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ブクドリ | BOOK DRIP

「情報が足りない」と決断を延ばす人は、何を守っているのか

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約7分で読めます 思考法・問題解決
目次

「もう少し情報を集めてから決めましょう」。会議でこう言われると、反対しにくいものです。慎重で、誠実な態度に聞こえます。

ところが、この言葉の中身を確かめた調査があります。自分を守るために次善の選択をした経験を管理職に書いてもらうと、原因が「情報不足」だった例は3%しかありませんでした。

それなのに、同じ管理職たちは、対策として「情報を増やすこと」を真っ先に挙げていました。

「情報が足りない」の多くは、情報の問題ではなかった

調べたのは、マックス・プランク人間発達研究所のフロリアン・アルティンガー氏、ゲルト・ギーゲレンツァー氏らです(2019年、Business Research誌)。対象はドイツの大きな行政組織で、部下を持つ管理職950人が回答しました。

研究チームは、組織にとって最善だと思う選択肢があるのに、悪い結果になったとき自分の身を守れる次善の選択肢を、あえて選ぶことを「防衛的意思決定」と呼びます。回答者は、直近12か月の重要な決定10件のうち、いくつがそうだったかを答えました。

平均は2.5件でした。重要な決定の4件に1件です。80%が少なくとも1件あると答え、17%は半分以上が防衛的だったと答えています。自己申告なので、研究チームはこの数字を控えめな推定と見ています。

目を引くのは、回答者自身が挙げた実例の内訳です。最も多いのは対立の回避で35%、上司からの圧力に逆らえなかった例が19%でした。人手や資源の不足は13%、情報不足はわずか3%です。

たとえば、ある管理職はこう書いています。周りに悪影響が出るとわかっていた幹部を、衝突を避けたくてチームに置き続けた。その結果、担当業務の一部は16か月止まり、メンバーは次々と職場を離れていった。

ここに情報不足はありません。何が最善かは、本人がわかっていました。

ところが対策を尋ねると、49%が「情報か人員を増やせば減らせる」という趣旨で答えていました。研究チームは、資源を足すだけでは、実例に表れた心理的な原因には届かないだろうと述べています。

防衛的な決定の多さと結びついていたのは、チームの失敗への向き合い方でした。ミスが見つかったとき、まず責任者を探すか、再発を防ぐ方法を探すか。こうした質問で測った向き合い方が前向きなチームほど、防衛的な決定は少なくなっていました。

ただし、1つの組織を対象にした調査で、分かったのは相関です。どちらが原因かまでは言えないと、研究チーム自身が書いています。

追加の情報は、判断のためだけに集められるわけではない

情報を集めること自体が、身を守る手段になる場面もあります。わかりやすいのが医療です。

ハーバード公衆衛生大学院のデビッド・スタダート氏らは2003年、訴訟リスクの高い6つの診療科の医師に郵送調査を行いました(2005年、JAMA誌)。ペンシルベニア州の824人が回答し、93%が訴訟に備えた「防衛医療」をしていると答えています。

最も多かったのは、検査や診断手技、専門医への紹介を増やす行動で、92%に上りました。直近の防衛的な行為を詳しく答えた医師のうち、43%は、医学的には必要のない場面で画像検査を使っていました。

追加の検査は、形の上では情報を増やす行為です。けれども医師自身が、それを訴訟への備えとして答えています。増えた情報の一部は、診断を変えるためより、あとで「手は尽くした」と言えるように集められていたことになります。

会社でも同じ形が見られます。経営学者の沼上幹さんは『組織戦略の考え方』で、完成度99%の企画書と99.9%の企画書は、成否の確率がほとんど変わらないと書いています。それなのに、最後の0.9%を詰める作業には膨大な手間がかかります。

沼上さんは、新規事業の企画で中身の検討と社内の正当化にかける時間が9対1なら問題ないが、6対4になったら明らかな組織の病気だとも言います。社長が検討委員会をいくつも立ち上げるのも、決断を先延ばしにしている徴候だと見ています。

たとえば、発注先を変える判断で、比較表の項目を20から40に増やす場面を考えてみてください。増やした項目で結論が変わる見込みが薄いなら、その作業が用意しているのは、あとで問われたときの答えかもしれません。

説明を求める相手とタイミングで、考え方が変わる

では、責任をはっきりさせれば決断は速くなるのでしょうか。答えは「求め方しだい」です。

ジェニファー・ラーナー氏とフィリップ・テトロック氏は1999年、判断に説明責任を課した研究をまとめたレビューを発表しました(Psychological Bulletin誌)。結論の一つは、「責任を問えば判断はよくなる」という通念は誤りで、効くのはごく限られた型だけだ、というものです。

一つ目の分かれ目は、相手の意見がわかっているかどうかです。説明する相手の考えが先にわかっていると、人はその意見に合わせる方向へ動きます。相手の考えがわからないときに、あり得る反論を先回りして考える丁寧な判断が起きやすくなります。

レビューが紹介する実験では、学費の援助を配る担当者が、受け取る側か出す側に説明を求められると、全員に少しずつ配る傾向が出ました。必要な額に届かない援助は役に立たない条件だったため、お金が無駄になっています。

二つ目は、決める前か後かです。決める前に説明を求められると判断は慎重になります。決めた後だと、考える力は自分の決定の正当化に向かいます。損失が出ている計画にさらに資源を注ぎ込む傾向も、決定後の説明責任で強まり、決定前の説明責任で弱まっていました。

三つ目は、結果を問うのか、手順を問うのかです。イタマール・シモンソン氏とバリー・ストー氏の1992年の実験では、結果について説明を求められた人のほうが、手順について求められた人より、うまくいっていない方針に固執しました。購買担当の管理職を調べた調査でも、手順を問われている人ほど、製品の比較に時間と手間をかけていたと報告されています。

「情報が足りない」が口癖になる職場を、この3つに当てはめてみます。上司の意見は先にわかっている。説明を求められるのは結果が出た後。問われるのは結果だけ。慎重に見える先送りは、こうした条件への合理的な適応と見ることもできます。

「結果で責めない」と「責任を問わない」は違う

ここで反対方向の失敗にも触れておきます。結果で責めるのをやめれば解決する、とは限りません。

『失敗の本質』は、旧日本軍の評価が、結果よりも動機やプロセスを重んじていたと分析しています。ミッドウェー海戦で空母4隻を失った指揮官たちは責任を問われず、その後も重要な作戦を任されました。本書はこの傾向を「信賞必罰のうちむしろ賞のみに汲々とし必罰を怠る」と書いています。

アルティンガー氏らも、結果より手順の質に報いるよう勧めています。ここでいう手順の質は、やる気や頑張りとは別物です。その時点で手に入る最善の根拠をもとに決めたか、という判断の中身を指しています。

動機を見る評価は、失敗の理由を問わずに済ませてしまいます。判断の中身を見る評価は、失敗の理由を細かく問います。そのうえで、問いの矛先を人から判断の手順へ移します。

決められる組織にするための3つの手当て

誤解:決まらないのは、情報が足りないから → アルティンガー氏らの調査で、防衛的な決定の原因が情報不足だった例は3%でした。

手当て:「その情報が手に入ったら、どちらに決めるか」を先に書く → 追加で集めたい情報を1つ挙げ、結果がAならこう、Bならこう、と書き出します。5分で終わります。どちらの結果でも結論が同じなら、その情報は判断を変えない保険です。

誤解:責任の所在をはっきりさせれば、決断は速くなる → 決定後に結果だけを問う説明責任は、正当化と固執を強めます。

手当て:決める前に、根拠と捨てた選択肢を1枚に残す → 何を根拠に、どの選択肢を捨てたかを、決める前に書いてもらいます。上司は自分の意見を先に言わず、書かれたものを読んでから質問します。決定前に、意見の見えない相手へ説明する形に近づけるためです。

誤解:失敗を責めなければ、防衛的な判断はなくなる → 責任を問わない評価は、旧日本軍のように失敗から学ぶ機会も失います。

手当て:振り返りを「当時わかっていたこと」と「結果」の2段に分ける → たとえば「決めた時点の情報で、この判断は妥当だったか」を先に話し、そのあとで結果と運の影響を話します。最後に話すのは、次の判断で何を変えるかです。

おわりに

「情報が足りない」と言う人を、臆病だと責めても決断は増えません。その人は、この職場で何が責められるかを正確に読んでいるだけかもしれないからです。

次の会議で「もう少し調べてから」という声が出たら、「その情報で、結論はどう変わりそうですか」と一度だけ聞いてみてください。


この記事で参考にした本

『組織戦略の考え方』沼上幹さん → 企画書の最後の0.9%と、社内の正当化にかける時間が映す組織の病

『失敗の本質』戸部良一さんほか → 動機やプロセスを重んじた評価が、責任をあいまいにした旧日本軍の教訓


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