会議が長いのは、司会が下手だからではない
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会社員が生涯で会議に費やす時間は、およそ3万時間。会社人生のおよそ4割にあたります。
コンサルタントの榊巻亮さんが『世界で一番やさしい会議の教科書』で示している数字です。
4割と聞くと、多くの人は「うちの会議は司会が悪い」と考えます。仕切りの上手い人が来れば短くなる、と。
ところが榊巻さんの主張は逆です。会議を変えるのに、高いスキルも才能もいらない。必要なのは、始め方のちょっとしたコツだけだと言います。
では、そのコツはどこにあるのか。
延びるのは「目的」ではなく「終了条件」がないから
多くの会議は、目的を書いています。「来期方針について」「進捗共有」。
榊巻さんが指摘するのは、目的を書いても会議は終わらない、ということです。代わりに問うべきなのは、こちらです。
「どういう状態になったら、この会議は終了と言えるのか」
終了条件。これを最初に置くと、会議の姿が変わります。
たとえば「新サービスの企画について」という会議。目的としては成立していますが、終わりが定義されていません。だから議論が広がるほど、終われなくなる。
これを「今日は3案のうち1案に絞り、担当と次の期限を決めたら終了」と書き換える。すると、絞り込みに関係ない議論は自然に脇へ寄ります。
面白いのは、これが司会でなくてもできることです。榊巻さんは、一参加者の立場から会議をリードする人を「隠れファシリテーター」と呼びます。
冒頭で「今日の終了条件を確認していいですか」と聞く。それだけで、進行役の設計不足を全員で補えます。
噛み合わないときは、話している階層がずれている
もうひとつ、会議が長引く典型があります。全員が真剣なのに、話が噛み合わない。
榊巻さんは、課題解決には5つの階層があると整理します。事象、問題、原因、施策、効果です。
事象は「起きている出来事」。問題は「そのうち何が困るのか」。原因は「なぜ起きているのか」。施策は「どうするか」。効果は「それでどうなるか」。
議論が噛み合わないときは、たいてい参加者が別々の階層にいます。
たとえば、解約率の会議。Aさんは「先月の解約が20件」という事象を話し、Bさんは「サポートの人員を増やそう」という施策を話し、Cさんは「そもそも解約は本当に問題なのか」という問題の定義を話している。
3人とも正しい。ただ、立っている段が違うので、いつまでも合流しません。
対処はシンプルで、下の階層まで戻ることです。「いま、事象の認識から揃えていいですか」と言う。上の階層で揉めているときほど、下がったほうが早く終わります。
そして、この階層のずれは口頭では見えません。だから書きます。榊巻さんは、議論をホワイトボードやA3用紙に書き出す「スクライブ」を勧めています。意見、論点、決定事項を書き分けるだけで、ずれが視覚化されます。
いきなりホワイトボードの前に立つのが気まずいなら、手元のA3に大きく書いて隣の人に見せるところからでいい、とも書かれています。
意見が出ないのは、参加者ではなく問いの側の問題
「意見が出ない」も、会議の悩みの定番です。
安斎勇樹さんは『問いかけの作法』で、ここに別の光を当てています。意見が出ないとき、多くの人は相手を責めるか、自分で答えを出してしまう。安斎さんはこれを孤軍奮闘の悪循環と呼びます。
見るべきは、自分の投げたパスが「取りにくいパス」になっていなかったか、です。
安斎さんは問いかけを、相手の未知数を照らすライトにたとえます。当て方を変えると、返ってくるものが変わる。
たとえば「昨晩、何を食べましたか」と聞けば、記憶が返ってきます。「これまでで最も豊かに感じられた食事は」と聞けば、価値観が返ってくる。同じ食事の話でも、照らす場所が違います。
会議で使いやすいのは、素人質問です。「初歩的な質問なのですが」と前置きして、前提そのものを聞く。ベテランほど言いにくいですが、ここで認識のずれが出ます。
もちろん、問いの技術だけで沈黙が消えるわけではありません。石井遼介さんは『心理的安全性のつくりかた』で、日本の組織の心理的安全性は「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」の4因子で構成されると整理しています。
つまり、話しやすさは4分の1です。残りは、発言したあとに何が返ってくるかで決まります。安斎さんが心理的安全性を「前提」ではなく「問いかけの結果として作られるもの」と捉え直しているのも、同じ方向を向いています。
明日からできること
誤解:会議を短くするには、仕切りの上手い人が必要だ → 進行技術より前に、終わりが定義されていないことが原因です。定義は参加者でも置けます。
正しいアプローチ:会議の冒頭30秒で、終了条件を確認する → 「今日は何が決まったら終わりですか」と聞くだけ。答えが出ないなら、その会議は設計されていません。
もうひとつ、終わりぎわの30秒も効きます。
「決まったこと」「誰が」「いつまでに」を口に出して確認し、そのまま3行のメールで共有する。榊巻さんが最初のステップとして勧めているのが、この確認です。
やることは少ないほうがいい。冒頭30秒と終わりの30秒。合わせて1分から始められます。
おわりに
会議が長いのは、参加者の意欲でも司会の腕でもなく、終わりが決まっていないからです。
3万時間の4割を動かすのに必要なのは、たった一言でした。
「今日は、何が決まったら終わりですか」
この記事で参考にした本
『世界で一番やさしい会議の教科書』榊巻亮 → 終了条件、スクライブ、課題解決の五階層、Prep。一参加者からできる会議改善の型が詰まっている。
『問いかけの作法』安斎勇樹 → 意見が出ないのは相手ではなく問いの側という視点。問いかけを「未知数を照らすライト」と捉え直す。
『心理的安全性のつくりかた』石井遼介 → 日本版の4因子(話しやすさ、助け合い、挑戦、新奇歓迎)。発言のしやすさが全体の一部でしかないことがわかる。
合わせて読みたい
『問いかけの作法』安斎勇樹さん|会議の沈黙は、あなたの質問が招いている このコラムの3つ目の知見を深掘りした記事です。問いの型を具体的に使いたい人へ。
『心理的安全性のつくりかた』石井遼介|「ヌルい職場」とは正反対の話だった 4因子と、行動にフォーカスするアプローチを扱った記事。発言が出ない原因を構造から見たい人におすすめです。
『恐れのない組織』エイミー・C・エドモンドソン|沈黙は、いちばん安全で、いちばん危険な選択 会議で誰も何も言わない状態が、組織にとって何を意味するのか。沈黙のコストを知りたい人へ。