成功企業の真似が失敗する理由は、写真に写らない
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「工場の隅々まで写真を撮ってこい。写ったものは全部、うちの工場でも同じにしろ」
米ゼネラル・モーターズ(GM)の副社長が、ある工場管理者にこう命じたことがあります。お手本はNUMMI。GMがトヨタと合弁で運営していた、カリフォルニア州フリーモントの工場です。
当時GMに助言していたジェフリー・ライカー氏が、米国のラジオ番組で紹介した話です。命じられた管理者は、すぐに無理だと分かったといいます。従業員のやる気も、労使の良い関係も、コピーできないし写真にも撮れないからです。
成功企業のベストプラクティスを学ぶのは、まっとうな努力です。それでも真似がうまくいかないのは、手元にある「成功企業の写真」から、少なくとも3つのものが抜け落ちているからです。
「成功要因」は、業績を知った後に書かれている
1975年、組織心理学者のバリー・ストー氏は、グループで課題に取り組んだ学生たちに成績を伝える実験をしました。伝えた成績は、実際の出来とは関係なく割り振ったものです。
「成績が良かった」と言われたグループは、自分たちのまとまりやコミュニケーションを高く評価しました。「悪かった」と言われたグループは逆です。出来はほぼ同じだったのに、結果の知らせだけで振り返りの中身が変わりました。
結果が先で、理由は後から付きます。
経営学者のフィル・ローゼンツワイグ氏は、これを企業の評価に当てはめ、ハロー効果の問題として論じました(邦訳『なぜビジネス書は間違うのか』)。業績が良い会社は、戦略も文化もリーダーも優れて見えます。業績が落ちると、同じ特徴が欠点として語り直されます。
たとえばシスコシステムズは、1990年代末には戦略も買収の手際も称賛されていました。ITバブルが崩壊すると、ほとんど変わっていない同じ会社が、戦略の欠陥や雑な買収で批判されたと同氏は指摘しています。
困るのは、成功企業を研究した本の多くが、こうした記事や回想インタビューを材料にしていることです。ローゼンツワイグ氏は2007年の論文で、1982年の『エクセレント・カンパニー』が選んだ43社のその後を示しました。
調査期間後の5年間で、株式市場全体より速く成長したのは3分の1でした。データのそろう35社のうち、利益率が上がったのは5社で、30社は下がっています。
ジム・コリンズ氏らの『ビジョナリー・カンパニー』は、この弱点を意識した本です。成功企業18社それぞれに、同じ業界で同じ時代の比較対象企業を組み合わせ、両者の違いを探しました。
それでもローゼンツワイグ氏の集計では、調査期間後の5年間で、18社の半数以上が株主総利回りで市場平均に届きませんでした。利益率は5社が改善、11社が悪化しています。
好業績の後に数字が平均へ戻るのは、ある程度は自然なことです。ローゼンツワイグ氏自身も、後退しただけで結論が崩れるわけではないと断っています。同氏が問題にしたのは、材料の多くが業績を知った人の語りだった点です。
ダニエル・カーネマン氏も『ファスト&スロー』でこの本を取り上げています。同氏は、経営者の力量と会社の業績の相関を、かなり甘く見積もって0.3と仮定しました。それでも2社を比べたとき、優れた経営者の会社のほうが好業績である確率は約60%です。当て推量の50%より10ポイント高いだけです。
事例を読むときは、その記述が業績の出る前に書かれたのか、後に書かれたのかを見てください。後から書かれた称賛や回想は、原因の説明というより、結果の言い換えであることが多いからです。
同じ賭けをして消えた会社は、事例集に載らない
2つ目の欠落は、写真の外にいる会社です。
当時スタンフォード大学にいたジャーカー・デンレル氏は、2003年の論文で、他社から学ぶときに手に入る観察は偏っていると指摘しました。いま目に見える会社は、多くの会社がふるい落とされた後の生き残りです。しかも本や経済誌は、成功企業ばかりを取り上げます。
デンレル氏が注目したのは、この偏りが、リスクの高いやり方を特によく見せてしまうことです。リスクの高い戦略をとる会社は、大成功と大失敗に分かれやすい。堅実な戦略の会社は、たいてい平均的な成績に落ち着きます。
たとえば、100社が一つの新市場に全資源を賭け、別の100社が複数の事業に分散したとします。賭けた100社のうち数社は大成功し、多くは消えます。分散した100社は、ほとんどがほどほどの成績で残ります。
10年後に業界の上位10社を調べると、賭けて勝った会社が並ぶでしょう。「集中こそ成功の条件」という結論が出ます。でも、消えた数十社を含めて比べると、賭けたほうが平均して良かったとは限りません。消えた会社は、調査の対象にすら入らないのです。
デンレル氏は、会社全体を見れば業績と無関係なやり方でも、リスクが高ければ、生き残りの中では業績と結びついて見えることを示しました。大胆な施策ほど真似の対象として魅力的に映るのは、そのためでもあります。事例集に載るのは、賭けに勝った会社だけです。
本物の成功要因でも、見える部分だけでは動かない
では、原因がはっきりしている場合はどうか。NUMMIの話に戻ります。
フリーモント工場は、GM時代には社内でも生産性の低い工場の一つでした。無断欠勤率はしばしば20%を超え、苦情の申し立ては1,000件以上たまり、工場は1982年に閉鎖されています。
1984年に合弁で再開したとき、組立工の99%は元のGMフリーモント工場の従業員でした。それでもNUMMIは、トヨタの日本の工場に並ぶ生産性と品質に達します。変わったのは、生産と管理の仕組みでした。
GMは、この工場を通じてトヨタのやり方を間近で学べる立場にいました。ところが、学んだことを自社の他の工場へ広げるのに苦労します。経済学者のスーザン・ヘルパー氏とレベッカ・ヘンダーソン氏の2014年の論文によると、GMのヴァンナイズ工場はNUMMIのやり方の一部を取り入れたものの、改善ははるかに小さく、まもなく閉鎖されました。
象徴的なのが、アンドンと呼ばれるひもです。組立工が異常に気づいたら引いて助けを呼び、必要ならラインを止めます。ひも自体は、どの工場にも簡単に取り付けられます。
けれども、NUMMIを経て他の工場へ送られたGMの幹部は、ひもを付けた工場でも、引いた作業者が怒鳴られたと証言しています。
ひもが働くには、問題を知らせた人が責められず、呼ばれた側が一緒に原因を探す関係が先に要ります。写真に写るのはひもで、写らないのはその関係です。
『トヨタの問題解決』は、問題を「あるべき姿と現状のギャップ」と定義し、標準がなければ何が異常かも分からないと説明します。大野耐一氏の「困らんやつほど、困ったやつはいない」という言葉も紹介されています。問題が見えないことを一番の問題とみなす習慣があって、はじめてラインを止める道具が意味を持ちます。
同じ会社の中でさえ、うまくいったやり方は簡単には移りません。ガブリエル・シュランスキー氏は1996年の論文で、8社で行われた122件のベストプラクティスの社内移転を分析しました。
移転を妨げていた主な要因は、受け手のやる気のなさではありませんでした。受け手が新しい知識を吸収する力の不足、なぜうまくいくのかが当事者にも分からない曖昧さ、送り手と受け手の関係の難しさです。競争相手ではない社内でもこうなのですから、他社を外から見て真似る場合はなおさらです。
真似る前に確かめる3つのこと
他社から学ぶのをやめる必要はありません。持ち込む前に確かめることを増やします。
誤解:成功企業の共通点を集めれば、成功の条件が分かる → 共通点の多くは、業績を知った後の語りか、生き残りの中だけで目立つ特徴です。
正しいアプローチ:同じことをして伸びなかった会社を1社探す → 真似したい施策が見つかったら、同じ施策を入れて撤退した会社を検索します。5分あればできます。見つからないときは、失敗例が表に出ていないだけかもしれません。
誤解:施策の形をそろえれば、同じ効果が出る → アンドンのひもは付けられても、引いた人が怒鳴られる職場では誰も引きません。
正しいアプローチ:施策が前提にしている行動と、それを支える仕組みを書き出す → たとえば他社の「毎週の1on1」を真似るなら、部下が本音を話したら評価にどう響くのかまで書き出します。本音が不利になる職場では、1on1はただの報告会になります。
誤解:良いと分かった施策は、全社に一斉に入れる → 一斉に入れると、効かなかったときに何が欠けていたのか分かりません。
正しいアプローチ:1つの部署で試し、効いたかを測る指標を先に決める → ヴァンナイズ工場のように「一部だけ入れて効果が小さい」ことは珍しくありません。欠けている部分を見つけられる規模で始めます。
おわりに
GMの副社長が撮らせようとした写真には、工場の隅々までが写ったはずです。写らなかったのは、ひもを引いた作業者を誰も責めないという約束でした。
次に成功企業の事例を手に取ったら、写っているものより先に、写っていないものを数えてみてください。業績を知った後の語り、消えた会社、そして道具を動かしている人の関係です。
この記事で参考にした本
『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン氏 → ハロー効果と後知恵が成功物語を作る仕組み。経営者の力量と業績の相関を0.3と仮定しても、優れた経営者の会社が勝つのは約6割という試算。
『ビジョナリー・カンパニー』ジム・コリンズ氏 → 成功企業に比較対象企業を組み合わせて違いを探した方法。成功事例研究の弱点を避けようとした工夫と、その限界の両方が見える。
『トヨタの問題解決』OJTソリューションズ → 問題を「あるべき姿と現状のギャップ」と捉え、標準があってはじめて異常が見えるという考え方。道具の背後にある習慣。
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