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ブクドリ | BOOK DRIP

人が辞めるのは、辞める直前に決めていない

約4分で読めます リーダーシップ・組織
目次

退職の申し出は、いつも突然に見えます。

先週まで普通に働いていた人が、辞めますと言ってくる。何かあったのかと原因を探しても、決定的な出来事は見つかりません。

産業医の上村紀夫さんは『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』で、この見え方そのものを否定します。離職は一度の出来事ではなく、マイナス感情が積み上がった結果だ、と。

3万人以上の従業員面談と、年間1,000件以上の組織サーベイから出てきた見立てです。

申し出は決断ではなく、すでに終わっている決断の報告でした。

「働きやすくすれば辞めない」が、優秀な人を追い出す

本書でいちばん強い指摘は、良かれと思った施策が逆に効くという話です。

従業員500名のITサービス企業の例が出てきます。離職を過度に恐れた人事担当者が、全社一律でリモートワークやフレックス制など、働きやすさの改善施策を推進しました。

結果、2つのことが起きます。ぬるま湯の環境に満足した、モチベーションの低い層が滞留した。そして刺激や成長を重視する自律的な優秀人材が、ここにはいられないと幻滅して次々に辞めていきました。

働きやすさと働きがいは、別の軸です。前者だけを上げると、後者を求める人から順に抜けていきます。

本書はこの状態を、不満はあるが辞められない人が居座る組織と表現します。定着率だけを見ていると、これは成功に見えます。

満足度が高い組織が、活性化しているとは限らない

だとすると、従業員満足度という指標の読み方も変わります。

本書によれば、従業員満足度は主に働きやすさのスコアを強く反映します。だからやりがいがほとんどなくても、数値は高く出る。

満足度の高さを組織の健康と読み替えていると、地盤沈下を見落とします。

逆の例もあります。従業員30名の不動産会社は、営業成績に応じて多額の給与を払う成果主義を前面に出し、労働環境への配慮を怠りました。

良い成績を残して多額の報酬を得ていた優秀なメンバーが、心身がボロボロで長くはいられないと言って立て続けに辞め、営業利益も下落します。

働きがいだけでも、働きやすさだけでも、人は残りません。

全社一律の施策は、誰も救わない

ではどうするか。本書の答えは、対象を絞ることです。

キャリア研究者のドナルド・スーパーは、人が仕事に求める労働価値を14に分類しました。能力活用、達成、自律性、経済的報酬など、何に不満を抱きやすいかは人によって違います。

だから全社一律の施策は、誰のマイナス感情も救えない当たり障りのない状態を招きます。本書の言い方では、空振りです。

そして本書は、引き留めるべき対象についても定説を覆します。

普通は、最も優秀な10%を最優先で引き留めようとします。ただ、この層は求める価値観のばらつきが激しく個別対策が難しいうえ、転職もしやすい。

施策の効きがいちばん良いのは、その下のハイポテンシャル人材、つまり3〜5年後に優秀層になる中堅候補だと本書は書きます。組織全体の割合ではおよそ10%。新人のモデルにもなるので、レバレッジが効きます。

明日からできること

誤解:離職対策は、辞めそうな人に手を打つこと → 打つべきタイミングは、もっと前にあります。本書は入社3〜6か月後を、生活や環境の変化がメンタルに影響しやすい時期として挙げ、この時期の面談チェックを勧めています。

採用の段階から変えた例もあります。従業員250名のIT企業は、技術資格や能力を最重視する採用をしていたためストレス耐性の低い人材が多く入り、業務負荷が高くないのに不調者が続出していました。

100点だがストレス耐性の低い人材より、80点だがストレス耐性が低くない人材を優先する。方針を切り替えたところ、メンタル不調者の発生率は3分の1に減りました。

正しいアプローチ:耳の痛いことを、記録に基づいて早めに伝える → 中原淳さんの『フィードバック入門』には、外資系企業の人事部長の例が出てきます。3日で仕上げるべき仕事を3週間引き延ばした部下に対し、日頃の行動観察の記録をもとに、いつの案件でどれだけ引き延ばしたかを具体的に伝えました。

曖昧さがないので、部下は言い逃れができず、納得せざるを得なかった。感情ではなく記録が説得しています。

同書には、決断を遅らせた失敗も出てきます。降格対象の年上の部下について、配置転換を半年待ったところ、異動時に「なぜ半年前にしてくれなかったのか」と文句を言われ、怒りを増幅させた状態での異動になりました。

伝えないまま様子を見る時間は、たいてい状況を悪くします。

おわりに

辞める理由を本人に聞いても、たいてい本当のことは出てきません。決断はもう終わっているし、円満に去りたいからです。

聞くなら、辞めていない人に聞くしかない。しかも、全員にではなく、残ってほしい層に。

突然辞められたと感じたなら、それは見えていなかっただけでした。


この記事で参考にした本

『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』上村紀夫 → 離職をマイナス感情の蓄積として捉え、働きやすさと働きがいを分けて扱う。産業医の面談データに基づいた組織診断の書。

『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』中原淳 → 記録に基づいて具体的に伝える技術。伝えないまま様子を見ることのコストが、実例で書かれている。


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