「全力投球」が中途半端に終わるのは、まだ選んでいないから
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安さでも品質でも勝ちに行く。そんな「いいとこ取り」の戦略は、平均すると分が悪いようです。
2,351の事業を分析した2007年の研究の結論です。どちらか一方に振り切った事業が、両方を混ぜた事業を下回ったことは一度もなく、上回ることが多かったと報告されています。
全力で取り組んでいるのに、どれも突き抜けない。その原因は、努力の量よりもっと手前にあります。
「全部に力を入れる」は、まだ選んでいない状態
マーケターの音部大輔さんは『君は戦略を立てることができるか』で、戦略を「目的達成のための資源利用の指針」と定義しています。目的があり、資源が限られているから、戦略が要るわけです。
同書には「ダブルパンチ症候群」という言葉が出てきます。魅力的な選択肢が2つあるとき、両方を同時に展開してしまう状態です。
両手で殴れば2倍効きそうに見えます。でも、拳を支える体幹と足腰はひとつしかありません。音部さんはこう書いています。
ダブルパンチの根本的な問題は、両手に「集中」できないことではなく、右か左かを「選択」できていないことにあります。
ここに「全力投球なのに中途半端」の仕組みがあります。全力投球は実行の話で、中途半端は選択の話です。実行をいくら頑張っても、選択の不足は埋まりません。
同書は、間違った戦略を勤勉に実行することが最も被害を大きくするとまで述べています。では、選ばないまま全部に力を入れると、どこで損が出るのか。研究から見えてくる場所は3つあります。
混ぜた戦略は、平均すると振り切った戦略に届かない
経営学では1980年代から、低コストと差別化のどちらも中途半端に追う企業は「スタック・イン・ザ・ミドル(真ん中で身動きが取れない状態)」に陥ると言われてきました。
ただ、この定説には実証がなかなか追いつきませんでした。コリン・キャンベル=ハント氏が2000年に発表したメタ分析は、それまでの実証研究を束ねたうえで、戦略の型と業績の関係についての理論上の主張は「まだ支持されていない」と結論づけています。
これを受けて、スチュワート・ソーンヒル氏とロデリック・ホワイト氏は2007年、戦略の「純度」を測り方から見直しました。純度とは、ある事業が一方の基本戦略を、もう一方よりどれだけ強く追っているかの度合いです。
2,351の事業を分析すると、純度と業績のあいだに有意な関係が見つかりました。製造、建設、小売、対事業所サービスの4業種で関係の強さには差があったものの、純粋な戦略が混合型を下回った業種はなかったと報告しています。
正直に言うと、この2本を並べても「混ぜたら必ず負ける」とまでは言えません。測り方によって結論が揺れてきた論点です。
それでも、実務への示唆ははっきりしています。たとえば「低価格で高品質、しかも手厚いサポート」を掲げる会社は、価格で比べる客からも品質で比べる客からも、一番には選ばれにくくなるおそれがあります。
勝つ軸を1つ決め、もう一方は「負けない水準」にとどめる。平均的には、そのほうが分がいいわけです。
足した訴求は、本命の訴求を薄める
損が出る2つ目の場所は、顧客の頭の中です。
消費者心理学者のトム・メイヴィス氏とクリス・ジャニシェフスキー氏は2002年、製品の情報に明らかに無関係な情報を混ぜると何が起きるかを調べました。理屈の上では、無関係な情報は判断に影響しないはずです。
ところが実験では、無関係な情報が加わるだけで、「この製品は求めている効果をもたらす」という信念が一貫して弱まりました。しかもこの効果は、参加者が「その情報は無関係だ」と認めた後も残りました。
二人の説明はこうです。顧客は、欲しい効果を裏づける情報を選んで探している。そこに裏づけにならない情報が来ると、無関係なものであっても「裏づけなし」の側に分類してしまう。その結果、信念が薄まります。
この実験で使われたのは、明らかに無関係な情報です。別の顧客にとっては意味のある便益を足した場合にも同じ強さで起きるかは、この研究だけでは分かりません。ここから先は私の解釈です。
たとえば、乾燥肌に悩んで保湿を求めている人に、「保湿力も、香りも、環境配慮も、価格も」と並べた化粧水を見せるとします。香りや環境配慮は、その人にとって保湿の裏づけになりません。
全員に届くように足した言葉が、目の前の一人には本命の約束を弱めて聞こえるかもしれない。訴求を足す前に、「この一文は、相手が探している効果の裏づけになっているか」を確かめる価値はあります。
市場を広く取るほど、つながりの深さと稼ぐ力は細りやすい
3つ目は、事業の成績表です。
インディアナ大学のニール・モーガン氏とアイオワ大学のロポ・レゴ氏は2009年、消費者向け市場の大手上場企業72社について、1994年から2003年までの10年分のデータを分析しました。米国顧客満足度指数(ACSI)などを使い、ブランドの持ち方と業績の関係を調べた研究です。
目を引くのは、自社ブランドをより多くの市場区分(セグメント)で売っている企業の結果です。市場シェアは高い傾向がありました。
一方で、顧客のロイヤルティ、キャッシュフロー、株式市場での評価(トービンのq)は低く、キャッシュフローの変動は大きい傾向がありました。広く取りに行くと、量は増えても深さと稼ぐ力が細りやすいのです。
ただし、これは相関の分析です。広げたことが原因で業績が下がったとまでは言えません。著者ら自身も、ブランドの持ち方に「ひとつの簡単な答え」はなく、経営者はトレードオフに直面すると述べています。
この結果を見ると、「全部取る」という選択肢は、実際にはほとんど残っていないように思えます。シェアを取りに行けば、ロイヤルティや利益のどこかで支払いが生じる。何を取りに行き、何を支払うかを先に決める。それが「選ぶ」の中身です。
施策を並べる前に、選んだことを一文にする
誤解:有望な施策が2つあるなら、半分ずつ資源を配るのが安全 → これがダブルパンチ症候群です。体幹にあたる資源が割れ、どちらも決め手を欠きます。
正しいアプローチ:先に右か左かを選び、一文で書く → 音部さんは、戦略を「[いつ]までに、[収益目標]を達成するために、[再解釈した目的]を実現するべく、[活用すべき優勢な資源]に集中・注力する」という型で書くよう勧めています。この一文に入らない施策が、選ばなかったものです。
誤解:訴求は多いほど、刺さる相手が増える → 顧客が探している効果の裏づけにならない情報は、本命の訴求を薄める可能性があります。
正しいアプローチ:求められている効果を1つ決め、その裏づけにならない一文を削る → 商品ページや提案書の冒頭3行を読み、1行ずつ「その効果の裏づけになっているか」を判定します。
誤解:全部同時に始めれば、早く答えが出る → 同書はこれを「全砲門一斉開放症候群」と呼びます。すべてを一度に撃つと、どの弾が当たったのか分からず、次に活かせません。
正しいアプローチ:何が効いたか見分けられる形で打つ → 同書は、旧日本海軍が自艦の着弾を見分けるために、水柱に色が付く砲弾を使った例を紹介しています。施策にも「色」を付け、効果を分けて測れる順番で始めます。
5分でできる一歩もあります。いま進めている施策をすべて書き出し、それぞれ上の一文のどこに効くかを線で結んでみてください。どこにも結べない施策が、選ばずに続けているものです。
おわりに
全力投球しているのに中途半端だと感じたら、足りないのは力より、何を捨てるかの決定かもしれません。
選んだ瞬間に、同じ力が一か所に集まり始めます。
この記事で参考にした本
『君は戦略を立てることができるか』音部大輔さん → 戦略を「目的と資源」の2つで組み立て直し、ダブルパンチ症候群や全砲門一斉開放症候群といった、選ばないことの罠に名前を付けた一冊
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