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『だから僕たちは、組織を変えていける』斉藤徹さん|業績が悪いほど、まず人間関係から手をつける

リーダーシップ・組織
『だから僕たちは、組織を変えていける』

業績が落ちると、多くの組織は目標管理を厳しくします。数字を詰め、進捗を追う。けれど、それが事態を悪化させていたとしたら。

本書はこう指摘します。結果を求めるほど人間関係が荒れ、思考が萎縮し、行動が受け身になる。これが「失敗の循環」です。遠回りに見えても、まず「関係の質」から手をつける。それが組織を変える最短ルートだと、本書は説きます。

著者は斉藤徹さん。本書はビジネス書グランプリ2023のマネジメント部門賞を受賞しました。エドモンドソンの心理的安全性、デシの自己決定理論、コヴィーの7つの習慣。確かな理論を「成功循環モデル」という一本の太いストーリーに統合した一冊です。

この記事を読めば、本書のフレームワークと実践の全体像がつかめます。

図解

こんな人におすすめ

この本の核心――マネジメントは人間性に回帰する

本書の根底には、社会の大きな変化があります。工業社会から知識社会へ。価値の源泉が「効率性」から「創造性」へ移り、機械ではなく人間がビジネスの主役になりました。

価値を生む源泉が、効率性から創造性にシフトし、機械ではなく人間がビジネスの主役となった。

なのに組織は、統制を前提とした古いモデルを引きずっている。著者は「指数関数的な社会に対して、組織はリニアにしか変化していない」と、その違和感の正体を突きます。

今こそ、マネジメントは人間性に回帰すべきなのだ。

3つのパラダイムシフトと、目指すべき3つの組織

この変化は、3つのシフトとして起きてきました。インターネットがもたらしたデジタルシフト、SNSと信頼が軸になるソーシャルシフト、コロナ禍を経て主体性に目覚めたライフシフトです。

ここから、知識社会で目指すべき組織像が3つ導かれます。顧客の幸せを探求する「学習する組織」、社会の幸せをわかちあう「共感する組織」、社員の幸せを実現する「自走する組織」。この3つが組み合わさった姿が理想です。

成功循環モデル――関係の質から始める

本書の中心フレームワークが、ダニエル・キムの「成功循環モデル」です。

はじめに『関係の質』を高めると、思考が前向きになり、行動が自発的になる。それが成果に結びつく。

順番は「関係の質→思考の質→行動の質→結果の質」。多くの組織は逆に、結果から入って失敗します。以下、各ステップを順に見ていきます。

ステップ1:関係の質を変える

最初の一歩は心理的安全性です。Googleの「プロジェクト・アリストテレス」は、約4年・180チームの調査の末、最強チームの成功因子としてこれを特定しました。「誰がメンバーか」より「どう協力しているか」が成果を分けるのです。

エドモンドソンの大学病院の研究には、ハッとさせられます。犯人探しをする厳しいチームほど、実際のミスが多かった。やさしいチームのほうがミスは少なかったのです。厳しさは、ミスの「報告」を減らすだけでした。

では、どうやって安全な場を作るか。最も効果的なのは、リーダーが「強がりの仮面」を外すことです。

安全な場をつくるためには、強い影響力を持つリーダーが、自身の『強がりの仮面』をはずすのが最も効果的だ。

ありのままの自分をさらけ出す姿勢を「ホールネス」と呼びます。あるGoogleのリーダーは、自らの闘病を打ち明けたことで、メンバーが心を開き、チームの生産性が上がりました。完璧さでなく、弱さが信頼を生むのです。

対話で意見が衝突したときは「推論のはしご」を意識します。人は事実を観察し、意味づけし、推測し、結論へと無意識に駆け上がる。だから「その言葉でどんなものをイメージしていますか」と問い、はしごを一段ずつ降りて事実を確かめます。

そして関係の質を支える技術が「傾聴」です。相手の言葉を評価も反論もせず、相手の目線で聞く。

『傾聴』こそが、両者の心に橋をわたす姿勢であり、コロンブスの卵のような技術なのだ。

ステップ2:思考の質を変える

関係が整ったら、仕事の「意味(WHY)」を共有します。リーダーの役割が、ここで変わります。

リーダーとは情報と仕事を配る人ではなく、意味と希望を伝える人なのだ。

最も大切な意味は2つに絞られます。「その仕事は社会にとってどういう意味を持つか」と「自分にとってどういう意味を持つか」。組織の存在意義であるパーパスを「北極星」として共有すると、迷ったときの判断基準になります。

象徴的なのがスカンジナビア航空です。赤字に苦しむ同社のCEOは、社員に「真実の瞬間」を語りました。顧客と接するわずか15秒にブランド価値がかかっている、と。現場に権限を与え、仕事の意味を浸透させた結果、わずか1年で黒字へ復活したのです。

仕事そのものを変えなくても、意味づけは変えられます。これが「ジョブ・クラフティング」。

どんな仕事でも、意味を追求する『コーリング(天職)』になる可能性がある

病院の掃除係を調べた研究では、自分の仕事を「天職」と感じる人は、患者のために仕事を超えた奉仕までしていました。意味は、与えられるより自ら見出すものなのです。

ステップ3:行動の質を変える

人を動かすのに、アメとムチ(外発的動機づけ)はもう効きません。

お金は、明らかに人の行動を変化させるが、効かないことも多い。また、長期的に見ると、麻薬のように恐ろしい負の影響があるのだ。

デシの実験が示すように、好奇心を刺激する活動でも、報酬を与えると意欲が失われます。子ども3.6万人に10億円を払った実験でも、成績向上の効果は1年で半減しました。

代わりに必要なのが内発的動機づけ。その鍵が「やる気のスリーカード」です。3つすべてが揃って人は自走します。

自律性。細かく管理せず、やり方の裁量を委ねる。

有能感。能力に合った適度に難しい課題を与え、没入できる「フロー体験」を促す。

関係性。見返りを求める交換ではなく、思いやり支え合う共有関係を築く。

ここで意外な事実があります。長期的に最も成功するのは、奪う人でも調整する人でもなく、他者のために動く「主体性を持つギバー」だということ。与える人が、結局は伸びるのです。

行動の質を高めるもう一つの鍵が、組織の「しなくちゃ」を減らすこと。

組織の『しなくちゃ』の断捨離を徹底的に行い、個人の中に『しよう』『したい』という気持ちを芽吹かせることだ。

そのための3原則があります。前提をゼロにする「ゼロベース思考」、目的そのものを疑う「ダブルループ学習」、情報を開いて自浄作用を働かせる「透明のチカラ」です。

すべては、ひとりの行動から始まる

本書が最後に渡してくれるのは、希望です。組織変革は、権限のある誰かが始めるのではない。

組織をよりよくしたいと願うすべての人は、チームをリードして『あなたの組織』を変えていける。

鍵は「インサイド・アウト」。相手や環境を変える前に、まず自分の内面から変わる。そして自分が直接動かせる「影響の輪」に集中することです。変えられない会社や他人への不満(関心の輪)に注ぐエネルギーは、建設的な発想を奪うだけだからです。

目の前の数人と対話を重ね、小さな成功を育てる。賛同者が増え、ある臨界点(ティッピングポイント)を超えたとき、組織全体が動き出します。

明日から何を変えるか

リーダー自身が素の自分を見せる。完璧で強い上司を演じるのをやめます。悩みや弱さも含めて自然体で接することで、メンバーが安心して異論や失敗を口にできる空気が生まれます。

指示の前に、傾聴と問いかけを置く。相手の話を評価せず感情移入して聞き、「どうすればもっとよくなる?」と未来志向のオープン・クエスチョンを投げます。「なぜ」と責任を追及しないことがコツです。

影響の輪から小さく始める。全社や他人の性格を変えようとするのをやめ、自分のチームや数人の仲間から成功循環を回します。小さな成果のストーリーを発信し、共感の輪を広げていきます。

おわりに

ギャラップの調査では、日本企業で熱意のある社員はわずか6%。多くの職場が「やらされ感」に沈んでいます。本書はその空気を、一人から変えられると言い切ります。

すべては、ひとりの行動からはじまる。

エジソンの言葉を借りれば「失敗などない。その方法ではうまくいかないとわかったのだから、成功なのだ」。組織の壁の大きさに圧倒されそうなとき、まず手の届く範囲から動く。本書は、その勇気と具体的な道筋を、やさしく差し出してくれます。


合わせて読みたい

『チームが機能するとはどういうことか』エイミー・C・エドモンドソン 本書「関係の質」の核となる心理的安全性、その生みの親による一冊。Googleの研究の背景を、データから深く理解できます。

『世界最高のチーム』ピョートル・フェリクス・グジバチ Googleで実証された心理的安全性が最強チームを作る理由を解説。本書が描く「自走する組織」の具体像を補えます。

『リフレクション』熊平美香さん インサイド・アウトの起点となる自己認識を鍛える技術。本書の「まず自分から変わる」を実践に移したい人に最適です。


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