「漠然とした不安」は、書き出すまで確かめようがない
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心配ごとを10日間ノートに書き、30日後に答え合わせをした人たちがいます。
書かれた心配のうち、実際に起きたのは1割にも届きませんでした。
ただ、この研究で私が面白いと思ったのは、外れた割合そのものではありません。答え合わせができたのは、参加者が心配を「いつ、何が起きるか」という予測の形で書いたからです。
漠然とした不安には、この答え合わせができません。そこに、不安が判断を狂わせる仕組みがあります。
漠然とした不安は、外れたことにも気づけない
たとえば、新規プロジェクトのリーダーを打診されたとします。条件は悪くない。でも、なんとなく嫌な予感がする。
何が起きそうなのかと聞かれると、うまく答えられません。たとえば「大変なことになりそう」「後悔しそう」くらいしか出てこない。
この「何か」は、起きる出来事が決まっていないので、確率を見積もれません。半年たって何事もなくても、外れたとは言えない。まだ起きていないだけかもしれないからです。
外れる機会がない不安は、いつまでも残ります。そして、判断はその気分のほうに引っぱられます。
禅僧の枡野俊明さんは『考えすぎないコツ』で、心配ごとの9割は起こらない、不安は雪だるまのように転がすほど大きくなる、と書いています。慰めとしては心強い言葉です。
ただ、「一般に9割は外れる」と知っても、目の前の自分の不安が残りの1割でない保証にはなりません。確かめるには、自分の不安を外れうる形に直す必要があります。
心配の9割は外れた。ただし「予測」として書いた場合
冒頭の研究は、ペンシルベニア州立大学のルーカス・ラフレニエール氏とミシェル・ニューマン氏が2020年に発表したものです。
対象は全般性不安症と診断された大学生29人。1日4回の合図で、確かめられる具体的な予測として心配を書き、夜にオンラインで記録しました。これを10日間続け、30日後までに、その出来事が起きたかどうかを自分で振り返っています。
結果、91.4%の心配は起きませんでした。29人中7人は、書いた心配が1つも起きていません。
数字をもう一段見ると、別の発見があります。参加者は心配ごとに、起きる確率を2通りで答えていました。
- 気持ちとしての確率:平均62%
- 理屈で考えた確率:平均42%
- 実際に起きた割合:8.6%
同じ人の頭の中でも、気持ちの見積もりと理屈の見積もりは平均で約20ポイントずれていました。そして外れた割合が高かった人ほど、治療の終わりに症状が軽くなっていました。
ただし、限界もはっきりしています。対照群がない29人の研究で、大半は若い女性でした。心配しやすい人を対象にしているので、誰の心配も9割外れるとは言えません。
起きた心配のうち25.8%は、予想より悪い結果になっています。心配は、いつも杞憂とは限らないんです。
それでも、この研究が示すことは明確です。予測として書いた不安は、数字の上で答え合わせができます。
感情が強い結果ほど、確率が効かなくなる
気持ちの見積もりが事実から大きくずれるのには、理由があります。
2001年、シカゴ大学のユヴァル・ロッテンストライク氏とクリストファー・シー氏は、学生156人に、ある実験への参加を想像してもらいました。
その実験では、痛いが危険ではない電気ショックを受けるかもしれない。避けるためにいくら払うか。比較として、別の学生には「20ドルの罰金」の場合を聞きました。
- 確率1%の電気ショック:7ドル
- 確率1%の20ドル罰金:1ドル
- 確率99%の電気ショック:10ドル
- 確率99%の20ドル罰金:18ドル
お金の場合は、確率が上がるにつれて払う額も大きく上がりました。電気ショックでは、1%でも99%でも払う額が3ドルしか変わりません。感情を強く動かす結果では、「どのくらい起きやすいか」より「起きるかもしれない」が判断を決めていました。
この研究は2022年にスイスで214人の追試が行われ、電気ショックの結果は近い形で再現されましたが、他の実験では効果が弱まるか消えました。数字は割り引いて読む必要があります。
もう少し新しい証拠もあります。2025年にコリーン・フランク氏とトルステン・パフール氏は、200人に、薬の副作用とお金の損失という、条件をそろえた2種類の選択をさせました。副作用の問題のほうが、確率の情報を軽く扱い、判断の質も落ちていました。若い人でも高齢の人でも同じでした。
ここからは私の解釈です。漠然とした不安は、感情だけがあって、出来事がありません。確率を当てはめる対象がないので、判断は「避けたほうがよさそう」という気分で決まってしまいます。
心配は、具体的に考えずにすませる思考だった
では、なぜ不安は漠然としたままなのでしょうか。
心配の研究を切り開いたトーマス・ボルコベック氏らの「回避理論」は、心配を、怖いものを直視しないための思考だと考えます。心配は主に言葉で進み、言葉で考えているあいだは、同じ内容を映像で思い浮かべるより体の恐怖反応が小さい。そういう実験結果を土台にした理論です。
つまり心配は、具体的な場面を思い描かずに怖さを小さく保つ働きをしている。そのかわり、怖さは処理されず、問題も解けないまま残ります。
2002年、ヨアキム・シュテーバー氏とボルコベック氏は、全般性不安症の患者11人と、そうでない23人に、いちばん大きな心配ごとを2つと、それぞれから起こりうる悪い結果を3つずつ書いてもらいました。
評価者が具体性を5段階で採点すると、患者の記述は対照群より抽象的でした。14週間の認知行動療法を受けた後には、対照群と同じ具体性になっていました。心配が減った人ほど、記述が具体的になっていました。
少人数の予備的な結果で、著者たちもそう断っています。それでも、治療で変わったものの1つが「心配の具体性」だったことは示唆的です。
ただし、書けば何でも効くわけではありません。試験前に心配を書き出すと成績が上がるという2011年の有名な研究は、2018年の大規模な追試で2回とも再現されませんでした。
書き出すなら、答え合わせができる形で
実践の出発点として使いやすいのは、ティム・フェリス氏が『巨神のツール』で紹介している「恐怖の予行練習」です。最悪の事態を具体的に書き、それが起きる確率と、起きたときの挽回策を書く。あわせて、行動を先延ばしにしたときの損失も書き出します。
これは研究で効果を確かめた手法ではなく、実務家の方法です。ここまでの研究を踏まえて、次の3点を足すことをおすすめします。
誤解:不安は、よく考えれば晴れる → 頭の中で考えるほど、言葉だけの心配が続きます。たとえば「来月の定例で、部長に計画の甘さを指摘される」のように、日付と出来事と相手が入った一文にしてください。
誤解:「9割は起こらない」と言い聞かせれば楽になる → 一般論は、自分の不安の答えになりません。予測の横に、気持ちの確率と理屈の確率を2つ書き、答え合わせの日付を決めます。たとえば「気持ち60%、理屈30%、確認日10月31日」です。30日後に開いて、起きたかどうかに丸をつけるだけで十分です。
誤解:書き出したら、あとは考えないようにする → 押し込めるより、置き場所を決めるほうが扱いやすくなります。鈴木祐さんは『超ストレス解消法』で、「15時から10分だけ心配する」と予定に入れる方法を紹介しています。
心配を先送りする方法の研究では、7つの試験、999人をまとめた2023年のメタ分析で、心配の頻度と長さが減りましたが、効果は小さめでした。2025年の試験では、先送りだけでは対照群と差が出ず、「いつ、どこで心配するか」を具体的に決めた群で心配の時間が約15分短くなっています。先送りの時間と場所も、具体的に決めておくほうがよさそうです。
なお、不安で眠れない、仕事が手につかない状態が続くなら、書き出しで抱え込まず、医療機関に相談してください。
おわりに
漠然とした不安は、何度外れても外れたことが分かりません。だから減らない。
書き出す意味は、頭を空にすることより、不安に外れる機会を与えることにあります。
今夜、いちばん気になっている不安を1つだけ、日付の入った予測文にしてみてください。
この記事で参考にした本
『巨神のツール 俺の生存戦略 知性編』ティム・フェリス氏 → 最悪の事態、確率、挽回策、先延ばしの損失を書き出す「恐怖の予行練習」
『超ストレス解消法』鈴木祐さん → 心配する時間を予定に入れて、それ以外の時間に持ち込まない「心配スケジューリング」
『考えすぎないコツ』枡野俊明さん → 心配ごとの9割は起こらない、不安は転がすほど大きくなるという禅の見方
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『巨神のツール 俺の生存戦略 知性編』ティム・フェリス氏 恐怖の予行練習の出典です。本記事では手順の一部しか扱っていないので、元の枠組みと、ほかの成功者たちが不安をどう扱っているかを確かめたい人に向いています。
『ストレス脳』アンデシュ・ハンセン 不安がそもそも何のためにあるのかを、脳の進化から説明する本の書評です。不安を消すべき故障と見るか、働きすぎた警報と見るかで、書き出すときの構えが変わります。
考えれば考えるほど、動けなくなる 決める前の迷いが長引く仕組みを扱ったコラムです。不安を予測文にしたあと、それでも決めきれないときの次の一手として読めます。