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考えるほど動けなくなるのは、頭が「迷うモード」のままだから

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約6分で読めます 健康・メンタル
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転職サイトに登録したまま、1年が過ぎている。そんな人は珍しくないはずです。

たとえば、毎週届く「あなたにおすすめの求人」を開いて、いいなと思う。口コミを読み、年収の相場も調べる。それでも応募ボタンは押さずに閉じて、また翌週のメールを待つ。

調べた量は増えたのに、1年前より決断に近づいた感じがしない。むしろ、知るほど気になる点が増えていきます。

考えることは決断を助けるはずです。それなのに、なぜ考えるほど足が止まるのか。心理学には、これを考える量より「考え方の種類」で説明する研究があります。

「やるかどうか」と「どうやるか」で、頭の働き方が変わる

ドイツの心理学者ハインツ・ヘックハウゼン氏とピーター・ゴルヴィツァー氏は、目標に向かう行動をいくつかの段階に分けて捉えました。「ルビコンモデル」と呼ばれる枠組みです。

名前は、カエサルがルビコン川を渡った故事から来ています。渡る前は「そもそもやるかどうか」を比べる段階。渡った後は「いつ、どこで、どうやるか」を詰める段階です。ゴルヴィツァー氏らは、段階が変わると頭の働き方そのものが切り替わると考え、前者を「熟慮マインドセット」、後者を「実行マインドセット」と呼びました。

熟慮マインドセットは、長所と短所を偏りなく比べます。1989年にゴルヴィツァー氏とロナルド・キニー氏が行った実験では、「実家を出るかどうか」のような未解決の悩みについて損得を考えた参加者と、すでに決めた目標の実行計画を立てた参加者を比べました。

その後、ボタン操作と無関係に点くランプを使って「自分の操作でどれだけ点けられたか」を尋ねると、損得を考えた参加者は比較的正確に判断しました。計画を立てた参加者は、自分の影響力を過大に見積もりました。

迷っている状態は、判断の正確さでは有利なんです。ここまでは「よく考えるのは良いこと」という直感と合っています。

問題は、この状態に終わりが組み込まれていないことです。迷っている頭は、長所と同じ重さで短所も拾い続けます。調べるほど短所の材料も増えるので、比べる作業はいつまでも閉じません。転職サイトの前で起きているのは、川の手前を行ったり来たりしている状態です。

迷っている間は、同じ課題が重く見える

迷うモードに留まっていると、課題の見え方も変わります。

シェリー・テイラー氏とゴルヴィツァー氏は1995年の論文で、決めるかどうかを熟慮させた人と、実行を計画させた人を比べました。熟慮した人は、計画した人より気分が落ち込み、自分に降りかかるリスクを高く見積もり、自己評価も低くなりました。どちらもしなかった対照群は、気分と自己評価ではその中間で、リスクの見積もりは熟慮した人とほぼ同じでした。

この差が実際の行動にまで及ぶことを示したのが、デイヴィッド・アーマー氏とテイラー氏の2003年の実験です。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の学生52人に、32品目の日用品を30分で集める「宝探し」をしてもらいました。

半数には「2つのゲームのどちらをやるか、あとで選んでもらう」と伝え、まだ決まっていない状態で宝探しの説明を読ませました。残りの半数には、コイン投げで宝探しに決まったと伝えました。実際には、どちらの参加者も宝探しをします。

結果、コインで決まった側は、選ぶ立場にいた側より25%近く多く品物を集めました。遅れて戻った時間を補正しても、差は20%を超えています。さらに、宝探しへの参加自体を断った4人は、全員が選ぶ立場にいた側でした。

学生52人、課題は1種類という小さな実験なので、このまま一般化はできません。それでも、同じ課題を「まだ決めていない」状態で眺めると、難しく気の進まないものに見えやすいことはうかがえます。転職なら、応募するかどうか迷っている間は、書類づくりも面接も実際より重く見えている可能性があります。

「もう少し調べてから」の情報は、結論を変えないことが多い

迷いを長引かせるもう一つの要因は、待つ理由をいくらでも作れることです。

アンソニー・バスターディ氏とエルダー・シャフィール氏は1998年、大学生に履修登録の場面を想定してもらいました。専攻の中でも内容が面白く、卒業までに二度と開講されない授業です。評判の良い教授が休職し、人気の劣る教授が担当すると分かっている条件では、82%が「登録する」と答えました。

別のグループには、どちらの教授が担当するか明日まで分からないと伝えました。すると56%が「明日まで待つ」を選びました。人気の劣る教授でも8割以上が登録するのですから、多くの人にとっては待っても結論が変わらない情報です。

ところが、待った人に「人気の劣る教授だった」と伝えると、その半分ほどが登録をやめました。登録しなかった人は全体で29%となり、最初から分かっていたグループの18%を上回りました。

論文はこれを、結論を変えないはずの情報を追いかけ、手に入れると今度はそれを決め手として使ってしまう現象として報告しています。質問紙の上の仮定の選択なので、現実の決断で同じ大きさの差が出るとは限りません。後続の研究には、待つ理由は情報の欠けより「自分の好みに自信がない」ことにある、という解釈もあります。

転職の口コミ検索は、これに近い構造をしています。たとえば、ある会社の評判を調べ始めたとき、どんな評判なら応募をやめるのかは決まっていないことが多いはずです。それでも読み進めるうちに、どの会社にもある不満の声が、応募しない理由として採用されていきます。

赤羽雄二さんは『ゼロ秒思考』で、判断を先延ばしするための情報収集を戒めています。まず今ある知識で解決案と長所短所を書き、それから調べる順番を勧めています。調べる前に自分の考えを出しておけば、集めた情報が結論を変えたのかどうかを後から確かめられます。

考えるのをやめずに、川を渡る

ここまでの研究は、考えるのをやめろとは言っていません。変えるのは、考えるモードを切り替える時期です。

誤解:十分に調べれば、自然と決心がつく → 迷っている頭は短所も拾い続けるので、調べる量と決心は比例しません。

正しいアプローチ:小さく渡って、「どうやるか」を考える側に移る → 渡った後の頭は、段取りを考えるのに向いています。

具体的には、次の3つです。

1. 調べたくなったら、「結果がどちらでも同じことをするか」を問う 答えが「どちらでも応募したい」なら、その情報は今の決断に必要ありません。バスターディ氏らの実験で、登録をやめた学生の多くが引っかかったのがこの点でした。問いは1つなので、10秒で済みます。

2. 最初の一歩を「いつ、どこで、何をするか」の形で決める たとえば「木曜の夜、自宅で、職務経歴書の直近2年分だけを直す」。ゴルヴィツァー氏らの実験で実行マインドセットを引き出したのも、決めた目標の段取りを具体的に計画させる課題でした。応募は内定の承諾ではないので、渡った後でも引き返せます。

3. 調べても分からない情報を、動いて取りにいく 枡野俊明さんは『考えすぎないコツ』で、禅語「冷暖自知」を紹介しています。水が冷たいか温かいかは、触れてみなければ分からない。面接官の雰囲気や入社後に求められる役割は、口コミをいくら読んでも分かりません。カジュアル面談を1件申し込むほうが、その種類の情報は早く手に入ります。

一方で、帚木蓬生さんは『ネガティブ・ケイパビリティ』で、答えの出ない事態に耐える力の価値を説いています。答えを急ぐと損なわれる問いは、たしかにあります。ただ、応募するかどうかは、動かないと判断材料がそろわない種類の問いです。どちらの問いなのかを見分けることが先になります。

おわりに

迷っている間の頭は、正確で、慎重で、少し悲観的です。その性質は、決める前には役に立ちます。

ただ、そこに居続けるほど、応募ボタンは重く見えていきます。次に求人メールが届いたら、口コミを開く前に一度だけ、その情報で自分の結論が変わるのかを考えてみてください。


この記事で参考にした本

『ゼロ秒思考』赤羽雄二さん → 情報を集める前に、今ある知識で案と長所短所を出しておく順番

『考えすぎないコツ』枡野俊明さん → 触れてみなければ分からない、という「冷暖自知」の考え方

『ネガティブ・ケイパビリティ』帚木蓬生さん → 答えを急がず抱えておくべき問いもある、という対になる視点


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