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『Do the work』ゲイリー・ジョン・ビショップ氏|あなたを決めるのは思考ではなく、行動だ

生産性・時間術・習慣
約8分で読めます

自己啓発本を10冊読んでも、生活が1ミリも変わらなかった。

そんな経験がある人ほど、この本は痛いところを突いてきます。著者のゲイリー・ジョン・ビショップ氏は冒頭で、世にあふれる自己啓発を「軟弱かつ普通すぎて効果がない」と切り捨てます。

代わりに差し出されるのが「都市哲学」という泥臭いアプローチです。きれいごとを並べるのではなく、自分の人生の暗部やダメな部分に分け入って、具体的な行動につなげていく。本書は読む本ではなく、書き込んで使うワークブックです。

著者の主張は、たった一行に集約されます。「あなたという人間を決めるのは、頭の中にあるものじゃない。何をするか、つまりは行動だ」。

こんな人におすすめ

特に向いているのは、こういう場面に心当たりがある人です。

逆に、優しい言葉で背中をさすってほしい人には、本書はきつすぎるかもしれません。著者は読者に「あなたは自分にウソをついている」と直球で言ってきます。痛みを伴ってでも人生を立て直す覚悟がある人向けの一冊です。

この本が突きつけてくること

人生を変えようとするとき、ほとんどの人は「変えるべき条件」を思い浮かべます。

もっとお金があれば。心配事が減れば。もっと自信が増せば、人生はマシになるはずだ──。

著者はこの思い込みを、まず叩き壊します。外側の条件が整うのを待っている限り、人生は永遠に動かない。

なぜ動けないのか。普通は「恐怖」や「痛み」のせいだと思われています。でも著者の答えは違います。私たちはただ、自分の人生に対する「責任」から逃げているだけだ、と。

そしてもう一つ、強烈な前提があります。「ほとんどの人が、自分に正直に生きていると思っているが、実はそうじゃない」。本書はこの自己欺瞞を暴くところから始まります。読者は自分を、まずウソつきだと思うところからスタートさせられます。

最初に交わす、2つの約束

本書には、読み始める前に守るべき鉄則が2つあります。

1つ目は、自分に100%正直になることです。「大丈夫」「今は忙しい」「本当はやる気がない」。こうした無意識のウソを認め、ごまかしをやめる。著者は言います。「自分自身に正面から向き合えると、安心感と澄みわたった心が手に入る」。痛い作業の先に、心の平和が待っているわけです。

2つ目は、絶対に約束を守ることです。ただし、ラクに守れる約束ではありません。自分の限界を引き上げる「大胆な約束」をして、それを完遂する。

著者はこの「約束」を、人間のパワーの源だと位置づけます。「過小評価されたり、忘れられたりすることも多いが、約束を守り続ける行為は、人間の何よりのパワーの源だ」。状況や気分に左右されず、自分と交わした言葉を守り抜く。それ自体が力になる、という発想です。

人生における失敗の多くは、約束を破り、なかったことにしてきた歴史と結びついている。だからこそ、ここを変える。これが本書の出発点です。

「自分を甘やかす」という、大ダコの触手

第1のプロジェクトは、自分自身との対話です。

著者が指摘するのは、私たちが無意識に「自分を甘やかしている」という事実です。先延ばしにする自分、怒りっぽい自分、自信のない自分。これらに都合のいい言い訳を用意して、「自分はそういう人間だから」と現状を正当化してしまう。

この言い訳を、著者は「大ダコの触手」にたとえます。無意識の領域から伸びてきて、仕事も人間関係も情熱も、人生のあらゆる側面を締め付けていく。1か所の甘えが、全部に広がるイメージです。

引用が容赦ありません。「物事を先延ばしにしがちな自分を甘やかし、心の中に『聖なる像』を彫り、像のお告げのとおりにしていれば疑問を抱かずに済む環境の出来上がりだ」。

ここで著者が示す解毒剤が「ストッパー」です。悪い習慣に流されそうになったとき、「やっちゃダメだ」と否定するのは効きません。

代わりに、あらかじめ決めておいた「これをやる」という具体的な行動で上書きする。否定ではなく、別の行動への置き換え。これが流される自分を止める仕組みです。

「責任」を、フックで自分につなぐ

本書のキー概念が「フック」です。

責任、と聞くと多くの人は「自分を責めること」や「義務を果たすこと」を思い浮かべます。著者の定義は違います。「責任とは、自分を自分の性格や行動とフックでつなげることだ。自分の感情という革のバッグをちゃんと自分で持ち、自分に対して力強く向き合うことだ」。

つまり、自分の喜びも、自信も、心の平穏も、すべて自分の行動でつかみ取るものだと引き受けること。過去や他人や環境のせいにして被害者でいるのをやめ、人生の当事者になる。それがフックです。

ここに、本書の根っこにあるストア派哲学の影響が見えます。セネカやエピクテトスが説いた「コントロールできる自分の行動に集中する」という発想です。動かせない外側を嘆くのではなく、動かせる自分の行動に意識を寄せる。フックは、その姿勢を一語にした概念でした。

人間関係は「相手を変える」のをやめたとき動く

第2のプロジェクトは、人間関係です。

ここで著者が突きつけるのは、大人の人間関係が「幼いころに周囲の大人と築いた関係」をモデルにしているという指摘です。親や兄弟との間で身につけた反応パターンを、私たちは大人になっても繰り返している。だから同じところでつまずく。

そして、悩みの多くは「相手を変えようとすること」から生まれます。著者は言い切ります。「他人をつくり変えることで最高の自分になれるという考え方は大間違いだ。このやり方は絶対にうまくいかない」。

ではどうするか。相手を「ありのままの姿」で認め、許す。「決めつけや不満といった感情に焼かれてばかりいると、心はどんどん弱っていく」。許すのは相手のためではなく、自分の心を守るためです。

著者自身のエピソードが胸に残ります。息子のサッカーを見ているとき、ふと自分の人生が終わる場面が脳裏に浮かんだ。

その瞬間をきっかけに、確執のあった母親を含め、人生で出会ったすべての人をありのままに受け入れ、許せるようになった。期待を押し付けていた母を「そのまま」受け入れたとき、平穏と無償の愛が返ってきたといいます。

ただし、許すことは我慢することではありません。受け入れたあとは、新しい視点で相手と自分を結び直す。勇気を出して、今までと違う関わり方を自分から始める。受容は、関係を再構築するスタート地点です。

「目的」は探すものではなく、生み出すもの

第3のプロジェクトは、目的です。ここが本書でいちばん独創的なところでした。

世の中には「あなたの本当の目的が見つかる」と謳う商材があふれています。タイのビーチでの瞑想、月額29ドルのプログラム。著者はこれを「現代のインチキ薬」と一刀両断します。「目的探しは、本来は内面的な問題なのに、外面的な答えを探す人が増えている」。

著者の主張はシンプルです。「インスピレーションと目的はどちらも自分の中から生じる」。目的はどこか遠くに落ちているものではなく、自分の内側から意図的に生み出すものだ、と。

象徴的なのが、著者の妻のエピソードです。子育てと家事に追われる多忙な日々の中で、彼女はカレンダーに「人間を生み出す」という目的を堂々と宣言していました。

ただ予定をこなすのではなく、目の前の育児に「自分は人間を育てている」という意味づけをする。ストレスで余裕を失っても、その目的を思い出すことで活力を取り戻し、生き生きと過ごせるようになったといいます。

「人々に違いをもたらす」でも「人間を生み出す」でもいい。日常の平凡な行動に、自分で意味づけをする。それが生きる力になる、という考え方でした。

行動で思考を上書きする、7つの課題

最後に用意されているのが、7つの課題です。

これは「私には意志がある」「私は勝つに決まっている」「自分は思考ではなくて行動だ」といった具体的な意志表明です。頭の中でどんなネガティブな言葉が駆け巡ろうとも、それに従わず、やるべきことに着手する。

著者は念を押します。「あなたはあなたであって、『思考』自身ではない」。否定的な考えが湧いても、それは自分そのものではない。だから、考えに引きずられず、ただ行動する。

課題のひとつ「私は何も期待せず、すべてを受け入れる」は、7日間かけて実践します。スマートフォンのリマインダーで昼12時と夕方6時の1日2回、その言葉を思い出す。

私たちは自分や他人への期待というプレッシャーで人生を混沌とさせている。その期待という毒を盛るのをやめたとき、本当の自由と心の平穏が手に入る、という設計です。

モチベーションが尽きたときの処方箋も明快です。熱意が切れたら「がむしゃらになる」。著者いわく、がむしゃらさは誰もが使える自然の力です。

そして「世界的な偉業はどれも、最初は小さな行動からはじまった」。大きな変化に圧倒されたら、今日できる小さな一歩に集中する。

明日から動かす、3つのアクション

本書を実生活に落とすなら、この3つから始めるのが現実的です。

1. 自分の「○○すぎる」「○○が足りない」を5つ書き出す 「怠け者すぎる」「自信が足りない」など、目を背けている弱みを紙に出す。そして、それぞれが自分の人生のどこを狭め、何を阻んできたかを直視する。可視化することで、言い訳が言い訳だと見えてきます。

2. うまくいっていない相手の「許せないリスト」を作る こじれている相手をリストアップし、なぜこじれたのかを書く。そのうえで「相手が変わるべき」という思い込みを手放し、自分が今後どう接するかという新しい行動を1つ決める。

3. 「今まで絶対にやらなかったこと」を1日4つやる 頭で考えるのをやめて、行動パターンそのものを壊す日を作る。「あのレストランに入る」「旧友に連絡する」。小さくていい。4つ実行するだけで、自動操縦の日常に風穴が開きます。

増やしすぎると続きません。1つ目から始めて、習慣になったら次へ進むくらいでちょうどいいです。

おわりに

本書を読み終えて残るのは、テクニックではありません。

うまくいかない現実を、何かのせいにするのをやめる。喜びも自信も、自分の行動でつかみ取ると引き受ける。目的を、外に探しに行くのではなく、自分の内側から生み出す。この3つの姿勢でした。

著者の言葉が、最後まで耳に残ります。「変化を起こしたいなら、今までと別のことをやるしかない。人間の本質は思考ではなく、行動にあるのだ」。

そして、こうも書いていました。「あなたは人生という現象が起こる宇宙だ」。被害者として縮こまるのではなく、自分の人生の主人公として動く。その第一歩は、明日の小さな1アクションから始まります。考えるのは、もう十分です。


合わせて読みたい

なぜ「わかっているのにできない」が永遠に続くのか 「頭ではわかっているのに動けない」という、本書がまさに標的にした状態を正面から扱ったコラムです。ビショップ氏の「思考ではなく行動」という主張を、なぜそのループが続くのかという角度から補強してくれます。

「やりたいこと」は探すのではなく、行動の中から立ち上がる 本書の核心「目的は探すものではなく生み出すもの」と完全に響き合う一本です。やりたいことを外に探し続けて疲れている人に、行動が先で意味が後からついてくるという順番を腹落ちさせてくれます。

今度こそ続けようと決めた。本気だった。なのに、3日後やめていた。 本書が最重要視する「大胆な約束を守り抜く」という鉄則と地続きのコラムです。決意が三日でほどけてしまう人が、約束を続ける仕組みをどう作るかを考える手がかりになります。


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