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『論点を研ぐ』則武譲二さん|最初に立てた「問い」は、たいてい間違っている

思考法・問題解決
約7分で読めます
『論点を研ぐ』

会議で「この方向で本当にいいのか」と感じても、もう後戻りできない空気。経験はありませんか。

その違和感は、たぶん正しいです。プロジェクトが行き詰まる原因の多くは、解き方ではなく、最初に決めた「解くべき問い」のほうがズレている。ところが、一度決めた問いを疑うのは、想像以上に難しい。

『論点を研ぐ』は、その「問いの見直し方」を技法に落とした一冊。著者の則武譲二さんは、ベイカレント・コンサルティングの常務執行役員です。

こんな人におすすめ

どれも、解決策が足りないのではなく、問いがズレているサインかもしれません。

この本の核心――「論点設定」は問題解決のなかで一番難しい

本書がまず突きつけるのは、冷たい事実です。問題解決のなかで最も重要で、最も難しいのは「論点設定」だ、と。

著者は問題解決を5つの段階に分けています。論点設定(解くべき問いを決める)、仮説立案(仮の答えを立てる)、仮説検証(事実で確かめる)、打ち手具体化(施策に落とす)、打ち手実行(やり切る)。世の中で「問題解決技法」として教わるのは、実行を除いた最初の4つです。

そのうち論点設定が最高難度だ、と著者は言い切ります。しかも、いきなり論点設定はできない。仮説検証や打ち手の実行といった泥臭い経験を積むことで、初めて「どの問いが大きなインパクトを生むか」という嗅覚が育つからです。

「最初に断言しておきたいのは、「論点設定」こそが、最も重要度が高いということだ。」

そして「論点を研ぐ」とは、一度立てた論点や仮説を疑い、その背後にある前提を問い直し続ける行為を指します。最初の問いが本質を捉えていることは稀。だから研ぎ続ける必要がある、という主張です。

なぜ、技法を学んでも停滞するのか

面白いのは、停滞の原因を本書がデータで示している点です。

企画系部門で働く30代100人への調査では、87%が問題解決の書籍を手に取った経験があり、90%が日常的に技法を使っていると答えました。それなのに、プロジェクトが行き詰まったとき自力で抜け出せたのは半分以下。多くの人が、技法を持っていてもスタック(停滞)から抜けられずにいます。

原因は「囚われ」です。バイアスや固定観念によって、一度置いた前提を疑えなくなる状態。著者は、停滞を打破するキーパーソンが頭のなかで繰り返していることの核心を、こう表現します。

「彼らが頭の中で繰り返し実践していることのうち、最も重要なポイントこそが「囚われ」からの解放だ。」

同じ調査で、もう一つ示唆的な数字が出ています。プロジェクトの停滞を解消するきっかけを生むのは「毎回だいたい同じ顔ぶれ」だと、78%が答えました。

その人たちは何をしているか。上位は「各人の考えや意思決定の経緯を質問して洗い直す」が60%、「いろんなファクトを質問して洗い直す」が59%。突拍子もない仮説を出している人ではなく、前提を問い直している人だったのです。

トップ戦略家に共通する3つの構え

著者は日立製作所、ソニーグループ、味の素の戦略家と対話し、彼らの思考に3つの共通点を見つけています。

1. 前提を疑う 自分が「コア(競争力の源泉)」だと思っているものを絶対視しない。ソニーの小寺剛氏は、競争力の源泉である「コア」と、必要だが差別化にはならない「コンテキスト」を切り分けることを重視します。

日立の森田守氏が使うのは「相対化」という言葉。主力事業を一歩引いて眺め、「次のイノベーションは何か」を問い続ける構えです。

2. 生きた情報で疑いに向き合う 机の上の議論では、自分の知識と成功体験の枠から出られません。味の素の榛葉信久氏の言葉が鋭い。

「机上で考えると、自分の知識や思い込み、成功体験の範囲から抜け出た発想をすることはできません。」

「日本は高齢化が進む」というマクロ情報からは事業は生まれない。高齢者施設に足を運び、入居者が暮らしのなかで何に困っているかを直接聞く。その「生きた情報」こそが前提を壊す、というわけです。

3. 機動的にピボットする 前提が変わった、間違っていたと判断したら、ためらわず方向転換する。日立では、事業を早く始めすぎてマーケットが立ち上がらず撤退したケースが全体の3分の1ほどあったと明かされています。守るべきは当初の前提ではなく、成果のほうだという割り切りです。

論点を研ぐ「5つのステップ」

ここからが本書の中心です。研ぐ行為を、センスに頼らない5段階に分解しています。

ステップ① 同質化する クライアントや上司が、なぜその論点にたどり着いたのか。背景や思考過程まで含めて追体験し、同じ目線に立ちます。ただし、ここに逆説があります。

「逆説的だが、同質化のステップでは”知りすぎない”ことも重要となる。過剰に知ると、クライアントや上長らと全く同じ思考回路に陥ってしまう。」

相手に同化しすぎると、相手と同じ場所で行き詰まる。だから報告資料を読み込みすぎず、必要最低限にとどめ、客観的な目線を残しておく。これが「同質化の罠」です。

ステップ② 前提を自覚する 論点や仮説の裏にあるファクトとロジックを、当たり前すぎることまで含めて全部書き出します。ここで使うのが「7つの観点」。定義/プレーヤー/セグメント/バリューチェーン/マネタイズ/シチュエーション/時間軸という7つのレンズで、無意識に見落とす前提を強制的にあぶり出します。

ステップ③ 前提を問い直す 書き出した前提に、3つの質問を投げます。「漏れ」(考えるべき観点が抜けていないか)、「妥当性」(ほかの見解ではなく本当にそれが正しいか)、「あえて」(あえて違う考え方をするとどうなるか)。

なかでも「あえて」が強力です。「あえて競合をC社D社と考えたら」「あえて時間軸を2030年に置いたら」と、意図的に視点をずらす。この小さなずらしの積み重ねが、非連続な発想を生むと著者は言います。

全員がA案に賛成しているときこそ、「あえて逆のB案なら何が起きるか」と問う場面です。

ステップ④ 核心を突く 見つかった疑いの正体を、事実にあたって解明します。ここで大事なのがスピード感。従来の仮説検証が数週間から1カ月かけて確からしさを固めるのに対し、このフェーズは数日以内のクイックな一次情報で「前提が誤っているか」をいち早く見極めます。

誤った前提を捨て、新しい前提を据えると、問題が生じている「本当のメカニズム(構図)」が浮かび上がります。

ステップ⑤ 再構築する 浮かび上がった「核心に迫る問い」を新しいサブ論点に据え、イシューツリーと仮説を組み直します。当初の計画書を部分修正するのではなく、構造ごと描き直すのがポイントです。

前提が壊れた瞬間――実際のケース

抽象論で終わらないよう、本書は4業界の事例を図解で見せます。前提が崩れた瞬間が、どれも鮮やかです。

あるラグジュアリーブランドの価格改定では、「この製品群は価格弾力性が高い(値上げすれば売れなくなる)」という前提を問い直しました。検証の結果、出てきた新前提は「ラグジュアリーブランドに価格弾力性はほぼ存在しない」。

消費者は価格が動いても購買行動を変えなかったのです。そこから3年で6〜7割の製品を5〜20%値上げし、営業利益率を10ポイント弱改善する戦略が立ちました。

電子カルテ事業では、大手4社が市場の75%超を寡占していました。普通なら参入をあきらめる局面です。ところが医療従事者10人に聞くと、大手を使う7人のうち4人が診療科専用カルテを併用していた。寡占市場にも、シェアを取る隙間があったわけです。

金融機関のトランザクションレンディング事業では、「小規模事業者ほど資金繰りに困っているから融資ニーズが高い」という米国型の前提で立ち上げを進めていました。日本企業5社に聞くと、多くが「いまの資金調達に困っていない」。ターゲットも提供価値も、根本から見直すことになりました。

どれも、現場に直接聞いたことで前提が壊れています。生きた情報の威力が、ここに表れています。

明日から何を変えるか

本書の技法を、今日の仕事に落とすなら3つです。

1. 行き詰まったら、解決策ではなく「論点」を紙に書き出す 新しい打ち手を探す前に、いま解こうとしている主論点・サブ論点・仮説をツリーで可視化します。そして、その横に「それを成り立たせている前提」を、当たり前のことまで全部書く。

2. 会議で全員一致したら「あえて逆なら?」と口に出す 議論がきれいにまとまった瞬間こそ危ない。「あえてターゲットを逆の層にしたら」「あえて競合を別の会社にしたら」と、意図的にずらして疑いを探します。

3. 報告書を読み込む前に、現場に数人聞く 二次情報に頼らず、顧客や現場の声を数日でクイックに取りに行く。疑わしい前提を一次情報で確かめ、間違っていたら捨てる勇気を持ちます。

おわりに

戦略がうまくいかないと、人はつい「自分にはセンスがない」と落ち込みます。本書はそこに、はっきり別の答えを置きます。

「「技法」と「経験」は「センス」を凌駕し、ビジネスを飛躍させる」

論点を研ぐ力は、天才の特権ではない。5つのステップを愚直に回し続けることで、誰でも手に入る技術だ、と。次にプロジェクトが止まったとき、解決策を探しに行く前に、こう問えるかどうか。「そもそも、解くべき問いは合っているのか」。その一歩が、研ぐことの始まりです。


合わせて読みたい

『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 「正しい答え」の前に「正しい問い」があると説く論点思考の名著。則武さんの本が論点を研ぐ「技法」だとすれば、こちらは論点設定の勘所を事例で学べる土台になります。

『問題発見力を鍛える』細谷功さん AIが解けないのは「問いを立てること」だけ、という視点。前提を疑い問いを立て直す本書の姿勢と、根っこで響き合います。

『筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」』高松康平さん 「考えているのに進まない」の正体を地図で解きほぐす一冊。本書のステップ⑤「再構築する」で必要になる、スジの良い仮説の立て方を補ってくれます。


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