恥をかける人だけが、速く上達する
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恥ずかしいと感じる場面は、若いうちのほうが多いと思われがちです。
実際は逆でした。中川諒さんは『いくつになっても恥をかける人になる』で、恥のハードルは経験を積むほど高くなると書きます。
キャリアを重ねた人ほど、無意識に尊敬されようとして、自分の間違いを認められなくなる。だから熟練期の人のほうが、恥のプレッシャーは大きく、そして厄介になります。
上達が遅くなるのは、能力が落ちたからではありません。恥をかける回数が減ったからでした。
知ったかぶりをするたびに、知る機会が消える
本書でいちばん実用的なのは、質問についての指摘です。
知らないことを人に聞くのは恥ずかしい、事前に調べるのがマナーだと私たちは思っています。
でも知ったかぶりをするたびに、知る機会がひとつ失われます。しかも、知らないことを素直に認めて教えを乞う姿勢は、無知に見えるどころか、学ぼうとする前向きな人に見える。
著者自身の失敗が例に出てきます。仕事でバイクメーカーを担当した際、打ち合わせの内容が分からず、教習所に通ってカスタムバイクまで買いました。それでも道端でバイク好きに話しかけられたとき、知識不足から知ったかぶりをしてしまう。
そこで彼が気づいたのは、自分がマウンティングされたと感じるのは、自分自身が「バカにされたくない」という姿勢を無意識に持っているからだ、ということでした。
相手の問題だと思っていたものが、自分の構えの問題だった。
動けない理由は、時間でも準備でもない
新年の抱負を年内に達成できる人は、8〜10%だそうです。
本書はこの低さの理由を、時間や準備のせいにしません。行動した結果、できなかったという現実を知るのが怖いからだ、と書きます。
あえて行動しないことで、「自分はやればできる」という心地よい可能性を、心の中に温存できます。
だから完璧に準備してからお披露目する、という方針も疑われます。完璧な準備が整う瞬間は一生来ません。やってみて初めて、何が必要かが分かるからです。
プロ野球の超一流バッターでも、打率は3割です。1回の成功の裏に2回の失敗がある。ちなみに日本のプロ野球史で生涯打率3割を超えた選手は25人しかいません。
企画の打ち合わせも同じで、採用される1案の裏には、選ばれなかった99の恥があります。
自分を好きになる必要は、たぶんない
行動できるようになるには自己肯定感を高めるべきだ、という話もよく聞きます。
本書はここも否定します。無理に自分を肯定しようとするのは逆効果で、今できない不完全な自分をただ「ま、いっか」と受け入れる自己受容のほうが、はるかに行動をラクにする、と。
肯定的なあきらめ、という言い方をしています。
ゲイリー・ジョン・ビショップの『Do the work』も同じ方向を指します。自分を決めるのは頭の中の思考や感情ではなく、何をするかという行動である、と。
好きになってから動くのではなく、不完全なまま動く。順番はこちらでした。
明日からできること
誤解:まず自信をつけてから、挑戦する → 著者はGoogleへの出向で英語での企画提案に直面したとき、苦手意識に悩みました。そこで得た結論が、苦手意識とは能力の有無ではなく自分の意識が作っている壁だ、というものです。
彼の言い方では、能力に自信がなくても、取り組む姿勢に誇りを持つ。ここは分けられます。
正しいアプローチ:今日、ひとつだけ「知らない」と言ってみる → 会議でも打ち合わせでも構いません。分からないまま流していた言葉を、ひとつ選んで聞く。
これがいちばん小さい実験になります。効果は2つあって、単純に知識が増えることと、聞ける人だという印象が残ることです。
もうひとつ、自己紹介の材料を成功談から失敗談に変えてみてください。
本書によれば、成功談は特定の社内環境といったローカルな前提に依存するので相手に伝わりにくく、自慢にも聞こえます。誰もが共感できる苦労した話や失敗談のほうが、その人の姿勢が伝わって魅力的に見える。
そして、著者が自分に課しているマイルールも紹介されています。迷ったら、恥ずかしいほうを選ぶ。
彼はこのルールに従って、カンヌの国際イベントで世界中のトップクリエイターを前に、参加者の名前を漢字の当て字に変換して紹介し、筆ペンを配るという自己紹介をやりました。そこから全員と会話が生まれ、参加者の家に泊まりに行くほどの関係になっています。
おわりに
Googleが自社で行ったチームの生産性調査で分かったのは、強力なリーダーシップでも合理的なプロセスでもなく、心理的安全性でした。
これを本書は、皆が安心して恥をかける環境づくりだと言い換えます。
環境の話に見えますが、自分ひとりでも半分は作れます。先に恥をかいた人がいる場所では、次の人が恥をかきやすくなるからです。
この記事で参考にした本
『いくつになっても恥をかける人になる』中川諒 → 恥のハードルが経験とともに上がる構造、知ったかぶりのコスト、自己受容という考え方。プライドを学習の障害として扱っている。
『Do the work 行動を起こしたい人のための人生を変えるワークブック』ゲイリー・ジョン・ビショップ → 自分を決めるのは思考ではなく行動だという立場。準備が整うのを待つ姿勢への処方として読める。
合わせて読みたい
失敗を隠す人ほど、同じ失敗を繰り返す 失敗を認められない構造を扱ったコラムです。恥をかけないことのコストを、学習の側から説明してくれます。
『心理的安全性のつくりかた』石井遼介|「ヌルい職場」とは正反対の話だった 安心して恥をかける環境がどう作られるかを扱った記事です。組織の側から同じ話を見ています。
『お前のために生きてないから大丈夫です』カマたく|自己肯定感、世界一バカらしいらしい 自己肯定感という言葉への疑いを扱った記事です。自己受容との違いを考える材料になります。