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『ユニクロの仕組み化』宇佐美潤祐さん|カリスマが9割ではない、「仕組み」が9割

戦略・経営・事業 ✍ 宇佐美潤祐さん
約10分で読めます

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『ユニクロの仕組み化』
目次

ユニクロが世界で勝ち続けているのは、柳井正さんのカリスマ性のおかげ。多くの人がそう思っています。

でも本書は、その常識をはっきり否定します。リーダーの仕事は「ビジョンをつくること」が1割、「仕組みをつくること」が9割。強さの正体は、特定の人に頼らず事業を回す「仕組み化」だと言い切ります。

著者の宇佐美潤祐さんは、元ファーストリテイリング執行役員。社内の経営者育成機関FRMICの責任者を務めた人です。内側から仕組みづくりを牽引した立場だからこそ書ける、生々しさがありました。華やかな成功譚ではなく、店舗オペレーションや評価制度といった「組織のOS」を扱う一冊です。

図解

カリスマ論を裏返すところから始まる

この本がおもしろいのは、入り口で「ユニクロ=柳井さんのワンマン経営」という見方を裏返すところです。

たしかに柳井さんのビジョンは強烈です。でも著者が注目するのはその先。柳井さん本人が、自分の閃きを言語化し、組織の仕組みに変えることに、誰よりも時間を使ってきた——そこにこそ強さがある、という主張です。

カリスマがいなくなった瞬間に崩れる会社は、結局カリスマに依存していただけ。本書はその罠を最初に潰しにきます。

私が膝を打ったのは、本書が「仕組み化」を単なる業務効率の話に閉じ込めていない点でした。普通、仕組み化というとコスト削減やオペレーション改善を連想します。つまり「今ある利益をいかに効率よく稼ぐか」の話です。

ところが本書は、ユニクロの仕組みは効率だけでなく「将来の成長期待」まで押し上げていると論じます。ここを数字で裏づけるのが本書の説得力でした。

ファーストリテイリングの時価総額は約14.5兆円(2024年8月時点)で日本企業第7位。注目はPBR(株価純資産倍率)が6.56倍と、日本のトップ10企業のなかで1位だった点です。

このPBRは、足元の稼ぐ力を示すROE(自己資本利益率)と、将来への期待を示すPER(株価収益率)の掛け算で決まります。ユニクロはROEが17.51%で2位、PERが47.29倍で1位。

つまり市場は、今の利益以上に「これからの成長」に高い値段をつけている。普通の仕組み化はROE(効率)の改善どまりですが、ユニクロはイノベーションを生む仕組みでPER(成長期待)まで同時に高めている。

ここが他社と決定的に違う、と著者は言います。仕組み化が攻めの武器にもなる、という発想の転換です。

「数万人を一気に変える」という発想

本書の出発点にあるのは、変革のスケールの話です。

著者は、組織の成長を「メンバーの変革の総和」だと捉えます。一人ひとりが変わった合計が、会社の成長になる。だとすると問題は、数万人をどうやって一斉に変えるか、です。

数十万人のメンバーを一気に変えられるのは、「仕組み」しかないのです

熱意ある研修や、上司の個人的な働きかけでは、変えられる人数に限界があります。一人の名上司が直接育てられるのはせいぜい数十人。だから仕組みに落とす。この一文に、本書のすべてが凝縮されています。

その土台が「グローバルワン」と「全員経営」という2つの考え方です。グローバルワンは、世界で一番良い方法を見つけて全員で共有すること。全員経営は、役員から店舗のアルバイトまで、全員が経営者の感覚で考え、動くことです。

きれいごとに聞こえますが、本書はこれを精神論で終わらせず、具体的な装置に翻訳していきます。

「原理原則」という、理念とマニュアルの中間

数ある仕組みのなかで、私が一番唸ったのが「原理原則」という考え方でした。

会社にはたいてい立派な経営理念があります。でも理念は抽象的すぎて、現場はどう動けばいいかわからない。かといって細かいマニュアルを作っても、書いてあるのは「何をするか(What)」と「どうやるか(How)」だけ。想定外の事態には対応できません。

そこで著者が置くのが、理念とマニュアルの間をつなぐ中間概念です。原理原則は「なぜやるか(Why)」を示す。Whyさえ腹落ちしていれば、マニュアルにない場面でも、社員は自分の頭で考えて判断できる。

たとえばユニクロには「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅ぶ」「上司を見るな、お客様を見よ」という原則があります。だから現場は、本部の指示より顧客を優先して動ける。

最高のサービスを提供するには、マニュアルは弊害にもなります

ここが核心の一つです。マニュアルは最低限を守らせる道具にすぎず、目の前の相手に合わせた最高の対応は、結局「自分で考える力」からしか生まれない。原理原則は、その力を引き出すための装置なのだ、と。

本部の位置づけも象徴的です。ユニクロでは本部を組織ピラミッドの頂点ではなく「下辺」に置き、Store Support Center(店舗を支える存在)と呼びます。

主役はあくまで店舗。その思想が、こんな具体策にまで一貫して貫かれています。「マニュアルを増やしても部下が指示待ちのまま」という悩みの正体を、本書はきれいに言い当てています。

全員を経営者にする「究極の個店経営」

原理原則を現場のレベルで実現するのが「究極の個店経営」です。

チェーンストアの普通のやり方は、本部が決めたことを全店が忠実にこなすモデルです。でも消費者のニーズは地域ごとに違う。本部の指示通りに動くだけでは、その違いに応えられません。

そこでユニクロは、店舗スタッフ一人ひとりを「経営者」にします。たとえば吉祥寺店でウィメンズアウターを担当するスタッフは、ただ品出しをするのではなく、その地域に合った品ぞろえや売り場づくりを自分でマネジメントする。部門を任されることで、当事者意識が育っていきます。

この改革を後押ししたのが意外な人物でした。米国スターバックスのCEOだったハワード・シュルツ氏が、柳井さんに「店長だけでなく、現場のスタッフ一人ひとりを主役にしないといけない」と助言したと言います。

全員経営を支えるツールが「経営者になるためのノート」です。柳井さんの経営哲学を言語化した社外秘のもので、「変革する力」「儲ける力」「チームを作る力」「理想を追求する力」の4つの力、計28項目の原則が記されています。

社員はこれを読むだけでなく、余白に自分の仕事に置き換えたアクションプランを書き込み、自己評価し、グループで議論し、3ヶ月後に進捗を共有する。

この「実践せざるを得ない状況」をつくる流れこそが、ノートの威力でした。読ませて終わりにしない設計が効いています。

現状の3倍を狙う「3倍の法則」

本書でもっとも有名なのが「3倍の法則」です。

これは、現状の延長では到底届かない「今の3倍」の目標をあえて掲げること。柳井さん自身、売上100億円のときに300億円を、3000億円のときに1兆円を、と途方もない数字を吹き続け、有言実行で達成してきました。

2023年には売上約2.7兆円から「第4の創業・10兆円構想」をぶち上げています。

なぜ3倍なのか。「前年比3%増」なら、今までのやり方を続ければ届きます。でも「3倍」と言われた瞬間、これまでの延長では絶対に無理だと気づく。

だから根本から考え方を変え、新しいやり方を必死に探さざるを得なくなる。高すぎる目標が、強制的にイノベーションを引き出すのです。同じ発想はGoogleの「10X思考」にもあり、本書はその親戚と言えます。

そしてユニクロでは、評価の基準そのものが普通と逆です。

既存の延長できちんとオペレーションを回してそこそこの成果を出すことは評価されません

安定運用は評価されない。求められるのは「変革と創造」です。この基準があるから、社員は現状維持を選べなくなります。私はこのくだりで、自分のチームの評価基準を思わず点検したくなりました。「無難にこなす人」が報われる設計のままでは、誰も変革に挑まないからです。

失敗を許す「敗者復活」の仕組み

高い目標を掲げれば、当然失敗も増えます。だから本書は、失敗を許す仕組みをセットで用意しています。

ユニクロでは「失敗はマイナスにならない」。むしろ、失敗を恐れて挑戦しないことのほうが問題視されます。大きな変革に挑んで失敗し、一度降格しても、また成果を出せば表舞台に戻れる「敗者復活」の仕組みがあるのです。

象徴的なのが食品事業の話です。ある役員が提案した食品事業(SKIP)は、他の役員の猛反対のなかでスタートし、8億円の特別損失を出して1年半で撤退しました。失敗した役員の柚木治さんは辞表を出そうとします。

ところが柳井さんは「損失分をちゃんと返してからにしてください」と引き留めた。その柚木さんは、後にGUの社長として大成功します。失敗を、退場ではなく次の挑戦の入口に変える。

じつに人間くさく、しかも合理的なこのエピソードが、敗者復活の思想を体現しています。挑戦を促す「3倍の法則」と、挑戦の失敗を受け止める「敗者復活」は、表裏一体の設計なのです。

人を育てた人が評価される

イノベーションを起こす人材をどう増やすか。本書の答えは、評価制度です。

ユニクロでは、人事評価に占める「人材育成」のウエイトが異常に高い。マネージャー層で30%、役員クラスになると50%が「どれだけ人を育てたか」で決まります。

この設計には狙いがあります。普通、上司は目先の業績のために優秀な部下を抱え込みがちです。でも育成が評価の半分を占めるなら、部下を育てて他部署に送り出すほうが得になる。

だから人材の囲い込みが起きず、会社全体で最適な配置と成長が進むわけです。インセンティブの向きを変えるだけで、組織の人の流れが変わる。見事な仕組みです。

育て方も独特です。柳井さんの「人間25歳ピーク説」に基づき、若手を早期に抜擢して修羅場を経験させます。新卒社員は最速で半年、遅くても2年半で店長になり、年上を含む20〜30人の部下をマネジメントします。

現在の能力を大きく超えるポジションをあえて与える

これを著者は「大きい服を着せる」と表現します。専門外の部署の責任者にいきなり据え、身の丈以上の経験を通じて飛躍的に成長させる。リスクはありますが、敗者復活があるから挑戦できる。育成と挑戦の仕組みが、ここでつながっています。

部下と向き合う姿勢にも厳しさがあります。「ものわかりのいいリーダーはメンバーの不幸である」。妥協して基準を下げることは、部下の成長機会を奪うことだ、と。

同時に著者は「100パーセント全人格をかけて部下と向き合う」とも言います。上司自身が生い立ちや志を開示し、本音で向き合う。厳しさと深い関与は、矛盾せず両立しています。

すべてを高速で回す「週次PDCA」

ここまでの仕組みを、猛烈なスピードで動かすのが「週次PDCA」です。

普通の会社は月次で振り返ります。ユニクロは週次です。毎週月曜日、役員や部長以上が集まる会議で、前週の売上やお客様の声をレビューし、その場で軌道修正を「即断・即決」します。

決まった方針はその日のうちに全店舗へメールで共有され、スーパーバイザーが数日以内に各店舗を回って、実行されているかを直接確認します。決めて終わりにしない。「やりっぱなしにしない仕組み」まで含めてワンセットです。

このスピードを支えるのが「朝令朝改」という言葉です。朝決めたことでも、間違いに気づけば夕方を待たず朝のうちに直す。普通なら「朝令暮改=一貫性がない」と批判される行動を、ユニクロはポジティブに肯定します。

過去の決定やプライドに縛られないことを、強さと捉えているわけです。先ほどの食品事業を1年半で解散したように、見込みがなければためらわず損切りする潔さも、ここに通じています。

どんな人に効く本か

精神論ではなく、組織の動き方を変える具体策がほしい人に効きます。とくに、

こうした手応えのなさを抱える管理職には、明確な処方箋になります。逆に、ユニクロの華やかな成功譚を期待すると肩透かしを食うかもしれません。本書が扱うのは、店舗オペレーションや評価制度といった、地味な「組織のOS」のほうだからです。

自分のチームに落とすなら、まず自部署の「Why(なぜ存在するのか、何が最も重要か)」を覚えやすいキーフレーズの原理原則として書き出す。次に部下との1on1で、業務確認の前にまず自分の半生と志を開示する。

さらに一つのテーマで「現状の3倍」の目標を仮置きし、今のやり方では届かないことを体感する。最後に振り返りを月次から週次に変える。一度に全部やると続かないので、原理原則づくりから始めるのが現実的です。

読み終えて残ったのは「ユニクロという特殊な会社のすごい話」ではありませんでした。カリスマがいなくても回る組織をどう設計するか。普通の社員をどう経営者目線まで引き上げるか。失敗をどう次への燃料に変えるか。問いはすべて、自分のチームにそのまま跳ね返ってきます。

明日の会議で「うちが伸びないのは、いい人材がいないからだ」と言いそうになったら、一度立ち止まってほしい。問うべきは人ではなく、仕組みのほうかもしれない——本書の効果は、その問い直しから静かに立ち上がってきます。


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『無印良品は、仕組みが9割』松井忠三 本書が比較対象として名前を挙げる一冊です。ユニクロが「マニュアルより原理原則(Why)」を重視するのに対し、無印良品は徹底したマニュアル化で復活しました。同じ「仕組み化」でも逆方向のアプローチを並べると、自社に合うバランスが見えてきます。

『とにかく仕組み化』安藤広大 「人を責めるな、仕組みを責めよう」という発想が、本書の「数万人を一気に変えられるのは仕組みだけ」と深く響き合います。個人の頑張りに頼らず、再現性のある組織をどう作るかを、より体系的に学べます。

『ビジョナリー・カンパニー』ジム・コリンズ こちらも本書の比較表に登場します。カリスマに頼らず「基本理念」と「進歩を促す仕組み」で永続する企業を、膨大なデータから論じた古典です。ユニクロの強さを学術的なフレームで捉え直したい人に向いています。


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