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ブクドリ | BOOK DRIP

同じ数字を見ているのに結論が違うのは、数字の「形」が違うから

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約5分で読めます 思考法・問題解決
目次

解約率が5%から4%に下がりました。この同じ数字から、3人がまったく違う結論を出します。

たとえば、顧客が1,000社ある会社で、月の解約が50社から40社に減ったとします。企画担当は「解約が2割も減った。施策は成功だ」と言います。財務担当は「1ポイントしか動いていない。誤差の範囲だろう」と返します。

カスタマーサポートの責任者は「それでも毎月40社が離れている。まだ危ない」と言う。

誰も計算を間違えていません。嘘もついていない。それでも、会議は平行線のまま終わります。

一つの事実に、数字の「形」はいくつもある

三木雄信さんは『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』で、ソフトバンクには「数字の前ではすべての人間が平等」という文化があると書いています。役職に関係なく、数字に基づいた提案なら誰もが耳を傾ける、という意味です。

数字は、たしかに全員に平等に配られます。ただ、同じ数字をどの形で受け取るかは、人によって違います。

事実を数字にするとき、少なくとも3つの選択が入ります。

  • 何を数えるか(定義)
  • どの物差しで表すか(変化率か実数か、累計か月次か)
  • 良い面と悪い面のどちらから言うか(枠組み)

1つ目について、三木さんは解約率を例に挙げています。分母を「月初の顧客数」にするか「累計の顧客数」にするかで、数字の意味はまったく変わる。累計の数字は右肩上がりに見えやすく、直近の悪化を隠してしまうとも指摘しています。

冒頭の3人は、定義はそろっていました。割れたのは物差しです。企画は変化率(2割減)を、財務は差(1ポイント)を、サポートは実数(40社)を見ていました。

自分の立場に都合のいい方向へ読みがゆがむことも、研究で確かめられています。その話は末尾で紹介する別の記事に譲り、ここでは立場が同じでも割れる理由を見ていきます。

「2倍」と「7,000人に1人」は、同じ事実だった

1995年10月、英国の医薬品安全委員会は、第3世代と呼ばれる経口避妊薬(ピル)について警告を出しました。脚や肺に血栓ができるリスクが、それまでのピルの2倍になるという内容です。

警告は医師や薬剤師など約19万人に書簡で届き、報道向けの緊急発表も行われました。不安になった多くの女性が、ピルの服用をやめました。

「2倍」は間違いではありません。ただ、元になった研究の数字を並べると印象が変わります。従来のピルでは7,000人に約1人に起きていた血栓が、第3世代では約2人になった。増えたのは、7,000人に1人です。

心理学者のゲルト・ギーゲレンツァー氏らが2007年の論文でまとめたところでは、この騒動の翌年、イングランドとウェールズで人工妊娠中絶が推計約1万3,000件増えました。妊娠や中絶そのものが、第3世代ピルより高い血栓リスクを伴うにもかかわらず、です。

元の数が小さいほど、変化率は大きく見えます。これは一度きりの騒動の話ではありません。

治療効果の伝え方を比べた40件の実験をまとめた2003年の系統的レビューでは、相対的な減少率で示した治療が、実数の差などほかのどの表し方よりも一貫して好まれていました。

2011年のコクラン・レビュー(35件の研究)でも、相対的なリスク減少は絶対的なリスク減少より効果が大きく受け取られ、説得力も高いという結果でした。一方で、内容の理解度にはほとんど差がありませんでした。わかったうえで、受け取る大きさだけが変わっているわけです。

仕事に置き換えてみます。たとえば、成約率が0.2%から0.3%に上がったとき、「50%改善」と「0.1ポイント改善」は同じ事実です。前者を聞いた人は営業の増員を考え、後者を聞いた人は様子見を選ぶかもしれません。

「9割が生き残る」と「1割が亡くなる」で、医師の選択も変わる

1982年、医師のバーバラ・マクニール氏と心理学者のエイモス・トベルスキー氏らは、医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に一つの研究を発表しました。

参加者は、慢性疾患の外来患者238人、大学院生491人、医師424人です。自分が肺がんになったと想像し、手術と放射線治療のどちらを選ぶかを答えてもらいました。

渡した治療成績は同じです。違うのは、結果を「生存する確率」で書いたか「死亡する確率」で書いたかでした。すると3つの集団のすべてで、生存の言い方で読んだ人のほうが、手術を大幅に好みました。

医師も同じ影響を受けていた点に、私は驚きました。数字を読み慣れた専門家でも、言い方の向きからは自由になれなかったことになります。

先の2003年のレビューでも、治療効果を肯定的な言い方で示すと、手術を選ぶ人が約1.5倍になっていました。ただし、質の高い研究や実際の治療選択に絞ると、効果は残るものの弱まったと報告されています。実験の場面ほど大きくはないと受け取るのが妥当です。

職場の数字でも同じことが起きます。たとえば「継続率96%」と「解約率4%」は同じ数字です。前者で報告すれば会議は安心して終わり、後者で報告すれば対策の議論が始まるかもしれません。

中尾隆一郎さんは『「数字で考える」は武器になる』で、提案を通したいときは数字を相手の判断基準に換算せよと書いています。「この作業に毎日1時間かかっている」を、時給から「年間〇〇万円のコスト」に直して伝えると、相手の態度が大きく変わる、と。

これは伝える側の技術です。裏返せば、報告する人が形を選んだ時点で、聞き手の結論はかなり方向づけられています。

結論が割れたら、同じ数字を別の形で並べ直す

誤解:数字を共有すれば、結論はそろう → 共有されたのは、数字のうち一つの形だけかもしれません。結論が割れたら、まず相手がどの形でその数字を見ているかを聞きます。

正しいアプローチ:変化率の横に、必ず元の数を書く → 「解約率5%→4%(2割減、月50社→40社)」のように書きます。ピル騒動の警告に欠けていたのは、この括弧の中身でした。

正しいアプローチ:良い面と悪い面の言い方を一度ずつ並べる → 「継続率96%、つまり毎月4%が離れている」と両方を書けば、どちらか一方の枠で結論が決まるのを防げます。定義で迷いそうな指標には、分母を一言添えます。

数字を受け取る側に回ったときは、3つだけ確かめます。「何に対する割合ですか」「元の数はいくつですか」「反対側から言うとどうなりますか」。

たとえば「問い合わせが3倍に増えた」と聞いたら、元が月2件なのか200件なのかで、打つ手はまるで変わります。こう聞けば、相手を責めずに、同じ形の数字を机の上に並べられます。

5分でできることもあります。次に出す報告資料から数字を1つ選び、変化率、実数、反対側の言い方の3通りで書き直してみてください。自分がどの形を選ぼうとしていたかが、そこで見えてきます。

おわりに

数字は嘘をつかない、とよく言われます。それはたぶん正しいと思います。ただ、同じ数字にどの形を与えるかは、いつも人が選んでいます。

同じ数字で結論が割れたら、相手の読み違いを疑う前に、お互いが見ている数字の形を確かめてみてください。


この記事で参考にした本

『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』三木雄信 → 解約率の分母や累計の見せ方など、定義と物差しの選び方で数字の意味が変わるという指摘。

『「数字で考える」は武器になる』中尾隆一郎 → 数字を相手の判断基準に換算すると受け取られ方が変わるという、表し方の力。


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