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『がんばらない戦略』川下和彦さん・たむらようこさん|努力を努力と感じているうちは、まだ続かない

生産性・時間術・習慣
『がんばらない戦略』

新年の抱負を掲げた人の92%が、たった1週間で挫折する

これはアメリカのメディアが行った調査の結果です。私はこの数字を見て、続かないのは意志が弱いからだとずっと思っていました。でも本書を読んで、その前提そのものが間違っていたと気づきました。

『がんばらない戦略』は、放送作家でもある川下和彦さんとたむらようこさんが書いた、ちょっと変わった自己啓発書です。「がんばること」が法律で禁止された不思議な国を旅する物語を通じて、意志の力に頼らずに結果を出す方法を学んでいきます。

図解

こんな人におすすめ

この本の核心――意志の力は、ガソリンのように減っていく

本書がまず突きつけるのは、ひとつの事実です。

人間が「これをやろう」と本気で意思決定できる回数は、1日にたった10回分しかない。著者はこれを、ゲームのマジック・ポイントにたとえます。決断や我慢をするたびに消費され、使い果たすと行動できなくなる。

「人間ってね、本当に何かを決める集中力って、一日に10回分しかないんだよ」

だから「もっとがんばれ」「やる気を出せ」という根性論は、貴重な意志の力をすり減らすだけなんです。ここに本書の鋭さがあります。続かない原因を「あなたの弱さ」ではなく「仕組みの不在」に置き換えてくれる

ちなみに、人間が意識してやっている行動はたった1割で、残り9割は無意識だそうです。つまり、いかに「がんばっている」という意識を消して、無意識の自動操縦に切り替えるか。これが本書を貫くテーマです。

がんばらない十ヵ条――物語で学ぶ習慣化の全技術

本書は、主人公ミサキが旅の途中で出会う9段階の教えと、最後の国王の教えで構成されています。ひとつずつ追っていきます。

1. 決断を「ルール化」して意志を温存する

着る服や食べるものを毎日固定し、些細な判断を自動化する。スティーブ・ジョブズが黒のタートルとジーンズ、マーク・ザッカーバーグがグレーのTシャツを貫いたのは、貴重な意志の力を本当に大事な決断に集中させるためでした。

「本当に決めなきゃならないことのために、決めなくていいことを僕は、自動化しておくんだ」

2. つまらない作業を「ゲーム化」する

義務だと思うと苦痛になり、長続きしません。そこで発想を転換し、行動をゲームに変える。営業で断られるのが辛いなら「1000回断られたらお寿司」とカウントゲームにする。貯金なら、節約できた金額をアプリで得点に見立てる。

「人生すべてゲームだと思ったらね、苦しいことなんて、ひとつもなくなるんだよ」

3. 行動を「シンプル化」する

スポーツクラブに通うには、着替える、荷物を準備する、移動する、と多くの段取りがあります。この段取りの多さが挫折を生む。だから極限までハードルを下げる。「その場で腹筋を10回だけ」のような、ばかばかしいほど小さな行動から始めるのが近道です

4. 「必ず尽きるガソリンで走るな」

やる気というガソリンはいずれ尽きます。代わりに、時間という風に乗るヨットのように、無意識の力を使う。気合いに頼らず仕組みで進む、という本書の核心を端的に表した教えです。

5. 「ご褒美」で最初の一押しをつくる

カーリングのストーンは、最初に一押しすれば、あとは慣性の法則でツルツル進みます。日本のカーリング選手が試合中にお菓子を食べるのも、無意識の行動を続けるための工夫。習慣が自動化するまでの助走として、ご褒美を用意するわけです。

6. 「宣言」と「予約」で自分を縛る

目標を周囲に公言すると、自分に嘘をつく居心地の悪さを避けようとして動いてしまう。これがコミットメント効果です。また、行動を先にスケジュールへ書き込む「予約」は、一貫性の法則を働かせます。

「多くの人に宣言することで“自分が自分に嘘をつく居心地悪さ”を避けるために、宣言通りに自分が動いてしまうんだ」

7. 朝を使い、生活を「ルーチン化」する

早起きしたいなら、まず早く寝る。スタートを決めなければゴールにはたどり着けません。意志の力が全回復していて邪魔も入りにくい「朝」を活用し、一定のリズムで同じ行動を繰り返すことで、脳に行動が刷り込まれます。

8. 曜日で固定する

毎日のリズムに組み込めない行動は、「火曜日は掃除」のように曜日ごとに割り振る。1週間の単位でルーチン化してしまえば、迷わず体が動くようになります。

9. 「記録化」で積み重ねを可視化する

やったことをノートやアプリに記録すると、努力が砂山のように積み上がっていくのが見えます。人間は積み重ねたものを崩したくない生き物。この心理が、継続を後押しします。

「人間は積み重ねてきたことを崩したくないと思うようにできている」

10. 苦手をやめ、「得意」に集中する

最後の教えが、本書でいちばん大切な部分です。苦手なことをいくらがんばっても、せいぜい人並みにしかなれない。それより、自分が苦労せずできる「得意」を見つけて注力する。そして互いの得意を交換し合う。

「自分の得意が相手の弱みを、相手の得意が自分の弱みを、支えてくれるってことが腹に落ちたら、一人一人の違いが国の力になるんだよ」

苦手克服に意志の力を浪費するより、得意で他人を助け、苦手は他人の得意に補ってもらう。著者はこれを「プレゼント交換」のように生きる、と表現しています。

「トリガー」――行動を忘れないための合図

十ヵ条と並んで重要なのが「トリガー」という考え方です。「アラームが鳴ったら腹筋を開始する」「通勤電車に乗ったら英単語帳を開く」のように、特定の条件と行動をセットにする。繰り返すうちに、頭で考えなくても条件反射で体が動くようになります。

意志の力に頼るのではなく、自分を動かすスイッチを見つける。これが習慣化の入口になります。

明日から何を変えるか

本書の教えは多いので、まずは3つに絞って始めるのがいいと思います。

1. 朝の判断をひとつ自動化する 着る服か朝食のどちらかを固定してみてください。たかが服選びと侮らず、10枚しかない意思決定カードを節約する第一歩です。

2. 新しい習慣は「ばかばかしいほど小さく」始める 腹筋なら1回、読書なら1ページ。苦痛がゼロのレベルまで下げる。物足りなくても、まずは連続記録を作ることを優先してください。

3. 自分の「得意」を5つ書き出す 人より少し苦労せずできることを書き出してみる。苦手の克服に費やしていた時間を、その得意に振り向けられないか考えてみてください。

おわりに

私がこの本でいちばん救われたのは、「努力を努力と思っているうちは、それは努力」という一文でした。

続かないのは意志が弱いからではなく、努力と感じる状態のまま走り続けようとしているから。だったら、努力と感じない仕組みを作ればいい。そう考えると、肩の力がすっと抜けます。

短期集中でがんばることはできても、その勢いで走り続けるのは不可能です。だからこそ、99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する。気合いではなく仕組みで、自分を前に進めていきましょう。


合わせて読みたい

『不完全主義』オリバー・バークマン 「全部やる」を諦めることから人生が動き出す、という主張は本書の「99%を捨てる」と深く響き合います。がんばりすぎて疲れた人に、もう一段の視点をくれる一冊です。

『継続する技術』戸田大介 200万人のデータから導いた三日坊主の治し方を解説しています。本書の「小さく始める」「記録する」をさらに科学的に裏づけたい人におすすめです。

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