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『日本人のための「書く」全技術【極み】』藤吉豊さん|うまい文章の差は、才能ではなくルールだった

コミュニケーション・文章術 ✍ 藤吉豊さん
約7分で読めます

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『日本人のための「書く」全技術【極み】』
目次

「自分は文章のセンスがない」。そう決めつけて、メール一通に何十分もかけてしまう。送ったあとも「これ、ちゃんと伝わったかな」とそわそわする。私自身ずっとそうでした。

書いては消し、消しては書き、結局は遠回しで長い一文ができあがる。原因はてっきり、生まれ持った才能の差だと思い込んでいたのです。

藤吉豊さんと小川真理子さんの『日本人のための「書く」全技術【極み】』は、その思い込みを冒頭からきっぱり否定します。

文章が上手な人と、文章が苦手な人の差は「文才の差」ではありません。「文章のルールに則って書いているか、ルールを知らずに書いているか」の差です。

うまく書けないのは才能ではなく、ルールを知らないだけ。裏を返せば、ルールは今日から学べる。プロのライター・編集者として長く現場に立ってきた著者が、その「ルール」を準備から仕上げまで一気通貫で体系化したのが本書です。

この記事では、その核心を出し惜しみせずたどりつつ、どこまで信じてよくてどこは割り引いて読むべきか、私なりの解釈も添えていきます。

図解

文章は「5つの工程」でできている

本書がまず壊してくれるのは、「書く=思いついた言葉をいきなり打つ作業」という思い込みです。

著者は、文章が完成するまでを5つの工程に分けます。(1)企画立案――何のために、誰のために、何を書くかを決める。(2)情報収集――企画に沿って材料を集める。

(3)情報整理――集めた材料を取捨選択する。(4)執筆――順番と表現を決めて書く。(5)推敲――誤字や事実関係をチェックして練り直す。

ここで効いてくるのが、机に向かう「執筆」は5つのうちのたった1つにすぎない、という指摘です。文章の質の大半は、キーボードを叩いていない時間――つまり書く前の準備と、書いた後の磨き上げ――で決まる。

「書けない」と固まってしまう人の多くは、実は執筆以外の4工程をすっ飛ばして、いきなり一番むずかしい工程だけを素手でやろうとしているのかもしれません。

私が膝を打ったのは、これが「書けない」の正体を分解してくれる点です。手が止まるのは、文才が足りないからではなく、まだ書くだけの材料も設計図もそろっていないから。

だとすれば対処は明快で、足りない工程に戻ればいい。料理にたとえれば、レシピも決めず冷蔵庫も見ずに、いきなりフライパンを熱しているようなもの。

この見取り図を持つだけで、書く作業はぐっと整理されます。

「内容70点・書き方15点・見せ方15点」という配分

本書で一番意外だったのが、良い文章の点数配分です。

著者は、100点の文章の内訳を「内容70点、書き方15点、見せ方15点」だと言い切ります。言い回しやレイアウトといった表現の技術は、合わせても30点しかない。文章術の本でありながら、テクニックではなく中身を堂々と主役に据えているわけです。

ドラマ、映画、演劇では、「一に脚本、二に役者、三に演出」が定説だといわれているそうです。文章も同じで、「一に内容」です。

ではその「内容」はどう厚くするのか。著者は、読者の役に立つ・独自性がある・意外性がある・信頼性がある・即効性がある・読者に関係がある、という6つの観点を挙げ、当てはまる数が多いほど内容は強くなると説きます。

とりわけ大事なのが読者のメリット。「おいしいコーヒー豆を買った」という自分の感想で終わらせず、「鮮度を保つ4つの保存法」のように、読者が得をする形へ変換する。

書きたいことではなく、役に立つことを書く。

この「70対30」という数字には正直、留保もつけたくなります。配分そのものは厳密な計測値というより、優先順位を体に刻むためのスローガンに近い。

だから「30点の技術は磨かなくていい」と読むのは早計です。中身が同じでも、見せ方や書き方が壊れていれば読者は最後まで読んでくれない。むしろ私はこう受け取りました――内容で勝負がつくのは事実だが、技術は「中身を台無しにしない最低保証」として依然として要る、と。

それでも、「うまく書けない」という悩みの多くが、実は「差し出す中身がない」という別の問題だったと気づかせてくれる点で、この配分は効きます。

AI時代に武器になる「1次情報」

中身を厚くする鍵は、情報の集め方にあります。本書は情報を2つに分けます。自分が体験・取材して得た「1次情報」と、新聞やネットなど他人がまとめた「2次情報」です。

著者が価値を置くのは1次情報のほう。独自性と信頼性が一番高いからです。ネットの情報をまとめ直すだけでは、誰が書いても同じものにしかならない。

検索で何でも出てくる時代――そして生成AIが平均的な文章を無限に吐き出す時代――だからこそ、自分の足で得た情報が決定的な差になる、という主張は説得力があります。

しかもネット情報には落とし穴がある。本書はエビングハウスの忘却曲線を例に出します。「人はすぐ忘れる」根拠として広く引用されますが、本来は「一度覚えた内容を再び覚え直すときの時間の節約率」を示したもの。

みんなが信じている情報にも、誤読が紛れているわけです。だから複数の情報と比べ、根拠を考え、発信元と時期を確認したうえで使う。著者自身、駆けだし時代に最新アルバムを聞かずにインタビューへ臨み、相手に5分で席を立たれた失敗を明かしています。

準備不足は一瞬で見抜かれる、という生々しい教訓です。

ここはこの本のいちばんの肝だと感じました。文章術というと小手先のテクニックを想像しがちですが、本書は「何を書くかの前に、何を仕入れたか」で勝負はほとんど決まる、と言っている。

とはいえ、すべての記事で取材や一次体験をそろえるのは現実には難しい。私の解釈では、これは「全部を1次情報にしろ」ではなく「軸足を1次情報に置け」という話です。

借り物の情報の上に、自分が確かめた一点を必ず一滴垂らす。その一滴が、平均的な文章とあなたの文章を分けます。そして集めた材料は100集めて10に絞る

詰め込みすぎると論点がぼやけるので、読者の役に立たないもの・独自性のないものから捨てていく。集める力以上に、捨てる力が文章を引き締めます。

型と短文――テクニックは「補助輪」と割り切る

いざ書く段になると、本書は迷わないための「型」を渡してくれます。

すぐ使えるのが3つ。結論から書く「逆三角形型」、結論のあとに要点を並べる「箇条書き型」、そして有名な「PREP法」です。PREPは結論(Point)→理由(Reason)→具体例(Example)→結論(Point)の順。

「iDeCoをおすすめします→節税効果があるから→年間◯万円の控除→だから始めましょう」と、結論で始まり結論で締める往復構造に流し込むだけで、論理が勝手に通っていきます。

型は窮屈なルールではなく、論理破綻を防ぐ補助輪だと捉えると気が楽になります。

短文化のルールも具体的です。一文は60文字以内を目安に、ワンセンテンス・ワンメッセージで書く。長い文は主語と述語の関係がこじれ、事実が伝わりにくくなるからです。

短くするコツは、「そして」「だから」のような順接の接続詞を削ること。迷ったら削る。漢字とひらがなの比率も2〜3割対7〜8割が読みやすいとされ、感覚ではなく基準で直せるのがありがたい。

見せ方も文章力のうち、というのが本書のユニークな点です。紙なら5〜6行、画面なら2〜3行ごとに改行して余白を作る。詰まった文章は、読む前から「重そう」と敬遠される。書き出しで読者の悩みや意外な事実を先に提示し、「これは自分に関係がある」と思わせるのも効果的です。

ただし、ここは線引きに注意したい箇所でもあります。60文字も、接続詞を削るのも、あくまで「目安」であって絶対法則ではない。短い文を機械的に並べると、今度はぶつ切りでリズムを欠いた、たどたどしい文章になりかねません。

私はこれらを「初期設定」と捉えています。まず短く整える癖をつけ、慣れたら意図的に長い一文を混ぜてうねりを作る。ルールは破るために覚えるのではなく、いつ守らないかを判断するために覚える、という順番です。

推敲と上達――書きっぱなしにしない

書き終えてからが、もう一仕事です。本書は推敲の精度を上げる方法を具体的に挙げます。最低一晩、できれば一週間ほど時間を置く。画面ではなく紙に印刷する。

声に出して音読する。第三者に読んでもらう。とくに音読は、単語の最初と最後さえ合っていれば脳が勝手に補正して読めてしまう「タイポグリセミア現象」による見落としを防いでくれます。

なぜこれらが効くのかを私なりに言い換えると、どれも「書いた自分」と「読む自分」を引き剥がす仕掛けです。時間を置けば記憶が薄れ、紙に変えれば見た目が変わり、声に出せば耳という別の感覚が加わる。

人は自分の文章を「書いたつもり」の脳内補正で読んでしまうので、補正が効かない条件をわざと作ってやる。そう理解すると、四つの方法がバラバラの小技ではなく一本の原理でつながって見えてきます。

上達法もシンプルです。新聞コラムや憧れの文章を一字一句書き写し、構成を真似る。あわせて日記やブログで書く機会を増やし、誰かに添削してもらってなぜ間違えたかを検証する。

地味ですが、語彙とリズムが体に染み込む王道です。即効性を求める人には物足りないかもしれませんが、近道がないと言い切ってくれるぶん、かえって誠実だと感じました。

そして本書は、技術論の先で「心得」に着地します。著者が大切にするのは禅の「愛語」――相手を思いやるやさしい言葉。命令調やネガティブな表現を避け、相手を勇気づける言葉を選ぶ。

文章は書き手の人間性を映すからこそ、内面を磨くことが文章を磨くことにつながる。ノウハウ本でありながら最後に人としての姿勢へ降りていくところに、本書の品があります。

もちろん、すでに1次情報重視や短文化を体に染み込ませている人には、本書は確認作業に近いでしょう。型より独創的な表現を追いたい人には、整然としたルールがやや窮屈に映るかもしれません。

それでも、「センスがない」と諦める前にまず手順を知る――準備して、絞って、型に乗せて、短く書き、寝かせて見直す。この一連を一度通すだけで、文章は確かに別物になります。

まずは次のメール一通から、一文を60文字で区切り、接続詞を1つ削るところから始めてみてください。


合わせて読みたい

『新しい文章力の教室』唐木元 本書と同じく「文章はセンスではなく技術」という立場の一冊。「書けない」を「書ける」に変える具体的な手順が、本書の5プロセスとそのまま響き合います。

『すごい言語化』木暮太一 「語彙力がない」が伝わらない原因ではない、と説く本。本書の「内容70点」という主張と地続きで、何を言うかを磨きたい人に。

『読みたいことを、書けばいい。』田中泰延 読者目線で書くと人が集まる、という視点が本書の「読者のメリットを優先する」考え方と重なります。書く動機を整えたい人におすすめです。


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