営業の「勝ちパターン」は、なぜ引き継げないのか
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トップ営業が辞めた瞬間、チームの数字が崩れる。多くの会社で、これが繰り返されています。
あの人にしか売れない。あの人のやり方は真似できない。だから「背中を見て覚えろ」になり、結局誰も覚えられない。
私はずっと、これを「人の問題」だと思っていました。優秀な人がいるかどうか。そういう運の話だと。
でも、福田康隆さんの『THE MODEL』を読んで、見方が変わりました。引き継げないのは、才能の問題ではない。営業を「一人の塊」のまま扱っているから、なんです。
「営業ができる人」という言葉が、再現性を殺している
まず、私たちが普段使う「営業ができる」という言葉が、かなり厄介です。
この一言の中には、本当はバラバラの能力が詰め込まれています。見込み客を探す力。アポを取る力。課題を聞き出す力。提案する力。契約をまとめる力。買った後に使い続けてもらう力。
これを全部ひとまとめにして「営業力」と呼ぶから、再現できなくなる。
たとえば、ある人がトップになった理由が「アポ取りがうまいから」だったとします。でも本人も周りも「営業が得意だから」としか言語化していない。だから新人には「とにかく頑張れ」としか伝わらない。どこを真似すればいいのか、誰にもわからないままです。
『THE MODEL』が示すのは、この塊を分解する発想です。福田さんは営業のプロセスを、マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスという4つの役割に分けました。
ここで大事なのは、組織を4つの部署に割ることそのものではありません。「営業」という一語を、引き継げる単位まで切り分けたことです。
切り分けると、どこが強くてどこが弱いのかが見える。弱いところだけを直せる。強いところだけを教えられる。塊のままでは、これができません。
「気合」が出てくる場所は、たいてい計測していない場所
属人化が起きる場所には、ある共通点があります。
数字で見ていない、という共通点です。
考えてみると、営業の現場で「気合」や「根性」が登場するのは、決まってプロセスが見えていないところです。リードがなぜ商談に進まないのか。商談がなぜ失注するのか。そこが計測されていないから、説明が「気合が足りない」になる。
『THE MODEL』は、ここに「移行判定基準」という考え方を持ち込みます。あるステージから次に進んだと言える条件を、客観的に決めておく。たとえば「製品デモを実施した」「予算・決裁者・課題・時期が確認できた」といった、誰が見ても同じ判断になる事実です。
営業個人の「いけそうな気がします」ではなく、事実でステータスを管理する。
そうすると、どこで案件が詰まっているかが数字で出ます。福田さんの示すモデルでは、売上目標を「商談化率 × 受注率 × 商談単価」に分解し、そこから必要なリード数や人員を逆算します。気合の入る余地が、構造的に減っていくわけです。
ここで補助線になるのが、今井晶也さんの『Sales is』です。この本は、成果を科学的にコントロールするという立場を取ります。
面白いのが、「売れた理由」より「買わない理由」に再現性がある、という指摘です。売れた理由には「ちょうど検討していた」「知人がいて話が弾んだ」といった、二度と起きない偶然が混ざります。それを追いかけても安定しません。
一方、「導入効果が不明確」「上司の承認が下りない」といった買わない理由は、別の顧客でもまた現れる。だから失注のたびに理由を聞き、記録し、プロセスのどこで潰すかを決めていく。これなら、誰でも同じように積み上げられます。
成果のコントロールとは、結局プロセスのコントロールだ。今井さんはそう言い切っています。私はこの一文で、属人芸の正体が少し見えた気がしました。
分けただけでは、今度は部門の押し付け合いが始まる
ただし、ここで安心するのは早いんです。
分業には、はっきりした副作用があります。各部門が自分のKPIだけを追い始めると、今度は部門間の対立が生まれる。
『THE MODEL』はこれを「負のループ」と呼びます。マーケティングが数だけを追って質の低いリードを大量に渡す。営業は「使えないリードばかりだ」と不満を持ち、フォローしなくなる。すると数字が悪化し、もっと量を追う。悪循環です。
たとえるなら、リレーで自分の区間のタイムだけを競い、バトンを雑に渡すようなものです。一人ひとりは速いのに、チームは勝てない。
だから福田さんは、「分業」ではなく「共業」という言葉を使います。鍵になるのは、部門ごとの達成だけでなく、部門と部門の「あいだ」の通過率を見ることです。
マーケからインサイドセールスへ、インサイドセールスから営業へ。受け渡しの歩留まりをマネジメントが定点観測し、互いにフィードバックを返す。営業からは「このリードは質が高かった」と前工程に伝える。この往復があって初めて、分業は機能します。
属人化の逆は、ただの分業ではありません。分けたうえで、つなぎ目を数字で見る。ここまでやって、やっと「引き継げる営業」になります。
「優秀な人を採る」の前に、できること
では、明日から何を変えられるか。よくある誤解と並べてみます。
誤解:成績が落ちたら、できる人を採用すれば解決する → その人が辞めれば、また同じところに戻ります。塊を採っているだけだからです。
正しいアプローチ:自分の営業プロセスを、4〜5個の工程に書き出す → 「探す→会う→課題を聞く→提案する→契約する」でも構いません。まず塊をほどくことが出発点です。
誤解:失注は「縁がなかった」で片付ける → 偶然として処理した瞬間、その経験は二度と使えなくなります。
正しいアプローチ:失注したら「もし見送る場合、理由を教えてください」と必ず聞く → これは今日からできます。買わない理由を集めるほど、潰すべき箇所が具体的になります。
ひとつだけ選ぶなら、工程の書き出しです。紙に5個並べるだけで、「どこが詰まっているか」を問える状態になります。
「あの人がすごいから」で止まっているうちは、何も引き継げません。すごさを工程に分解して、初めて他の人に渡せる形になります。
おわりに
営業が属人化するのは、優秀な人がいるからではありません。優秀さを「営業力」という一語に丸めて、分解しないからです。
才能は引き継げない。でも、工程と判定基準と通過率は引き継げます。あなたのチームの「あの人にしか売れない」は、どの工程のことを言っているでしょうか。
この記事で参考にした本
『THE MODEL』福田康隆 → 「営業」という塊を4つの役割に分け、移行判定基準と通過率で再現性を作る。分業の副作用を「共業」で乗り越える考え方。
『Sales is』今井晶也 → 成果のコントロールとはプロセスのコントロール。「売れた理由」ではなく「買わない理由」に再現性を求める科学的アプローチ。
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