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ブクドリ | BOOK DRIP

「アイデアが浮かばない」を救うのは、自由より「発想の型」だった

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約7分で読めます 思考法・問題解決
目次

誕生日カードに添える2行の詩は、「カエル」という単語を必ず入れるよう指示されたほうが、面白くなります。

米国の大学で行われた心理学の実験の結果です。条件が一つ増えて書きにくくなったはずなのに、第三者の評価は上がりました。

たとえば、企画会議で「何でもいいから、自由にアイデアを出して」と言われたとします。制限は何もないのに、頭が真っ白になる。多くの人はこれを、発想力や才能の問題だと受け止めます。

でも、止まる理由は別のところにありそうです。

「自由に考えて」で頭が止まる仕組み

何の条件もない問いを出されると、頭は一番近くにある答えから取り出します。

「ありがとう」のメッセージなら「いつも本当にありがとう」。販促の企画なら「SNSでキャンペーン」。思い浮かびやすい答えは、たいてい誰かがすでに口にした答えです。

冒頭の実験を行ったライダー大学のカトリネル・ホート=トロンプ氏は、これを記憶の中の概念どうしのつながりで説明しています。ある概念が呼び起こされると、強く結びついた概念ほど先に浮かびます。条件がなければ、探索はいちばん通りやすい道をたどり、ありきたりな答えで止まります。

条件は、この近道をふさぎます。「カエルを入れる」と決まれば、「ありがとう」から一番近い言葉だけでは書けません。いつもは通らない連想の道を、歩かざるをえなくなります。

自由な問いで頭が止まるのは、発想力が足りないからとは限りません。問いが広すぎて、ありきたりな答えしか拾えない状態になっていることが多いのです。

条件を一つ足すと、詩は面白くなる

実験の中身を見てみます。2017年に学術誌『Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts』に載った論文で、ホート=トロンプ氏は2つの実験を報告しています。

1つ目の実験では、64人の学生が「お誕生日おめでとう」「ありがとう」「ごめんなさい」など8種類のメッセージを、韻を踏んだ2行の詩にしました。半分の課題では、「シャツ」「犬」「カエル」「凧」「ハープ」など、指定された名詞を1つ入れるよう求められます。

指示を守れなかった5人を除く59人の詩を、仮説を知らない3人の評価者が10段階で採点しました。名詞を入れる条件つきの詩は平均5.18点、条件なしの詩は4.29点です。

面白いのはここからです。先に条件つきの課題をこなした人は、その後の条件なしの課題でも平均4.80点を取りました。条件なしから始めた人の3.83点を、はっきり上回ります。条件を外した後も、条件の中で考えた効果が残ったわけです。

2つ目の実験では、入れる名詞を自分で先に4つ書き出してもらいました。それでも条件つきの詩は5.13点で、条件なしの4.36点より高く評価されています。自分で課した条件でも、効果は変わりませんでした。

論文のタイトルは、ドクター・スースの絵本『Green Eggs and Ham』から取られています。「同じ50語以内で子ども向けの話を書けるか」という出版社からの挑戦に応えて書かれた本です。

ただし、条件なら何でも効くわけではありません。論文自身が、監視される、評価を予告されるといった管理のための制約は、創造性を下げるという先行研究を紹介しています。オグズ・アカー氏らが2019年に145本の実証研究を整理したレビューも、制約と創造性の関係を、少なすぎても多すぎても下がる逆U字の形でまとめています。

効くのは、課題の範囲を絞る種類の制約です。

USJの立て直しを担った森岡毅さんも、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』で同じ感覚を書いています。新しいアトラクションを建てる予算がないなか、既存の設備に手を加える方向に的を絞り、コースターを後ろ向きに走らせる案にたどり着きました。夜のパークにゾンビを放つハロウィーンのイベントも、設備投資をかけずに集客した企画です。

受賞広告の9割は、6つの「型」で説明できた

条件を足すだけでなく、発想の手順そのものに型がある。そう示したのが、エルサレム・ヘブライ大学のジェイコブ・ゴールデンバーグ氏らが1999年に『Marketing Science』に発表した研究です。

彼らはまず、広告賞の受賞作や最終候補の中から、経験12年以上のクリエイター3人が選んだ200本の広告を分析しました。すると89%が、わずか6つの型で説明できました。

たとえば、「結果」の型の中の「極端な結果」と呼ばれる手順です。車のスピーカーの広告で、音量を上げると、車を停めた橋が崩れかける場面を描く。「音が大きい」という特徴を、ありえない結果まで押し広げています。

一方、受賞作と同じ雑誌や新聞に載った、受賞歴のない広告200本では、型に当てはまったのは2.5%でした。別の受賞作と最終候補200本では50%です。

型は教えられるのか。これを確かめるため、広告の仕事をしたことのない60人を20人ずつ3組に分けました。1組目は商品の説明だけを受けて広告案を考え、2組目は自由連想法の訓練を、3組目は型の訓練を、それぞれ2時間弱受けてから考えます。

各組の案から、研究の目的を知らないクリエイティブディレクターが優れたものを選び、それを別の36人が5段階で評価しました。フケ取りシャンプーの広告の創造性は、型の組が4.02点、訓練なしの組が2.80点、自由連想の組は2.08点です。3つの商品すべてで、型の組が最も高く評価されました。

目を引くのは、自由連想法の訓練が、訓練なしをはっきり上回らなかったことです。発想を自由にするための訓練は、少なくともこの実験では効きませんでした。

ただし、受賞作の分析は後から型に当てはめたもので、対象も広告という一つの分野です。型を覚えれば誰でも受賞作を作れる、という話ではありません。言えるのは、白紙から考えるより、手順を一つ持っているほうが評価の高い案に届きやすい、という点までです。

ビジネス書が勧める型も、同じ働きをしています。シーナ・アイエンガー氏は『THINK BIGGER』で、課題を5つ以内の小さな課題に分け、それぞれを他の分野がどう解いてきたかを集めて表に並べる「選択マップ」を紹介しています。森岡さんは、目的、戦略、戦術の順に考え、アイデアが満たすべき条件を先に決めるよう説きます。どちらも、考える範囲を先に狭める手順です。

「もう出ない」と感じたところは、まだ途中

型があっても、アイデアはどこかで詰まります。そこでやめる判断は、早すぎるかもしれません。

ノースウェスタン大学のブライアン・ルーカス氏とローラン・ノードグレン氏は、2015年の論文でこれを7つの研究で調べています。

最初の研究では、24人の学生が感謝祭のディナーに出す料理や飲み物のアイデアを10分間出しました。そのうえで「あと10分続けたら、いくつ出せると思うか」を予想してもらい、実際に10分続けてもらいます。

予想は平均9.83個でした。実際には15.04個出ています。しかも、後半の10分に出たアイデアのほうが、前半より独創的だと評価されました(3段階評価で1.88対1.76)。

プロでも同じ傾向が出ました。コメディフェスティバルに出演した芸人45人にコントのオチを考えてもらうと、続けた場合の予想は5.33個、実際は6.07個でした。訓練年数や経験年数が長い人ほど予想が正確になる、という関係も見られませんでした。

著者らは原因を、考えるときの「詰まった感じ」に求めています。すぐに出てこない感覚を、アイデアが尽きた合図だと読み違えてしまう。最初に出るのはありきたりな答えなので、独創的な答えは、詰まった感じを越えた後に出やすくなります。

森岡さんは、良いアイデアを思いつく確率を上げる柱の一つに、考え抜く執念を意味する「コミットメント」を挙げています。ただ、根性だけで粘るのはつらいものです。詰まったら型を切り替える、条件を一つ入れ替える。型は、粘るための足場にもなります。

許成準さんの『天才たちのライフハック』には、孫正義さんが留学中、毎日1つ発明を考えるノルマを自分に課し、「問題解決法」「水平思考法」「強制結合法」という3つの型を見出した話が紹介されています。毎日という区切りと、3つの型。これも、範囲を絞りながら粘るための仕組みです。

明日の企画会議で試せること

誤解:制約がないほど、自由な発想が出る → 問いが広すぎると、一番近いありきたりな答えで止まります。「予算はゼロ」「今ある設備だけで」「20代の一人暮らしに限る」など、範囲を絞る条件を一つ足してから考えてみてください。自分で決めた条件でも効きます。

誤解:アイデアはひらめくのを待つもの → 手順を一つ持って臨みます。たとえば、商品の特徴を一つ選び、「それが極端になったら何が起きるか」を3通り書く。課題を小分けにして、他の業界の解き方を並べるのも型の一つです。

誤解:出なくなったら、それが限界 → 「もう出ない」と感じてから、あと10分だけ続けます。タイマーをかけ、出た数を数えておくと、自分の予想がどれだけ控えめだったかが分かります。

おわりに

アイデアが浮かばないとき、足りないのは自由のほうだと考えがちです。実験が示しているのは、その逆でした。

次に白紙の企画書を前にしたら、まず条件を一つ書き足してみてください。「カエルを入れる」くらいの、少し無茶な条件で構いません。


この記事で参考にした本

『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』森岡毅 → 予算がない制約の中で的を絞り、目的、戦略、戦術の順にアイデアの条件を決める考え方

『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法』シーナ・アイエンガー → 課題を小分けにして他分野の解き方を並べる「選択マップ」という発想の型

『1日ごとに差が開く 天才たちのライフハック』許成準 → 孫正義さんが毎日の発明ノルマから3つの発想の型を見出した話


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