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『セルフ・アウェアネス』ハーバード・ビジネス・レビュー編集部|「なぜ」と内省する人ほど、自分を見失う

リーダーシップ・組織 ✍ ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
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『セルフ・アウェアネス』
目次

落ち込んだ夜に「なぜ自分はこうなんだろう」と考え込んだこと、ありませんか。

真面目な人ほどやる、この振り返り。実はそれが自己嫌悪のループを深め、かえって自分が見えなくなる原因だったとしたら。本書は、自己認識についての常識を何度もひっくり返してきます。

著者はハーバード・ビジネス・レビュー編集部。ダニエル・ゴールマン氏、ターシャ・ユーリック氏、中原淳さんといった専門家の論文を集めた一冊です。EI(感情的知性)の第一の因子である「セルフ・アウェアネス(自己認識)」を、科学的な研究と職場で使える戦術の両面から論じています。

図解

この本が突き崩す、4つの思い込み

本書がまずやるのは、私たちが当たり前だと思っている前提を一つずつ壊すことです。土台になっているのは、5000人近くを対象にした10件の調査。そこから崩される思い込みが、大きく4つあります。

ひとつ、自分をよく見ている人は人からの見られ方もわかっている――これが違う。自分が自分をどう見るか(内面)と、他人が自分をどう見るか(外面)の間には、ほとんど相関がなかった。ふたつ、経験を積み権力を持つほど自己認識は高まる――むしろ逆で、経験と権力は妨げになる。

みっつ、「なぜ」と理由を掘り下げる内省がいい――よく内省する人ほど自己認識が低く、仕事の満足度も幸福感も低めだった。よっつ、ネガティブな感情は抑え込むべき――抑え込むと逆に増幅する。

そして突きつけられるのが、自己認識の条件を実際に満たしている人は、わずか10〜15%しかいないという事実。残りの大半は「自分はわかっているつもり」で生きている。

私が居心地悪く感じたのは、この数字の前で「自分はその10%側だ」と即答できなかったからです。たいていの人がそうだと思います。

自己認識には「内面」と「外面」がある

崩しの先に置かれるのが、自己認識は一枚岩ではないという整理です。ユーリック氏は、自分の価値観や強み・弱みをどれだけ明確に捉えているかという内面的自己認識と、他者から自分がどう見えているかをどれだけ正確に理解しているかという外面的自己認識を分けます。

面白いのは、この2つに相関がほぼないこと。内面はよくわかっているのに人からどう見られているかは全然わかっていない、という人が普通にいる。本書はこの2軸で4タイプを示します。

両方高い「認識者」、内面だけ高く他者の意見を取り入れない「内省者」、両方低い「探索者」、外面ばかり気にして自分を見失う「八方美人」。

ここで効くのが愛のある批評家という考え方です。自分のためを思って、耳の痛い真実でも率直に伝えてくれる信頼できる相手。一人でいくら内省を深めても外面は見えてこない以上、外面を映す鏡は他者しかいない。

「自己認識=一人で静かに己を見つめること」というイメージを持っていた私には、ここが発想の転換点でした。本書が終始、自己認識を他者との関係の中で磨くものとして扱う理由も、この一点に集約されています。

「なぜ」をやめて「何」を問う

数あるアイデアの中で、いちばん実用的だと感じたのがこれです。

私たちは落ち込むと「なぜ自分はこうなのか」と原因を探ります。でもユーリック氏は、これが非生産的な堂々めぐりを招くと言う。人は自分の無意識の動機の大部分を知ることができず、「真実らしく感じられる間違った答え」を勝手に作り出してしまうからです。

原因探しは、納得感だけ高くて正確さの保証がない。

裏づけの数字が鮮烈でした。自己認識度が高い人へのインタビューでは、「なぜ(why)」は150回以下しか出てこなかったのに、「何(what)」は1000回を超えていた。

問いの一語が、人の向かう方向をここまで変える。心理学者ヒクソンとスワンの実験も同じで、ネガティブなフィードバックを受けた学生のうち「なぜ」を考えた側は言い訳と否定に力を注ぎ、「何」を考えた側は新しい情報にオープンになりました。

具体例も腑に落ちます。仕事への嫌悪感を抱えていたベテランのホゼさんは「なぜこんなに嫌なのか」をやめ、「自分を嫌な気持ちにさせる状況は何か、共通点は何か」と問い直して転身を決めた。

買収事業の立て直しに失敗したポールさんも「なぜ立て直せなかったか」ではなく「顧客と従業員への影響を最小にして前進するには何が必要か」と考え、撤退の過程から学びを引き出した。

「なぜ」は過去を掘り、「何」は未来を開く。ただし私は、これは原因究明を全否定する話ではないと受け取りました。事実関係の検証には「なぜ」も要る。

本書が戒めているのは、感情がささくれ立った場面で自分の内面に「なぜ」を向ける、あの自己詰問の癖のほうです。

感情は、抑えずに名前をつける

感情との付き合い方も、常識がひっくり返ります。抑え込むと逆に増幅する。「シロクマについて考えるな」と言われるほどシロクマが頭から離れなくなる、ウェグナーのあの実験が引かれます。

代わりに勧められるのが感情の敏捷性(エモーショナル・アジリティ)。感情を抑えるのでも鵜呑みにするのでもなく、気づいて受け入れながら、自分の価値観に沿って行動する力です。

カギはラベリング。「私はダメな人間だ」と思うのではなく、「『私はダメな人間だ』という考えを持っている」と心の中で描写する。考えを「考え」、感情を「感情」と名づけて、一歩引いて眺める。

企業内弁護士のシンシアさんは、仕事と家庭の罪悪感に名前をつけて客観視し、価値観に基づいて動いて心の平安を得た。経営幹部のジェフリーさんは同僚への怒りを抑えるのをやめ、それを「大切なものが危機に晒されている」というシグナルと捉え直して、はっきり頼むという建設的な行動に変えた。

怒りは消す対象ではなく読む対象だ、というわけです。この章を貫くのが、次の一文でした。

頭のなかで思考は絶えず流れ、気持ちは天気のように移り変わる。だが、価値観はいついかなる状況でも指針とすることができる。

感情は天気、価値観はコンパス。天気に振り回されず、コンパスで進む。それが感情の敏捷性です。

成功者ほど真実が届かなくなる、という死角

本書の射程は内面にとどまりません。後半は対人関係へ広がります。ベテランほど自己認識が高いという常識も、ここで崩れる。立場が上がると率直な意見をくれる上位者が減り、部下はキャリアを恐れて本音を言わなくなる。だから経験を積んだリーダーほど、耳の痛い真実が届かなくなる。

背後にあるのが透明性幻想――「自分は開かれた書物で、意図した通りに他人も見てくれているはず」という思い込みです。実際には、集中している顔が不機嫌に見えていたりする。

だからフィードバックは待つものではなく取りに行くもの。「私が向上する上で直すべき点を一つ挙げるとしたら何ですか」と焦点を絞って尋ねる。

そして、なぜフィードバックはうまく機能しないのか。シーラ・ヒーン氏らは、人の中で「学び成長したい」欲求と「あるがままを受け入れられたい」欲求が衝突するからだと言います。

批判を受けると3つの心理的トリガーが作動する。内容に怒る「真実のトリガー」、送り手に反発する「関係性のトリガー」、自分らしさを否定されたと不安になる「自己同一性のトリガー」。

対処の第一歩はメッセージと送り手を切り離すこと。受け取るとは鵜呑みにすることではなく、分類してフィルタリングする主体的な作業なのです。

引き出し方にもコツがある。まず自分から弱みを開示すると相手は本音を言いやすくなるし、ファンドマネジャーのロベルトさんは重い360度評価をやめ、四半期ごとに数人へ「対処できそうなことを1つだけ」尋ねる方式に切り替えて伸びしろを掴みました。

象徴的なのは、最も役に立った体験を問われた人の72%が「上司からのネガティブ・フィードバック」と答えたという数字。耳の痛い意見こそ、いちばんの成長材料だったわけです。

さらに本書は、睡眠や気分を記録して自分の最適条件を探るオートアナリティクス(自己数値化)も紹介します。気分追跡で「最も忙しい木曜が一番幸せ」と気づいて転職したマリーさんの例がある一方、22年記録し続けたのに目的がなく改善に20年かかった研究者の例も挙げ、記録が目的化する「分析麻痺」の罠まで正直に書いている。

このバランス感覚が信頼できます。

なぜ今、自己認識なのか

日本語版序文で中原淳さんが現代の文脈を語ります。正解のない時代になり、リーダーシップは権力で動かすスタイルから、自分の強みを活かすオーセンティック・リーダーシップや全員が強みを発揮するシェアード・リーダーシップへ移った。

リーダーの「Doing(何をするか)」より「Being(どうあるか)」が問われる時代です。

そのうえで中原さんが突くのが日本人の弱点。「何をやればいいですか」と正解は求めるのに、「自分は何がやりたいのか(I want)」を語れない。

外面的自己認識が足りていない、と。著名人100人にターニングポイントを尋ねた調査で49%が「人」を最大の要因に挙げた話も添えられていて、自分を駆動する情熱の源泉は過去の出会いに眠っている、と気づかされます。

読み終えて残るのは「自分はわかっているつもりだった」という気づきです。自己認識は天性の才能ではなく、問いの立て方、感情との距離の取り方、フィードバックの引き出し方という、後天的に習得できるスキルの束だと本書は言い切る。そして最も深い一文がこれでした。

成長とは、新しいスキルを獲得して自分を変えることではなく、何かを手放して――最も大切にしている自らの核心部分さえ手放して――自分が何者になれるのかを発見することなのである。

成長は足し算だと思っていました。でも本書は引き算だと言う。次に落ち込んだ夜、「なぜ自分は」と問いそうになったら、一度だけ「何が」に言い換えてみてほしい。その小さな置き換えから、自己認識の旅は始まります。


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『insight(インサイト)』ターシャ・ユーリック 本書で「内面・外面の自己認識」「なぜではなく何を問う」を提唱したユーリック氏の単著です。アンソロジーである本書で核心に触れたあと、そのメソッドを科学的根拠とワークで深掘りしたい人に最適です。

『リフレクション』熊平美香 本書の「『なぜ』をやめて『何』を問う」という内省論を、日々の振り返りの技術へ落とし込んだ一冊です。反省ループに陥らず、経験を成長に変える具体的な手順を補強できます。

『みんなのフィードバック大全』三村真宗 本書後半の「フィードバックを上手に受け止める」を、与える側・もらう側の両面からさらに実務的に扱った本です。心理的トリガーで防御的になってしまう人が、次に読むと理解が立体的になります。


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