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ブクドリ | BOOK DRIP

意志力で習慣が変わらないのは、習慣が「きっかけ」で動いているから

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約6分で読めます 生産性・時間術・習慣
目次

映画館で、1週間前に作った湿気たポップコーンを、作りたてと同じくらい食べてしまう人たちがいました。

心理学者のデビッド・ニール氏とウェンディ・ウッド氏らが2011年に報告した実験です。彼らの味覚が鈍かったわけではありません。アンケートでは、湿気たポップコーンをはっきり「おいしくない」と評価していました。

おいしくないとわかっている。それでも手が動く。

「わかっているのにやめられない」習慣と、よく似た構図です。この実験には続きがあり、そこに意志力で習慣が変わらない理由と、代わりに何を変えればいいかが入っています。

習慣は、意図ではなく「きっかけ」に反応している

参加者は、大学のキャンパスにある映画館に来た人たちです。15分間の予告編を見るあいだ、作って1時間のポップコーンか、7日前に作ったポップコーンを、無作為に1箱渡されました。

映画館でふだんポップコーンをあまり食べない人は、湿気たほうをはっきり残しました。ところが、映画館で食べる習慣が強い人は、湿気ていても作りたてと変わらない割合を食べていました。

続きはここからです。映画館の近くの会議室で、予告編の代わりにミュージックビデオを見せると、習慣が強い人も湿気たポップコーンを残しました。映画館の中でも、利き手と反対の手で食べるよう指示された人たちには、湿気たほうを残す傾向が出ました。

変わったのは本人の気持ちではありません。場所と手の動かし方、つまり行動のきっかけと手順です。それだけで「おいしくないから食べない」という、ふつうの判断が戻ってきました。

習慣が日常のどれだけを占めるかを調べた研究もあります。ウッド氏らは2002年、米テキサスA&M大学の学生209人に、2日間、1時間ごとに「いま何をして、何を考えているか」を記録してもらいました。ほぼ毎日、たいてい同じ場所でしている行動を習慣と数えると、記録された行動の43%が習慣でした。

しかも習慣の最中は、およそ半分の場面で、手元の行動とは関係のないことを考えていました。

習慣は、場所や時間、直前の行動といったきっかけに結びついています。きっかけに出会うと、意図を通さずに動き出す。だから「次こそやめよう」という決意は、行動を動かしている仕組みの外側に置かれたままになります。

自制心が強い人は、我慢する回数が少ない

それでも、自制心の強い人は誘惑に勝ち続けているように見えます。ところが調べてみると、彼らの日常はそうなっていませんでした。

米ペンシルベニア大学のブライアン・ガラ氏とアンジェラ・ダックワース氏は2015年、6つの研究、合計2,274人のデータで、この点を検証しました。自制心の強い人ほど、健康的な間食、運動、規則正しい睡眠、勉強が習慣になっていて、実行するときに自分を抑えたと感じる度合いはむしろ低かったのです。

自制心の強さが、成績や大学1年目の継続といった結果につながる道筋の一部は、良い習慣を通っていました。2人は、良い結果を生んでいるのは我慢の力よりも習慣かもしれない、と結論しています。

別の角度からの研究もあります。カナダのマリナ・ミリャフスカヤ氏とマイケル・インズリクト氏は2017年、大学生のスマートフォンに1日に何度も質問を送りました。その瞬間に感じている誘惑と、それをどれだけ抑えようとしたかを記録してもらったのです。

学期末に個人の目標の達成度を調べると、差を生んでいたのは誘惑に出会った量でした。誘惑を懸命に抑えた度合いは、目標の達成と関係していませんでした。誘惑に多く出会った人ほど疲れを感じ、目標から遠ざかっていたのです。

私はこの2つの結果を、自制心の読み替えとして受け取っています。自制心が強い人の強さは、誘惑との勝負に勝つことより、勝負の回数そのものが少ないことに表れている。勝負を減らしているのは、良い行動が勝手に始まる習慣と、誘惑に出会いにくい日常です。

「意志力は使うと減る」という説明は、追試で揺らいだ

意志力に頼るな、という主張そのものは自己啓発書の定番です。

ベンジャミン・ハーディ氏の『FULL POWER』は、原題が『Willpower Doesn’t Work』です。自分を変えたいなら、意志力に頼るのをやめて環境をデザインせよ、と説きます。その理由としてハーディ氏が挙げるのが、意志力は筋肉のように使うほど消耗する有限の資源だ、という説明です。

心理学で「自我消耗」と呼ばれてきた考え方です。ところが、この効果は大規模な追試で再現されませんでした。

2016年、マーティン・ハガー氏らは23の研究室、合計2,141人で、手順と分析方法を事前に登録したうえで同じ実験を行いました。効果の大きさを表す値はd = 0.04で、ほぼゼロです。

2021年には、自我消耗の研究を長く進めてきたキャスリーン・ヴォース氏らが、36の研究室、3,531人で改めて検証しました。事前に登録した分析では、意味のある効果は見つかっていません(d = 0.06)。

効果がまったく存在しないとまでは言えません。ただ、「我慢すると次の我慢が効かなくなる」という現象は、自分の生活設計の土台にするには、心もとないものになりました。

それでも、「意志力に頼るな」という結論は残ります。入れ替わるのは理由のほうです。意志力が尽きるからではなく、習慣がそもそも意志の届かない回路で動いているから。オウェイン・サービス氏とローリー・ギャラガー氏の『行動科学が教える 目標達成のルール』も、決まった合図で同じ行動をくり返すと習慣になると整理し、例としてニール氏らのポップコーン実験を挙げています。

変えるのは自分ではなく、きっかけの側

では、何を変えればいいのか。答えは実験の中にもう出ています。習慣が強い人でも、場所か手順が変わると、ふつうの判断に戻っていました。

実生活で同じことが起きた例もあります。ウッド氏らは2005年、別の大学へ移る学生115人を、転校の1か月前と1か月後に調べました。運動、新聞を読む、テレビを見る、の3つの習慣が転校後も続いたのは、状況の一部が変わらなかった場合でした。たとえば、以前と同じように誰かと一緒に新聞を読んでいた場合です。

環境が大きく変わる時期は、新しい行動を始める好機にもなります。英バース大学のバス・フェルプランケン氏らは2016年、800人に環境に配慮した行動をすすめる働きかけを行いました。効果が大きかったのは最近引っ越した人たちで、その好機は引っ越し後およそ3か月続くと見積もられています。

ここから、実践の形が見えてきます。

誤解:やめたい習慣は、決意を固め直せばやめられる → 決意は、きっかけには届きません。同じ場所、同じ時間、同じ手順がそろえば、行動はまた始まります。

正しいアプローチ:きっかけを特定して、崩す → たとえば寝る前のスマホなら、ベッドに入ったとき枕元に充電器がある、というのがきっかけです。充電器を寝室の外に移せば、きっかけそのものが消えます。

具体的には、次の3つです。

1. やめたい習慣のきっかけを書き出す(5分) それが「どこで、いつ、何の直後に、誰といるときに」起きるかを、1つの習慣について書きます。決意を書くより、ずっと役に立ちます。

2. きっかけか手順を1つ崩す モノを動かす、場所を変える、手順をわざと面倒にする。利き手と反対の手で食べただけで判断が戻ったように、いつもの動きを少し崩すだけでも効きます。

3. 新しい習慣は、1日1回必ず来るきっかけにつなぐ フィリッパ・ラリー氏らの2010年の研究では、96人が「朝食のあと」のように毎日同じきっかけで新しい行動をくり返しました。自動的にできるようになるまでの日数は、うまく測れた39人の中央値で66日、範囲は18日から254日でした。始める日は、異動や引っ越しの直後の数か月を選ぶと有利です。

おわりに

「意志が弱いから続かない」と自分を責めるとき、責めている相手は、習慣を動かしている仕組みとは別の場所にいます。

明日、いつもの行動が始まった瞬間に、何がそれを始めさせたのかを1つだけ見つけてみてください。変える場所は、そこにあります。


この記事で参考にした本

『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』ベンジャミン・ハーディ氏 → 意志力に頼らず、環境をデザインせよという主張。根拠に挙げる意志力の消耗説は、その後の追試で揺らいでいる

『行動科学が教える 目標達成のルール』オウェイン・サービス氏、ローリー・ギャラガー氏 → 決まった合図で同じ行動をくり返すと習慣になる、という行動科学の整理と、ポップコーン実験の紹介


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