「教えるつもり」の学習法は、ノートを閉じて話すと効く
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「人に教えると、学んだことの90%が身につく」。
研修資料やビジネス書で見かけるこの数字には、元になった研究が見つかっていません。
それでも「教えるつもりで学ぶと身につく」という話そのものは、心理学の実験で何度も確かめられてきました。ただし、効き方には条件があります。つもりだけで終わるか、実際に話すか。話すとき、手元にノートがあるかどうか。この違いで、結果がかなり変わります。
「教えると90%」の数字には、出どころがない
「講義を聞く5%、読む10%、人に教える90%」。学習定着率のピラミッドとして知られる図です。樺沢紫苑さんの『学びを結果に変えるアウトプット大全』も、「他人に教える」を最も効果の高いアウトプットとして勧める根拠に、この図を紹介しています。
ところが、この図の数字の元になった実験は確認されていません。ケン・マスターズ氏は、医学教育の論文でこの図が引用され続けている状況を、2013年と2019年に調べました。2019年の論文の要旨では、ピラミッドも数字も根拠がなく、名前の挙がることが多い教育学者エドガー・デール氏の研究から来たものでもない、とはっきり書いています。
困るのは、数字が否定されると「教える学習法も眉唾なのでは」と思えてしまうことです。
実際には、教える学習法の効果は、ピラミッドとは別の実験でかなり調べられています。わかってきたのは、90%のような一律の数字ではありません。教えるつもりで学ぶ効果と、実際に教える効果を分けて測ると、大きさも仕組みも違って見えてきます。
教える予定を告げられるだけで、読み方が変わる
2014年、ジョン・ネストイコ氏らは、参加者に文章を読ませる前に2通りの説明をしました。半分には「あとでテストをします」。もう半分には「あとで別の参加者に、この内容を教えてもらいます」。
実際には誰も教えず、全員がテストを受けました。それでも「教える」と告げられたグループのほうが、思い出した内容がより網羅的で、順序立ってまとまっていました。問題にもより多く正解し、2つ目の実験では特に文章の要点を問う問題で差が出ました。
著者らは、教える前提で読むと、要点を選び出して整理する読み方に切り替わるためだと考えています。
たとえば、会議の議事録を「あとで自分が説明する」と思って読むと、発言を順に追うより「結局何が決まったか」を探しながら読むはずです。実験が捉えたのは、この切り替えだと考えられます。
効果の大きさは、静岡大学の小林敬一さんによる2018年のメタ分析(複数の研究をまとめて効果を推定する方法)が参考になります。28の研究を統合した推定では、教える準備をして学ぶことの効果量は0.35でした。効果量は差の大きさを表す指標で、0.35は小さめから中くらいにあたります。
ただし、長持ちするかどうかは研究によって結果が割れています。ドップラー効果を学ぶ実験では、教えるつもりで学んだグループは直後のテストでは対照群を上回ったものの、1週間後のテストでは差が見られませんでした(フィオレラ氏とメイヤー氏、2013年)。一方で、1週間後まで効果が残ったという2021年の研究もあります。
ノートを見ながら教えても、身につかない
同じドップラー効果の実験には、準備したあと、架空の生徒に向けて実際に講義動画を撮ったグループもありました。1週間後のテストで対照群を上回ったのは、このグループだけです。
では、実際に教えると何が効くのか。この問いに答えようとしたのが、コー氏らの2018年の実験です。学生は教材を学んだあと、次の4つのどれかをしました。
- ノートを見ずに、講義動画を撮る
- 講義はせず、覚えている内容を書き出すテストを受ける
- 用意された講義原稿を、カメラの前で読み上げる
- 計算問題を解く(教えも思い出しもしない)
1週間後の理解度テストで成績がよかったのは、ノートなしで講義したグループと、書き出しテストだけのグループでした。この2つの差はほとんどなく、どちらも原稿を読み上げたグループと計算問題のグループを上回りました。
著者らの解釈は、教える効果の中身は「思い出す作業」だというものです。記憶から内容を引き出す努力が学習を強めることは、想起練習として知られています。ノートなしで教えると、この作業が自然に起きます。
安川康介さんの『科学的根拠に基づく最高の勉強法』も、何も見ずに思い出す学習法の具体例のひとつに「他人に教える」を挙げています。ヒントのないまっさらな状態で出すほうが効果が高い、という指摘とも重なります。
小林さんのメタ分析では、準備したうえで実際に教えた場合の効果量は0.56でした。準備だけの0.35より大きい値です。
口に出し、例を足した説明ほど残る
とはいえ、教える効果がすべて思い出す作業で説明できるかは、まだ決着していません。
小林さんは2022年の総説で、コー氏らの実験には弱点があると指摘しています。原稿の読み上げでは、思い出す作業だけでなく、説明を自分で組み立てる作業も抜けてしまうからです。後続の研究でも、人に説明するほうが単に書き出すより成績がよかった実験と、差がなかった実験が混在しています。
そのうえで、比較的そろっている結果が2つあります。
1つ目は、口頭の説明のほうが効きやすいことです。同じ総説は、説明の効果が口頭の場合には見られ、文章で書いた場合には見られなかったという研究やメタ分析を紹介しています。
2つ目は、説明の中身です。教材にない推論や、具体例、たとえを多く盛り込んだ人ほど、あとの成績がよい傾向が繰り返し報告されています。教材を言い直すだけの説明では、この上乗せは期待しにくい。
相手の存在も効きます。小林さんが2019年にメタ分析のデータを分析し直したところ、対面で教える予定のときの準備の効果量は0.50で、動画や文章で間接的に教える予定のとき(0.27)より大きくなりました。準備したうえで対面で教えた場合は0.84でした。ただし、この値のもとになった比較は4件と少なく、幅を持って読む必要があります。
「教えるつもり」を本物にする3つの手順
誤解:教えるつもりで読めば、それで十分 → つもりだけの効果は小さめで、長持ちしないこともあります。相手と日時を先に決めましょう。たとえば本を開く前に、同僚へ「金曜の朝会で3分だけ話させて」と送る。これなら5分で始められます。
誤解:説明は、資料を見ながら正確にするほうがいい → 手元の資料を読み上げる説明は、原稿の読み上げと同じで、思い出す作業が起きません。話すときはノートを閉じ、話し終えてから資料と照らして、抜けた点に印をつけます。
誤解:教えるとは、内容を要約して伝えること → 残りやすいのは、例やたとえを足した口頭の説明です。たとえば読んだ理論を1つ選び、自分の職場で起きた場面に当てはめて話す。これを1つ入れるだけで、要約から説明に変わります。
ひとつ注意があります。教える場面を重く設定しすぎると、不安が学習の邪魔をして効果が出なかった研究もあります。最初は、失敗しても困らない3分の相手から始めるのが無難です。
おわりに
「教えると90%身につく」という数字は、根拠のない話でした。
一方で、教える学習法そのものには実験の裏付けがあります。効きやすいのは、教える予定を先に立て、ノートを閉じて話し、自分の例を足したときです。
次に本を読むときは、読み始める前に、誰に話すかを決めてみてください。
この記事で参考にした本
『学びを結果に変えるアウトプット大全』樺沢紫苑 → 「教えることを前提に学ぶ」を最強のアウトプットとして勧める本。本稿はその勧めを研究側から検証する形で使いました
『科学的根拠に基づく最高の勉強法』安川康介 → 「他人に教える」を、何も見ずに思い出す学習法の一種として位置づけている点が、教える効果の仕組みの説明と重なります
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