「自分の頭で考えろ」を守りすぎると、判断を外す
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他人の答えを見せられても、人は自分の答えを3割ほどしか動かしません。しかも、機械的に真ん中を取ったほうが、たいてい正確でした。
「自分の頭で考えろ」。職場で一度は言われる言葉です。19世紀の哲学者ショーペンハウアーも『読書について』で、他人の考えをなぞるだけの読書を戒め、自分の頭で考えることを説きました。
この教えそのものは正しい。ただ、実際の判断の場面では「人の意見に頼らず決めろ」と受け取られがちです。そう受け取ったところから、判断の精度は落ち始めます。
「自分の頭で考える」と「一人で決める」は別のもの
ショーペンハウアーが批判したのは、他人の意見を鵜呑みにすることでした。手元の知識を総合し、ある考えを別の考えと突き合わせて判断する。それが彼の言う「自分の頭で考える」です。
ちきりんさんの『自分のアタマで考えよう』も、同じ順番を勧めています。すぐに検索して誰かの意見を探す前に、稚拙でもいいから自分なりの結論を出す。そのうえで、過去と比べる「縦」と、他者と比べる「横」の比較にかける。
どちらも、他人の頭を使うなとは言っていません。戒めているのは、自分の答えを持たないまま他人の答えに乗ることです。
ところが「自分の頭で考えろ」は、いつのまにか「自分の答えを守れ」にすり替わりやすい言葉です。そこに、人間の強い癖が重なります。
人は、他人の意見を3割ほどしか使わない
ヘブライ大学のイラン・ヤニフ氏らが2000年に報告した実験があります。大学生25人に、過去300年の歴史上の出来事が何年に起きたかを15問推定してもらいます。次に同じ問題を別の学生の推定値と並べて見せ、もう一度答えてもらう。正確なほど報酬が増える仕組みです。
最終回答に占める「自分の最初の答え」の重みは、平均0.71でした。他人の答えへは3割ほどしか寄っていません。参加者と助言者の正確さは、ほぼ同じだったにもかかわらずです。
2つ目の実験(80人)はもっと極端です。以前の参加者50人の中で最も正確だった人の推定を助言として渡しても、参加者はそれを自分の答えとほぼ半々にしか扱いませんでした。その助言者は、この実験の参加者の98%より正確だったのにです。
一つの実験だけの話でもありません。2022年に129のデータセット(計1万7296人)をまとめたメタ分析では、助言者について特に情報がないとき、人は自分の推定を平均37%しか助言側へ動かしていませんでした。
割り引く理由について、ヤニフ氏らの説明はシンプルです。最初の答えには、そう考えた理由が頭の中に見えている。他人の答えは数字だけが届き、理由が見えない。見えている理由のほうが重く感じられるんです。
たとえば、新しい案件の工数を自分は20日と見積もり、同僚は30日と言ったとします。自分には「似た案件が20日で終わった」という根拠が見えていて、同僚の根拠は見えない。だから22日あたりに落ち着く。典型的な動き方です。
迷ったら、足して2で割るほうが当たる
では、どう扱えばいいのか。答えは拍子抜けするほど単純です。
デューク大学のリチャード・ラリック氏とINSEADのジャック・ソル氏は、平均の効果を「挟み込み」で説明しています。正解が73のとき、60と80と答えた2人は13と7外れます。ところが2人の平均の70は、3しか外れません。答えが正解の両側に分かれると、誤差が打ち消し合うからです。
2人の誤差に偏りがなく、実力も同じくらいなら、挟み込みは半分の問題で起きます。このとき平均を取ると、精度はおよそ29%上がると2人は試算しています。
ところが、人はこれを信じません。MBAの学生145人に尋ねた実験では、57%が「平均しても、2人の平均的な成績と変わらない」と答えました。25校の卒業生の給与を推定させた別の実験では、参加者は自己流の修正で誤差を10%減らしましたが、毎回平均していれば16%減らせていました。約半分の場面で、どちらか一方の答えを丸ごと採用していたからです。
マシュー・サイド氏は『多様性の科学』で、集団の予測が当たる理由を、正しい情報は積み重なり、間違った情報は互いに相殺し合うからだと説明しています。同じことは2人でも起きます。
ただし、平均が常に最善とは限りません。ソル氏とラリック氏も、実力差がはっきりしていて見分けやすい場合や、2人が同じ偏りを共有している場合は、良いほうを選ぶべきだとしています。
もう一つ、見落としやすい条件があります。平均が効くのは、2人の誤りが別々の方向を向いているときです。相手の答えを先に聞くと、自分の答えが相手に引き寄せられ、打ち消し合う余地が減ります。
スイスの学生144人の実験(ローレンツ氏ら、2011年)では、他の人の推定を見せると答えのばらつきが縮み、集団の精度は上がらないまま自信だけが上がりました。一方で、情報交換によって集団の精度が上がる条件を示した研究(ベッカー氏ら、2017年)もあり、聞くこと自体が悪いわけではありません。
要するに、「自分の頭で考える」ことの価値は、独立した一票を用意できる点にあります。その一票は、他人の一票と混ぜたときに力を発揮します。
相手がいないときは、自分の中にもう一人を置く
相談できる相手がいないときのために、自分の答えを2回出して平均する方法も研究されています。
バーゼル大学のシュテファン・ヘルツォーク氏とラルフ・ヘルトヴィッヒ氏は2009年、同大学の学生101人に歴史上の出来事40件の年を推定させました。半数には「最初の答えが外れているとしたら、なぜか」を考えてから2つ目の答えを出してもらいます。2つを平均すると、誤差は平均4.1ポイント減りました。単に答え直した群では0.3ポイントでした。
ただし、この比較には異論もあります。別の指標で分析し直すと両群の差は消えたという再分析が2013年に出ていて、「反対を考える」手順の上乗せ分は確定していません。
はっきりしているのは、他人に聞くほうが効くことです。同じ研究でも、別の参加者の答えと平均すると7.1ポイント改善しました。オランダのカジノの推定コンテスト120万件を分析した研究(ファン・ドルダー氏ら、2018年)でも、同じ人の答えを何回平均しても、別々の2人の答えの平均をわずかに上回る程度でした。頭の中の「もう一人」は、本人と同じ癖を持っているからです。
それでも、時間を空けると効き目は増します。この研究では、同時に出した2つの答えの平均で16〜18%だった改善が、5週間以上空けると約30%になりました。一晩置いて考え直すことには、統計的な裏付けがあります。
自分の頭を、正しい順番で使う
誤解:自分の頭で考える=人に聞かずに決める → まず自分の答えを紙に書き、そのあとで1〜2人に聞きます。書く前に聞くと、自分の一票が相手に寄ってしまいます。
誤解:聞くときは、自分の案を見せて意見をもらう → 手元の数字や案は伏せて、相手の答えを先にもらいます。独立した答えを2つそろえるのが目的です。
誤解:意見が割れたら、どちらが正しいかを選ぶ → 実力差がはっきりしない限り、真ん中から検討を始めます。20日と30日なら、まず25日を置き、そこから根拠で動かします。
5分で始められることもあります。いま抱えている見積もりか予測を一つ選び、「最初の答えが外れているとしたら、なぜか」を3つ書いて、2つ目の答えを出す。翌朝もう一度見て、2つを平均する。聞ける相手がいるなら、そちらを優先してください。
おわりに
「自分の頭で考えろ」は、手順の前半です。そこで出した答えは、他人の答えと混ぜる一票として使ったときに、いちばん役に立ちます。
次に誰かの意見が自分と違ったら、どちらが正しいかを決める前に、足して2で割った数字を一度だけ眺めてみてください。
この記事で参考にした本
『自分のアタマで考えよう――知識にだまされない思考の技術』ちきりん → 検索する前に稚拙でも自分の結論を出し、そのうえで縦と横に比べるという順番
『読書について』ショーペンハウアー → 「自分の頭で考える」が戒めたのは、他人の意見の鵜呑みだったこと
『多様性の科学』マシュー・サイド → 違う視点の予測を集めると、誤りが相殺し合って精度が上がる仕組み
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