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「やりたいことがない」人を縛る、「情熱は見つかるもの」という前提

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約6分で読めます 戦略・経営・事業
目次

ブラックホールの動画を見て「面白い」と答えた学生たちが、数分後には興味を失っていました。

きっかけは、動画のあとに読んだ論文が難しかったことです。

ただ、同じように難しいと感じても、興味の下がり方には差がありました。大きく下がった人と、それほど下がらなかった人に分かれたのです。

分かれ目になったのは、実験の直前に読まされた短い文章でした。「興味は生まれつき決まっている」と書かれた文章か、「興味は育っていく」と書かれた文章か。

「やりたいことがない」という悩みは、この実験とつながっています。

「やりたいこと」を探すとき、何を前提にしているか

「やりたいことを見つけなさい」という助言には、見落とされやすい前提があります。答えは自分の中にすでにあって、あとは掘り当てるだけだ、という前提です。

心理学者のポール・オキーフ氏らは、これを「興味の固定観」と呼びました。反対の考え方は「興味の成長観」で、興味は関わりながら育つものだと見ます。

どちらの見方を取るかで、人の動き方は変わります。固定観に立つと、興味の数には限りがあり、見つけた後は迷わず打ち込めるはずだと考えやすくなります。

この前提に立つと、「やりたいことがない」は「自分の中に何も埋まっていない」という意味に聞こえます。

焦りが強くなるのは、そのためです。

ただ、ここで問うべきなのは、埋まっているかどうかより、前提そのものが行動にどう効いているかです。そこを調べた研究があります。

「見つかるもの」と考えると、興味の外に出なくなる

オキーフ氏、ドゥエック氏、グレゴリー・ウォルトン氏が2018年に『Psychological Science』に発表した論文は、5つの研究でこの問いを確かめています。

最初の研究では、理系寄りか文系寄りかをはっきり自認する大学生126人に、2本の記事を読んでもらいました。一本は自分の関心に合う分野、もう一本は合わない分野です。

結果は、関心に合う記事への興味には、見方による差が出ませんでした。差が出たのは、関心の外の記事です。固定観が強い学生ほど、関心の外の記事に興味を示しませんでした。

たとえば、自分は文系だと思っている人がネットの技術の記事を読んで「自分には関係ない」と感じる。その反応が、興味は決まっているという見方の強さとともに強まるわけです。

別の研究では、44人の学生に「情熱を見つけた人のやる気はどうなるか」を自由に書いてもらいました。固定観が強い人ほど「やる気は尽きなくなる」と答えやすく、「ときには大変なこともある」とは答えにくい傾向がありました。

ここに落とし穴があります。探す段階で候補を狭く絞り、見つかったら楽に続けられると期待する。その期待が、次の場面で裏目に出ます。

壁に当たったとき、「これは違った」と判断しやすくなる

冒頭のブラックホールの実験は、この論文の5つ目の研究です。

コミュニティカレッジの学生70人を二つに分け、片方には固定観を、もう片方には成長観を説明する文章を読ませました。そのあと、英紙ガーディアンが作った約3分の動画でホーキング博士のブラックホール理論に触れてもらいました。

動画の直後、興味の高さは両グループで同じくらいでした。なお、この段階で「面白い」と答えた人だけが本番に進んでいます。

次に、科学誌『Science』に載ったブラックホールの論文の最初のページを読んでもらいました。難しさの感じ方は、両グループでほぼ同じでした。

それでも、固定観の文章を読んだグループのほうが、興味の落ち方が大きかったのです。論文を難しいと感じた人について推定すると、固定観のグループの興味は6段階の尺度で2.75と中間点の3.5を下回り、成長観のグループは3.59でした。

著者らは、この結果を「すべての卵を一つのかごに入れ、運ぶのが大変になるとかごごと落とす」と表現しています。

難しさを「本物の興味ではなかった証拠」と読むか、「育てている途中の手応え」と読むか。同じ壁でも、見方しだいで続けるかどうかが変わります。

ただし、人数は数十人から百人台で、測ったのは短い時間の中での興味です。数年単位のキャリアにそのまま当てはまるとまでは言えません。

「探す」派が間違っているわけでもない

では、「情熱は見つけるもの」と考える人は損をしているのか。そう単純でもありません。

ミシガン大学のパトリシア・チェン氏らは2015年、仕事への情熱についての二つの考え方を比べました。自分に合う仕事を見つければ情熱が生まれると考える「適合観」と、時間をかけて育てるものと考える「育成観」です。

論文の要旨では、二つの考え方はやる気の出方こそ違うものの、どちらも仕事での幸福感や成功につながりうると結論づけています。

違いは、仕事を選ぶときに何を重視するかに出ました。大学の発表によると、適合観の人は最初から楽しめる仕事を選ぶ傾向があり、育成観の人は最初の相性をそれほど重視せず、給与など他の条件を優先しやすかったといいます。

つまり、問題は探すことそのものではありません。「最初から楽しめるかどうか」だけを合格ラインにすると、合格する候補がなかなか見つからない。

何にも惹かれないと感じるのは、この合格ラインが高すぎるサインかもしれません。

本はどちらも「先に手を動かす」ことを勧めている

ブクドリで紹介している2冊も、同じ方向を指しています。

ココナラを創業した南章行さんは『好きなことしか本気になれない。』で、自分を知ろうとして自分探しをするのは若さの浪費だと書いています。目の前のことに本気で取り組むと好奇心がわき、そこで生まれる感情が自分の価値観を教えてくれる、という順番です。

迫佑樹さんは『人生攻略ロードマップ』で、やりたいことは今の自分がやれることの延長線上にしかないと言います。だから先にスキルを身につけて、やれることを増やす。

迫さん自身、学生時代にブログを1年続けて、最高月収は293円だったそうです。最初の手応えはそれだけでしたが、そこから20代前半で事業を大きく育てています。続けた人の成功談だけで一般化はできませんが、最初の手応えの小ささが向き不向きを決めるわけではない一例です。

研究の言葉に置き換えると、2冊が勧めているのは成長観に立った動き方です。興味は関わった量と、壁を越えた経験のあとで育っていく。

「やりたいことがない」人が、今日から変えられること

誤解:ピンとくるものが見つかるまで探し続ける → 最初から強く惹かれることを条件にすると、候補が残りません。オキーフ氏らの実験では、固定観の人ほど関心の外に目を向けませんでした。

変えてみること:「少し気になる」を合格ラインにする → たとえば、関心の外にある分野の入門書か動画を1本だけ見て、面白かった点を一行メモする。5分で終わります。

誤解:本当にやりたいことなら、楽しく続けられるはず → 固定観の人ほど、情熱が見つかればやる気は尽きないと考えていました。その期待が、最初の壁で「違った」と判断させます。

変えてみること:やめる判断は、最初の壁を越えてからにする → たとえば、始める前に「入門書を1冊読み終えるまでは判断しない」と決めておく。難しいと感じた日は、成長観の人でも興味が少し下がる日だと思っておきます。

誤解:やれることが少ないのは、やりたいことがない証拠 → 迫さんの言うとおり、やりたいことは、やれることの範囲の中でしか思い浮かびません。

変えてみること:頼まれた仕事を一つ、本気で終わらせる → 南さんが言うように、本気で取り組んだあとの「面白い」「腹が立つ」という感情が、次の方向を教えてくれます。

おわりに

「やりたいことがない」は、自分の中に何もないという意味ではないのかもしれません。

まだ育てていない、というだけのことです。

最初から燃えるような情熱を持っている人は、それほど多くありません。多くの人の興味は、少し気になったものに時間を使い、難しさを越えたあとで、ようやく自分のものになっていきます。


この記事で参考にした本

『好きなことしか本気になれない。』南章行さん → 自分探しより、目の前のことに本気で取り組む。その中で生まれる感情が価値観を教えてくれる。

『人生攻略ロードマップ』迫佑樹さん → 今やれることの延長線上に、次の目標が見えてくる。先にスキルを身につけて選択肢を増やす。


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