「聴いてるつもり」かどうかは、話し手が決めている
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聴けていたかどうかの採点表は、聴いた本人の手元にはありません。
たとえば1on1で、部下が取引先とのトラブルを30分話したとします。あなたは一度も遮らず、うなずき、「なるほど」と相づちを打った。自分では、今日はよく聴けたと思っています。
ところが部下は面談のあと、同僚にこうこぼしている。「話したけど、聞いてもらえた感じはしなかった」。
どちらかが嘘をついているわけではありません。聴き手は自分の努力で採点し、話し手は自分が受け取ったもので採点している。2つの物差しがずれたところに、「聴いてるつもり」が生まれます。
研究者も「聴く力」を話し手の評価で測っている
ヘブライ大学の組織心理学者アブラハム・クルーガー氏らは2023年、職場での傾聴と仕事の成果の関係を調べた研究をまとめて分析しました。対象は122本の論文、144のサンプル、約40万件の観測です。
この分析で目を引くのは、「聴く」の定義です。著者らが扱ったのは、話し手が「この人は自分の話に関心を持ち、きちんと反応してくれた」と評価した度合いでした。聴き手が自分の聴き方をどう思っているかは、主役ではありません。
理由も書かれています。客が買うかどうかは、営業担当が自分の聞き方をどう思っているかより、客がその聞き方をどう受け取ったかで決まりやすいはずだ、というものです。
結果、話し手が感じた傾聴の質は、信頼などの関係の質や仕事ぶりを含む成果と、著者らが「強い」と表現する相関を示しました。相関係数は全体で0.39、関係の質に限ると0.51です。
ただし、この数字には注意が要ります。元の研究の75%はアンケートの自己申告に頼っていて、同じ人が「よく聴いてもらえた」と「関係は良好だ」の両方に答えると、相関は膨らみやすい。
自己申告だけのデータを除くと、仕事ぶりとの相関は0.21まで下がります。それでもゼロにはなりませんでした。また相関なので、よく聴くから成果が出るのか、うまくいっている職場だから聴けるのかは、この分析だけでは切り分けられません。
臨床心理士の東畑開人さんは『聞く技術 聞いてもらう技術』で、「ちゃんと聞いて」という訴えの中身を「言っていることを真に受けてほしい」と書いています。話し手が欲しいのは、言葉がそのまま受け取られたという手応えです。相づちの回数は、その代わりになりません。
上の空は、第三者より先に話し手が気づく
では話し手は、何を手がかりに「聴いてもらえていない」と感じるのでしょうか。
カナダのヴィクトリア大学の心理学者ジャネット・バヴェラス氏らは2000年、2つの実験で初対面の63組に、自分の「ヒヤリとした体験」を相手に話してもらいました。聴き手の一部には、話の中身から注意をそらす別の課題を与えています。話に出てくる「t」で始まる単語を数える、といった課題です。
バヴェラス氏らは、聴き手の反応を2種類に分けました。うなずきや「うん」のように、どの話にも使える汎用的な反応。そして顔をしかめる、思わず声を上げるといった、いま語られている場面に結びついた具体的な反応です。
気をそらされた聴き手は反応が減り、特に具体的な反応が減りました。そして、第三者が採点した話し手の語りの出来も、はっきり落ちました。落差が大きかったのは、本来いちばん盛り上がるはずの結末の部分です。
ただ、この結果には続きがあります。2024年にフィンランドの研究チームが、手順を事前に登録したうえで42組に同じ実験を試したところ、語りが下手になるという結果は再現されませんでした。
一方で、気をそらされた相手に話した人は、そうでない人より気持ちが張りつめていた(覚醒度が高かった)と答えています。録画を見た第三者には聴き手の反応の差がはっきり見えなかったのに、その場の話し手は相手の上の空を感じ取っていた、と著者らは考察しています。
語りの質まで落ちるかは、まだ決着していません。それでも、話し手が聴き手の注意の抜けを敏感に拾うことは、両方の研究から読み取れます。うなずきが続いていても、場面に合った反応が消えれば、話し手には伝わってしまう。
東畑さんが聞く技術の小手先として挙げるものに、「眉毛にしゃべらせよう」があります。表情で大きめに反応する、という助言です。バヴェラス氏らのいう具体的な反応に近いものだと私は読んでいます。
言い換えるだけでは、「わかってもらえた」にならない
傾聴の研修でよく教わるのが、相手の言葉を言い換えて返す技法です。これが話し手に何を起こすかを確かめた実験があります。
コミュニケーション研究者のハリー・ウェガー氏らは2010年、大学生180人が試験制度について意見を話す面接で、聴き手の返し方を2通りに分けました。言い換えて返すか、簡単に受け止めるだけか。
言い換えられた人は、聴き手に好感を持ちました。ところが「理解してもらえた」という感覚や会話の満足度には、差が出ませんでした。言い換えで上がったのは、聴き手の印象のほうだったわけです。
同じグループは2014年、115人を対象に3つの応答を比べています。言い換えに加えて必要に応じて詳しく尋ねる応答、助言、簡単な受け止めです。「理解してもらえた」と最も強く感じたのは、言い換えと質問を組み合わせた応答を受けた人でした。助言を受けた人は、満足度では並んだものの、理解された感覚では及びませんでした。
2つの実験は条件が違うので、単純には比べられません。ただ、言い換えを型として返すだけでは足りず、その先の話を求めたかどうかが受け取り方を分けた可能性はあります。
クルーガー氏らは2022年のレビュー論文で、「アクティブリスニング」という言葉を使わないと書いています。企業に広まる過程で言い換えなどの技法の寄せ集めになり、提唱者カール・ロジャーズの意図から離れたからです。ロジャーズ自身、相手を理解しようとする態度に支えられない技法は効かないと警告していました。
リーダー育成家の林健太郎さんは『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか』で、部下の話を聞く目的は問題解決ではないと書き、助言に移るときは「私の意見を言ってもいいかな?」と許可を取るよう勧めています。
頼まれていない助言は、クルーガー氏らが2023年の分析で「聴いていない」と受け取られやすい合図として挙げるものの一つです。同じ列には、話題を変える、スマートフォンを見る、も並んでいます。
自分の採点を脇に置いて、相手の採点を取りにいく
誤解:うなずきと「なるほど」を増やせば、聴いていることは伝わる → 汎用的な相づちは、上の空でも出せます。話の山場で、その場面にしか使えない反応を1つ返してください。たとえば「それ、納期の前日だったんですか」。
誤解:言い換えて返せば、理解したことになる → 言い換えたら、その先を1つ尋ねます。「それで、先方は何と?」「いちばん困ったのはどこでした?」。言い換えは、まだ続きを聞きたいと知らせる入口として使います。
誤解:助言は、話を聴き終えたあとなら言っていい → 助言したくなったら、口に出す前に「ひとつ意見を言ってもいいですか」と聞く。いらないと言われたら、聴くほうに戻ります。
5分でできることも1つあります。次の面談の前に、スマートフォンを鞄にしまい、ノートPCを閉じてください。聴き手の注意がどこにあるかを、話し手は第三者よりも敏感に拾っています。
おわりに
聴けたかどうかは、自己採点ができません。点数を知っているのは、話した側だけです。
次の1on1の終わりに、「今日、話しにくいところはありませんでしたか」と一言たずねてみてください。返ってきた答えが、あなたの本当の点数に近いはずです。
この記事で参考にした本
『聞く技術 聞いてもらう技術』東畑開人 → 「ちゃんと聞いて」の中身は「真に受けてほしい」だという指摘と、表情で反応する「眉毛にしゃべらせよう」などの小手先
『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか』林健太郎 → 部下の話を聞く目的は問題解決ではないという視点と、助言の前に許可を取る手順
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