには、平均の「3点」をつけた人が1人もいません。
平均値は、たくさんの数字を1つの点に畳んだものです。畳むときに、数字がどこに固まっていたかという「分布の形」が消えます。この記事では、平均が隠しやすい3つの形を順に見ていきます。
平均が消してしまう、3つの形
平均は、合計を人数で割っただけの数字です。計算はいつも正しい。ただ、その点の近くに多くの人がいるとは限りません。
平均が実態からずれるのは、分布が次のような形をしているときです。
- 山が2つある(ふた山)。平均は、山と山のあいだの谷に落ちる
- 片側に長く伸びている(偏り)。平均は長い側へ引っぱられ、多くの人が平均より下になる
- ときどき桁違いの値が出る(極端な裾)。1つの値が平均を大きく書き換える
冒頭のB商品は、1つ目の例です。どの形も、平均だけを見ていると気づけません。逆にいえば、平均を見たときに「この3つのどれかではないか」と疑う手順を持っておけば、罠の大半は避けられます。
「平均的な人」は、4,063人の中に1人もいなかった
平均が誰もいない場所を指すのは、ふた山のときだけではありません。平均を何個も組み合わせたときにも起きます。
1952年12月、米空軍ライト航空開発センターのギルバート・ダニエルズ氏は、「平均的な人間?」という技術報告をまとめました。対象は空軍の飛行要員4,063人。身長、胸囲、袖丈、腰回りなど、服の設計に使う体の寸法10項目を使っています。
ダニエルズ氏は、各項目で平均にかなり近い人(平均から標準偏差の0.3倍以内。集団のまん中の3割弱)を「ほぼ平均」とみなしました。そのうえで、項目を1つずつ重ねて絞り込んでいきます。
身長がほぼ平均の人は1,055人いました。胸囲も平均なのは302人、袖丈も平均なのは143人です。3項目の時点で、残ったのは全体の3.5%です。
10項目すべてがほぼ平均だった人は、0人でした。
報告書は、「平均的な人」は設計の基準として誤解を招く幻想であり、複数の寸法を同時に考えるときは特にそうだ、と結論しています。この調査は「戦闘機の操縦席を平均に合わせたら誰にも合わなかった」という話として紹介されることが多いのですが、報告書が実際に使ったのは衣服の寸法です。操縦席や座席の寸法でも同じ分析ができた、と書かれています。
同じことが、顧客像でも起きます。西口一希さんは『実践 顧客起点マーケティング』で、会議室で作った平均的なペルソナは現実に存在しないと指摘しています。年齢も年収も購入頻度も平均的な「顧客」は、ダニエルズ氏の「平均的な人」と同じく、組み合わせた瞬間にどこにもいなくなるからです。
西口さんが代わりに勧めるのは、実在するたった1人の顧客(N1)に、買ったきっかけや離れた理由を聞くことです。実務に置き換えるなら、平均から作った顧客像で企画を始める前に、その像に近い実在の顧客が何人いるかを数えてみる。0人なら、その像は捨てて、実在の顧客から始めたほうが早いはずです。
平均を下回る世帯が、3分の2を占める
2つ目の形は、偏りです。身近な例が、貯蓄額です。
総務省が2026年5月に公表した家計調査(貯蓄・負債編)によると、2025年の二人以上の世帯の貯蓄現在高は、平均値で2,059万円でした。「平均で2,000万円」と聞くと、多くの家庭がそれくらい持っているように感じます。
ところが、貯蓄がゼロの世帯も含めて少ない順に並べ、ちょうどまん中にくる世帯は1,167万円(参考値)です。平均値を下回る世帯は、全体の66.1%。総務省自身も、貯蓄の少ない階級に偏った分布だと説明しています。
平均が中央より900万円近く高くなるのは、分布が上に長く伸びているからです。貯蓄はマイナスにならない一方、上には限りがありません。数千万円を持つ一部の世帯が、合計を押し上げ、平均を引っぱります。
仕事の数字にも、同じ形のものが多くあります。たとえば顧客単価、1件あたりの対応時間、案件の処理日数。どれも0より下には行かず、上にはいくらでも伸びるので、偏りやすい数字です。これは、下限だけがある数字の性質から私が立てた見立てです。手元のデータで確かめてから使ってください。
たとえば「平均対応時間は12分」と報告されたら、中央値も聞いてみる価値があります。中央値が6分なら、大半の問い合わせは短く終わっていて、一部の長引く案件が平均を倍にしていることになります。直すべきは全体の手順より、長引く案件のほうです。
1つの外れ値が、平均を書き換える世界がある
3つ目の形は、極端な裾です。偏りの行き着く先ともいえます。
ナシーム・ニコラス・タレブ氏は『反脆弱性』で、世界を2つの国に分けて説明しています。「月並みの国」では、1つの値が全体に与える影響が小さい。たとえば1年間に食べるカロリーのうち、どんなに食べすぎた1日でも全体の0.5%を超えることはまずない、とタレブ氏は言います。
一方の「果ての国」では、1つの値が全体を支配します。タレブ氏の見積もりでは、書籍の売上の半分以上は、上位0.1%ほどの大ベストセラーが占めます。ピーター・ティール氏も『ゼロ・トゥ・ワン』で、ベンチャー投資ではファンドで最も成功した1社のリターンが、残りすべての投資の合計に匹敵するか上回ると書いています。
果ての国では、平均がとても不安定になります。その1件が手元のデータに入ったかどうかで、平均が桁ごと変わるからです。過去の平均を「ふつうの値」として使うと、判断を大きく外します。
たとえば法人顧客が100社あり、1社あたりの年間売上の平均が500万円だったとします。もし最大の1社が2億円を占めていたら、残り99社の平均は約303万円です。「平均500万円」を前提に営業目標を配ると、ほとんどの担当者が届かない数字を背負うことになります。
平均の500万円は、この100社の典型的な姿を表していません。
平均を見たら、3つの問いを足す
ここまでの3つの形を、報告書を読むときの手順にします。
誤解:平均が良ければ、全体もおおむね良い → 平均は形を消した数字です。まず、生データを並べたヒストグラムを1枚見ます。山が2つあれば、平均の近くにいる人は少ない。冒頭のB商品のように、ファンと不満層を別々に扱う必要があります。
正しいアプローチ:平均の横に、中央値を書く → 「平均12分、中央値6分」のように並べます。2つが大きく離れていたら偏りのサインです。平均より下に何割いるかも添えると、家計調査のように「3分の2が平均以下」という実態が見えます。
正しいアプローチ:最大の1件を除いた平均も出す → 最大値を除くだけで平均が大きく動くなら、その数字は果ての国のものです。上位1割がどれだけを占めているかを確かめ、上位の顧客や案件は1件ずつ個別に見ます。
5分でできることもあります。いま手元にある平均値を1つ選び、元のデータを大きい順に並べ替えてみてください。まん中の値と最大の値を見るだけで、その平均がどの形の上に立っていたのかが見えてきます。
おわりに
平均値そのものが間違っているわけではありません。月並みの国の、山が1つの分布なら、平均は十分に役立つ要約です。
罠は、平均をいつでも「ふつうの人」や「よくある値」だと読んでしまうことにあります。次に平均を見たら、「この近くに、実際に誰かいるだろうか」と一度だけ問いかけてみてください。
この記事で参考にした本
『実践 顧客起点マーケティング』西口一希さん → 会議室で作った平均的なペルソナは実在せず、実在する1人の顧客(N1)から考えるべきだという指摘。
『反脆弱性[上]』ナシーム・ニコラス・タレブ氏 → 1つの値が全体を動かさない「月並みの国」と、1つの値が全体を支配する「果ての国」の区別。
『ゼロ・トゥ・ワン』ピーター・ティール氏 → ごく少数が残りすべての合計を上回る「べき乗則」と、ベンチャー投資のリターンの偏り。
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