頑張るほど、成果が遠ざかる
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「もっと努力すれば成果が出る」。この常識は、ある一線を超えると裏返ります。
グレッグ・マキューンは『エフォートレス思考』でこんな例を出しています。原稿を書くとき、最初の2時間で2ページ進む。では、さらに4時間頑張れば4ページ進むのか。実際は3ページしか進みませんでした。
努力の量と成果は、途中から比例しなくなる。経済学でいう収穫逓減です。ある点を超えた努力は、成果を増やすどころか、むしろ自分をすり減らします。
マキューンはこれを一言でこう言います。「頑張りすぎは、失敗のもとだ」。
そして問題は、その「難しさ」の多くを、私たちが自分でつくっていることにあります。
難しくしているのは、たいてい自分
大事な仕事ほど、私たちは身構えます。
完璧な資料をつくろうとする。手順を増やす。最初から全力で走り出す。この力みが消耗を生みます。消耗した状態は、続きません。
マキューンは、重要なクライアントへのプレゼン前夜に、資料を一から作り直した経験を書いています。徹夜で完璧を目指した結果、寝不足で頭が回らず、プレゼンは失敗し、契約を逃しました。
頑張ったのに、頑張ったからこそ、遠ざかった。
逆の例もあります。WNBAのエレナ・デレ・ダンは、子どもの頃に覚えたシンプルなフリースローの型を、考えすぎずに貫きました。足を合わせ、3回バウンドさせ、腕を伸ばす。それだけです。結果はキャリア通算93.4%という、リーグ史上でも屈指の成功率でした。
力を込めるほど当たるわけではない。むしろ、余計な力を抜いた型が精度を生みます。
背景には脳の事情もあります。人の脳は1日に約6000種類のことを考えると言われます。気がかりや不満は、その処理能力を静かに奪う。力めば力むほど頭のスペースは埋まり、肝心の一手が鈍ります。
「重要な仕事は苦しくて当然だ」という思い込みも根深いです。だから、わざわざ苦しいやり方を選ぶ。でも、大事なことほど簡単にやっていい。簡単なほうが続くし、続くから成果になります。
ここで一つ、区別が要ります。これは手を抜く話ではありません。重要な1%に力を集中し、それ以外の余計な手順を削る話です。方向は逆に見えて、狙いは同じ。「大事なことで、ちゃんと成果を出す」ことです。
力を抜くほど、成果が近づく理由
では、どこで力を抜けばいいのか。3冊の本に共通する打ち手は、3つに整理できます。
「もっと頑張る」の前に「もっと簡単に」を問う
困難にぶつかったとき、私たちは反射的に「どうやってやり遂げるか」と考えます。マキューンはこの問いを逆さにします。「どうすれば、もっと簡単になるだろう」。
たとえば大学職員のキム・ジェンキンスは、運営方針の変更で煩雑になった動画制作に悩んでいました。チームで何カ月もかかりそうな仕事です。彼女は教授に「学生にスマホで録画してもらっては」と提案します。数分の会話で片づきました。
たとえばスティーブ・ジョブズは、動画編集アプリ iDVD の開発で、1000ページに及ぶ取扱説明書の構想を捨てました。ホワイトボードに四角を1つ描き、「動画をドラッグして、作成ボタン。以上」とゼロから組み直す。余計な機能が消え、誰でも使えるアプリが残りました。
実務では、着手する前に一度だけ問う。「この難しさは、本当に必要な難しさか」。多くは、なくても回ります。
最初の一歩を、ばかばかしいほど軽くする
続かない原因は、意志の弱さではありません。最初の一歩が重すぎることです。
『がんばらない戦略』の川下和彦らは、「ばかばかしいくらい小さなことから始める」と言います。運動なら腹筋1回、勉強なら英単語10個。苦痛が出ないところまでハードルを下げる。すると意志の力を使わずに、行動の連続記録が始まります。
たとえばネットフリックスのリード・ヘイスティングスは、動画配信という壮大な構想の第一歩に、中古のCDを1枚買って自分宛てに郵送しました。まず「壊れずに届くか」だけを確かめる。大きなビジョンの入口が、封筒1枚です。
マキューンはこれを「ゼロドラフト」と呼びます。ゴミみたいな下書きでいいから、まず形にする。完璧主義の呪縛が、ここで解けます。
実務では、最初の一手を「10分で終わる大きさ」まで刻む。始めさえすれば、集中は後からついてきます。
意志ではなく、上限と仕組みで続ける
やる気はガソリンです。いつか切れます。だから、やる気が切れても回る設計にしておく。
『がんばらない戦略』は、意志の力を消耗品として扱います。だから服や朝食をルール化し、決断の回数そのものを減らす。「これをしたら、これをする」というトリガーを決め、条件反射で動けるようにする。
もう一つ効くのが「上限」です。私たちは下限(最低これだけやる)は決めますが、上限(これ以上はやらない)は決めません。
たとえば南極点レースのアムンセン隊は、天候にかかわらず1日15マイルだけ進むと決めました。調子がいい日も、それ以上は進まない。結果、隊員を消耗させず人類初の到達を果たします。無理を重ねたスコット隊は、全滅しました。
仕組みには、もう一つの効き目があります。一度つくった仕組みは、一度の努力で何度も成果を返す。マキューンはこれを累積的な成果と呼びます。毎回ゼロから気合いを入れ直す働き方から、放っておいても回る働き方へ。ここに、努力の複利が生まれます。
やりすぎない設計が、続ける力になります。実務では、良い日にこそブレーキを踏む。燃え尽きの多くは、絶好調の日に仕込まれます。
明日から、力を抜く場所を決める
頑張る量を増やす前に、力を抜く場所を決めます。3つだけ。
一つ。着手前に「どうすれば簡単になるか」を一度問う。「もっと頑張る」を、いったん保留にします。簡単にすること=手抜き、と思われがちです。でも簡単にするのは、余計な手順を捨てて本題に早く着くためです。
二つ。新しい習慣は、笑えるほど小さく始める。1ページ、1回、10分。ここで「最初から本気の量でやる」と決めると、たいてい3日で止まります。小さすぎるくらいでちょうどいい。
三つ。上限を決める。1日に進める量に天井をつくり、良い日ほど早めに切り上げる。頑張りたい衝動を我慢するほうが、結局は続きます。
ただし、これは万能ではありません。マキューン自身が認めるように、裁量の大きい仕事では効きますが、ノルマや時間で縛られた現場では、まず環境のほうを変える必要があります。
おわりに
努力そのものは、悪ではありません。問題は、努力を「難しさ」とセットにしてしまうことです。
いちばん簡単なやり方を探し、最初の一歩を軽くし、上限を決める。派手さはありません。でも、これが続きます。
成果を決めるのは、努力の総量ではなく、楽に続く設計です。
この記事で参考にした本
『エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する』グレッグ・マキューン → 頑張りすぎは失敗のもと。難しくしているのは自分だと気づかせ、簡単なやり方、軽い最初の一歩、上限の設計という順で成果の出し方を組み替える。
『がんばらない戦略 99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する方法』川下和彦、たむらようこ → 意志の力は消耗品。ばかばかしいほど小さく始め、ルール化とトリガーで行動を自動化する具体策が豊富。
『エッセンシャル思考』グレッグ・マキューン → より少なく、しかしより良く。重要な1%を選び残りを捨てるという、力を集中させる前提を与えてくれる。
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