正しい答えでも人が動かないのは、決め方を見ているから
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同じ改革案が、評判のいい模範工場では強い反発を招き、変化を嫌う組合の強い工場では受け入れられました。案の中身は同じです。違ったのは、決めて伝えるまでの進め方でした。
INSEADのW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏が、1997年のハーバード・ビジネス・レビューの論文「フェア・プロセス」で紹介した事例です。著者らは会社を「エルコ」という仮名で呼んでいます。
エレベーターメーカーのエルコは1991年、生産方式を少人数のチームで製品を仕上げる「セル生産」に切り替えると決めました。最初の舞台は、顧客に見せたくなるほど士気の高いチェスター工場です。
ところが、コンサルタントは紹介もされないまま3か月工場を歩き回り、そのあとに開かれた説明会はわずか30分でした。なぜ変えるのか、新しいやり方で何を求められるのかは、誰も説明しません。黙り込んだ従業員を見て、経営陣は「同意してくれた」と受け取りました。
人は結論と同じくらい、決め方を見ている
その夏までに、チェスター工場のコストと品質は急落しました。従業員は互いに助け合うのを拒み、組合を呼び戻す話まで出ています。
論文によれば、新しい方式は休暇を取りやすくし、仕事の幅も広げるもので、従業員にとっても得のある案でした。それでも、進め方を信用できない人には、悪い面しか見えなかったのです。
キム氏とモボルニュ氏がこの現象に気づいたのは、多国籍企業の戦略決定の研究でした。調べた19社では、本社の決め方を公正だと感じた子会社の経営者ほど本社を信頼し、決定に協力していました。公正さが欠けていると感じた経営者は、アイデアを出し惜しみ、実行を引き延ばしていました。
同じ2人が1993年に経営学の学術誌に発表した論文では、時期をずらして2回データを取り、本社の決め方の公正さが子会社トップの「決定に従う行動」を直接にも、決定への思い入れや信頼、結果への満足を通じても高めることを示しています(抄録で確認)。
出し惜しみは、日本の現場でも起きます。迫俊亮さんは『リーダーの現場力』で、ミスターミニットで売上を伸ばそうとして失敗した経験を書いています。「靴修理5分」ののぼりを店に立てたところ、駅の規制に引っかかって撤去されました。現場は規制を知っていましたが、事前に誰も教えてくれなかったのです。
決め方に参加できなかった人は、案に反対するだけではありません。案を成功させるために持っている知識を、黙って手元に残します。
公正な決め方は、合意でも多数決でもない
では、公正な決め方とは何か。キム氏とモボルニュ氏は、立場を問わず同じ3つの原則が出てきたと書いています。
関与:決定の影響を受ける人に意見を求め、互いの案に反論できるようにする 説明:最終的な決定がなぜそうなったのかを、関係者全員が理解できるようにする 期待の明確化:決まったあとの新しいルール、評価基準、責任の分担をはっきり示す
注意したいのは、著者ら自身が「フェア・プロセスは合意による決定ではない」と念を押している点です。全員の要望を足して割る妥協でも、職場の民主主義でもありません。決め手はあくまで案の良し悪しで、決めるのは決定権者です。変わるのは、決める前に意見を聞き、決めたあとに理由とルールを伝えるところです。
実験でも近い結果が出ています。M・オードリー・コースガード氏らは1995年、実在の経営チームを使った実験で、リーダーがメンバーの意見を考慮したかどうか、メンバーが決定に影響を与えられたかどうかを操作しました。意見が考慮された条件や、決定に影響を与えられた条件では、メンバーは決め方をより公正だと評価しました。そして決定を支持する気持ち、チームへの愛着、リーダーへの信頼が高まり、その効果の一部は「公正だ」という受け止めを通じて生じていました(抄録で確認)。
遠藤功さんが『戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法』で紹介する電機メーカーの例も、この形に近いものです。長く赤字の新規事業にこだわる専務に、遠藤さんは撤退を迫る代わりに「あと何年やれば判断できるか」と問いかけました。専務の思いを受け止めたうえで、「2年」という撤退の基準に合意しています。
意見を聞き、判断の物差しを先に決める。相手に選ばせたわけではありませんが、決め方には相手が関わっています。
決め方が効くのは、結果が不利なときだ
公正な手続きは、どんな場面でも同じように効くわけではありません。
コロンビア大学のジョエル・ブロックナー氏とニューヨーク大学のバティア・ウィーゼンフェルド氏は1996年、45の独立したサンプルの研究を見直しました。対象には、リストラを生き延びた社員、裁判の当事者、転勤させられた社員などが含まれます。
見えてきたのは、手続きの公正さは、結果が不利なときほど人の反応を左右する、というパターンでした。たとえば昇給のように得をする決定なら、決め方が多少雑でも人は受け入れます。損をする決定では、決め方しだいで受け止めがまるで変わります。
「正しい答え」の多くは、誰かに何かを手放させます。たとえば慣れたやり方、担当範囲、評価のされ方です。だからこそ、正しい提案ほど決め方を問われます。
逆側の代償も大きい。キム氏らは、不公正な進め方に怒った人は、会社や自分たちにとって良い決定まで覆そうとすることがあると指摘しています。
ただし限界もあります。ブロックナー氏らは、結果そのものが極端に悪ければ公正な手続きでも和らげられないと書いています。十分な支援のないリストラを、丁寧な説明だけで乗り切れるわけではありません。
エルコの話には続きがあります。経営陣はチェスター工場で事業の厳しさを共有し、従業員の改善を理由に解雇はしないと約束しました。景気がさらに悪化すれば人員を減らす権利は残す、とも明言しています。そのうえでセルがうまく動かない理由を従業員に尋ね、出てきた提案で配置を組み直すと、業績は回復していきました。
次の舞台は、組合が強く変化を嫌うハイパーク工場です。ここでは最初から従業員にセルの設計を手伝ってもらい、評価基準も一緒に作りました。反発を覚悟していた工場長のもとで、大きな混乱は起きませんでした。
提案の前後に、3つの手順を足す
誤解:正しい案を完璧に作り込めば、人は動く → 決め方に関われなかった人は、案が正しくても協力を控え、知っていることを出しません。
正しいアプローチ:案の中身と同じだけ、決め方を設計する → 決定権は手放さなくていい。変えるのは、決める前と決めたあとの手順です。
たとえば、来月から営業の報告書式を変えたいとします。足す手順は3つです。
1つ目は、決める前に聞くこと。影響を受ける人に「この案だと、どこで困りますか」と聞き、出た指摘を一覧にします。のぼりの失敗を防ぐのは、この一覧です。
2つ目は、採用しなかった意見を理由つきで返すこと。「〇〇さんの指摘は検討しました。今回は採りません。理由はこうです」と一行ずつ書きます。意見を退けられても、考慮されたとわかれば決定を受け入れやすくなります。
3つ目は、決めた直後にルールを書いて渡すこと。誰が何をするのか、何で評価するのか、いつ見直すのか。専務との「2年」のように、見直しの時期を先に決めておくと、反対だった人も様子を見る理由ができます。
5分で始めるなら、次の提案資料の最後に1ページ、「出た反対意見と、採用しなかった理由」を足してみてください。
おわりに
提案が通らないと、つい中身の詰めが甘かったと考えます。けれど、エルコのチェスター工場で問題になったのは案の出来ではありませんでした。
答えを磨き終えたら、次にこう考えてみてください。この決定で損をするのは誰か。その人は、決まる前に一度でも話を聞かれたか。
この記事で参考にした本
『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』迫俊亮 → 現場が知っていた規制を誰も教えてくれなかった「のぼり」の失敗と、正論より先に信頼が要るという教訓
『戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法』遠藤功さん → 結論を渡すより過程を共有する「巻き込み」と、撤退基準を相手と決めた専務との対話
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