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『Learn Better』アーリック・ボーザー氏|蛍光ペンと読み返しは、ほぼ意味がなかった

学習・インプット ✍ アーリック・ボーザー氏
約7分で読めます

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『Learn Better』
目次

教科書を繰り返し読む。大事なところに蛍光ペンを引く。多くの人が信じているこの勉強法、研究では効果がほとんど確認されていません。

私もずっと線を引く派でした。なぞった分だけ頭に入る気がしていた。でも本書を読んで、あれはただの作業だったと突きつけられました。

著者のアーリック・ボーザー氏は、教育研究の専門家です。膨大な認知科学の論文を読み込み、本当に効く学び方を6つのステップにまとめ直したのが本書『Learn Better』です。

面白いのは、著者自身が小学校時代に「学習障害」と判定され、特別支援学級に通っていたこと。将来は料理人になるしかないとまで言われた人が、学び方を変えただけで成績を伸ばし、名門大学に合格しています。才能の話ではなかった。学び方の話だったわけです。

図解

「努力の量」ではなく「学び方の方向」を疑う本

本書の主張は、驚くほどシンプルです。学習は生まれつきの才能ではなく、誰でも習得できる体系的なプロセスだ、というもの。

私がこの本を信頼できると感じたのは、主張のひとつひとつに実験データが添えられているからです。象徴的なのが、学業成績の要因を分解した研究の話。

著者によれば、成績の約40%は「メタ認知」、つまり自分の思考を客観的に眺める力で説明でき、IQの寄与はおよそ25%にとどまったといいます。地頭より、自分の学び方を自覚しているかどうかのほうが効く。

この比率を見たとき、私は素直に背筋が伸びました。「頭が悪いから」と諦めていた言い訳が、半分くらい崩れたからです。

ただ、ここは少し冷静に受け取りたいところでもあります。メタ認知が高い人は、もともと勉強への向き合い方が良かっただけかもしれない。相関と因果は別物です。

それでも、IQを後から劇的に上げるのは難しいが、学び方の自覚は今日から鍛えられる――その意味で、この本が示す「伸びしろの在りか」は実践的だと思いました。

そして著者は、学習のゴールを暗記には置きません。

学習の目的はある事実や概念についての考え方を変えることであり、学習にあたってめざすのは思考の体系を学ぶことなのだ。

覚えることではなく、世界の見え方をつくり替えること。この立場が本全体を貫いています。本書はこの考えのもと、学習を「価値を見いだす・目標を決める・能力を伸ばす・発展させる・関係づける・再考する」の6ステップに分解します。以下、特に効いた要点を、編集部なりに噛み砕いて並べてみます。

学びは「気持ち」と「焦点」から始まる

最初のステップは、対象に自分なりの意味を見つけることです。意味を感じられないものを人は学べない。著者はモチベーションを「コスト(努力)・期待感(できそうという感覚)・価値(意味)」の掛け算と整理します。

意外なのは、この意味は自分で後付けできるということ。本書が紹介する統計学の授業の実験では、学生に「統計が自分の生活にどう役立つか」を短く書かせただけで意欲が上がり、C評価からB評価に伸びた学生もいたといいます。

著者はこれを「ラーン・クラフティング」と呼び、与えられた課題を自分の関心に引き寄せて意味づけし直す技術として勧めます。退屈な研修も、自分の仕事への接続を一行書くだけで吸収率が変わる、というわけです。

次のステップは、焦点を絞ること。理由は脳の構造にあります。短期記憶の容量は驚くほど小さく、一度に少しの情報しか通せない。だから一気に詰め込む学習や、ながら学習はすぐに容量オーバーになる。学ぶ内容は一口サイズに分け、少しずつ確実に入れるのが正解だと著者は言います。

ここで効いてくるのが「目標の質」です。本書はダーツの実験を引きます。「高得点を取る」という結果を目標にした人より、「腕を体から離さない」というプロセスを目標にした人のほうが、最終的な成績が高かった。

結果ではなく技術の習得に焦点を当てるほうが伸びる、という話です。さらに土台として、すでに持っている知識が新しい情報の足場になる「知識効果」も指摘されます。

ネットで何でも調べられる時代でも、基礎を頭に入れておく意味はここにあります。

4回読むより、1回読んで3回思い出す

ここが本書のいちばんの核心です。一行で言えば、学習は受け取る受動的な作業ではなく、頭を働かせる能動的な「活動」だ。

だから蛍光ペンや読み返しは効きにくい。脳が汗をかいていないからです。代わりに効くのが「検索練習」、つまり記憶から情報を引っ張り出す練習です。

本書の象徴的な実験はこうでした。文章を4回繰り返し読んだ人より、1回だけ読んでから「何が書いてあったか」を思い出す練習を3回した人のほうが、定着率がはるかに高かった。

自己テストのような練習は、条件によっては学習成果を50%も押し上げるといいます。

読んだ瞬間の「わかった感」は当てになりません。スラスラ読めるほど、脳は「もう知っている」と錯覚する。だから本を閉じて思い出そうとして初めて、自分が何も入れていなかったことに気づく。私の「読み返し」が自己満足だったと思い知ったのはこの章でした。

検索練習と並んで著者が重視するのが、フィードバックと適度な苦労です。

優れた学習にコンフォートゾーンはない。

簡単すぎる課題では伸びない。間違いは避けるものではなく、理解を深める入り口だ、と著者は言います。外からの指摘がなければ独学では弱点に気づけないし、今の実力を少し超える難しさに挑み続けることが成長の条件になる。

楽な学習ほど身につかないという逆説は、線を引いて満足していた私には耳が痛い指摘でした。

「教える」「つなげる」で理解を肉付けする

学んだ基本を発展させる段階で、著者は2つの武器を挙げます。

ひとつは「プロテジェ効果」。他人に教えるつもりで学ぶと理解が深まる現象です。教えるには情報を整理し、相手の理解を想像し、自分の言葉に変換しなければならない。

この作業が理解の穴をあぶり出します。物理学者ファインマンが、ある概念を大学1年生向けに説明しようとしてできず、「自分は本当には理解していなかった」と気づいた逸話が引かれます。

あのファインマンですら、教えようとして初めて穴が見えた。教えるとは最高の自己テストなのです。

もうひとつは「自己説明」。学びながら「なぜそうなるのか」「前の話とどうつながるのか」と自分に問い続けること。読みながら問いを立てるだけで、受動が能動に変わります。

そして次のステップ「関係づける」では、点ではなくつながりで理解せよ、と説きます。鍵は「アナロジー(類推)」。新しい概念を、すでに知っている別の事物と比べる思考法です。

アナロジーは推論を促す要素なのだ。どんな概念もその中心には比較があり、比較から論理が形成される。

複雑なITの仕組みを「家の水道管と同じで」と言い換える。2つを並べて似ている点と違う点を探ると、表面に惑わされず構造が見えてくる。概念どうしのつながりを図にする「コンセプトマップ」も、頭の中の関係性を外に出してシステム思考を鍛える方法として勧められます。

いちばんの敵は「わかったつもり」

最後のステップは、自分の理解を疑うことです。人は知れば知るほど「知っている」という思い込みを深める。本書はこれを「説明の深さの錯覚」と呼びます。

毎日使うトイレの仕組みを理解していると思い込んでいた研究者が、いざ自問すると説明できなかった――日常的に接しているものほど、わかったつもりになりやすいのです。

この過信を剥がすのがメタ認知ですが、著者はそれを特別な才能とは見なしません。「これを読む相手は理解できるか」「説明が足りないのはどこか」と自問するだけ。学習後に「今日何を学んだか」「どこがわかりにくかったか」を振り返る。この地味な内省が、過信を剥がしてくれます。

「再考」でもうひとつ重要なのが分散学習です。人は学んだ内容のおよそ半分を1時間後には忘れる。だから一夜漬けは割に合わない。忘れかけた頃にもう一度思い出す、間隔を空けた反復こそが記憶を長期に定着させます。

本書では、忘却のアルゴリズムを使う学習ソフトを駆使してクイズ番組で優勝した人物の例が引かれます。忘却を敵ではなく味方にした、象徴的な話です。

6ステップを通して著者が繰り返すのは、学習は孤独で理性的な作業ではない、というメッセージです。意味の感覚や自己効力感がないと人は学びを続けられないし、適度な苦労や間違いがあるほうが深く理解できる。

そして教える相手やフィードバックをくれる他者の存在が、学びを賢くする。感情・苦労・他者を排除した「効率的な勉強」ほど、実は身につかないのです。

どんな人に効くか――そして効きにくい人

この本が刺さるのは、努力の量では足りないと薄々気づいている人だと思います。本もセミナーも読んでいるのに1ヶ月後には何も残っていない。資格のテキストを何周もしているのに点が伸びない。

あるいは、部下や子どもの学習をどう支えればいいか迷っている。こうした「方向のずれ」に心当たりがあるなら、本書は実験データという地図を渡してくれます。

一方で、科目別の暗記テクニック集を期待すると肩透かしかもしれません。本書が示すのは原理であって、レシピ集ではないからです。すでに検索練習や分散学習を日々実践している人にとっても、確認以上の発見は少ないでしょう。

それでも、自分のやり方が「なぜ効くのか」を言語化したい人には、十分に読む価値があります。

おわりに――学習は「活動」だ

この本を読んで、いちばん効いたのは「学習は活動だ」という一文でした。

線を引く。読み返す。マーカーで色をつける。やった感はあるけど、脳はほとんど働いていない。私の勉強は、長いあいだ「作業」でした。

私たち誰もが、学び方を学ばなければならない。

何を学ぶかより、どう学ぶか。本を閉じて思い出す。誰かに説明する。間違えたら、その間違いに礼を言う。試しに、今読んだこの記事も、5分後にいったん画面を閉じて要点を思い出してみてください。たぶん、半分も出てこない。その「出てこなさ」に気づくところから、本当の学びは始まります。


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