本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP

AIを使うほど、アイデアが似てくる構造

更新日:
約6分で読めます AI・テクノロジー
目次

生成AIを使うと、アイデアの数は増えます。ところが5人分を持ち寄ると、同じような案が並び始めます。

たとえば、新商品のアイデアを5人が各自AIと一緒に10個ずつ考えてきたとします。机の上には50個の案がある。でも似たものをまとめていくと、中身は20種類ほどに収まってしまう。

数は増えた。種類は増えていない。

一人ひとりの手元では、何も悪いことは起きていません。自分の案は増えたし、どれも筋が通っている。似てしまうのは、人と人のあいだです。

なぜ手元では気づけないのか。AIを替えれば済むのか。どこを変えれば幅が戻るのか。発想を扱った研究と3冊の本から順に見ていきます。

似てくるのは、一人の中ではなく、人と人のあいだ

米サンタクララ大学のアンダーソン氏らが2024年に発表した実験があります。参加者(分析対象は33人)に、製品の改良案などを8分間でできるだけ多く出してもらいました。

道具は2種類です。ひとつはChatGPT(GPT-3.5)。もうひとつは、音楽家のブライアン・イーノ氏らが作った発想カード「オブリーク・ストラテジーズ」です。「逆さまにしてみる」「他の人ならどうするか」といった短い指示が書かれています。

ChatGPTを使ったときのほうが、案の数は1人あたり約1個(約15%)多く、中身も詳しくなりました。

ところが、案の似かより方を「1人の中」と「参加者全員のあいだ」という2つの単位で測ると、結果が分かれます。1人の中のばらけ方には、道具による差がありませんでした。一方、参加者全員の案を並べると、ChatGPTを使ったときのほうが互いに似ていました。

つまり、自分の案を見返しても偏りには気づけません。似ていることは、他の人の案と並べて初めて見えます。

同じ傾向は、短編小説を書かせたドーシ氏とハウザー氏の研究(2024年、Science Advances)でも報告されています。AIのアイデアを参考にできた書き手は作品の新規性の評価が上がり、同時に作品同士が似通いました。

チームにとって「似ている」ことが高くつく理由

一つひとつの案の質が上がっているなら、似ていても構わないように見えます。そうはいきません。

マシュー・サイド氏は『多様性の科学』で、この考え方の落とし穴を「クローン錯誤」と呼びました。優秀な人を集めても、全員が似た知識と視点を持っていれば、カバーできる問題の範囲は重なるだけで広がらない。集団の力には、一人ひとりの能力に加えて、一人ひとりの「違い」が要るという指摘です。

発想の場面に置き換えると、案の山の価値は平均点では決まりません。欲しいのは一番良い案です。

米ペンシルベニア大学ウォートン校のマインケ氏らも、良いアイデアを生む要素として、案の数と平均的な質に加えて「案のばらつき」が重視されてきたと整理しています。似た案をいくら積んでも、探した範囲が広がらなければ、当たりを引く確率は上がりません。

ダニエル・カーネマン氏は『ファスト&スロー』で、会議の前に参加者それぞれに意見を書き出させることを勧めています。先に出た意見に引きずられると判断が互いに独立しなくなり、人数を集めた意味が薄れるからです。

AIを同じように使うチームでは、これに近いことが会議の前に起きています。全員が同じ出どころから案をもらうので、持ち寄った時点で案がもう独立していないのです。

AIを替えても、同じ場所に集まる

ChatGPTだけの癖なら、別のAIにも聞けば済みそうです。池谷裕二さんも『生成AIと脳』で、複数のAIに同じ質問を投げて回答を比べる使い方を紹介しています。

これを確かめたのが、米デューク大学のウェンガー氏とイスラエル工科大学のケネット氏の研究(2026年、PNAS Nexus)です。22種類の大規模言語モデルと102人の人間に、「本やフォークの変わった使い道をできるだけ挙げる」といった同じ創造性テストを受けてもらいました。

結果は逆でした。

一つひとつの回答の独創性は、AIと人間でほぼ同じ。違ったのは集団としての幅です。開発元の違う7つのモデルに絞って比べても、AIの回答同士は、人間の回答同士よりずっと似ていました。「創造的に答えて」とシステム側の指示を変えても、幅はほとんど広がらなかったと報告されています。

では、なぜモデルをまたいで似るのか。手がかりになる研究があります。

米ニューヨーク大学のパドマクマール氏とヘ氏は、論説文を書く実験で3つの条件を比べました(ICLR 2024)。AIなし、初期のGPT-3、そして人間の評価をもとに指示に従うよう調整されたInstructGPTです。書き手同士の文章が有意に似通ったのは、InstructGPTを使ったときだけでした。

著者らは、人間のフィードバックで出力の質を上げたことが、内容の均質化という代償を伴っている可能性を指摘しています。ここからは私の推測ですが、各社がそろって「多くの人が良いと感じる答え」へモデルを寄せていけば、答えは整う一方で、どのモデルに聞いても似た場所に集まっていくのは自然な成り行きです。

池谷さんが強調する「選ぶ力」は、並んだ候補から良いものを選ぶ場面では役に立ちます。ただ、候補そのものが似ていれば、選べる幅は最初から狭い。

選ぶ前に、候補の幅が決まっている。私は、この順番の問題がいちばん見落とされていると考えています。

案の幅は、聞く順番と聞き方で取り戻せる

打つ手はあります。先ほどのマインケ氏らは、GPT-4への指示の出し方を35通り試しました。お題は「米国の大学生向けで、50ドル以下の新しい製品」です。

比べたのは案同士の似かより度です(コサイン類似度。1に近いほど似ている)。ウォートン校のMBA学生グループが出した案は0.243。GPT-4に普通に頼むと0.377でした。「スティーブ・ジョブズのように考えて」と頼んでも0.368で、あまり変わりません。

いちばんばらけたのは、手順を分けて指示するやり方でした。まず100個の案の見出しだけを出させる。次に一覧を見直し、似た案を大胆で互いに違う案へ作り変えさせる。最後に説明を書かせる。これで0.255と、人間のグループにかなり近づきました。

もうひとつ、指示の違う案の山同士は重なりが小さいことも報告されています。複数のやり方で出した案を混ぜれば、幅はさらに広がります。ただし、この研究は査読前のワーキングペーパーで、お題も1つだけです。

ここまでの研究を、チームのアイデア出しに落とすとこうなります。

誤解:全員がAIで案を出せば、選択肢は人数分増える → 出どころが同じなので、増えるのは案の数で、種類はそれほど増えません。

正しいアプローチ:AIを開く前に、各自5分だけ自分で案を書く → カーネマン氏の「会議の前に書き出す」を、AIの前に置く形です。AIで直接確かめた研究ではなく私の応用ですが、先にAIの案を見ると、そこから考え始めやすくなります。

誤解:別のAIにも聞けば、幅が出る → ウェンガー氏らの結果を見る限り、モデルを替えても行き着く先は近い。

正しいアプローチ:聞き方を分けて、やり方の違う案を混ぜる → 「アイデアを10個」と一度に頼まず、見出しを大量に出させ、似た案を作り変えさせてから説明させる。メンバーごとに聞き方を変えて、結果を混ぜます。

誤解:案が50個あれば、選択肢は50ある → 似た案が固まっていれば、実質の選択肢はかたまりの数です。

正しいアプローチ:持ち寄った案を似たものでまとめ、かたまりの数を数える → 付箋を寄せるだけで5分あればできます。案の少ない領域が見えたら、次はそこだけを人間が考えます。

おわりに

チームの案が似てくるのは、誰かが手を抜いたからではありません。全員が同じ井戸から水をくんでいるからです。

AIは一人ひとりの案を増やす道具として優秀です。チームの発想の幅を決めるのは、AIに聞く前の5分と、持ち寄った後にかたまりを数える5分のほうです。


この記事で参考にした本

『多様性の科学』マシュー・サイド → 優秀でも似た視点の人を集めると、カバーできる問題の範囲が重なって広がらないという「クローン錯誤」。

『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン → 議論の前に各自の意見を書き出し、判断の独立性を保つという会議の進め方。

『生成AIと脳』池谷裕二 → 生成AIは個人の創造性を高める一方で集団の多様性を減らしうるという指摘と、複数のAIを比べて「選ぶ力」。


合わせて読みたい

AIを使うほど、みんな同じことを言い始める 本文で触れたドーシ氏とハウザー氏の短編小説の実験を、詳しく紹介しています。もともと創造性の高い人と低い人で、AIの効き方がどう違ったかもわかります。

『多様性の科学』マシュー・サイド 似た人ばかりのチームがなぜ失敗するのかを、CIAや登山隊の事例で描いた一冊です。AIで案が似てくることが、組織にとってどれほど危ういかの背景がつかめます。

『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法』シーナ・アイエンガー氏 チームで集まる前に、まず個人で考えて探すことを勧める発想法の本です。「AIを開く前の5分」を、どう使えば良いかのヒントになります。