データ分析を学んだ。ロジカル・シンキングも身につけた。なのに、なぜか提案が通らない。
そう感じたことがあるなら、足りないのは新しい手法ではないかもしれません。
著者の柏木吉基さんは、その正体を「OSの欠如」だと言い切ります。どんなに高機能なアプリ(手法)を入れても、土台のOS(仮説を立てる力)が貧弱なら、成果は出ない。本書は、その土台を鍛えるための一冊です。
こんな人におすすめ
- データ分析や統計を学んだのに、実務で「何となく納得しがたい結論」しか出せない人
- 問題に直面すると、つい「とりあえずデータを見よう」から始めてしまう人
- ロジックツリーをきれいに描けるのに、後から「あれが抜けている」と指摘される人
- 真っ白な状態から自分なりの仮説を作るのが苦手で、思考が止まってしまう人
「正解を探す」のは得意だけれど「正解を創る」のは苦手、という人にこそ効きます。
この本の核心――仮説はOS、手法はアプリ
本書を貫く比喩が、これです。
仮説はOS、各手法はアプリケーション
データ分析もフレームワークも、パソコンでいえばアプリにすぎません。それを動かす基本ソフト、つまりOSにあたるのが仮説です。OSが不十分なら、最新のアプリをいくら積んでも動かない。
ここで著者が問い直すのが、ビジネスにおける「質の高さ」の意味です。それは計算の正確さ(精度)ではなく、アウトプットがもたらす効果の大きさだと言います。どれだけ正確に計算しても、前提の仮説がずれていれば、効果は生まれません。
そして合理的な結論は、ゴールの設定→現状把握→要因特定→結論の構築という4ステップで導かれます。このプロセス全体を支えるのが、仮説なのです。
データから仮説を立てると、頭が固まる
本書で最も挑発的な主張がこれです。
データなどの情報を見て仮説をつくることはやめたほうが良い
データドリブンが当たり前の時代に、真逆を言っています。理由は2つあります。
1つ目は、思考のロックインです。目の前のデータを見ると、思考がその範囲に固定され、視野が狭くなります。「たまたま見たデータ」の外側にある本当の要因を、見落としてしまうのです。
2つ目は、検証の意味が薄れること。社会心理学者のノーバート・カー氏は、結果が判明した後に仮説を作ることをHARKingと呼びました。データを先に見てから仮説を立てるのは、これに近い。すでにわかっていることを、改めて確認するだけになってしまいます。
だから順番は、こうあるべきです。データを見る前に、ゼロベースで思考を発散させて仮説を立てる。データは、その仮説を検証するために後から見る。
役割の違う3つの仮説を使い分ける
「仮説」とひとくくりにしがちですが、本書はこれを3つに分けます。
ストーリー仮説 結論を出すために、どんな情報が必要で、どの順番で確認するか。全体の筋道についての想定です。これがないと、行き当たりばったりの作業になり、迷走します。
現状仮説 目の前の問題を客観的に把握するために、どんな切り口で捉えるか。地域、年代、時間といった分解の軸についての想定です。
要因仮説 把握した現状の背景に、なぜそうなっているのかという原因や根拠についての想定です。
この3つが揃って初めて、問題解決のプロセスが一本につながります。
まずゴールの解像度を上げる
仮説を考え始める前に、必ずやることがあります。ゴールを具体的に定めることです。
著者が勧める問いは、とてもシンプルです。
「問題」という言葉を耳にしたときに、一度自問してみると良いのは、「誰が何に困っているのか?」についてです。
「売上が下がっている」では漠然としすぎています。誰の、どの困り事なのかを問うことで、解像度が上がります。
ここで重要な注意が1つあります。ゴールに要因を混ぜてはいけない、ということです。「営業の経験不足で、売上が伸び悩んでいる」とゴールを置くと、最初から「経験不足」という思い込みに思考が縛られます。客観的な困り事である「売上が伸び悩んでいる」だけを、ゴールにする。要因はあとで疑う対象であって、前提ではないのです。
そしてゴールは設定して終わりではありません。作業中に何度も「そう言えば、ゴールは何だったっけ?」と立ち返る。手段が目的化する迷走を、これで防ぎます。
仮説を「思いつく→まとめる→広げる」3ステップ
良い仮説の条件は、網羅性(抜け漏れのなさ)と論理性(筋が通っていること)の2つです。これを満たすために、3つのステップを踏みます。
1. 思いつく データを見ずに、自力で要因のアイデアを限界まで書き出します。
2. まとめる(ロジックツリーとカテゴリーアプローチ) 出したアイデアを、箇条書きのままにせず構造化します。ここで使うのがカテゴリーアプローチです。個々のアイデアではなく、抽象的な「枠(カテゴリー)」でまとめる。著者はこう言います。
人は具体的なアイデアをもう1つ思いつくよりも、より抽象的な概念をもう1つ増やすほうがやりやすいのです。
枠の抜け漏れを探すほうが、個々のアイデアの抜け漏れを探すより簡単で、大きな見落としを防げます。
3. 広げる(クリティカル・シンキング) ここがロジカル・シンキングの限界を超える部分です。論理的に整理するだけでは、自分が知っている範囲にとどまります。そこで、目の前を無批判に受け入れず疑うクリティカル・シンキングを重ねます。具体的な道具が2つあります。
自己否定 自分の挙げた仮説をあえて否定してみます。「時間に追われてミスが起きた」と立てたら、「もし時間に十分余裕があったら、他に何が原因だろう?」と問う。前提を裏返すと、行き詰まった発想が次に進みます。
ペアコンセプト 対になる概念をセットで考えます。「我が社 vs 競合」「やり方 vs やる気」「質 vs 量」。残業が減らない要因を社内ばかりで考えていたら、対になる「社外(顧客の無理な要求)」に気づく。ツールを入れたのに効果が出ないなら、方法論の対になる「意識(やる気や評価制度)」が抜けていないかを疑う。片方だけ対策して、もう片方を見落とす失敗を、強制的に防げます。
立てた仮説を、データで検証する
ここで初めてデータの出番です。要因仮説が正しいかは、結果(問題)と要因の間に関係性があるかで確かめます。
手軽で説得力のある方法は2つです。散布図で、縦軸に結果、横軸に要因を取り、直線的な傾向が見えるかを可視化します。判断が難しければ、相関分析で関係の強さを数値にします。相関係数は-1から+1の間で示され、おおむね0.5〜0.7以上で関係が強いと見ます。たとえば売上額との相関係数が、宣伝回数は0.18、アップデート頻度は0.80、口コミスコアは-0.03だったなら、効くのはアップデート頻度だとわかります。
このとき著者が強く戒めるのが、確証バイアスです。
「自分の仮説が正しいことを立証すること」が検証のゴールに、いつの間にか(自分の中で)すり替わってしまうのです。
人は無意識に、自分に都合のいいデータばかり集めます。だからあえて反証を探す。そして、もし仮説が外れていても落ち込まなくていい。
「検証したら、仮説のとおりではなかった」というのも、事実が1つ判明したという意味で、「失敗ではなく、むしろ成功」と言っても良いでしょう。
無駄な施策を1つ防げた、という成功なのです。
明日から何を変えるか
1. 作業の前に「誰が何に困っているか」を1行で書く ゴールの解像度を上げてから動き出す。このとき、要因の決めつけを混ぜないように気をつけます。
2. データを開く前に、要因を紙に書き出す 分析ツールを開く手を止めて、まず自分の頭で広く要因を発散させます。思考がデータにロックインされる前に、視野を確保します。
3. 挙げた要因に「その反対側は?」と一度問う 社内を挙げたら社外、方法論を挙げたら意識。ペアコンセプトで、見落としを1つ拾います。
なお著者は、初心者がゼロベースに固執してフリーズするくらいなら、情報を見て発想を広げてもよい、と例外も認めています。原則は守りつつ、最初の一歩で固まるよりはマシ、という現実的な姿勢です。
おわりに
この本を読むと、問題解決の順番が逆だったことに気づきます。多くの人は、データを集めてから考える。本書は、考えてからデータを見ろと言う。
AIや分析ツールがどれだけ進化しても、何を明らかにしたいのかという問いを立てるのは、人間の仕事です。著者は最後にこう締めます。知識や方法論をいかに使うかというスキルは、価値を失うどころか、ますます必要とされている、と。
土台となるOSを鍛えること。それが、あらゆる手法を活かす近道なのだと、本書は教えてくれます。
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データは揃っている。分析もした。なのに、何も決まらない。 まさに本書が解決しようとする状況そのもの。データを揃えても決まらないのは、OS(仮説)が欠けているから、という本書の核心と響き合います。



