「どちらとも言えない」が信用を落とすのは、何割かを言わないとき
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アンケートで「どちらとも言えない」に丸をつけた人に、あとから理由を聞き直した調査があります。本当に真ん中の意見を持っていた人は、1〜2割しかいませんでした。
2008年、英国の社会調査の研究者パトリック・スタージス氏らは、調査会社イプソス・モリの面接調査に質問を組み込みました。回答者3,113人を3つに分け、欧州委員会への満足度、ナノテクノロジーの重要性、遺伝子組み換え食品の是非のどれか1つを尋ねます。
「どちらでもない」を選んだ人には、続けて「この件に意見を持っていない」と「ちょうど真ん中の意見を持っている」のどちらに近いかを聞きました。真ん中の意見だと答えたのは、3つの質問でそれぞれ16%、13%、25%です。
回答を仕分けし直すと、中間回答の4分の3から10分の9は、意見がないことを隠したものでした(2014年、Sociological Methods & Research誌)。研究チームはこれを「体面を保つための『わからない』」と呼んでいます。
しかも、真ん中に「わからない」を隠した人は、はっきり「わからない」と答えた人より、政治や科学に関心があると答える割合が高い傾向がありました。関心があるほど「わからない」とは言いにくいわけです。
会議で口にする「どちらとも言えない」にも、同じ混ざり方が起きています。
同じ一言に、中身の違う3つの答えが入っている
会議の「どちらとも言えない」には、少なくとも3種類あります。1つは、まだ考えていない、あるいは判断材料がない状態。2つ目は、考えた結果ほぼ五分だという見立て。3つ目は、ある条件しだいで答えが変わると分かっている状態です。聞き手には、3つとも同じ一言に聞こえます。
山口周さんは『外資系コンサルの知的生産術』で、論点にはイエスかノーかのポジションを取れと書いています。「どちらとも言えない」は思考の停止で、ポジションを取れないのは「自分には決められないので、上の人に決めてほしい」という責任転嫁だ、と。
伊藤羊一さんの『1分で話せ』も、100%の自信がなくても判断材料があればポジションを取り、議論で直していけばいいという立場です。
この助言は、1つ目の「考えていない」によく効きます。スタージス氏らの調査で見えたのも、真ん中の選択肢が「わからない」の隠れ場所になりやすいことでした。
ただ、2つ目の「本当に五分」の人に「どちらかに決めて言い切れ」と求めると、今度は持っていない確信を演じることになります。聞き手がどちらを評価するのかは、実験で確かめられています。
嫌われるのは、不確かさより「自信のなさ」
ペンシルベニア大学ウォートン校のシーリア・ゲルティグ氏とジョセフ・シモンズ氏は、11の実験、延べ4,806人で、助言の言い方が評価をどう変えるかを調べました(2018年、Psychological Science誌)。
参加者は米国のプロスポーツの試合結果を予想し、その前に助言を受け取ります。助言の中身は賭け市場のデータに基づき、どの条件でも質をそろえてあります。
変えたのは言い方だけです。たとえば「カブスが勝ちます」という断言、「カブスが勝つ確率は57%です」という数字、そして「自信はないけれど、カブスが勝つと思います」という前置き付きの言い方です。
「自信はないけれど」を付けた助言者は、はっきり点を落としました。一方で、確率の数字や「勝つ可能性のほうが高い」という言い方は、断言より低く評価されていません。前置きの付いた助言者どうしで比べると、数字で言ったほうがむしろ高く評価されています。
2人の助言者から選ばせる実験では、差がさらにはっきりしました。予想の向きは同じで、片方は「勝ちます」、もう片方は「勝つ確率は約67%です」のように言います。408人が参加した野球の実験で、確率で答えた助言者を選んだ人は8割を超えました。
例外は2つあります。1つは「おそらく勝つでしょう」で、自信のある助言者が使うと断言より低く評価されました。ただし、参加者が最初に見た助言に限れば、この差は出ていません。
もう1つは数字の大きさです。51%や52%のように五分に近い数字では、断言より低く評価された試合がありました。確率つきの助言は、数字が50%から離れるほど高く評価されています。
聞き手が引いているのは、話し手の自信のなさと、何も教えてくれない数字でした。不確かさそのものは、嫌われていません。「どちらとも言えない」は、その両方に当てはまってしまう言い方です。
言い切りが得をするのは、答え合わせが来ないときだけ
それでも、言い切る人のほうが信頼される場面は現実にあります。自信のある人ほど知識があると推し量る傾向は、心理学で「自信ヒューリスティック」と呼ばれています(プライス氏とストーン氏、2004年)。
これがいつ働くかを調べたのが、スニタ・サー氏、ドン・ムーア氏、ロバート・マカン氏です(2013年、Organizational Behavior and Human Decision Processes誌)。参加者は顔写真から人の体重を当てる課題に取り組み、写真ごとに助言を受けます。
助言者は、平均95%の自信で言い切るか、平均30%の控えめな自信で言うかのどちらかです。自信の強さとは別に、助言が当たるか外れるかも操作されています。
184人が参加した最初の実験では、写真ごとに正解を知らせました。すると、自信満々で外し続けた助言者が最下位になりました。同じように外した控えめな助言者より下です。
正解を知らせないと、どうなるか。
2つ目の実験(参加者は全体で377人)でこの条件を作ると、結果はひっくり返りました。自信のある助言者のほうが信頼され、助言にも従われています。
答え合わせを有料にした条件もあります。控えめな助言者に対しては53%の人が少なくとも1回お金を払って確かめたのに、自信のある助言者に対しては35%にとどまりました。言い切ると、確かめられにくくなるわけです。
研究チームは、候補者やコンサルタントの予測は曖昧で条件が多く、答え合わせが難しいとも書いています。
仕事の判断の多くは、数か月後に結果が出ます。たとえば新規事業の採否や、来期の売上の見込みがそうです。そのとき「絶対にAです」と言って外した人は、自信を見せたぶん大きく信用を落とします。
「五分五分」と丸めた時点で、情報が消える
では、「どちらかと言えばA」くらいの言い方で足りるのか。丸め方の損を測った研究があります。
ジェフリー・フリードマン氏らは、論文の冒頭で1961年のピッグス湾侵攻の逸話を紹介しています。米軍の統合参謀本部は、作戦が成功する確率を内部では30%ほどと見ていました。ところが大統領への文書には「成功の見込みはそれなりにある(fair chance)」とだけ書き、ケネディ大統領はこれを有利な見立てとして読みました。
30%という見立ては、言葉に置き換えた途端、読み手の頭の中で別の数字になっていました。
フリードマン氏らが分析したのは、米国の情報機関の研究部門が主催した国際情勢の予測大会のデータです(2018年、International Studies Quarterly誌)。1,832人が2011〜2015年に出した88万8,328件の確率予測を、あとから言葉の段階に丸め、正確さの落ち方を計算しました。
「起きるだろう」「起きないだろう」の2段階に丸めると、予測の誤差は平均で約3割大きくなりました。低い、中くらい、高いの3段階でも、平均で1割ほど悪化しています。
成績がいちばん低かった、訓練を受けずに1人で予測したグループでも、2段階に丸めると誤差は15%増えました。数字で言う価値は、予測の上手な人だけのものではありません。
言葉の受け取り方が人によってどれほど違うかは、「なるべく早く」を扱った別のコラムで書いた通りです。
迷ったら、「どちらに何割か」と「外れたときの損」を言う
ここまでの研究を、会議の一言に置き換えます。
誤解:迷っているなら、どちらかに決めて言い切るべきだ → 言い切りが得をするのは、答え合わせが来るまでの間です。たとえば「A案が6割くらいで有利だと見ています」と言います。「自信はないんですが」という前置きは削ります。評価を下げていたのは、数字より前置きのほうでした。
誤解:五分五分なら、何も決められない → 大前研一さん監修の『企業参謀ノート[入門編]』には、「降雨確率は50%です」と報告するのは分析屋で、参謀は「社長、傘を持っていってください」と言う、という例が出てきます。私はこれを、確率の次に「外れたときの損」を並べる話として読みました。傘は、持っていって晴れても損が小さい。本当に五分なら、外れたときに痛くないほうを選べば、立場は取れます。
誤解:「ケースバイケース」は逃げ口上だ → 条件で答えが変わるなら、条件を名指しすれば立派な見立てになります。たとえば「来月の解約率が3%を超えるならB、それ以下ならA。いまの数字だとAが7割」。条件だらけの予測は答え合わせから逃げられますが、条件と数字を添えれば、あとで確かめられる言い方に変わります。
5分でできることもあります。次の会議の議題を1つ選び、手元のメモに「A:◯割。外れたときの損は◯◯」と1行書いてから出席してみてください。まだ見立てが持てないなら、真ん中に逃げずに「判断材料がまだない。◯日までに出す」と書きます。
おわりに
山口さんの「ポジションを取れ」は、考えていないことを隠す「どちらとも言えない」には、そのまま当てはまります。
本当に迷っているときは、「Aに6割、外れたらこれだけ痛い」と言えば、それがもうポジションです。
この記事で参考にした本
『外資系コンサルの知的生産術』山口周さん → 「どちらとも言えない」は思考停止で、ポジションを取れないのは責任転嫁だという主張。この記事が条件付きで読み直した出発点。
『企業参謀ノート[入門編]』大前研一さん監修 → 「降雨確率50%」で止めず、「傘を持っていってください」まで言うのが参謀だという例。
『1分で話せ』伊藤羊一さん → 100%の自信がなくてもポジションを取り、議論で直していくという会議での構え。
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『外資系コンサルの知的生産術』山口周 「ポジションを取る」を含む、知的生産の心得をまとめた本の要約です。この記事で条件付きにした主張を、原典の文脈で確かめられます。