「満足」と答えた客が、次も買うとは限らない
目次
5段階の満足度調査で「4 満足」をつけた客と、「5 非常に満足」をつけた客。どちらも満足している側なので、会社から見れば同じように安心していい客に見えます。
ところが米ゼロックスが事務機器の顧客を調べると、「非常に満足」の客が次の18か月でゼロックス製品を買い直す可能性は、「満足」の客の6倍でした。
1点の差で、6倍です。
満足度調査を続けている会社は多く、数字も悪くないことが多い。それでも再購入や売上がついてこないとき、疑うべきは客の気まぐれより、満足度という数字そのものの性質かもしれません。
満足と再購入は、比例して動かない
ゼロックスの発見を紹介したのは、トーマス・ジョーンズ氏とアール・サッサー氏が1995年にハーバード・ビジネス・レビューに書いた論文「なぜ満足した顧客は離れていくのか」です。
2人は、これが一社だけの偶然なのかを確かめるため、30社以上を調べ、自動車、法人向けパソコン、病院、航空、地域電話の5つの市場のデータを分析しました。結論は、競争が激しい市場ほど、「満足」と「完全に満足」の間でロイヤルティに大きな差が出る、というものです。自動車では、満足度が最上位から少し下がるだけで、ロイヤルティが大きく落ちていました。
つまり、満足と再購入の関係はまっすぐな直線になっていません。たとえば満足度の平均が3.8から4.0に上がっても、4をつける人が増えただけなら、再購入はほとんど動かない可能性があります。
ただし、この論文が主に測ったのは「また買うつもりか」という客自身の申告です。実際の購買で確かめた研究は、次の節で見ます。
中沢康彦さんの『星野リゾートの教科書』には、この考え方と重なる事例があります。星のや軽井沢は、スタッフが気づいた客の好みを集め、リピーターが来るときに個別のもてなしを用意する仕組みを作りました。
成果として書かれているのは平均点ではありません。満足度調査で「非常に満足」と答えた人の割合が35%から50%に伸び、リピーターの5割が1年以内に再び泊まるようになった、という数字です。
同書によれば、星野リゾートは顧客満足度を経常利益率と並べて目標にしています。すべての客を満足させようとするとコストが膨らみ、誰にとっても感動のない施設になるからです。満足度を追うことと、狙う客を絞ることが、セットになっています。
同じ「4点」でも、戻ってくる確率は人によって違う
満足度と実際の購買を突き合わせると、ずれはさらにはっきりします。
ヴィカス・ミッタル氏とワグナー・カマクラ氏は2001年、自動車の購入者10万40人のデータで、満足度の評価と、その後に実際に同じブランドを買い直したかを結びつけました。同じ満足度をつけた人でも、属性によって再購入率が系統的に違いました。人によって「この点数ならまた買う」という線の高さが違うわけです。同じ4点でも、中身は違います。
回答の癖も属性によって違い、あるグループでは満足度の評価と実際の再購入の相関がゼロでした。点数をいくら上げても、そのグループの再購入は読めません。
意向と行動の違いも出ています。満足度が上がるにつれて「また買うつもり」の伸びは鈍っていく一方、実際の再購入は満足度の上のほうほど伸び方が大きくなっていました。
キャスリーン・サイダース氏らの2005年の研究は、小売の顧客を対象に、同じ分析を「また買うつもりか」というアンケートの答えと、実際の購買記録の両方で行いました。実際の購買で見ると、満足の効き方は、買いに行く便利さ、競合の多さ、その買い物への関心の強さ、世帯年収によって変わりました。アンケートの答えで見た結果とは、はっきり違っていたと報告しています。
たとえば、満足しているけれど店が遠い客は、近所の競合で済ませるかもしれません。満足度調査は、この事情を拾いません。
土台には、測り方の問題もあります。ロバート・ピーターソン氏とウィリアム・ウィルソン氏は1992年の論文で、満足度の自己申告はほぼ例外なく高い側に偏り、好意的に答える傾向を帯びると指摘しました。ジョーンズ氏とサッサー氏も、品質がそこそこの会社の客は満足度調査で否定的に答えにくく、回答が目盛りの上のほうに集まると書いています。
逆向きのずれもあります。2人の調査で、地域電話の客はどれだけ不満でも離れませんでした。ほかに選択肢がなかったからです。2人はこれを見せかけのロイヤルティと呼び、規制緩和や代わりの技術の登場で縛りが外れると、客は驚くほど短い期間で離れうると警告しています。満足度が低いのに売上が保たれているなら、その数字が表しているのは商品の強さより、縛りの強さかもしれません。
「成長を予測するたった一つの数字」は、あるのか
満足度が当てにならないなら、別の質問に替えればいい。そう考えた答えのひとつが、NPS(ネット・プロモーター・スコア)です。
NPSは「この会社を友人や同僚に薦める可能性はどれくらいですか」を0から10で聞き、9〜10の推奨者の割合から0〜6の批判者の割合を引いた数字です。提唱者のフレデリック・ライクヘルド氏は2003年、ハーバード・ビジネス・レビューでこれを「成長に必要なたった一つの数字」として発表しました。
マーク・ジェフリー氏の『データ・ドリブン・マーケティング』も、推奨意向で測る顧客満足度を「黄金の指標」と呼び、売上と同じくらい重視すべきだと書いています。薦めたいかどうかを満足の代わりに聞くやり方は、実務で広く受け入れられてきました。
検証の結果は、割れています。ティモシー・ケイニンガム氏らは2007年、ノルウェーの顧客満足度調査に参加した21社、1万5,500件を超える面接のデータで、ライクヘルド氏の分析をなぞりました。NPSが他の指標より「明らかに優れている」という主張は、再現できませんでした。
エバート・デ・ハーン氏らの2015年の研究は、もう少し細かい答えを出しています。オランダの18業種93社の客6,649人に満足度や推奨意向を聞き、2年後に同じ会社の客であり続けているかを尋ねました。
継続をいちばんよく言い当てたのは、7段階の満足度で上の2つ(6か7)をつけた人の割合で、NPSがほぼ互角で続きました。一方で、どの指標が最も当たるかは業種によって違い、複数の指標を組み合わせると予測はさらに良くなりました。
この研究は、測り方への注意も残しています。推奨意向の高い人ほど、2年後の追跡調査にも答えやすかった。同じ人を追い続ける調査では、NPSは時間とともに上振れしやすくなります。
西口一希さんの『ブランディングの誤解』は、NPSにさらに厳しい数字を示しています。6カテゴリー54ブランドで比べると、NPSと1年後の金額シェアの相関は0.276で、比べた指標の中で最も低かった。西口さんが提唱する次回購入意向(NPI)は0.713でした。
既存客の買い物のうち自社が占める割合との相関でも、NPSの0.154に対し、既存客の次回購入意向は0.653でした。
ただ、これは指標の提唱者自身が関わる調査で、査読を経た論文ではありません。研究と本を並べて読むと、どの業種でも売上を言い当てる一つの数字は、まだ見つかっていません。人に薦めたい気持ちと、自分がまた買うことは、別の行動です。
満足度の欄を、行動と結びつけ直す
満足度調査をやめる必要はありません。変えるのは、数字の読み方です。
誤解:平均満足度が上がれば、再購入も売上もついてくる → 再購入が大きく動くのは、最上位の評価のところです。平均点より「非常に満足」の割合を報告の見出しに置きます。
正しいアプローチ:満足度を、同じ客のその後の購買と突き合わせる → 「また買うつもり」という答えは、実際の行動とずれます。回答者の顧客IDと購買データをつなぎ、点数ごとの実際の再購入率を出します。属性で分けると、同じ4点でも戻ってくる層と戻ってこない層が見えてきます。
正しいアプローチ:満足、推奨、次回購入意向を並べて、自社で当たるものを残す → どの指標が効くかは業種で変わります。過去の調査と購買データがあれば、どの質問がその後の継続をよく言い当てたかを確かめられます。当たったものを2〜3個残し、一つの数字に目標を集めないようにします。
5分でできることもあります。直近の満足度調査で、最上位をつけた客と、その1つ下をつけた客を10人ずつ選び、その後に買い直したかを見比べてください。たとえば差がほとんどなければ、その調査は再購入を予測していません。差が大きければ、追うべき数字は最上位の割合です。
おわりに
満足度は、過去の体験をどう感じたかを聞く質問です。売上を決めるのは、その客が次にまた財布を開くかどうかです。2つの間には、客の事情、競合の多さ、回答の癖が挟まっています。
満足度が高いのに売上が動かないときは、数字を上げる前に、その数字が一度でも客の次の行動を言い当てたことがあるかを確かめてみてください。
この記事で参考にした本
『ブランディングの誤解』西口一希 → NPSは将来の市場シェアとの相関が低く、次回購入意向(NPI)のほうが事業成長の先行指標になるというデータ
『星野リゾートの教科書』中沢康彦 → 「非常に満足」の割合を追い、満足度を利益率と並べて目標にする運営の事例
『データ・ドリブン・マーケティング』マーク・ジェフリー → 推奨意向で測る顧客満足度を「黄金の指標」とする、実務で広く受け入れられてきた立場
合わせて読みたい
『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』高野登|「満足」の先に、まだ二段ある 「満足」で止まらず、その先の体験をどう作るかを現場の実例で描いた一冊です。最上位の評価が再購入を分けるという本記事の話を、サービスの作り手の側から読めます。
平均値の罠:平均は、誰もいない場所を指すことがある 満足度の平均点が隠してしまう分布の偏りを扱ったコラムです。平均より最上位の割合を見るという話を、ほかの数字にも広げられます。
『実践 顧客起点マーケティング』西口一希さん|平均を見ても、人の心は動かせない アンケートの集計より、一人の顧客の具体的な行動と心理から考える方法をまとめた一冊です。点数の裏で客が実際に何をしているかを確かめるときの手がかりになります。