新しいアイデアは「遠いもの同士」から。ただし混ぜるのは少しだけ
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1,790万本の論文を調べると、よく引用される論文の中身は「ほとんど定番」でした。
「新しいアイデアは、遠いもの同士の組み合わせから生まれる」。発想法の本でよく見る助言です。異業種の事例を集め、仕事と関係のない分野の本を読む。私もこの助言を素直に信じていました。
ところが、論文や特許を大量に分析した研究を並べると、話はもう少し込み入っています。遠い組み合わせは、当たりを増やすと同時に外れも増やします。そして当たるアイデアの多くは、定番の土台に少しだけ遠い要素を混ぜたものでした。
遠さをどれくらい、どう混ぜればいいのか。研究と2冊の本から順に見ていきます。
遠い組み合わせは、平均では負けて、ばらつきで勝つ
入山章栄さんは『世界の経営学者はいま何を考えているのか』で、イノベーションを生む方法のひとつは「すでに存在している知と知を組み合わせること」だと紹介しています。そのうえで企業には、手元の知を深める「知の深化」と、離れた知を探しにいく「知の探索」の両方が要ると言います。
では、探索で見つけた遠い知を組み合わせると、成果はどうなるのか。これを特許で調べたのが、当時ハーバード・ビジネススクールにいたリー・フレミング氏です(2001年、Management Science)。
フレミング氏は、1990年5月と6月に米国で登録された特許17,264件を分析しました。特許には技術分野の分類が付いています。過去にあまり組み合わされていない分類同士を使った特許ほど「新しい組み合わせ」とみなし、後の特許から引用された回数を価値の目安にしました。
結果は、新しい組み合わせの特許ほど、平均の被引用数は低いというものでした。ただし、ばらつきは大きくなります。ほとんど引用されない特許が増える一方で、ずば抜けて引用される特許もその中から出てきます。
遠い組み合わせは、平均点を上げる方法ではありません。当たりくじと外れくじを、両方まとめて増やす方法です。
よく引用される論文は「大半が定番、一部だけ意外」
では、当たりを引きやすい混ぜ方はあるのか。手がかりになるのが、米ノースウェスタン大学のブライアン・ウッジ氏らの研究です(2013年、Science)。
ウッジ氏らは、Web of Scienceに収録された論文1,790万本を対象に、各論文が参考文献でどの雑誌同士を一緒に引用しているかを調べました。たとえば、ある医学誌と物理学誌の組み合わせが、偶然から予想されるより多く現れるか、少ないか。これで組み合わせの「定番度」と「珍しさ」を測っています。
そのうえで1990年代の論文を4つに分け、発表後8年間の被引用数が上位5%に入る「ヒット」の割合を比べました。全体の平均は100本中5本です。
- 大半が定番で、一部に珍しい組み合わせが混じる論文:100本中9.11本
- 大半が定番で、珍しい組み合わせがない論文:5.82本
- 定番の部分が薄く、珍しい組み合わせがある論文:5.33本
- どちらでもない論文:2.05本
いちばんヒットしやすかったのは、定番の土台に意外な組み合わせを少し差し込んだ論文でした。平均のほぼ2倍です。珍しさだけの論文は、定番だけの論文と大差ありません。
私はこう解釈しています。定番の部分は、読み手が話についてくるための足場になる。珍しい部分は、その足場の上で新しさを生む。遠い要素だけでできた案は、新しくても受け手が入る入口がありません。
ただし、この指標には批判もあります。ケビン・ボイヤック氏とリチャード・クラバンス氏は2014年の学会発表で、雑誌の組み合わせで測る方法は分野の違いに左右されやすいと指摘しました。物理学はもともと定番の組み合わせが多く、NatureやScienceのような総合誌は珍しい組み合わせに入りやすい。数字は目安として読むのが妥当です。
遠いアイデアは、すぐには評価されない
遠い組み合わせには、もうひとつ厄介な性質があります。評価が遅れて届くことです。
当時ベルギーのルーヴェン・カトリック大学にいたジャン・ワン氏らは、2001年に発表された論文を対象に、それまで一度も一緒に引用されたことのない雑誌の組み合わせを、どれだけ離れた分野同士で含むかで新規性を測りました(2017年、Research Policy)。分野の中で新規性が上位1%の論文を「非常に新しい論文」としています。
非常に新しい論文は、長い目で見ると被引用数の上位1%に入りやすい。ところが、発表から2年以内の被引用数で比べると上位1%に入る確率はむしろ低く、はっきり有利に転じるのは4年目以降でした。掲載先も、予想より評価の低い雑誌になりがちです。被引用数の上位10%にも下位10%にも入りやすく、ここでもばらつきが大きく出ています。
たとえば新規事業の審査で、半年後の数字で案を評価するとします。この結果に沿うなら、遠い案ほど最初の審査で落ちやすいはずです。
組み合わせる相手の遠さを、実験で変えた研究もあります。ウィーン経済経営大学のニコラウス・フランケ氏らは、大工、屋根職人、インラインスケーターを71人ずつ集めました(2014年、Management Science)。3つの集団は、どれも保護具の着け心地に悩んでいます。大工は防じんマスク、屋根職人は墜落を防ぐ安全帯、スケーターは膝やひじのプロテクターです。
各自に、自分の保護具と他の2集団の保護具の改善案を出してもらい、計639件を評価しました。他の集団の問題に出した案は、当事者の案より新しさがはっきり高く、すぐ使えるかどうかの評価は低い。問題の遠さが大きいほど、新しさの差も広がりました。
反対の結果もあります。米ピッツバーグ大学のジョエル・チャン氏らは、アイデア投稿サイトOpenIDEOに寄せられた12課題、2,341件の案を分析しました(2015年、Design Studies)。参考元を明示した707件で見ると、専門家の審査で最終候補に残りやすかったのは、課題に近い参考元を使った案でした。
2つの研究は、測っているものが違います。フランケ氏らが見たのは主に新しさで、チャン氏らが見たのは実際に候補に残るかどうかです。遠さは新しさを上げ、すぐ使える度合いを下げる。どちらを重く見るかで、遠い組み合わせの評価は入れ替わります。
遠い要素は少しだけ混ぜて、長い目で測る
ここまでを実務に落とすと、次の3つになります。
誤解:異業種の事例をまるごと持ち込むほど、新しい案になる → ウッジ氏らの結果に沿うなら、土台は自分の業界の定番で組み、遠い要素は1つだけ差し込むほうが当たりやすい。たとえば飲食店の予約の仕組みを考えるなら、業界の標準的な流れは残し、航空会社の座席の値付けの考え方だけを借りてきます。手元の企画書の要素を書き出し、定番と借り物に印を付けるところから始めてみてください。5分で終わります。
誤解:遠い案も「すぐ使えるか」でまとめて選別すればいい → フランケ氏らの結果では、遠い案は新しさが高い代わりに、すぐ使える度合いが低く出ました。2つを合算した1つの点数で並べると、遠い案から落ちていきます。審査では「新しさ」と「すぐ使えるか」を別の欄で採点し、新しさの高い案は少額で試す枠に回します。入山さんが同書で紹介する「リアル・オプション」の考え方で、最初は小さく投資し、様子を見て追加するか撤退するかを決めます。
誤解:遠い組み合わせは、1つ試して外れたら見込みがない → フレミング氏やワン氏らの結果によれば、遠い組み合わせは外れが多く、評価も遅れます。1件の成否で判断すると、たいていは外れを引いて終わります。
ティム・ブラウン氏は『デザイン思考が世界を変える』で、既存製品の改善、既存の延長線上での展開、まったく新しい市場の創出という3段階の取り組みを、ポートフォリオとして組み合わせて管理するよう勧めています。遠い組み合わせは3段階目の枠に置き、何件か試す前提で予算を決め、評価の時期も通常の案件より後ろにずらしておきます。
おわりに
「遠いもの同士を組み合わせろ」という助言は、半分だけ正しいと私は考えています。遠さは当たりの上限を引き上げますが、外れも増やし、評価も遅らせます。
次に企画を出すとき、借りてきた要素がいくつ入っているかを数えてみてください。遠い要素が主役になっていたら、残りを自分の業界の定番に戻してみる。それだけで、案の通りやすさは変わるはずです。
この記事で参考にした本
『世界の経営学者はいま何を考えているのか』入山章栄 → イノベーションは知と知の組み合わせから生まれるという整理と、「知の探索」と「リアル・オプション」の考え方
『デザイン思考が世界を変える』ティム・ブラウン → 改善から新市場の創出までを、ポートフォリオとして組み合わせて管理する視点
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