情報が多いほど判断を誤るのは、同じ話を何度も数えるから
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転職を考えている会社の評判を調べたとします。口コミサイトに「残業が少ない」とある。まとめ記事にも、SNSの投稿にも、知人から回ってきた話にも、同じことが書いてある。4か所で同じ評価なら、まず間違いないと感じます。
でも、その4つがすべて、口コミサイトの同じ1件の投稿を元にしていたらどうでしょう。読んだ情報は4つでも、証拠は1つしかありません。
情報を集めるほど判断がぶれる理由は、いくつも指摘されてきました。この記事で見るのはそのうちの一つ、同じ話を別々の証拠として数えてしまう仕組みです。
情報を足すと、自信は正確さより大きく伸びる
クレア・ツァイ氏、ジョシュア・クレイマン氏、リード・ヘイスティ氏は2008年、判断に役立つ情報を追加で渡すと、判断の自信と正確さがどう変わるかを3つの研究で調べました。情報が増えると、自信は正確さよりも大きく伸び、両者のずれがはっきり開きました。
著者らは、人は追加の情報をうまく使いこなせないという自分の限界を、自信の見積もりに織り込んでいないと解釈しています。
では、使いこなせない情報で、なぜ自信だけが上がるのでしょうか。
ダニエル・カーネマン氏は『ファスト&スロー』で、直感的な判断を担うシステム1は情報の量や信頼性を考慮せず、手元の材料だけでつじつまの合う話を組み立てると書いています。自信を支えているのは、話のつじつまです。
そして、つじつまを最も手軽に高めるのが、同じ話の繰り返しです。4つの情報源が同じことを言えば、話はきれいにそろいます。ただ、そろっている理由が「元が同じだから」なら、確かさは少しも増えていません。
重なった情報を、人は別々の証拠として数える
ベンジャミン・エンケ氏とフロリアン・ツィンマーマン氏は、この二重計上を実験で確かめ、2019年に経済学誌『Review of Economic Studies』で報告しました。
参加者の課題は、ある数値を推定することです。手がかりは、4台のコンピュータAからDが出す、偏りのない推定値です。4つを平均すれば、最も妥当な答えになります。
一方のグループは、4台の値をそのまま受け取ります。たとえば12、9、10、0です。もう一方のグループが受け取るのは、Aの値12と、「AとB」「AとC」「AとD」それぞれの平均である10.5、11、6の4つです。Aの値はわかっているので、計算を戻せば元の4つを取り出せます。
合理的な推定は、どちらのグループでも7.75です。ところが、後者の4つの数字をそのまま平均すると9.88になります。Aの12が、4つの数字すべてに入り込んでいるからです。
著者らはこの構造を、通信社と新聞社にたとえています。Aが通信社で、BからDは各紙の独自取材です。各紙は独自の情報も持ちながら、同じ通信社の配信を混ぜて記事にする。読み手は3紙を読み比べたつもりでも、通信社の情報を3回読んでいることになります。友人3人が、それぞれ同じ共通の知人と話したあとで意見をくれる場合も同じ形です。
参加者は仕組みの説明を詳しく受け、理解を確かめる確認問題にすべて正解してから課題に進みました。推定が正確なほど報酬も増えます。それでも平均すると、重なった情報を部分的に独立した証拠として扱い、Aの値を二重に数えていました。
内訳を見ると、参加者はおおむね2つに分かれました。重なりをきちんと処理できた人と、ほとんど処理しなかった人です。後者の多くは、受け取った数字をそのまま平均していました。報酬を3倍にした条件も試されましたが、考える時間と推定の関係は弱いものでした。
情報が増えるほど、重なりは見えなくなる
この実験で目を引くのは、偏りがどんなときに消えたかです。
手がかりを2つに減らした簡単な版では、二重計上はほぼ消えました。必要な計算は同じまま、受け取るメッセージの数だけを増やすと、偏りははっきり増えました。著者らは、つまずきの原因は計算力より、重なりに気づいて筋道を立てられるかどうかにあると結論づけています。
情報が多いほど判断が甘くなる理由の一つが、ここにあります。材料が増えると、どれとどれが同じ元から来ているかを追いきれなくなるのです。
職場でも同じ形はよく現れます。たとえば会議で「営業からも、サポートからも、開発からも、同じ不具合の指摘が来ています」と報告されたとします。3部署が別々に見つけたのなら、深刻な問題の可能性が高い。けれど、1社の顧客のクレームが3部署に転送されただけなら、材料は1件です。報告が3行に分かれていると、その違いは見えにくくなります。
偏りが消えた条件はもう一つあります。重なりのある組とない組の両方を同じ人に見せ、違いに目が向くようにすると、大半の参加者が合理的な推定を示しました。
対照的なのが、この論文の初期版(2013年の討議論文)に載っている新聞記事の実験です。参加者は、2012年のドイツの経済成長率を予想しました。複数の研究所による共同予測は0.9%。別の記事では、ある研究所が1.3%と予測していました。この研究所は共同予測にも参加しているので、1.3%はすでに0.9%に織り込まれた情報です。
共同予測の記事だけを読んだグループの中央値は0.82%でした。2本とも読んだグループは、それより0.28ポイント高くなりました。記事の末尾に「1.3%の研究所は共同予測にも参加している」と要約を添えても、中央値は1.1%のままでした。
重なりを注意書きで知らされても、推定は動かない。重なりのない形と並べて見比べると、動く。これは2つの実験を並べた私の読みですが、実務の手がかりにはなると考えています。
情報は件数より「出どころ」で数える
誤解:同じことを言う情報源が多いほど、確かさは増す → 同じ元から出た情報は、何件集めても証拠1件分です。そろって見えるぶん、自信だけが上がります。
正しいアプローチ:根拠ごとに出どころを書き、元の数で数え直す → 実験で偏りを消したのは、重なりのない形と並べて見比べることでした。紙の上で同じことをします。
具体的には、次の2つです。
1つ目は、判断の根拠を書き出し、それぞれの横に「元は誰か」を書くことです。たとえば冒頭の転職の例なら、口コミサイト、まとめ記事、SNS、知人の話を並べ、同じ投稿に行き着くものを線で結びます。4件が1本にまとまったら、根拠は1つと数え直します。
2つ目は、追加で調べるときに、経路の違う情報を取りに行くことです。鈴木進介さんは『ノイズに振り回されない情報活用力』で、「どんな情報か」と並べて「誰の情報か」を見るよう勧めています。話を聞く相手も、友人や取引先、異業種の知人、専門家と、距離の違う3タイプに分けて、似た意見に偏らないようにする。
同じ検索語で10件目の記事を読んでも、元が同じなら証拠は増えません。立場の違う人に1人聞けば、独立した証拠が1つ増える可能性があります。
今日5分でできることもあります。いま迷っている判断を1つ選び、根拠を箇条書きにして、出どころの数を数えてみてください。根拠が5つあるのに出どころが2つなら、あなたの自信は、たぶん5つ分の大きさになっています。
おわりに
判断を静かに狂わせるのは、情報の多さそのものより、同じ話の多さです。次に「どこを見ても同じことが書いてある」と感じたら、それが確かさの証拠なのか、元が1つしかない証拠なのか、出どころをたどって確かめてみてください。
この記事で参考にした本
『ファスト&スロー(上)』ダニエル・カーネマン氏 → システム1は情報の量や信頼性を考慮せず、手元の材料でつじつまの合う話を作る。自信を支えるのは話の一貫性
『ノイズに振り回されない情報活用力』鈴木進介さん → 「どんな情報か」と並べて「誰の情報か」を見る。距離の違う3タイプの人に聞き、似た意見への偏りを避ける
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