「体にいい成分」を探すほど、健康から遠ざかる
目次
βカロテンのサプリを飲んでいた人たちは、飲んでいない人たちより、肺がんになる確率も死亡率も高かった。
これはメタアナリシス、つまり複数の研究をまとめて解析した結果です。UCLA助教授で医師の津川友介さんが『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』で紹介しています。
βカロテンが多く含まれる緑黄色野菜は、たしかに体にいい。ところが、そこから成分だけを抜き出してカプセルにすると、結果が逆になりました。
「体にいい成分」を追いかけると、なぜこうなるのか。今日は、健康情報の見分け方そのものを見ていきます。
成分ではなく、食品まるごとで効果は決まる
健康番組の定番は、成分の話です。リコピンが、イソフラボンが、ポリフェノールが。
でも津川さんの立場ははっきりしています。評価すべきは成分ではなく、食品そのものだ、と。
理由は単純で、私たちは成分を食べているわけではないからです。トマトにはリコピン以外にも無数の物質が入っていて、それらが一緒に体に入る。成分だけ取り出したときに同じ働きをする保証は、どこにもありません。
差が最もはっきり出る例が、果物です。
津川さんによれば、生の果物は糖尿病のリスクを下げる。ところがフルーツジュースは、糖尿病のリスクを上げます。原材料は同じ果物なのに、答えが逆になる。
たとえば「野菜不足だから野菜ジュースを飲んでいます」という習慣。これは成分の発想です。食物繊維の構造が壊れ、糖が吸収されやすい形になった時点で、元の野菜とは別の食品になっています。
同じ発想は、サプリ全般に当てはまります。「足りない成分を足す」は直感的ですが、食品として摂ったときの効果とは切り離して考える必要があります。
根拠には「強さの段階」がある
ここで、もう一段深い話に入ります。
同じ「研究によると」でも、根拠の強さはまったく違います。津川さんはエビデンスの階層という考え方を紹介しています。
一番弱いのが、個人の体験談や専門家の意見です。次に観察研究。そして最も強いのが、ランダム化比較試験と、それを複数集めたメタアナリシスです。
なぜランダムに分けることが強いのか。教育経済学者の中室牧子さんと津川さんは『「原因と結果」の経済学』で、この点を丁寧に説明しています。
たとえば「メタボ健診を受けた人は長生きしている」というデータがあったとします。ここから「健診が寿命を延ばす」と結論できるでしょうか。
できません。健診を受ける人は、そもそも健康意識が高い可能性がある。運動もするし、食事も気をつけている。この「健康意識」が、健診と寿命の両方に効いている第3の変数かもしれない。
だから比較するときは、条件をそろえた2つのグループを作る必要があります。くじ引きで分ければ、健康意識も年齢も収入も、平均すれば両群で同じになる。そこで初めて、差の原因を絞り込めます。
実務的に言えば、こうです。「◯◯を続けたら調子が良くなった」という話は、どれだけ真剣に語られても、階層の一番下にいます。嘘だという意味ではありません。ただ、他の人にも効く根拠にはならない。
白いか、茶色いかで答えが変わる
エビデンスの強い研究が示す結論には、直感に反するものがあります。
炭水化物の話です。「炭水化物は太る」でも「炭水化物は必要」でもなく、津川さんの整理は「精製されているかどうか」で分かれます。
玄米、全粒粉、蕎麦のような茶色い炭水化物と、白米、うどん、白いパンのような白い炭水化物。この2つは、健康への影響が真逆になる。
具体的な数字も出ています。白米の摂取量が1日1杯増えるごとに、糖尿病のリスクが11%上がるというメタアナリシス。加工肉を1日50g摂取するごとに、大腸がんのリスクが18%上がるというWHOの報告。
食事以外でも、同じ構図が見られます。ムーギー・キムさんは『最強の健康法』で、50名を超える専門家の知見を別の医師が二重三重に確認するという方法で、健康情報を整理しています。そこで強調されるのも、日本の健康診断の基準値をそのまま信じないことや、がん治療では標準治療が最善であることなど、通説とずれる話でした。
ただし、注意も要ります。リスクが11%上がるというのは、確率の話であって、白米を食べた人が必ず糖尿病になるという意味ではありません。数字は判断の材料であって、判決ではないです。
明日からできること
行動に落とします。
誤解:健康にいい成分を足していけば、体は良くなる → 成分と食品は別物です。βカロテンのように、抜き出した瞬間に結果が逆になる例があります。
正しいアプローチ:我慢して減らすのではなく、置き換える → 津川さんが勧めるのは、量を減らすことではなく入れ替えです。白い炭水化物を茶色いものに。赤い肉を魚か鶏肉に。食べる量は変えなくていい。
もうひとつ、調べ方も変えられます。
津川さんは、日本語で検索して出てくる情報の質にはばらつきがあると指摘し、英語のキーワードにhealthとevidenceを足して検索し、Mayo ClinicやHarvardなど信頼できる機関の情報にあたることを勧めています。
今日からなら、次に気になる健康法を見つけたとき、ひとつだけ確かめてみてください。「これは体験談か、それとも比較した研究か」。
この1問で、多くの情報は選別できます。
なお、持病がある人や薬を飲んでいる人は、食事の大きな変更を自己判断でしないほうが安全です。ここに書いたのは一般的な傾向で、個別の診断や治療の代わりにはなりません。
おわりに
健康情報が多すぎて選べない、という感覚は正しいです。数が多いのではなく、強さの違うものが同じ棚に並んでいるから選べない。
成分から食品へ。体験談から比較へ。見る単位を変えるだけで、棚は整理されます。
正しさを覚えるより、根拠の強さを見分けるほうが、長く効きます。
この記事で参考にした本
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』津川友介 → 成分信仰の否定、エビデンスの階層、白い炭水化物と茶色い炭水化物の区別。健康情報の見取り図をくれた一冊。
『「原因と結果」の経済学』中室牧子、津川友介 → 相関と因果を分ける因果推論の入門。なぜランダム化比較試験が強い根拠になるのかがわかる。
『最強の健康法【病気にならない最先端科学編】』ムーギー・キム → 50名超の専門家の知見を複数の医師で検証する手法で、通説と食い違う健康常識を整理している。
合わせて読みたい
中室牧子×津川友介『「原因と結果」の経済学』で学ぶ、データに騙されない大人の思考法 このコラムの後半で使った因果推論の話を、正面から扱った記事です。健康以外の判断にも効きます。
『食べても太らず、免疫力がつく食事法』石黒成治|カロリーを減らしても痩せないのは、あなたのせいじゃない 「量を減らす」から「中身を入れ替える」へ発想を変えたい人へ。置き換えの実践編として読めます。
【薬を減らして健康になる】佐古田三郎『医者が教える長生きのコツ』から学ぶ、病院に頼らない現代養生訓 日々の食事と生活習慣から体調を立て直す視点。エビデンスと実践のバランスを取りたい人におすすめです。