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ブクドリ | BOOK DRIP

引き算の問題解決は、複雑になるまで浮かばない

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約6分で読めます 思考法・問題解決
目次

ブロックを1個外せば済む課題で、6割近くの人がその答えにたどり着きませんでした。

2021年に Nature 誌に載った実験です。バージニア大学のガブリエル・アダムス氏やライディ・クロッツ氏らは、大学の構内を通りがかった197人に、レゴの構造物の改良を頼みました。上の台が角の1本の柱だけで支えられていて、そこにれんがを載せられるようにする課題です。

柱を足して補強してもいいし、角の1本を外して台を下の段にじかに載せてもかまいません。成功すれば1ドルがもらえ、ブロックを足すたびに10セントかかります。一番得なのは、外すことでした。

それでも、指示に「外すのは無料」と書かれていない条件では、ブロックの総数を減らした人は41%にとどまりました。

問題が起きると、人は何かを足して解こうとします。ツール、手順、確認のステップ、機能。問題は残ったまま、仕組みだけが複雑になっていく。この偏りがどこで生まれるのかを、実験と追試から見ていきます。

引き算の案は、並べて見せれば選ばれる

同じ実験で、指示に「外すのは無料」と一文を足すと、減らした人は61%に増えました。外すという選択肢を思い出させるだけで、答えが変わったのです。

では、減らさなかった人たちは、外す案を思いついたうえで「足すほうが良い」と判断したのでしょうか。研究チームはこれを別の調査で確かめています。

大学生210人にオンラインで同じ課題を見せ、「チームから2つの案が出た」として、柱を3本足す案と1本外す案を動画で並べました。どちらを選ぶか尋ねると、外す案を選んだ人は「無料」の一文がない条件で82%、ある条件で86%でした。この差は統計的に意味のある大きさではありません。

引き算の案は、並べられれば多くの人が選ぶわけです。見落としが起きているのは、案を比べる段階より、案を思いつく段階だと考えられます。ただし研究チームも、この調査の規模では小さな差までは否定できないと断っています。

クロッツ氏は『引き算思考』で、研究のきっかけを書いています。3歳の息子とレゴで橋を作っていたとき、橋脚の高さが合わず、クロッツ氏は低い側に足すブロックを探しました。その間に息子は、高い側からブロックを1つ抜いて橋を水平にしていたそうです。

仕事に置き換えると、たとえば会議で「改善案はありますか」と聞けば、足す案ばかりが並びます。外す案は、誰かが口に出さない限り、比べる候補にすら入りません。足りないのは選ぶ力より、並べる仕組みです。

部品が少ないうちは、誰も削ろうとしない

同じ論文の予備調査に、野菜スープのレシピを改良してもらう実験があります。オンラインで集めた250人に、材料が5種類、10種類、15種類のレシピのどれかを見せました。

材料5種類のレシピでは、84人のうち材料を減らしたのは2人だけでした。10種類では89人中31人、15種類では77人中52人が減らしています。

材料が多いと、人は削ることを考え始めます。裏返すと、部品が少ないうちは削る案がほとんど出ません。なお著者らは、材料の数と種類を同時に変えているため、数の効果か特定の材料の効果かは区別できないと書いています。

引く方が得だとはっきり見える場面の研究もあります。ドイツのテュービンゲン大学のリディア・ウーラー氏らが、2026年に Communications Psychology 誌で報告した実験です。格子の模様を左右対称にする課題で、足しても引いても手数が同じ条件では、66%が足す解き方を選びました。引く方が少ない手数で済む条件では、29%まで下がっています。

人は引き算ができないわけではありません。得だと見えれば、きちんと引きます。困るのは、ふだんの仕事では「外した方が得」という差がそこまで見えないことです。

たとえば、申請の流れに確認のステップを1つ足すのは、その場では小さな変更です。5段階が6段階、7段階になっても、どの1段も必要に見えます。外す案が出るのは、承認に2週間かかるようになってからかもしれません。

ジェイソン・フリード氏らは『小さなチーム、大きな仕事』で、物事がうまくいかないとき、人はその問題にさらに人や時間やお金をつぎ込み、かえって問題を大きくすると書いています。進むべきは逆の方向、減らすことだ、と。部品が少ないうちに削る判断をする人がいないと、引き算は手遅れになってから登場します。

追試で見えた、偏りの強さと限界

この偏りは、どこでも同じ強さで出るのでしょうか。追試の結果は一様ではありません。

フランスのアドリアン・フィヨン氏らは、ミニゴルフのコースを改良するアダムス氏らの実験を、事前登録したうえで477人に追試しました。出てきた案は、足す案1,155件に対し、引く案297件。「足すことも取り除くこともできる」と一言添えると引く案を出す人が増える点も再現しました。2025年に学術誌『Journal of Creative Behavior』に掲載されました。

一方、スウェーデンのウプサラ大学のジョシュア・ユヴルド氏らが2024年に Scientific Reports 誌で報告した研究では、大人を対象にしたレゴと格子模様の課題で、はっきりした偏りは見られませんでした。格子模様では、9〜10歳の子どもの方が大人より足す方向に傾き、スウェーデンの大人はアメリカの大人より引く解き方を使いやすい結果でした。1課題あたり数十人規模の小さな研究です。

元の論文の中にも、揃わなかった結果があります。頭に負荷をかけると引き算が減るという実験は3回行われ、600人規模の1回では差が出ませんでした。3回を合わせた分析では効果が残っています。課題の指示文そのものが「足す」を連想させやすい、という研究者からの批判もあります。

足し算への偏りは、課題や文化で強さが変わる傾向と見るのが妥当です。あらゆる場面で人が引き算を見落とす、とまでは言えません。

もう一つ気になる結果があります。先のウーラー氏らは、同じ課題を生成AIにも解かせました。足す解き方の割合は、最初の研究で人間が約57%、GPT-4が約71%。次の研究では人間が約54%、GPT-4oが約96%でした。GPT-4oは、引く方が得な条件でもほとんど解き方を変えませんでした。

AIに「改善案を出して」と頼むと、人間に聞くより足す案に偏った答えが返ってくるおそれがあります。

外す案を、発想の工程に組み込む

見落としが起きるのは、案を思いつく段階でした。手を打つのも、その段階です。

よくある誤解:必要になれば、誰かが「減らそう」と言い出す → スープの実験では、部品が少ないうちは削る案がほとんど出ませんでした。自然に出てくるのは、十分に複雑になってからです。

アプローチ:足す案を出す前に、外す案を先に出す

1. 問いを「外せるものは何か」だけにする フィヨン氏らの2つ目の実験では、取り除くことと足すことを並べて伝えるより、「取り除いてもいい」とだけ伝えた方が、引く案が多く出ました。たとえば改善の話し合いの最初の10分は、今ある手順や機能から外せるものだけを挙げます。クロッツ氏は、目標に向かう力を足すより、邪魔をしている力を取り除く方が効くことがあるとも書いています。足す案はそのあとです。

2. 外す案と足す案を、同じ紙に並べる 210人の調査では、外す案は並べて見せれば8割以上が選びました。提案書や検討メモには、足す案の横に「何かを外す案」の欄を必ず設けます。効果を試算できなくても、候補として並んでいれば比べられます。

3. AIに聞くときは、減らす方向を指定する たとえば生成AIに業務の改善を相談するなら、「この手順から1つ外すとしたら何か」と聞きます。改善案を広く求めると、足す案ばかりの一覧を受け取ることになりかねません。

今日5分でできることもあります。今週決める予定の対策を1つ選び、それを足す代わりに外せるものがないかを、1行だけ書き添えてみてください。

おわりに

複雑さは、一度にやってくるわけではありません。足すたびに少しずつ積み上がり、削る案が浮かぶころには、もう削りにくくなっています。

次に「何を足せば解決するか」と考え始めたら、その前に1つだけ、外せるものを探してみてください。


この記事で参考にした本

『引き算思考』ライディ・クロッツ → レゴの橋で気づいた足し算への偏りと、邪魔をしている力を取り除くという発想

『小さなチーム、大きな仕事』ジェイソン・フリード → うまくいかないときに人や時間を足すと問題が大きくなり、減らす方向が正しいという指摘


合わせて読みたい

『引き算思考』ライディ・クロッツ氏|「足す」より「引く」ほうが、世界は良くなる 本記事で取り上げたレゴの実験を行った研究者の本です。都市や製品で、減らすことが解決になった事例をまとめて読めます。

『小さなチーム、大きな仕事』ジェイソン・フリード|ビジネスに必要なものは、思ったより少ない 機能も会議も減らして製品を作ってきた会社の本です。部品が少ないうちに削る判断を、実際の働き方としてどう続けるかが分かります。

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