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『とにかく仕組み化』安藤広大|「人を責めるな、仕組みを責めよう」で組織が変わる

リーダーシップ・組織
『とにかく仕組み化』

「あの人がいないと仕事が回らない」

この言葉を、褒め言葉だと思っていました。

でも安藤広大さんの『とにかく仕組み化――人の上に立ち続けるための思考法』を読んで、背筋が凍りました。それは褒め言葉じゃない。組織にとって最大のリスクだった。

本書は、3500社以上が導入するマネジメント手法「識学」の創設者が、属人化を排し、誰がやっても成果が出る組織の作り方を体系化した一冊です。シリーズ累計75万部を突破した識学シリーズの集大成として、「仕組み化」の全体像を余すところなく解説しています。

図解

こんな人に読んでほしい

部下のモチベーション管理に疲れている人。「あいつは頑張っているから」とプロセスで評価してしまう人。「自分がいないとチームが回らない」と誇りに思っている管理職。

この本は、そのすべてが「間違った優しさ」であると断言します。痛いけれど、読んだあとに組織が変わる。

この本の核心──「個人」を責めるな、「仕組み」を責めよう

一言でいうと、組織の問題は「人」のせいではなく、「仕組みの不備」が原因である

部下がミスをした。サボっている。やる気がない。こうした問題に直面したとき、多くのリーダーは「もっと頑張れ」と精神論で解決しようとします。でも著者は、人間は放っておくとラクな方へ流れる「性弱説」を前提にすべきだと主張します。

性弱説とは、性善説でも性悪説でもない。「人は本来弱い存在である」という前提に立ち、個人の意志力ではなくルール(仕組み)で解決する思考法です。

本書のユニークさは、「歯車になること」を肯定している点。「あなたがいないと困る」は麻薬であり、替えの利く存在として機能できる人こそが、どこに行っても活躍できる本当に優秀な人だと逆説的に説く。この視点が、従来のマネジメント論と一線を画しています。

本書の全体像──5つのステップで組織を変える

本書は5つの章で構成されています。

まず「責任と権限」の明確化から始まり、次に「正しい危機感」の与え方を解説。そして「比較と平等」による評価制度の設計へ進み、「企業理念」を判断軸として据え、最後に「進行感」という組織のエネルギーを生み出すところで締めくくります。

現場のプレイヤーレベルの話から始まり、章を追うごとに視座が上がっていく構成。最終的には経営者の意思決定レベルまで到達します。序章では「性弱説」と「属人化の排除」という大前提を据え、全章を貫く土台を築いています。

性弱説──「頑張れ」が無意味な理由

著者が最初に叩き壊すのは、「人は頑張れば変わる」という幻想です。

100人の組織があれば、放っておいても自発的に頑張るのは10人程度。残りの90人は、仕組みがなければラクな方に流れる。これは怠惰なのではなく、人間の本性です。

だからこそ、期限のない仕事は「趣味」と断じます。著者自身、「メールは3時間以内に返信」というルールを設けています。会議や研修中でも3時間以上休憩がないことは考えにくい、だから物理的にチェックは可能だという論理的な線引き。

「なるべく早く」ではなく「何時までに」。この一語の違いが、組織の規律を根本から変えます。

「あなたがいないと困る」は麻薬である

これは正直、読んでいてドキッとしました。

属人化とは、特定の個人にしかその仕事ができない状態のこと。一見頼りにされている状況ですが、著者はこれを「麻薬」と呼びます。気持ちいいけれど、組織を蝕む。

あるIT企業で、新入社員が上司の了承を得て新規顧客を獲得してきました。ところがベテラン社員から「その業界は前に私が担当していたから話を通せ」と、明文化されていないルールでクレームが入った。結果、その新人は早々に退職してしまった。

これが「悪い権利(既得権益)」の典型例です。文書として明確になっていない曖昧な権利が、組織のトラブルを生む。

対策はシンプル。自分の仕事をマニュアル化し、誰でも引き継げる状態を作ること。「自分がいなくても回る」状態を目指すことが、逆説的に自分をもっと上の仕事へ押し上げてくれます。

責任と権限──「任せる」の本当の意味

「あとは任せた」──これ、丸投げです。

著者が定義する「任せる」は、「何をしなければいけないか(責任)」と「そのために何をやっていいか(権限)」を明文化してセットで与えること。

責任だけ与えて権限を与えない上司は多い。「売上を上げろ」とは言うが、「どこまでの予算を使っていいか」は決めない。部下は動けず、失敗すれば責められる。

逆に権限だけあって責任がない状態は、既得権益を生みます。

リーダーに求められるのは、「私が決めました」と主語を自分にして線を引く覚悟。全員が納得する答えを探すのではなく、成長したい人が成長できる環境を作るために、ルールに線を引く。著者は「朝令暮改」すら肯定します。環境が変われば、ルールも変わるべきだと。

正しい恐怖──パワハラと危機感は違う

「怖い上司」と聞くと、大声で怒鳴る人をイメージするかもしれません。でも著者によれば、それは「間違った恐怖」です。

人格否定や長時間の説教は、実は逆効果。部下に「構ってもらえた」という間違った安心感を与えてしまう。説教が終われば「怒られたけど許された」と解釈され、行動は変わりません。

「正しい恐怖」とは、「このまま成長しなければ、居場所がなくなる」という危機感のこと。ポイントは、この恐怖とセットで「正しい逃げ道」──つまり明確な評価基準──を提示すること。

「何をすれば評価されるか」がわかっていれば、人は自ら動く。基準が曖昧だから、ご機嫌取りや政治的な動きに走るわけです。

比較と平等──「みんな頑張っている」は嘘

人は常に比較する生き物です。著者はこの本能を否定するのではなく、活用することを提案します。

ただし、ここでいう「平等」はプロセスの平等ではありません。結果の平等です。

結果を出した人を正当に評価し、出さなかった人には厳しい評価をする。モチベーション管理やプロセス評価をやめ、「結果のみ」を見ることに徹する。これは冷たく感じるかもしれません。

でも著者は問いかけます。「結果が出なくても残業していれば褒められる組織」と「結果を出した人が報われる組織」、どちらが本当に平等ですか?

成績をオープンにして正しく比較し、「頑張っている人が得をする」環境こそが、本当の平等。負けを認識した人が「次こそは」と奮起する──この健全な循環がピアプレッシャー(同僚の存在が生む適度な緊張感)によって自然に生まれます。

企業理念──判断軸がないと「ゾンビ企業」になる

著者は企業理念を「経営者の判断軸」と定義します。

利益が出るかどうかだけで判断する組織は、理念なき「ゾンビ」。識学自身の例が興味深い。「1日でも早く識学を広める」という理念に基づき、バスケットボールチームの運営やM&A仲介事業に参入した。一方、3500社のクライアントに別のサービスを売れば利益になるという提案は、理念に近づかないから断った。

理念があるから「やること」と「やらないこと」が明確になる。現場のメンバーにとっても、「なぜこの方針なのか」が理解でき、日々の判断に一貫性が生まれます。

進行感──人が組織にいる本当の理由

最後のピースが「進行感」です。

社員が「この会社に居続けたい」と思う最大の理由は、給料でも福利厚生でもない。組織全体が企業理念に向かって前進しているという実感──これが「進行感」です。

個人の力では成し遂げられないことを、組織として実現していく。その「前に進んでいる」感覚が、帰属意識とやりがいの源泉になる。

著者は「ゆるいブラック企業」という言葉を使います。ハラスメントはないが、適切な負荷もない。成長実感がなく、将来に不安を感じる若手が増えている。進行感のない組織こそが、真のブラック企業だという指摘は鋭い。

「歯車」になることが成長の始まり

本書で最も逆説的で、最も核心を突いている主張がこれです。

「会社の歯車になりたくない」──多くの人がそう思います。でも著者は断言します。「歯車として機能する人」こそが、人の上に立てると。

与えられた役割を完璧にこなせる人は、どこに行っても求められます。組織のルールを守り、機能として成果を出す。その実績があるからこそ、次のステージに進める。

著者の会社の新入社員たちは、東京配属を望んでいたにもかかわらず、福島の子会社に配属されました。3ヶ月後に東京勤務を命じられた頃には、「まだ福島で働きたかった」と口にするほど成長していた。与えられた場所で結果を出す力こそが、キャリアを切り拓く。

実践アクション:明日から始める3つのこと

1. 自分の仕事を1つマニュアル化する

今日やった仕事の中で、「自分しかやり方を知らない」業務を1つ選んでください。それを手順書にまとめる。完璧じゃなくていい。まず「自分がいなくても回る状態」を1つ作ることが、属人化を壊す第一歩です。

よくある失敗:「時間がない」と後回しにすること。マニュアル作成は投資です。一度作れば、その後の引き継ぎや教育の時間を大幅に削減できます。

2. 指示を出すとき「期限」と「権限」をセットにする

次に部下に仕事を振るとき、「なるべく早く」ではなく「何月何日の何時までに」と期限を明示してください。さらに「予算はここまで使っていい」「この範囲は自分で判断していい」と権限も伝える。

よくある失敗:期限だけ伝えて権限を伝えないこと。部下は「どこまでやっていいかわからない」まま動けなくなります。

3. 部下のミスを「仕組み」のせいにしてみる

次に部下がミスをしたとき、「なぜできなかったのか」と個人を責める前に、「どの仕組みが不備だったのか」を考えてみてください。チェック体制がなかったのか、手順が曖昧だったのか、権限が不明確だったのか。

よくある失敗:「結局は本人の問題だ」と結論づけてしまうこと。性弱説に立てば、仕組みで解決できない問題はほとんどありません。

おわりに

「個人を責めるな、仕組みを責めよう」──この一言に、本書のすべてが集約されています。

厳しい本です。でも、この厳しさこそが「本当の優しさ」だと読み終えたときに気づきます。仕組みがあるから、人は安心して成長できる。


合わせて読みたい

『キーエンス流 性弱説経営』高杉康成 本書の根幹にある「性弱説」を、キーエンスという営業利益率50%超の企業がどう経営に実装しているかがわかります。理論と実践の両面から「仕組み化」を深められる一冊。

『ユニクロの仕組み化』宇佐美潤祐 「カリスマ経営者がいなくても成長し続ける組織」を体現するユニクロの仕組みを解剖した一冊。本書の「属人化の排除」を、実際にどう全員経営として実現しているかが学べます。

『失敗の本質』 旧日本軍の敗北を組織論の視点で分析した名著。属人化・空気の支配・曖昧な責任体制──本書が警告する組織の病巣が、歴史の中にどう現れていたかを知ることで、仕組み化の切実さが骨身に沁みます。


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