「相関」はなぜ「因果」に見えてしまうのか
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約6万人の看護師を最長16年追いかけたデータが、ある治療を「心臓を守る」と示していました。ところが、くじ引きで2組に分けて確かめると、結果は逆を向いたのです。
その治療は、閉経後の女性ホルモン療法です。1996年、アメリカの看護師健康調査(Nurses’ Health Study)の分析で、ホルモン剤を使っている女性は、使っていない女性より、心筋梗塞と冠動脈疾患による死亡を合わせた発生が4〜6割少ないと報告されました。
2002年、同じ系統の薬を1万6608人の女性にくじ引きで割り当てた試験(Women’s Health Initiative)が、予定より早く打ち切られます。薬の組では、冠動脈疾患が偽薬の組の約1.3倍に増えていました。
相関関係は「2つの数字が一緒に動いた」という事実です。因果関係は「片方を動かせば、もう片方が動く」という主張です。この2つのあいだには、思っている以上に広い隙間があります。
なお、この治療の評価はその後、年齢や閉経からの年数によって分かれることも分かってきました。この記事で扱うのは、治療の是非よりもデータの読み方のほうです。
相関の裏には、少なくとも4つの「別の説明」がある
中室牧子さんと津川友介さんは『「原因と結果」の経済学』で、相関を見たら3つを疑うよう勧めています。まったくの偶然ではないか。第3の変数が両方を動かしていないか。原因と結果が逆ではないか。
同書はさらに、人が自分で選んだ結果、比べる2つのグループが最初から違ってしまう「セレクション・バイアス」も取り上げています。実務で出会う落とし穴は、この4つでおおむね整理できると私は考えています。
| 別の説明 | 起きていること |
|---|---|
| 偶然 | 無関係な2つが、たまたま同じ形に動いた |
| 第3の変数 | 両方を動かす要因が、別のところにある |
| 逆の因果 | 結果だと思っていたほうが、実は原因 |
| 選ぶ人の偏り | データに入る人が、最初から違っている |
「因果がある」と言えるのは、この4つをひとつずつ消せたときだけです。
それでも私たちは、確かめる前に原因を決めてしまいます。ダニエル・カーネマン氏は『ファスト&スロー』で、速く自動的に働く思考(システム1)は出来事のあいだに因果の筋書きを勝手に組み立て、統計的な事実は苦手だと説明しています。相関を見た瞬間に「なぜ」の答えが浮かぶのは、この働きです。
偶然は、もっともらしい原因を連れてくる
カーネマン氏がイスラエル空軍の飛行教官たちに「叱るより、うまくできたときに褒めるほうが効く」と教えたとき、ベテラン教官が反論しました。
「褒めると、次はたいてい下手になる。怒鳴りつけると、次はたいてい上手くなる」
教官の観察そのものは正しかったのです。ただ、原因は褒めることでも叱ることでもありませんでした。
訓練生が褒められるのは、実力以上にうまくいった直後です。次の飛行では、運の上振れが消えて普段の出来に戻りやすい。叱られるのはその逆です。カーネマン氏はこれを「平均への回帰」と呼び、教官は統計的に起きて当然の変化に、自分の行動という原因を当てはめていたと説明しています。
職場でも同じことが起きます。たとえば、不良品率が過去最悪だった月に対策チームを立ち上げたとします。翌月に数字が下がっても、それが対策の効果か、最悪の月の後に普段の水準へ戻っただけかは、この前後比較だけでは区別できません。
偶然はもう一つの形でも現れます。中室さんと津川さんの本にも出てくる例ですが、1999〜2009年のアメリカで、ニコラス・ケイジ氏の年間の映画出演本数とプールで溺れた人の数は、相関係数が約0.67という、はっきりした連動を示しました。
これを見つけたタイラー・ヴィーゲン氏は、自分のサイトで2万5000を超える変数を総当たりで比べ、偶然に形の似た組み合わせを拾い出していると明かしています。比べる組み合わせが増えるほど、偶然の一致はどこかでほぼ確実に見つかります。
たくさんの指標を並べたダッシュボードから「効いていそうな組み合わせ」を探すときも、同じ構造です。見つけた相関は、別の期間や別の部署でも同じように出るか。これが最初の確認になります。
自分で選んだ人は、最初から違う
冒頭のホルモン療法に戻ります。6万人のデータは、なぜ外れたのでしょうか。
ホルモン剤を使うかどうかは、女性たちが医師と相談して自分で選んでいました。閉経前の女性541人を約8年追った1996年の研究では、のちにホルモン剤を選んだ人は、使い始める前から大学教育を受けた割合が高く、血圧や体重が低めで、余暇の運動量も多いことが分かっています。見かけの効果の少なくとも一部は、薬を選ぶ人の特徴が生んでいたのです。
教育歴や健康的な習慣は、薬を使うかどうかと心臓病の少なさの両方に関わる第3の変数です。それをデータに持ち込んだのが、本人の選択でした。
2002年に発表された研究のまとめ(メタ分析)も、同じ方向を指しています。社会経済的な状況などを考慮した観察研究だけを集めると、冠動脈疾患の相対リスクは1.07で、守る効果は見えなくなりました。対象の年齢や使い始めた時期の違いも食い違いの一因とされていますが、選ぶ人の違いが結果を大きく歪めていたと考えられています。
データの量はこの問題を解決しません。対象を6万人から60万人に増やしても、「選ぶ人が違う」という偏りは同じ割合で残ります。量で減らせるのは偶然のぶれだけです。
仕事の場面に置き換えます。たとえば、希望者だけが参加するリーダー研修の受講者は、3年後の昇進率が高かったとします。ただ、手を挙げて研修に来る人は、もともと意欲が高く、上司の推薦も受けやすい人たちかもしれません。この比較では、研修の効果と、手を挙げる人の特徴が混ざったままです。
顧客満足度も同じです。アンケートに答えるのは今も契約している顧客で、不満を持って解約した人はそもそもデータに入りません。
施策を受けた人と受けなかった人は、施策以外の点でも違っていないか。本人が選べる施策ほど、この問いを先に立てる必要があります。
矢印は、逆を向いていることがある
中室さんと津川さんが挙げる例に、「警察官が多い地域ほど犯罪が多い」があります。ここから「警察官が犯罪を招く」と読むのは誤りです。犯罪が多い地域だから、警察官が多く配置されている。矢印の向きが逆だったのです。
会社の数字でも、この逆転はよく起きます。たとえば、広告予算を「前年売上の何%」と決めている会社では、売上の大きい年の翌年ほど広告費が増えます。広告費と売上が連動していても、その一部は「売れたから広告を打てた」という逆向きの矢印です。
確かめ方は、時間の順序を見ることです。原因とされる数字は、結果より先に動いていたか。そして、その数字がどういうルールで決まっているのか。予算の決め方や人員配置の基準を知るだけで、逆の矢印に気づけることがあります。
相関を見たら、4つの問いを順に当てる
誤解:データの量が多ければ、相関は因果に近づく → ホルモン療法の例では、6万人のデータでも外れました。量が効くのは偶然に対してだけで、選ぶ人の偏りや逆の矢印は残ります。
誤解:施策の前と後を比べれば、効果が分かる → 前後比較には、平均への回帰と、同じ時期に起きた別の変化が混ざります。同じ時期に施策をしなかった比較相手を必ず置いてください。
誤解:くじ引きで比べる実験は、研究者だけのもの → 一部の店舗や一部の顧客で先に試し、どこで試すかをくじで決めれば、手元でもできます。ホルモン療法の答えを出したのも、この「くじで分ける」という仕組みでした。
明日からできるのは、次に「〇〇したら△△が伸びた」という報告を見たとき、4つの別の説明を1行ずつ書き出すことです。
- 偶然:別の期間でも同じ結果になるか。極端な数字の直後ではないか
- 第3の変数:両方を動かしていそうな要因は何か
- 逆の因果:どちらが先に動いたか
- 選ぶ人の偏り:施策を受けた人は、どうやって選ばれたか
消せない説明が1つでも残るなら、その数字が言えているのは、まだ「一緒に動いた」までです。
おわりに
相関は、調べる価値のある場所を教えてくれる目印です。そこから「原因」までの距離を埋めるのは、別の説明を1つずつ消していく作業です。
6万人のデータを覆したのは、1万6608人をくじ引きで2つの組に分けるという、比べ方の工夫でした。
この記事で参考にした本
『「原因と結果」の経済学』中室牧子さん、津川友介さん → 偶然、第3の変数、逆の因果という3つのチェックと、セレクション・バイアスの考え方
『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン氏 → 因果の筋書きを勝手に作る直感の働きと、飛行教官の例で示された平均への回帰
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