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ブクドリ | BOOK DRIP

わかりやすい人のたとえは、どこで外れるかまで言う

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約6分で読めます コミュニケーション・文章術
目次

たとえで説明された学生は、応用問題に強くなりました。そのかわり、細かい事実を問う問題では点を落としました。

1993年に心理学者のキャロル・ドネリー氏とマーク・マクダニエル氏が報告した実験の結果です。

たとえば「収縮する星は、小さくなるほど速く回る」という天文学の説明。これを「フィギュアスケーターが腕を縮めると回転が速くなるのと同じです」と書き添えると、読み手の頭に映像が浮かびます。

たとえが上手い人は説明がわかりやすい。これは多くの人の実感だと思います。

ただ、研究を追っていくと「上手い」の中身は、面白い言い回しを思いつく力とは少し違うものでした。

たとえが運ぶのは「推論」で、細部は運ばない

ドネリー氏らは4つの実験で、いくつもの科学の概念を学生に読ませました。同じ内容を、文字どおりの説明で読む組と、身近な何かにたとえた説明で読む組に分けています。

結果はきれいに分かれました。用語や事実をそのまま問う基礎的な問題は、文字どおりの説明を読んだ組のほうが正確でした。

一方で、書かれていないことを推し量る応用問題は、たとえで読んだ組のほうが正確でした。この傾向は、その分野の初心者で特にはっきり出ています。

スケーターの例で考えると、理由が見えてきます。腕を広げたらどうなるか、と聞かれれば、スケーターの姿を思い浮かべるだけで「遅くなる」と答えられる。たとえは、相手が自分で考えを進めるための足場になります。

そのかわり、「角運動量保存」という用語や細かな条件は、スケーターの映像の中にはありません。

さらに2000年の続報では、その分野の知識がある学習者だと、たとえがかえって成績を下げる場合があると報告されています。もともと持っている知識を使える状況では、たとえが考え方を狭めてしまうようです。

実務に置き換えると、たとえは「だから、どうなるか」を相手に考えてほしい場面に向いています。

たとえば期限、金額、担当者名のように、正確さが必要な情報はたとえの中に溶かさない。たとえのあとに、言葉どおりに言い直します。

阿部恵さんは『きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」』で、大きな数字は「東京ドーム何個分」のように実感できる量に置き換えるよう勧めています。これも同じ発想で使えます。置き換えで規模の感覚を渡し、元の数字も並べて言う。両方あれば、映像と細部を両方渡せます。

どのたとえを選ぶかで、相手が解ける問題が変わる

推論の足場になるのなら、足場の形によって、進める方向も決まるはずです。

認知科学者のデドレ・ゲントナー氏とドナルド・ゲントナー氏は1983年、電気回路でこれを確かめました。電気を「パイプを流れる水」として理解している人と、「通路を進む人の群れ」として理解している人がいます。

最初の実験では、回答のあいだ一貫して水のたとえを使っていた7人と、群れのたとえを使っていた8人を比べました。水の人は電池のつなぎ方の問題に強く、群れの人は抵抗のつなぎ方、特に並列の問題に強い結果でした。

水のたとえでは、電池はポンプに当たるので、ポンプを重ねたときの水の勢いから電池の問題が解けます。群れのたとえでは、抵抗は通路の出口の門に当たります。門が横に2つ並べば通れる人数が増える、と自然に考えられます。

次の実験で、同じ電気の知識を別々のたとえで教えると、群れのたとえで学んだ組は並列の抵抗の問題で93%が正しい方向に答えました。他の組は合わせて63%です。30ポイントの差です。

どちらも人数の少ない研究なので、数字の大きさは割り引いて読む必要があります。それでも「たとえは、相手の頭の中で解ける問題を選ぶ」という見方は、説明する側にとって役に立ちます。

デイビッド・ロック氏の『最高の脳で働く方法』は、この使い方の見本になります。ロック氏は、考えごとを受け持つ脳の前頭前皮質を「小さな舞台」にたとえています。

舞台に一度に上がれる役者は少ない。そう聞いた読者は、いくつものことを同時に考えれば押し出される役者が出る、という結論に自分でたどり着けます。マルチタスクの効率の悪さを伝えるために選ばれたたとえです。

たとえを探す前に、相手に自力で出してほしい結論を1つ決める。その結論が自然に出てくるたとえを選ぶ。順番を逆にすると、面白いけれど何も運ばないたとえになりがちです。

たとえは判断まで引っ張る。ただし、思われているほど強くはない

たとえが運ぶのは理解だけではありません。判断を動かすこともある、という研究が2011年に話題になりました。

心理学者のポール・ティボドー氏とレラ・ボロディツキー氏は、架空の町で犯罪が増えているという記事を学生に読ませました。犯罪を「町を襲う獣」と書いた版と、「町に広がるウイルス」と書いた版があり、違いはそこだけです。

最初の実験では485人が参加し、獣の版を読んだ人の74%が取り締まりや刑罰の強化を対策に挙げました。ウイルスの版では56%です。差は18ポイント。

しかも、判断の理由にたとえを挙げた人は3%しかいませんでした。本人は気づいていない。多くの人は、記事の中の統計を根拠にしたと答えています。

ただし、この研究には続きがあります。

2014年、オランダの言語学者ステーン氏らのグループが、たとえを使わない版を加えて追試しました。すると、たとえの違いによる差は見られませんでした。犯罪の記事を読むこと自体で、どの版でも取り締まりを支持する人が増えていたのです。

元の著者らは2015年に新たな実験で反論し、世論の変化を考慮すればたとえの影響はまだ見られると報告しています。

全体像をつかむ材料になるのが、2019年にブルグマン氏らが行ったメタ分析です。91の研究、延べ3万4,783人分をまとめています。

単語を1つ差し替えるだけのたとえの効果は、統計的には検出されたものの、ほぼゼロに近い大きさでした(効果量d=0.04)。問題全体をたとえの筋書きで組み立てた場合は、小さいながら安定した効果がありました(d=0.22)。

つまり、一言の比喩で人の意見がひっくり返ることはまずありません。一方で、説明全体を1つのたとえで組み立てれば、その筋書きに沿った結論に聞き手を少し寄せられます。

せきしろさんは『たとえる技術』で、著名人でたとえるとイメージを借りられる反面、イメージが強すぎて融通がきかなくなると書いています。相手がその対象に持っている連想も、たとえと一緒に持ち込まれるわけです。

上手いたとえは「ここまでは同じ」を言い添える

では、どう使えばいいのか。

理科教育の研究者ショーン・グリン氏らは、たとえで教える手順を6つの段階に整理しています(1995年)。その5番目が「たとえが成り立たなくなる点を示す」です。

どんなたとえにも、元の話と合わない部分が必ずある。それを言わずにおくと、聞き手は合わない部分まで持ち帰ってしまいます。

ここまでの話を、説明の場面に落とします。

誤解:たとえは多いほどわかりやすい → 相手に自分で考えてほしい結論を1つ決め、そこへ導くたとえを1つ選びます。スケーターの例なら「腕を広げたらどうなるか」まで相手が考えられることが目的です。

誤解:たとえが伝われば、数字や条件は省いていい → 細部はたとえに乗りません。たとえのあとに、期限や金額を言葉どおりに言い直します。

誤解:たとえは言いっぱなしでいい → 「ここまでは同じで、ここからは違います」を1文添えます。

3つ目は、たとえばこうです。

「予定の余裕は、車間距離のようなものです。詰めすぎると、前が急に止まったときに追突します。ただし車間距離と違って、使ってしまった余裕は後から取り戻せません」

最後の1文があると、聞き手は「だから余裕は、最初から守っておくものだ」まで考えられます。たとえに引きずられて「空いたら詰め直せばいい」と受け取る人も減ります。

すぐにできるのは、次に話す説明や資料の中から、たとえを1つ探すことです。そのたとえに「ただし〜とは違って」の1文を足してみてください。5分もかかりません。

おわりに

たとえは、相手の頭に映像を渡し、その映像から先を考えてもらう道具です。

だから、渡す映像を選ぶことと、映像が役に立たなくなる境目を示すことが、同じくらい大事になります。わかりやすい人は、たとえを言ったあとに「ここまでです」と線を引いています。


この記事で参考にした本

『たとえる技術』せきしろさん → たとえは感情や状況の輪郭をはっきりさせる一方、著名人のたとえはイメージが強すぎて融通がきかなくなるという副作用の指摘

『最高の脳で働く方法 Your Brain at Work』デイビッド・ロック氏 → 前頭前皮質を「小さな舞台」にたとえ、容量の小ささからマルチタスクの非効率を読者に推論させる説明の組み立て

『きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」』阿部恵さん → 大きな数字を「東京ドーム何個分」のような実感できる量に置き換える、数字の伝え方


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