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ブクドリ | BOOK DRIP

読書が身につかないのは、「読む力」のせいではなかった

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約6分で読めます 学習・インプット
目次

同じ本を読んだ2人のうち、片方だけが中身を話せる。この差を、私たちはたいてい読む力か記憶力の差だと考えます。

たとえば、同僚と同じビジネス書を読んで感想を話したとします。相手は第3章の事例を自分の職場に当てはめて語れるのに、自分は「いい本だった」以上の言葉が出てこない。読んだ時間は同じで、途中で眠くなったわけでもありません。

こういうとき、自分は読むのが下手なのだと結論を出しがちです。ただ、中学生に野球の文章を読ませた1988年の実験は、別の要因のほうがずっと大きいことを示しています。

読む力より、野球を知っているかどうかで差がついた

舞台は米国の中学校です。ウィスコンシン州の大学にいた教育研究者のドナ・レクト氏とローレン・レスリー氏は、中学1〜2年生64人を4つのグループに分けました。分け方の軸は2つです。読解テストの成績が上位30%か下位30%か。そして、野球の知識テストが上位30%か下位30%か。

生徒が読んだのは、架空の試合の半イニングを描いた625語の文章です。読みやすさは小学5年生程度に調整してありました。読んだあと、生徒は約46×51cmの野球場の模型で木製の選手人形を動かして場面を再現し、口頭でも内容を説明しました。

結果は明快です。

文章を197個の意味のまとまりに区切り、口頭の説明で再現できた数を数えると、次のようになります。

  • 読む力が高く、野球に詳しい生徒:平均131.5
  • 読む力が低く、野球に詳しい生徒:平均113.8
  • 読む力が高く、野球に詳しくない生徒:平均68.4
  • 読む力が低く、野球に詳しくない生徒:平均48.4

逆転しています。読解が苦手でも野球に詳しい生徒は、読解が得意で野球を知らない生徒の1.6倍以上を思い出しました。別の話題をはさんでから書かせた要約でも、前者は後者の約2倍の情報を含んでいました。統計的に意味のある差を生んだのは野球の知識のほうで、読む力の差は有意になりませんでした。

著者らは、知識が新しい情報を受け止める「足場」になると解釈しています。たとえば野球を知っている生徒は、「犠牲フライで三塁走者が還った」と読んだ瞬間に場面が組み上がります。知らない生徒は、同じ文を言葉の並びのまま覚えておくしかありません。

ただし、題材は中学生にとって身近な野球で、人数も64人です。大人がビジネス書を読む場面にそのまま当てはまるとは限りません。それでも、「本が残らないのは読む力が足りないから」という前提を疑うには十分な結果です。

知識が足りない文章では、目だけが先に進む

知識が足りないと、読んでいる最中に何が起きるのか。手がかりになるのが、作業中に注意がほかのことへ逸れる「マインドワンダリング」の研究です。

メンフィス大学のシー・フォン氏らは2013年、大学生80人に8本の文章を読ませました。文章は2種類です。元のままの難しい版と、構文を単純にして平易な語に置き換えた易しい版を用意しました。読んでいる途中でときどき「直前の文を読んでいるとき、ほかのことを考えていましたか」と尋ね、読み終えたあとに内容の問題を解かせました。

注意が逸れていた割合は、易しい版で36.2%、難しい版で42.3%でした。差が大きかったのは、成績への影響のほうです。易しい版では、注意が逸れても正答率にはっきりした差は出ませんでした。難しい版では、注意が逸れていた箇所の問題に正しく答える見込みが、オッズで約1.9分の1まで下がっていました。

著者らは、文章から状況の像を組み立てにくいときに注意が逸れやすくなる、という説明を採っています。この実験で変えたのは語や構文の難しさで、読み手の知識ではありません。それでも、知識の足りない読者にとって文章が「難しい」状態になる点は同じだと私は考えます。

読書中に「目が滑る」のは、集中力だけの問題ではない。足場のない文章を前にした頭が、別のことを考え始めている可能性があります。しかも難しい文章ほど、逸れたときに失うものが大きくなります。

足場は、読む前に作っておける

知識が読書の成否を左右するなら、知識の少ない分野の本はずっと身につかないのか。そうとも限りません。

足場は、読書そのものでも作れます。

ジーナ・セルベッティ氏らは2016年、小学4年生59人を無作為に2組に分けました。片方は鳥に関する概念でつながった6本の説明文を、もう片方はばらばらの話題の6本を読みました。そのあと関連する初見の文章を読ませると、同じテーマで読み続けた組のほうが内容をよく思い出せました。対象は子どもで、私が確認できたのは論文の抄録までです。それでも、同じテーマで読み重ねると次の文章の受け皿ができることを示しています。

作家で元外交官の佐藤優さんは『読書の技法』で、専門書が理解できない原因の一つに「基礎知識の欠損」を挙げています。微分を知らずに金融工学の本を読んでも、文字を追うだけで終わる。佐藤さんがとくに危ないとするのは、こなれた日本語訳の哲学書や社会科学の本です。数式なら分からないことが分かりますが、訳文が滑らかだと「なんとなくわかったつもり」のまま誤読してしまう。欠損を埋める教材として勧めているのは、高校の教科書と学習参考書です。

三輪裕範さんの『時間がない人が学び続けるための知的インプット術』も、入門書選びで同じ方向の注意をしています。「○○学入門」と銘打った学者の本は、初学者には難しすぎることが多い。図解の多い手軽な本や高校の学習参考書、子ども向けの本から入るほうが全体像をつかめる。大人が子ども向けの本を読むのは恥ずかしいという見栄は捨てていい、と三輪さんは書いています。

実験の結果も二人の助言も、易しい本で先に足場を作るよう勧めています。遠回りに見えて、そのほうが本の中身は残ります。

本を選ぶ順番を変える

誤解:身につかないのは、読み方が下手だから → 線の引き方やメモの取り方は、足場のある本でこそ効きます。野球の実験では、読解が得意でも野球を知らない生徒は、場面をうまく再現できませんでした。

正しいアプローチ:本を開いたら、まず真ん中の1ページを読む → 佐藤さんが勧める難易度の測り方です。著者が力を入れる冒頭や結論より、中盤のほうが本来の難しさが出ます。私の目安では、1ページに説明なしで使われる知らない概念が3つ以上あれば、その本は後回しにして、同じ分野の図解本か入門書を先に読みます。

正しいアプローチ:同じテーマの本を、易しい順に続けて読む → 1冊ごとにテーマを変えると、毎回足場なしで読むことになります。たとえば会計を学ぶなら、図解の入門書、実務家の本、理論書の順に3冊続けて読みます。2冊目と3冊目では、1冊目で覚えた言葉が受け皿になります。

正しいアプローチ:目が滑った箇所に、鉛筆で小さく印をつける → 読みながら「いま何も入ってこなかった」と気づいたら、印をつけて先へ進みます。読み終えたら印の周辺だけを見直し、足りなかった用語や前提を調べます。印だらけの本は、今の自分には足場が足りない本だと判断できます。

おわりに

本の中身が残らないとき、見直すべきは読む力より、本を選んだ順番かもしれません。

次に読む本を決めたら、その分野で自分がすでに知っていることを3つ書き出してみてください。3つ出てこなければ、その本の前に読んでおく一冊があります。


この記事で参考にした本

『読書の技法』佐藤優さん → 専門書が読めない原因は「基礎知識の欠損」にあり、高校の教科書で土台を作り直せという提案

『時間がない人が学び続けるための知的インプット術』三輪裕範さん → 「入門」と銘打った本が初学者に難しすぎるという指摘と、図解本や学習参考書から入る選書法


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『レバレッジ・リーディング』本田直之|1,500円を15万円に変える「投資としての読書」 同じジャンルの本を5〜10冊まとめて読む「カテゴリー集中法」を紹介しています。同じテーマを続けて読む方法を、選書から具体的に組み立てたい人におすすめです。

『本の「使い方」』出口治明さん|速読は「観光バスの旅」と同じ 速く多く読むより、1冊と向き合う読み方を勧める本です。足場を作ったあと、どの本をじっくり読むかを考えるときの参考になります。