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ブクドリ | BOOK DRIP

教えても育たないのは、丁寧さが「使う番」を奪うから

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約6分で読めます リーダーシップ・組織
目次

部下の学びを左右するのは、説明を聞いている時間より、聞き終わったあとの数分かもしれません。

たとえば、入社1年目の部下が見積もりの作り方を聞きに来たとします。上司は手を止めて丁寧に説明し、ミスを見つければすぐに直し、困っていそうなら声をかける前に手を貸す。

面倒見のいい上司です。それでも半年後、部下は同じところで止まっている。

説明が下手だったわけではありません。教える量が多すぎたわけでもない。丁寧さの向きが、部下が自分で使う時間を削る方に向いていた可能性があります。


説明の詳しさより、聞いたあとに自分で解いたかが効いていた

丁寧さの一つ目の形は、聞かれたことに詳しい説明で答えることです。

教育心理学者のノリーン・ウェッブ氏らは1995年、中学1年生にあたる166人が数学の授業で小グループになって問題を解く様子を録音し、単元末テストの成績と照らし合わせました。

注目したのは、仲間から説明を受けた生徒がそのあと何をしたかです。受けた説明を使って問題を自分で解き直したり、解き方を言い直したりする行動を、ウェッブ氏らは「構成的な活動」と呼んでいます。

成績をいちばんよく予測したのは、この構成的な活動の度合いでした。のちにこの研究を引いた論文の整理では、受けた説明の詳しさは成績を直接には予測していません。説明が詳しいほど自分で解き直す行動が増え、その行動を通じて成績につながる、という間接的な効き方でした。

ウェッブ氏は別の報告書で、答えだけを渡す手助けは成績にマイナスに働くという研究が複数あるとも整理しています。

プロコーチの馬場啓介さんは『目標達成の神業』で、コーチングの唯一のルールを「アドバイスをしない」ことだとしています。助言は相手から考える機会を奪う、というのが理由です。

ただ、ウェッブ氏らの結果は、説明そのものを否定してはいません。良い説明は、自分で解き直す行動を増やす材料になっていました。問題は、説明のあとに本人が使う番があるかどうかです。

調べたのは中学生の同級生どうしで、上司と部下ではありません。説明を聞いた直後に自分でやってみる時間が学びを左右する、という構造なら、職場にも置き換えやすいはずです。


間違えさせない教え方は、手順の違う課題に弱い

丁寧さの二つ目の形は、間違いを先回りして防ぐことです。

組織心理学者のニーナ・キース氏とマイケル・フレーゼ氏は、「エラーマネジメント訓練」と呼ばれる教え方を研究してきました。学習者に自分で探りながら操作させ、間違えることをはっきり勧めて、間違いから学ばせるやり方です。比べる相手は、手順を一つずつ示して間違えないように進める訓練です。

2008年に二人が24の研究(計2,183人)をまとめたメタ分析では、エラーマネジメント訓練の方が成果が高く、効果量は0.44でした。差は訓練中より訓練後の方が大きく、訓練と構造の違う課題に取り組ませた場合に最も大きくなっています(効果量0.80)。

なぜ差が出るのか。2005年の実験では、学生55人にコンピュータのソフトの使い方を学ばせ、応用課題の成績を比べました。エラーマネジメント訓練を受けた側が上回り(効果量0.75)、その差は二つの働きで説明できました。

一つは感情の制御です。間違えても焦らずにいられるかどうか。もう一つは、作業中の発話から測った「自分のやり方を点検する思考」の量です。

つまり、間違える経験は、手順とは別に「つまずいたときの立て直し方」を育てていました。手順どおりに進めて一度も間違えなかった人は、手順が通用しない場面で初めてこの練習をすることになります。

ただし、この研究の出発点はコンピュータ操作の訓練で、2005年の実験もソフトの使い方を学ぶ場面でした。人命や大きな損失に関わる仕事で、同じように間違いを勧めてよいわけではありません。

アドラー心理学を専門とする岩井俊憲さんは『みんな違う。それでも、チームで仕事を進めるために大切なこと。』で、部下のミスに「なぜ」と原因を問い詰めても言い訳しか生まないとして、「どうやって減らすか」を一緒に考えるよう勧めています。間違いを、次の手を考える材料として扱う姿勢です。


頼まれていない手助けは、「できない人」扱いとして届く

三つ目は、困っていそうな相手に、頼まれる前に手を貸すことです。

オランダのユトレヒト大学のヤンナ・デールストラ氏らは2003年、派遣の事務職48人を対象に、オフィスを模した実験室で約4時間働いてもらう実験をしました。本番の課題は、データベースを使って会議参加者のホテルを予約する作業です。

途中で5人分の情報が欠けるように仕組んであり、条件によって「棚のファイルを見れば自力で解決できる」場合と「どうやっても解決できない」場合がありました。そこに、同じ参加者を装った協力者が、相手の意向を聞かずに手を貸し、5人分を埋めてしまいます。

自力で解決できる場面で手を出された人は、有能感にもとづく自尊心が下がり、否定的な感情が増え、心拍数も上がりました。解決できない場面では、自尊心や気分に差は出ませんでした。論文の要旨の言葉を借りれば、助けが本当に必要な場面でも、押しつけられた手助けの効果はプラスではなく「中立」でした。

たとえば、資料の体裁に手間取っている部下から、上司が黙ってファイルを引き取って直してしまう。この実験に当てはめれば、善意でも相手には「一人では無理だと思われた」と届きうる場面です。

ただし、一条件8人ほどの小さな実験で、手を貸したのは同僚役の協力者でした。上司が手を出した場合を調べたものでもありません。とはいえ、「頼んでいない助け」が相手には能力への疑いとして届くことを、測定で示した点に価値があります。

岩井さんは、部下の悩みを解決しなかったときに結末を引き受けるのが部下自身なら、それは部下の課題だと整理します。上司が手を出しすぎると、部下が自分で解決する力が育たない。部下から相談があって初めて「共同の課題」になり、そのときも答えを与えずに一緒に考える、という順番です。


丁寧さの向きを、説明から「使う番」へ移す

三つの研究を並べると、教える側の丁寧さが、部下が自分で使う時間を削る方向に働くことがあると分かります。

誤解:丁寧に説明するほど、部下は早く覚える → 説明の詳しさは、聞いたあとに自分で解き直すかどうかを通じて効いていました。

誤解:ミスは先回りして防ぐのが親切だ → 間違いを避ける訓練は、形の違う課題で、間違いを勧める訓練に差をつけられました。

正しいアプローチ:説明のあとに、使う番と立て直す番を渡す → 手を出すのは、本人が頼んだときを基本にします。

具体的には、次の3つです。

1. 説明したら、その場で次の1件を本人にやらせる 今日から5分で始められるのはこれです。たとえば見積もりの作り方を説明したら、次の案件の見積もりをその場で部下に作らせ、上司は横で見ているだけにします。部下が自分で手を動かすこの数分が、ウェッブ氏らの言う構成的な活動にあたります。

2. 取り返せる失敗の範囲を、先に言葉にしておく 「社内向けの資料なら、間違えても私が見る前に直せばいい」「顧客に出す数字だけは必ず確認に来て」のように線を引きます。線の内側では、ミスに気づいても先回りして直さず、本人が気づいたあとに「どうやって防ぐ?」と聞きます。

3. 手を出す前に、ひと言だけ聞く 困っていそうな部下に気づいたら、手を貸す前に「手伝おうか、もう少し一人でやってみる?」と選ばせます。デールストラ氏らの実験で自尊心を下げたのは、手助けそのものではなく、相手の意向を聞かずに押しつけた手助けでした。


おわりに

部下が育たないとき、上司はつい説明を足します。もっと分かりやすく、もっと早く、もっと先回りして。

でも、研究が示していたのは、学びの多くが説明を聞き終えたあとに起きるということでした。明日、部下に何かを教えたら、そのあと自分が黙っていられた時間を数えてみてください。


この記事で参考にした本

『目標達成の神業』馬場啓介 → コーチングの唯一のルールは「アドバイスをしない」こと。助言が相手の考える機会を奪うという視点

『みんな違う。それでも、チームで仕事を進めるために大切なこと。』岩井俊憲 → 部下の課題と上司の課題を切り分け、相談されてから一緒に考えるという手助けの順番


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