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英語学習の順番は、「よく出る単語」から決める

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目次

英文の20語に1語だけ、知らない単語が混ざっている。その物語を辞書なしで読んだ人のうち、内容を十分に理解できたのは一部だけだった、という実験があります。

英語学習の「順番」というと、音から入るか文法から入るか、聞くのが先か話すのが先か、という技能の順番がよく話題になります。

ただ、研究がいちばんはっきり答えられる順番は、別のところにあります。どの単語から覚えるか、です。

知らない単語が「20語に1語」あるだけで、理解は落ちる

2000年、応用言語学者のポール・ネイション氏と、当時修士課程で研究していたマルセラ・フー氏は、単語の知識と読解の関係を実験で確かめました。

使ったのは短い物語文です。文中の低頻度語を意味のない造語に置き換え、読み手が知っている語の割合を100%、95%、90%、80%の4通りに調整しました。ニュージーランドの大学準備課程で英語を学ぶ66人が、そのうち1つを読んで理解度テストを受けています。

知っている語が80%の文では、十分に理解できた人はいませんでした。90%でも95%でも、十分に理解できたのは一部にとどまります。2人は回帰分析の結果から、大半の人が理解するには98%、つまり知らない語が50語に1語程度まで減る必要があると推定しました。

この「98%」は、その後の語彙研究で繰り返し引用される数字になります。

ただし、話には続きがあります。2023年、ベンヤミン・クレメル氏らはスリランカの成人104人でこの研究を追試しました。知っている語が増えるほど理解がほぼ直線的に上がる傾向は再現されましたが、98%を超えれば理解できるという境目は再現されませんでした。

つまり98%は、越えれば急に読める壁ではありません。知っている語の割合が上がるほど、理解も少しずつ上がっていく。そう読むほうが正確です。

だとすると、問いはこう変わります。どの単語から覚えれば、知っている語の割合をいちばん早く上げられるのか。

最初の1,000語で、話し言葉の8割を超える

ネイション氏は2006年、イギリス英語の大規模コーパス(大量の文章を集めたデータベース)から、よく使われる順に1,000語ずつ14段階の単語リストを作り、小説、新聞、映画の台本、会話を分析しました。数え方は「ワードファミリー」で、use、used、usefulのような変化形や派生語をまとめて1語と数えます。

結果は、極端な偏りでした。

  • 最初の1,000語(と固有名詞)で、書き言葉の78〜81%、話し言葉の約85%を占める
  • ラジオの視聴者参加番組や、家族や友人どうしの会話では、3,000語と固有名詞で95%を超える
  • 6番目から9番目の1,000語(計4,000語)をすべて足しても、増えるのは書き言葉で約2%、話し言葉で約1%

たとえば同じ30分を使うなら、上位3,000語の中のまだあやふやな語に使うほうが、8,000語レベルの語を覚えるより、出会う英文の理解に効くという理屈になります。上位の語は毎日のように出てきますが、下位の語は1冊の小説に1回しか出ないことも珍しくありません。

一方で、同じ研究は、98%に届くには会話で6,000〜7,000語、小説や新聞で8,000〜9,000語が要ると見積もっています。最初の数千語で大半を占めても、そこから先の道は長い。だからこそ、順番の間違いが効いてきます。

目で知っている単語を、耳で知っているとは限らない

ここで、「音から入るべきだ」という昔からの主張を見直しておきます。研究を見ると、この主張には当たっている部分があります。ただ、研究が支えているのは「単語より音が先」という順番そのものとは少し違います。

ジュンユー・チェン氏とジョシュア・マシューズ氏は2018年、英語を学ぶ中国の大学生250人に、上位5,000語から選んだ単語のテストを3つの形式で受けてもらいました。書かれた語を意味と結びつける、英文の空欄に最初の数文字をヒントに語を書き入れる、英文の音声を1回聞いてその中の語を書き取る、の3つです。

分析すると、3つのテストは2つのまとまりに分かれました。文字で問う2つと、音で問う1つです。

リスニングの成績といちばん強く結びついたのは、音で問うテストでした(相関係数0.71)。このテストだけでリスニングの点数のばらつきの51%を説明でき、読解のほうは、文字で問うテストとの結びつきが強く出ています。

同じ2人は2015年に、167人を対象に上位3,000語の単語を音で聞き取れるかを調べています。2,001〜3,000語目にあたる単語の聞き取りだけで、IELTSのリスニング得点のばらつきの約半分を予測できたという結果でした。

単語帳で「知っている」語は、多くの場合、文字で見て意味がわかる語です。それが音で流れてきたときに同じ語だと気づけるかは、別に育てる必要がある。「音から」という主張を研究に合わせて言い直すと、「よく出る単語を、音でも覚える」になります。

通訳者の酒井龍さんは『最高の英語学習法の見つけ方』で、聞こえた英語を書き取るディクテーションを勧めています。続けるうちに、英語が単語ごとに分かれて聞こえるようになる、と説明しています。同じ本では、シャドーイングの前に知らない単語や表現を先につぶしておく手順も示しています。上の研究に照らすと、理にかなった順番です。

3,000語の先は、「自分の分野の単語」が近道

上位数千語を固めたあとは、どうするか。ここで順番が一度入れ替わります。

応用言語学者のアヴェリル・コックスヘッド氏は2000年、350万語の学術文を分析し、最もよく使われる2,000語以外で、分野を問わず繰り返し出てくる570語をまとめました。この570語だけで、学術文に出てくる語の約10%を占めます。同じ規模の小説では1.4%にすぎません。

使ったデータが違うので単純には比べられませんが、一般的な語の6番目から9番目の1,000語(計4,000語)で増えるのが書き言葉の約2%だったことを思い出してください。論文を読む人にとっては、その570語のほうがずっと効率のよい投資になります。

実践者の本にも、同じ方向の提案があります。

酒井さんは同じ本で、「日常会話ができてから専門分野へ」という一般的な順番を逆にして、自分の専門分野を語れるようになってから日常会話へ広げる「深く狭く」を勧めています。

エンジニアの牛尾剛さんは『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』で、IT英語は技術用語がカタカナ語と意味の重なるものが多く、文章も平易なので、日常会話よりハードルが低いと書いています。まず技術を日本語で学び、それから英語の技術文書を読む手順です。

2人の提案は、一見すると頻度の順番と逆に見えます。でも、自分の分野の文章に限れば、その分野の専門語は「よく出る単語」そのものです。私は、頻度の考え方を自分の読む英文に当てはめ直した順番だと読んでいます。

単語帳を「上から」使い直す

誤解:単語帳は1冊目の最初から最後まで、同じ熱量で覚える → 後ろのほうの語ほど、覚えても出会う機会が少なくなります。

正しいアプローチ:頻度順のリストで、上位2,000〜3,000語を先に固める → たとえばNGSL(New General Service List)は、よく使われる順に並んだ2,809語のリストで、作成者によれば一般的な英文の92%以上をカバーします。

誤解:音から入れば、単語は後からついてくる → 聞き取りで効いていたのは、音そのものより「音で聞いて気づける単語」の量でした。

正しいアプローチ:単語を覚えるときに、音声もセットで確かめる → 文字で意味がわかるだけの語は、耳ではまだ知らない語かもしれません。

具体的には、次の3つから始められます。

  • 5分でできる確認として、手元の英文(ニュース記事や仕事のメール)から100語ほどを選び、意味のわからない語に印をつけて数えます。2つ以下なら読み進めてよい素材、5つを超えるなら、今は上位語の土台づくりを優先する目安になります
  • 単語帳の音声を、文字を見ずに流します。意味がすぐ浮かばなかった語だけを選び、例文を書き取って耳に通します
  • 上位3,000語がおおむね固まったら、仕事で読む英文を1本選び、繰り返し出てくる専門語を20語拾って自分のリストを作ります

おわりに

「英語学習の順番が逆だった」と感じるとき、逆だったのは技能の順番ではなく、単語の順番かもしれません。

手元の単語帳を開いて、それが頻度順に並んでいるかを確かめるところから始めてみてください。


この記事で参考にした本

『最高の英語学習法の見つけ方』酒井龍さん → ディクテーションで単語の切れ目を聞き取る方法と、専門分野から広げる「深く狭く」の順番

『ITエンジニアのゼロから始める英語勉強法』牛尾剛さん → 技術を日本語で先に学び、英語の技術文書へ進むIT英語の手順


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『ゼロから12ヵ国語マスターした私の最強の外国語習得法』Kazu Languagesさん 12の言語を独学で身につけた著者が、学ぶ順番そのものを組み直した記録です。単語の順番を決めたあと、どう音と文法につなげるかの参考になります。

『科学的根拠に基づく最高の勉強法』安川康介 上位3,000語を固める段階では、覚え方の効率が効いてきます。思い出す練習や間隔をあけた復習など、研究で確かめられた勉強法がまとまっています。

『たいていのことは20時間で習得できる』ジョシュ・カウフマン氏 スキルを分解し、効果の大きい部分から練習するという考え方は、頻度順に単語を覚える発想とよく重なります。英語以外の学習にも応用したい人に。