意思決定が遅い組織は、決定を「分類」しないまま上へ送っている
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ある大企業で、管理職が5年間に下した決定を調べると、9割を超える決定が少数の「よくある型」に収まっていました。
それなのに、型ごとに誰が決めるかを前もって決めていなかったため、4分の3近くの決定が行き先を探してさまようことになりました。そして多くは、本来より高い階層まで上がっていきました。
ピーター・ドラッカー氏が1954年の『現代の経営』に書いた、自身の観察です。その会社では、行き先の決まらない決定を「居場所を探しに行く」と呼んでいたそうです。
意思決定が遅いと、私たちはつい「慎重すぎる」「情報が足りない」と考えます。ただ、70年前のこの話が指しているのは、決定の中身とは別の場所です。どこで決まるべきかが分からないまま、決定が組織の中を動いている。
仕分けのない決定は、上へ上へと溜まっていく
沼上幹さんは『組織戦略の考え方』で、組織の基本を「プログラム」と「ヒエラルキー」の組み合わせとして説明しています。繰り返し起きる問題は、決めておいた手順で現場が処理する。手順で対処できない例外だけを、上司の判断に回す。
この仕組みは、例外が少ないうちはよく回ります。困るのは、どの決定が手順で片付くのか、どの階層で決めてよいのかが決まっていないときです。
決まっていなければ、担当者にとって一番安全なのは上に聞くことです。すると現場で済むはずの判断まで例外として上がり、上司の机で順番待ちになります。
沼上さんは、例外処理がヒエラルキーをパンクさせると、経営層まで目先の対応に追われると書いています。そこで引いているのが、ジェームズ・マーチ氏とハーバート・サイモン氏が1958年の共著『オーガニゼーションズ』で示した「意思決定のグレシャムの法則」です。日々のルーチンに追われる人は、長期的な構想を考えなくなる、という法則です。
仕分けのない組織では、小さな決定が遅れるだけでは済みません。上に溜まった小さな決定が、大きな決定に使うはずの時間まで奪います。
ドラッカー氏はさらに踏み込み、成長を固めきれずに縮んでいく会社の最大の原因は、もう自分が下すべきでない決定をトップが手放さないことだ、とまで書いています。
ジェフ・ベゾス氏も2015年の株主への手紙で、大きな組織がはまる落とし穴として「画一的な意思決定」を挙げました。取り消せる決定の多くにまで、取り消せない決定用の重い手順を使ってしまう。その結果が遅さと実験の不足だ、という指摘です。
そのうえでベゾス氏は、取り消せる決定は判断力のある個人か小さなグループがすばやく下すべきだ、と書きました。手紙の脚注では逆の失敗にも触れています。重大な決定を軽い手順で済ませる会社は、大きくなる前に消えてしまうので目に入りにくい、と。
上に送る理由は「重要さ」より「取り消しにくさ」
では、何を基準に決定を仕分ければいいのか。ドラッカー氏は同じ本で、決定の性格は次の4つで決まるとしました。
- 先の縛り:どれだけ先まで会社を縛り、どれだけ早く元に戻せるか
- 影響の広さ:他の部門や事業全体にどれだけ響くか
- 価値の問題:倫理や人の扱いといった判断がどれだけ入り込むか
- 頻度:繰り返し起きるのか、めったにないのか
面白いのは、1つ目に添えられた例です。銅のように値動きの激しい原材料を、生産計画に合わせて買うか、価格の予測に合わせて買うか。大きなお金が動き、分析も難しい決定です。
それでもドラッカー氏は、この決定は工場長や購買担当のように、決められる範囲でいちばん下の階層へ降ろすべきだとしました。先物契約は毎営業日売れるので、ほぼすぐに取り消せるからです。
重要で難しいから上で決める、という直感とは逆の結論です。上へ送る理由になるのは、取り消しにくさ、他部門への影響、価値判断のほうでした。
4つ目の頻度には、別の処方があります。たとえば規律違反による出勤停止は、人に関わる判断なので高い階層が決めるべきです。ただ繰り返し起きる決定なので、高い階層が決めるのは一般的なルールまで。個別のケースにルールを当てはめる判断は、ずっと下の階層に任せられます。
原則は2つです。決定はできるだけ低い階層で、実行の現場のできるだけ近くで下す。同時に、影響を受ける活動と目標をすべて考慮できる階層で下す。前者がどこまで降ろすべきかを、後者がどこまで降ろせるかを決めます。
この「決定分析」は、のちの『マネジメント』でも、組織の構造を決めるための分析の一つとして受け継がれています。
決定の種類ごとに、効く決め方は逆になる
ドラッカー氏の議論は70年前のものです。いまの組織でも、決定を種類で分ける意味はあるのか。手がかりになるのが、マッキンゼーが2019年に公表したグローバル調査です。
調査は2018年2月に行われ、世界91か国の1,259人が回答しました。自社が意思決定に優れていると答えたのは20%です。回答者は勤務時間の平均37%を意思決定に使い、その半分以上は有効に使えていないと感じていました。
この調査は、決定を3種類に分けて尋ねています。買収のように会社の将来を左右する、まれで大きな「大きな賭け」。価格設定のように、複数の部署が段階ごとに判断を重ねる「部署横断型」。人事方針の変更のように、個人か1チームが少ない相談で下せる「委任型」です。
目を引くのは、種類によって効く手が逆になることでした。委任型でうまくいっている組織は、コーチングで人を支え、安全に失敗できる余地を与えていました。この2つがそろうと、調査が定義した「勝ち組」の組織にいる確率は3.9倍です。
一方で委任型では、役割やプロセスを明確にすることや、上に上げる基準を示すことは、この2つほど成果と結びついていませんでした。報告書は、決められたプロセスが委任型の決定を遅くしうると書いています。
部署横断型では反対です。誰がいつ加わり、決定の会議をどう回すかという進め方の設計と、委員会が重要な決定に時間を使うことが効いていました。こうした実践がある組織では、勝ち組にいる確率が4.5倍でした。
「決定が適切な階層で下されている」と答えた人が勝ち組にいる確率は6.8倍でした。階層が1〜3段の組織では61%が「自社の決定は速い」と答え、7段以上では38%にとどまります。
どれも回答者の自己評価に基づく相関で、原因と結果の向きまでは分かりません。回答企業の6割強は年商10億ドル未満です。
それでも、1つの手順をすべての決定に当てはめるとどこかで合わなくなることは読み取れます。たとえば委任型に承認の手続きを足せば遅くなり、部署横断型を1人に任せきれば調整が抜け落ちます。
明日から変えられること
誤解:重要な決定ほど、上で決めるべきだ → 上へ送る理由は、取り消しにくさ、影響の広さ、価値判断の有無です。銅の購入のように重要でも取り消せる決定は、現場に近い人が決めたほうが速く、手元の情報も新しい。
誤解:任せた決定で失敗したら、権限を戻すべきだ → マッキンゼーが2017年に発表した論文に、フォーチュン100に入る会社の例があります。業績不振と市況の悪化を受けて、CEOがほぼすべての決定を本社に集めました。コストは締まった一方、判断が遅れて大型の買収案件をいくつも逃し、CEOは再び権限を分散させています。
二度目は、リーダーの説明責任と透明性を強めたうえでの分散でした。論文は、失敗のたびに権限を引き戻すのではなく、決めた人に責任を持たせて指導するよう勧めています。
正しいアプローチ:自分のところに来る決定を書き出して仕分ける → 同じ論文は、定期的に下している決定を20個書き出し、1つずつ3つの問いにかけるよう勧めています。取り消せる決定か。部下の誰かに決める力があるか。その人に結果の責任を持たせられるか。3つとも「はい」なら任せます。
具体的には、次の3つから始められます。
- 先月、自分が決めた決定と上に上げた決定を10個書き出し、「繰り返し」「取り消せる」「他部署に響く」に印を付ける
- 繰り返し上がってくる決定は、一度だけルールを決め、当てはめる判断は担当者に渡す
- 定例会議の議題を種類で分ける。委任型は結果の報告だけにし、部署横断型は「誰がいつ何を出すか」を決める時間にする。大きな賭けは別の枠を取り、代案と反対意見を用意して臨む
1つ目は5分あればできます。「取り消せる」に印が付き、「他部署に響く」に付かない決定は、任せられる候補です。それが自分の机に何件載っているかを数えてみてください。
おわりに
決定を仕分けない組織では、慎重さが一律に配られます。取り消せる決定は待たされ、取り消せない決定は、上に溜まった小さな決定に時間を奪われます。
次に「上に確認します」と言いそうになったら、その決定は戻せるものか、誰に響くものかを一度だけ考えてみてください。行き先が分かれば、その決定はもうさまよわずに済みます。
この記事で参考にした本
『現代の経営』P.F.ドラッカー氏 → 決定の性格を決める4つの物差しと、銅の購買や出勤停止の例。決定をできるだけ現場の近くで下すという原則
『マネジメント[エッセンシャル版]』P.F.ドラッカー氏 → 組織の構造を決める分析の一つとしての「決定分析」。決定を性格で分け、決める階層を割り当てる考え方
『組織戦略の考え方』沼上幹さん → ルーチンは手順で、例外だけを上へ。例外が溢れるとヒエラルキーが詰まり、上の人の考える時間が消える仕組み
『ベゾス・レター』スティーブ・アンダーソン氏 → 取り消せない決定と取り消せる決定を分け、後者を現場の個人や小さなチームに任せるアマゾンの考え方
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