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『外資系コンサルのデータ分析技法』アクセンチュア データ&AIグループ|AIに丸投げするほど、答えはズレていく

AI・テクノロジー ✍ アクセンチュア データ&AIグループ
約7分で読めます

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『外資系コンサルのデータ分析技法』
目次

ChatGPTに難しい仕事を任せたら、かえって精度が下がった。

そんな実験結果があります。ハーバード大学とグローバルコンサルティングファームが758名のコンサルタントを対象に行った検証で、簡単なタスクではGPT-4を使った群が量・速さ・質のすべてで勝ったのに、複数の情報源を読み解くような難しいケース問題では、AIを使った群のほうが正確さが19%も下がった。

便利な道具に頼ったはずなのに、難所ほど足を引っ張られる。この一点から本書は話を始めます。

「AIが何でもやってくれる」は半分嘘です。アクセンチュアのデータ&AIグループによる一冊で、監修は保科学世さん。生成AI時代に、プログラミングができない普通のビジネスパーソンが「データを武器にする」ための実践ガイドです。数式の証明やアルゴリズムの中身は意図的に省かれていて、狙いは「現場でデータをどう解釈し、どう人を動かすか」。Pythonは書けないが勘と経験頼みの意思決定から抜け出したい、という文系の人にこそ刺さる本です。

図解

妄信を捨てる――AIが賢くなるほど人間の基礎力が効く

著者がいちばん警戒しているのは、生成AIへの「妄信」です。

GPTは平気で嘘をつく。本書の言葉だとハルシネーション。この世に存在しない事実をもっともらしく生成してしまう現象です。本書には「関東で一番高い山は?」

と聞いてGPTが両神山(2,017メートル)と誤答する例が出てきます。正解は日光白根山の2,577メートル。堂々と間違える、ここが怖いところです。

だから著者は、AIに全部を委ねません。むしろ逆を説きます。

使う側の知識・スキル・リテラシーなどの基礎力の底上げも重要なのです。

AIが高度になるほど、適切に指示を出し、出力の真偽を見極める人間の「基礎力」が効いてくる。これを著者は、勘・経験・度胸(KKD)に頼る意思決定からの卒業として描きます。

私が腑に落ちたのは、この本がAIを「人間を不要にする道具」ではなく「基礎力のある人間をさらに強くする道具」として位置づけている点です。土台が弱い人がAIを持つと、誤りを誤りと気づけないまま速く間違える。

便利さは、見極める力を持つ者にだけ味方します。

分析は「何を解くか」でほぼ決まる

本書を貫く第一の主張は、データ分析の勝負は手を動かす前に決まっている、というものです。

分析には3つのフェーズがある。何を目指すか決める標的の設定、実際に手を動かすデータ分析、結果を現場に落とす業務展開。多くの人がいきなり2番目から始めて失敗します。

闇雲にデータを集め、グラフを量産し、何も決まらない。著者は、最初の段階でいかに筋のよい、ビジネスの本質をついた仮説を立てられるかに分析全体の質がかかっている、と言います。

ここでMECE(もれなく、かぶりなく)やロジックツリー、3C、5W1Hといったフレームワークが登場します。たとえばサブスクの売上が伸びないとき、「新規顧客が少ない」で止めず「個人事業主向けの基本契約の獲得が鈍化している」まで具体化する。

そして全部に手は出さない。パレートの法則(20:80)で、ビジネスインパクトと実現難易度の2軸から最も効くものに絞る。選択と集中で優先順位をつけてこそ、解決の効果が最大化される、という整理です。

私が良いと思ったのは、この枠組み作りこそ生成AIと相性がいいと言い切っている点です。「あなたは優秀なコンサルタントです。この課題を3Cで仮説立案してください」と壁打ちすれば、人間が見落とした切り口を補える。

AIに枠組みのたたき台を出させ、人間はその妥当性の検証に時間を使う。丸投げでも放棄でもない、この役割分担の描き方が本書の肝です。

手を動かす――ごみを入れたら、ごみが出てくる

仮説が固まったら、次はデータそのものです。

本書がここで持ち出すのが、データサイエンスの黄金律「Garbage in, garbage out(ごみを入れたらごみが出てくる)」。どんなに高度なAIモデルでも、入れるデータが粗悪なら結果も粗悪になる。

体重500kgのような明らかに現実離れした値が混じっていたら正しい値で補完し、無理なら欠損値や外れ値として処理する。著者はこの工程を「○○を確認したからおしまい」という単純作業ではなく、データと対話しながら行ったり来たりする手探りの作業だと釘を刺します。

手法そのものは、目的で選びます。ビジネスでの目的は「要約」(過去や現在の傾向をつかむ)と「予測」(未来を見立てる)の2つに集約される。要約の代表がクラスタ分析で、百貨店の顧客を「子育てママ」「美食家」「セカンドライフ世代」といったペルソナに自動で束ねられる。

予測の代表は回帰分析と決定木分析です。ここで著者は「解釈性」と「精度」の使い分けを説きます。重回帰やロジスティック回帰はどの要因がどれだけ効いたかを説明しやすく、施策の理由を語る場面に向く。

一方ランダムフォレストや勾配ブースティングは精度が高い反面、なぜその結論かを説明しにくいブラックボックスになりがちだ、と。クロス集計の注意も実務的で、軸を増やすほど深い洞察が得られそうに見えて実は逆。

1区分あたりのデータ数が激減し、少数の例外に結果が引っ張られるので2〜3軸に留めよ、と言います。

そして実践のハイライトが、ChatGPTの「Data Analyst」。CSVをアップロードして指示するだけで、AIが裏でPythonを生成・実行し、基礎統計量からグラフ化、決定木分析までやってくれる。

コードなしで傾向をクイックにつかめる。ただし著者は、処理結果を完全には信じず、欠損値の処理を見落としていないか、除外されたデータがないかを人間がステップバイステップで確認せよ、と念を押します。

最終的な品質保証は人間が負う。便利さと引き換えに検証の手を抜かない、その姿勢が一貫しています。

バイアスの章で、背筋が伸びる

本書でいちばんゾクッとするのが、データが人を欺く事例を並べた章です。

社会的バイアスの例は、米国の犯罪予測システム。過去の逮捕データ(歴史的に黒人のデータが多い)をもとに「黒人が多い地域は犯罪リスクが高い」と予測し、パトロールが増え、さらに逮捕が増える負のループが回り出した。

確証バイアスの例は、チョコレート消費量が多い国ほどノーベル賞受賞者が多いというデータ。実態は「国が豊か」という隠れた要因が両方を押し上げていただけの疑似相関でした。

なかでも鮮やかなのが生存バイアスの逸話です。第二次大戦中、海軍分析センターのアブラハム・ワルドが帰還した戦闘機の被弾箇所を調べた。常識なら被弾の多い両翼や尾翼を補強したくなる。

でもワルドは見抜きます。致命的な箇所(コックピットやエンジン)に当たった機は撃墜されて帰還できていない。だから帰還機が「被弾していない箇所」こそ、補強すべき急所だ、と。

手元に残ったデータは、すでに生き残った者だけの偏った標本なのです。

これらが教えるのは、データは客観的な真実ではない、ということ。誰がどう集め、何と比べるかで結論は変わります。

同じ数字を眺めても、単独で数値を見ていた場合と、ビジネス的に適切な比較対象を用意して見比べた場合では、全く異なる結論になる。

自社の売上が前年比110%でも、市場全体が130%伸びていれば、実はシェアを落としている。正しい数字から、間違った結論はいくらでも出る。生存バイアスも確証バイアスも、賢い人ほどはまる。だからこの章は、実務で数字を扱う全員に効きます。

数字に「現場の知識」を掛けて、初めて意味になる

そして本書がもっとも強調するのが、データにドメイン知識(その業界・業務の専門知識)を掛け合わせることです。これこそビジネスでデータ分析をやる醍醐味だ、と著者は言い切ります。

象徴的なのが、自動車保険の解約分析。ある損保で「中価格帯の保険の解約率が最も高い」という数字が出た。数字だけでは理由はわかりません。でも現場のメンバーと議論すると真相が見えた。

新車をローンで買う条件として中価格帯の保険に入り、初回車検のタイミングで安い保険に乗り換える人が多かったのです。そこで打った施策が、初回車検が近づく顧客に自社の低価格帯保険を提案すること。

単価は下がっても、他社への流出を防げた。数字の裏にある「物語」を、現場知識が解き明かした瞬間です。

人を動かすには、丸まった統計値だけでは足りないとも著者は言います。

他者に説明する際には意識してローデータ、最小粒度のデータに立ち戻り、そこから直接示唆を読み取る工夫を忘れてはならない。

平均値より、具体的な一人の顧客像。生のペルソナを見せたほうが、現場は納得して動く。本書の後半は、モデルを作って終わりにしない運用の話へ広がります。

入力データの分布がズレる「データドリフト」や、COVID-19のように予測の前提が激変する「概念ドリフト」を監視し、再学習し続ける仕組み。学習データの偏見が差別的な出力を生まないよう統制する「責任あるAI」。

そして締めくくりは、AIとの向き合い方そのものです。同じ土俵で速さや量を競わず、人間はステークホルダーを動かすリーダーシップやゼロから価値を生む発想、倫理的な判断に集中する。

AIが進化するほど人間らしさが価値を持つ、というパラドックスで本書は閉じます。

読み終えて残るのは、分析手法の一覧ではありません。AIが出した数字を、そのまま信じない姿勢。データを真実ではなく、誰かが切り取った断片として疑う目。

そして、数字に現場の知識を掛け合わせて初めて意味が生まれるという感覚です。明日ChatGPTに分析を頼むとき、出てきたグラフを鵜呑みにする前に、一度だけ「この数字は、何と比べた数字だろう」と問い直してみてほしい。

その小さな疑いから、本書の効果は立ち上がってきます。


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『結局、仮説で決まる。』柏木吉基 本書の第一の主張「分析は課題定義と仮説立案でほぼ決まる」を、より深く掘り下げた本です。データ分析を学んだのに成果が出ない人が、なぜ手戻りするのかを仮説の質から解き明かしてくれます。

『「原因と結果」の経済学』中室牧子・津川友介 本書のバイアスの章で出てくる「チョコレートとノーベル賞」の疑似相関を、相関と因果の違いとして体系的に学べる一冊です。AIが出した数字に騙されないための、もう一段深い検証眼が手に入ります。


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