「調べているだけで、動いていない」とき、人は安心を買っている
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答えが決まっているゲームで、答えを変えない情報に、8割近い人がお金を払いました。
選ぶべき箱は最初から分かっています。情報を買っても、選ぶ箱は同じです。それでも23人中18人が、手持ちのお金から手数料を払って情報を見ました。
仕事でも似たことが起きます。企画を出す前に、競合の事例をもう1件、市場のデータをもう1つ。調べている間は、忙しく働いている感覚があります。
ところが、提案書のページは増えていない。調べものがいつの間にか行動の代わりになるとき、頭の中では何が起きているのでしょうか。
調べものは、行動の「代わり」になりやすい
たとえば、来週の会議に新しい施策を提案する場面を考えてみます。「根拠が弱いと突っ込まれる」と思い、関連する記事や他社の事例を集め始めます。
気づけば2週間が過ぎ、フォルダには資料が30本たまっています。一方で、提案書はまだ1ページもありません。
コンサルタントの内田和成さんは『アウトプット思考』で、これを「網羅思考のワナ」と呼んでいます。使える時間を100とすると、90を情報収集に、9を整理に使い、考える時間は1しか残らない、という見立てです。比率は実測ではなく著者の例えですが、時間の偏り方はよく表しています。
調べものがやっかいなのは、ほかの寄り道と違って言い訳が立つことです。研究者の佐藤舞さんは『あっという間に人は死ぬから』で、不安から逃げる行動には、不安を消すことに加えて本人なりの正当な理由付けができるという特徴があると書いています。
スマホを眺めている自分は責められても、資料を読んでいる自分は責めにくい。しかも調べものには、その場で得られるものが2つあります。1つは不安が和らぐこと、もう1つは前に進んだ感覚です。順に見ていきます。
人は、判断を変えない情報にもお金を払う
1つ目の、不安が和らぐほうから見ます。先が読めない状態は、それだけでつらいものです。
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのアーチー・デ・バーカー氏らは2016年、45人に電気ショックを使った予測課題をしてもらいました。画面に岩が1つ出るたびに、その下からヘビが出るかどうかを予想します。ヘビが出ると、手に痛い刺激が来ます。
本人が答えるストレスの強さを最もよく説明したのは、ショックが来る確率より、来るか来ないかの読めなさでした。発汗による皮膚の反応や瞳孔の大きさも、同じ読めなさに沿って動いています。
では、人はこのつらさを和らげるために情報を使うのか。冒頭の実験がそれを確かめています。
経済学者のクフィル・エリアズ氏とアンドリュー・ショッター氏は2010年、ニューヨーク大学の学生97人を対象に、20ドルが入った箱を当てるゲームを行いました。箱はAとBの2つで、どちらに入るかは、コンピューターが2つの「くじ袋」のどちらを使うかで変わります。
片方の袋なら20ドルは必ずAに入り、もう片方でも60%の確率でAに入ります。どちらの袋でも、Aを選ぶのが正解です。
それでも、箱を選ぶ前に50セント払えばどちらの袋が使われたかを教える、と持ちかけると、23人中18人(78%)が払いました。先に「それぞれの袋ならどちらを選ぶか」を書き出させ、Aで変わらないと自分で確かめさせても、21人中11人(52%)が払っています。
目を引くのは、箱を選んだ後の結果です。結果が分かる前に同じ情報を同じ値段で売っても、払ったのは21人中1人でした。
欲しかったのは、選択に役立つ情報ではなかったわけです。著者らはこれを、選ぶ前に「悪い知らせ」がないことを確かめ、正しいはずだという確信を高めたい欲求だと解釈し、「確信効果」と名づけました。
学生を対象にした、賞金20ドルのゲームです。仕事の大きな判断で同じ割合になるとは限りません。
それでも、決める前の調べものが安心を買う行為になりやすいこと、そして決めてしまえばその欲求はしぼむことは読み取れます。調べたくなったら、「決めた後でも、これを知りたいか」と自問してみると、どちらの調べものか見分けがつきます。
「進んだ感覚」は、本番を免除してしまう
調べものがくれるもう1つの報酬が、進んだ感覚です。困ったことに、この感覚は次の一歩を後押しするとは限りません。
シカゴ大学のアイエレット・フィッシュバック氏とイェール大学のラヴィ・ダール氏は2005年、減量したいと答えた女子学生45人に、今の体重と理想の体重の差を目盛りの上に塗ってもらいました。目盛りの端を「マイナス5ポンド」にした組と、「マイナス25ポンド」にした組に分けています。
端が遠い目盛りでは、同じ差でも塗る部分が短く見えます。参加者はそのぶん「ずいぶん近づいた」と感じます。
帰りにお礼としてチョコバーとリンゴのどちらかを選んでもらうと、チョコバーを選んだのは、進んだと感じやすい組で85%、そうでない組で58%でした。目標に近づいたという感覚が、目標に反する選択を許してしまったと著者らは見ています。
同じ論文の別の実験(学生50人)では、「一日中勉強した」という同じ行動を、「どれだけ進んだか」で振り返らせると、その夜に友人と遊びに行く見込みを高く答えました。「どれだけ本気か」で振り返らせると、低く答えています。
どちらも数十人規模の実験で、この種の「自分への許可」を調べた研究には、再現されにくいものも混ざっています。それでも、調べものに当てはめると構図ははっきりします。
たとえば資料を30本読んだという手応えは、提案に近づいた感覚を生みます。その感覚が、いちばん気の重い「書いて人に見せる」を先送りにする理由になります。
エリック・リース氏は『リーン・スタートアップ』で、見栄えはよくても次の判断につながらない数字を「虚栄の指標」と呼び、進み具合は顧客の反応から実際に学べたことで測るべきだと書いています。読んだ資料の数や調べた時間は、個人の仕事における虚栄の指標になりやすいのです。
調べものを行動に戻す手順
誤解:もう少し調べれば、不安が消えて動けるようになる → エリアズ氏らの実験で情報への欲求が消えたのは、選んだ後でした。不安を下げる近道は、情報を足すことより、先に小さく決めることです。
正しいアプローチ:調べる前に、その調べもので変わる判断を1行書く → 内田さんは、情報収集の前に「何のために」を問い、アウトプットから必要な情報を逆算するよう勧めています。「A案とB案のどちらで出すか」のように書ければ、調べる範囲はそれで決まります。書けないなら、その調べものは安心のためのものです。
正しいアプローチ:進み具合を、外に出したもので数える → 「今日は何を読んだか」でなく、「誰に何を見せ、何を言われたか」を記録します。たとえば提案書なら、6割の出来で1人に見せ、方向が合っているかだけ聞く。返ってきた一言が、リース氏の言う実際に学べたことにあたります。
今すぐできることもあります。いま調べている案件を1つ選び、「決めた後でも、この情報を知りたいか」と書いてみてください。答えが「いいえ」なら、その調べものは今日で止めてかまいません。
おわりに
調べものは怠けているようには見えないので、止めるきっかけがありません。
手が止まったら、その調べものが判断のためのものか、安心のためのものかを問い直してみてください。安心のためなら、先に小さく決めて外に出すほうが、不安は早く小さくなります。
この記事で参考にした本
『アウトプット思考』内田和成さん → 情報を集めてから考える「網羅思考のワナ」と、アウトプットから必要な情報を逆算する進め方。
『あっという間に人は死ぬから』佐藤舞さん → 不安から逃げる行動は、正当な理由付けとセットになりやすい。調べものが言い訳として働く仕組みの手がかりに。
『リーン・スタートアップ』エリック・リース氏 → 進み具合を「虚栄の指標」でなく、実際に学べたことで測るという考え方。
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