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『MBA戦略思考の教科書』安部徹也さん|利益は「目的」じゃなく「尺度」だった

戦略・経営・事業
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『MBA戦略思考の教科書』

「一生懸命やってるのに、なぜか結果が出ない」。

そう感じたこと、ありませんか。私はずっとそうでした。タスクはこなしている。残業もしている。なのに、数字も評価も思うように伸びない。

本書を読んで、原因が腑に落ちました。ビジネスという試合に、ルールを知らないまま参加していたんです。

著者の安部徹也さんは、それを野球にたとえます。バットの振り方を知らずに打席に立っても、ヒットは打てない。ビジネスにも「最低限のルール」がある。それがMBA理論です。

MBAと聞くと身構えますが、要は「ビジネスで成果を上げるための基礎知識」のこと。本書は経営戦略・マーケティング・ファイナンス・人事・生産管理・会計という6分野のエッセンスを、1冊で俯瞰できるようにまとめた地図です。本稿では、私がとくに「常識をひっくり返された」と感じた論点に絞って、この本の手応えを伝えたいと思います。

図解

利益は「目的」じゃない。ただの「尺度」だった

最初に揺さぶられたのが、利益の話でした。

ビジネスの目的は利益を上げること。そう思っていませんか。私は完全にそう思っていました。

でも著者は、ビジネスの本質を「利益の追求」と「社会貢献」の両立だと言います。利益はゴールではなく、社会に価値を与えられたかを測る尺度にすぎない、と。

利益はビジネスの「目的」ではなく、「尺度」だということです。

これはもともと経営学者ドラッカー氏の考え方です。言われてみれば当たり前なのに、私はずっと点数(利益)そのものを目的にして走っていた。通信簿の点数を上げることに必死で、「ちゃんと学べているか」を忘れていたようなものです。

この一行が効くのは、たぶん「数字に追われて何のために働いているか分からなくなった人」だと思います。利益を価値の対価ととらえ直すだけで、自分の仕事の見え方が静かに変わる。なぜ利益だけを追うと事業が続かなくなるのか、その身近で生々しい例は、本書の冒頭で確かめてみてください。

「武器」をどこで振るか――強みは戦場を間違えると死ぬ

本書の戦略パートで一番好きなのが、自社の強みを「武器」、戦うべき市場を「戦場」と呼ぶ比喩です。

コア・コンピタンスと事業ドメインの関係は、言い換えれば、「武器」と「戦場」です。

どんなに鋭い武器を持っていても、戦場を間違えれば勝てない。この一文だけで、戦略という言葉がぐっと身近になります。

本書はこれを、対照的な2社のエピソードで見せてくれます。片方は自社の武器を活かして戦場を大胆に広げ事業を拡大した会社、もう片方は自分の事業を狭く定義したせいで時代に取り残された会社。どちらがどの会社かは、読みながら「あっ」と声が出る配置になっているので、ここでは伏せておきます。

私が地味に唸ったのは、その武器が「本物かどうか」を点検する視点です。真似されにくいか、すぐ陳腐化しないか――こうした問いは、会社の戦略だけでなく、自分のキャリアの強みを棚卸しするときにもそのまま使えます。点検の基準は複数あり、本書ではそれを一つずつ丁寧に解説しています。環境を読むための分析フレームワーク(PEST、3C、SWOTなど)も登場しますが、網羅するより、まず「武器と戦場」という一本の軸を持って読むのが理解の近道だと感じました。詳しい使い分けは、本書で確かめてみてください。

ドリルを買う人は、ドリルが欲しいわけじゃない

マーケティングの章で出てくる、有名な一節があります。ハーバードのレビット教授の言葉です。

「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」

顧客はドリルという「モノ」ではなく、穴を開けるという「結果」にお金を払っている。この結果や満足を、本書はベネフィットと呼びます。製品のスペックを語る前に、顧客が本当に欲しい結果は何かを問う。シンプルなのに、できていない人(私です)に効く視点でした。

そしてもう一つ、私の常識が逆転したのがターゲットの絞り方です。多くの人は「対象を広げたほうが売れる」と考えます。でも本書は、むしろ狭く絞るほうがヒットの確率は上がる、と説きます。万人に受けようとすると、コンセプトが曖昧になり、結局誰の心にも刺さらない。SNSで「過去の悩んでいた自分」に向けて書いた文章のほうが、なぜか広く届く――あの感覚に近いものがあります。

なぜ絞るほど刺さるのか、その理屈と「誰に・何を・どう売るか」を組み立てる手順は、本書がきれいに体系化しています。ここは読んで、自分の商品に当てはめながら確かめる価値があります。

黒字なのに潰れる会社がある

ファイナンスの章で、私が一番ぞっとしたのがこの話でした。

黒字なのに倒産する会社がある。事業はちゃんと利益を出しているのに、手元の現金が底をつき、続けられなくなる。いわゆる黒字倒産です。

会計上の利益と、実際に使える現金は別物。だから財務諸表は、儲けを示す表と、現金の出入りを示す表をセットで読まなければいけない。利益が出ていても、現金が枯れかけていればアウトなのです。

財務諸表はただ単に眺めるのではなく、数値を加工し、比較・分析することで企業の問題点が浮き彫りにされます。

本書のいいところは、ここで実在企業の数字を並べて比べてみせる点です。同じ小売業でも、自分で作って売る会社と、仕入れて売る会社とでは、利益の構造がまるで違う。その差が数字でくっきり出る瞬間は、読んでいて気持ちがいい。具体的にどの会社の利益率がどう違ったかは、本書の表で確かめてほしいところです。お金に時間的価値があるという話(今日の100万円と1年後の100万円は同じではない)も、投資判断を「感覚」から「計算」へ引き上げてくれます。

どんな人に効く本か

本書は、人と組織のマネジメントにも踏み込み、「管理する人」と「革新する人」は役割が180度違う、という話で締めくくられます。経営破綻した企業を短期間で立て直した名経営者の再建劇など、語りたくなるエピソードもありますが、それは本編の楽しみに取っておきます。

この本がいちばん効くのは、知識を「点」では持っているのに、線でつながっていない人だと思います。利益は尺度、強みは戦場で活きる、顧客が買うのは結果、黒字でも現金がなければ潰れる――どれも単体では聞いたことがあるはずです。それが「ミッションから現場へ」という一本の線で串刺しになったとき、急に景色が変わります。

逆に、各分野の専門書を読み込んできた上級者には物足りないかもしれません。著者自身、本書は「導入部分に過ぎない」と認めています。でも、地図を持たずに専門書を開いても、自分が今どこにいるか分からない。まず全体像という地図を手に入れる――その役割を、この一冊はきれいに果たしてくれます。

一生懸命やっても結果が出ないと感じているなら、努力の量ではなく、戦略の地図を疑ってみる。そこから、変わりはじめます。


合わせて読みたい

『ストーリーとしての競争戦略』楠木建さん 本書の「武器と戦場」をもっと深めたい人へ。優れた戦略は個別の打ち手の寄せ集めではなく、思わず人に話したくなる「物語」だと教えてくれます。フレームワークの先にある競争戦略の本質に踏み込めます。

『付加価値のつくりかた』田尻望さん 本書の「ベネフィット」と「値下げで利益が変わる構造」を、キーエンスの実例で掘り下げた一冊。値下げに頼らず選ばれる仕組みのつくり方が、利益=価値の対価という本書の主張と響き合います。

『マーケット感覚を身につけよう』ちきりんさん 本書のR-STP-4Pで学ぶ「顧客が本当に欲しい価値の見極め」を、フレームワークの外側から鍛える本。何が売れるかを肌で感じ取る感覚は、戦略の精度を一段引き上げてくれます。


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