「わかった」と感じた直後の判定が、学びを止めている
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単語カードを1枚めくって、答えがすぐ出た。だから、そのカードは束から抜く。
これに近いやり方を実験で確かめると、外した単語は1週間後、3分の1ほどしか思い出せませんでした。
問題は覚え方より、「もう覚えた」と判定するタイミングのほうにあります。
「わかった」は、勉強をやめる合図として働いている
パデュー大学のジェフリー・カーピック氏は、2009年にこんな実験を報告しています。ワシントン大学(セントルイス)の学生30人が、スワヒリ語と英語の単語ペアを40組覚えました。
一度正しく思い出せたペアの扱いを、3通りに分けます。そのまま外す。あと2回読み直す。あと2回テストする。
1週間後に思い出せた割合は、外した場合が35%、読み直した場合が39%、テストを続けた場合が78%でした。どの条件でも一度は思い出せていたペアが、その後の扱いだけで倍以上の差になりました。
次の実験では、42人の学生に扱いを自分で選ばせました。学生が選んだのは、6割のペアを外すことでした。テストを続けたのは25%、読み直しは15%です。
選び方を見ると、42人中18人は9割以上のペアに同じ扱いを選んでいました。そのうち14人は9割以上を外す側で、10人はすべてのペアを外していました。
外したペアは1週間後に35%しか思い出せず、テストを続けたペアの72%に遠く及びません。外すと決めたペアには、直前に平均85%という高い「覚えた度」がついていました。
「思い出せたなら、もう知っているから外す」。カーピック氏は、一度思い出せると「学習済み」と思い込み、そこで練習を打ち切ってしまうことを、自己学習で起きる錯覚として論文の結論に置いています。
手応えが選択を決めていることは、別の実験でも確かめられています。コロンビア大学のジャネット・メトカーフ氏らは2008年、見せる回数を操作して、思い出せる量は同じなのに「覚えた」の手応えだけがずれる状況を作りました。
どれを復習するかの選択は、実際の記憶より手応えのほうに従いました。少し時間を置いてから判断させた条件では、手応えのずれも、選択の偏りも出ませんでした。
手応えは、記憶と関係のない手がかりでも上がる
では、その手応えは何を見て決まっているのでしょうか。
コロラド州立大学のマシュー・ローズ氏とUCLAのアラン・キャステル氏は2008年、単語を大きな文字(48ポイント)と小さな文字(18ポイント)で見せ、1語ごとに「後で思い出せる自信」を0〜100で答えてもらいました。
最初の実験の参加者は20人。自信の平均は、小さな文字で約49、大きな文字で約61でした。ところが実際に思い出せた量は、文字の大きさで差がありませんでした。
「文字の大きさは記憶にほとんど影響しない」と事前に伝えても、差は小さくなっただけで消えませんでした。
この効果はその後も多くの研究で扱われています。2022年に研究を統合したメタ分析では、手応えへの影響は小〜中程度でした。記憶そのものにも小さな影響が見つかり、完全に無関係とまでは言えません。それでも、手応えのほうが大きく動く構図は残りました。
仕組みについては、大きい文字は読みやすいからという説明と、「大きい字は覚えやすいはずだ」という思い込みによるという説明があり、決着していません。
どちらにしても、手応えは記憶を直接のぞいた結果ではありません。
たとえば、図解がきれいにまとまったスライドや、蛍光ペンで色分けしたページも、見た目の整い方が手応えに混ざりやすい素材です。
東京大学の柳川範之さんは『東大教授が教える独学勉強法』で、きれいなノートや要約づくりを勧めていません。まとめる作業で「わかった気」になり、深く考えることの妨げになるからだといいます。実験とは別の経験則ですが、向いている方向は同じです。
直後の「わかった」と、時間を置いた「わかった」は別物
手応えが当てにならない理由の一つは、判定のタイミングです。
心理学者のトーマス・ネルソン氏とジョン・ダンロスキー氏は1991年、単語ペアを覚えた直後に「後で思い出せるか」を判断させる場合と、少し時間を置いてから判断させる場合を比べました。
時間を置いた判断は、後の成績をかなり正確に言い当てました。直後の判断は、それほど当たりませんでした。
実験で置いた時間は「学習の少し後」で、長い間隔ではありません。学んだ直後は、答えがまだ頭の中に残っています。だから、すぐ思い出せて当然です。その「すぐ出る感じ」が、1週間後も出てくるかどうかとは別物なんです。
翌1992年の研究で、2人は条件をもう一つ絞り込みました。判断のときに見せるのが「問いだけ」なら、時間を置く効果は非常に強く、45人全員に現れました。問いと答えを並べて見せると、効果はほぼ消えました。
答えを見ながら「うん、知ってる」と思うのは、思い出せるかどうかの確認になっていません。
たとえば、研修の終了直後に配られる「内容を理解できましたか」というアンケートは、この直後判定にあたります。資料が手元にあり、講師の説明もまだ耳に残っている時点の自己評価です。高い点がついても、1週間後に現場で使えるかどうかは、そこからはわかりません。
この「時間を置くと判断が当たる」現象は、2011年に112の効果量、延べ4,554人分のデータを統合したメタ分析でも、大きく安定した効果として確かめられています。
「わかった」の判定を、後ろにずらす
ここまでの研究を合わせると、やることは判定の置き場所を変えるだけです。
誤解:読み終えて「わかった」と感じたら、その章は終わり → 直後の手応えは、頭に残っている答えを読んでいるだけです。判定は後に回します。実験では学習の少し後でも効きましたが、日々の勉強なら翌日と決めておくと忘れません。
正しいアプローチ:翌日、問いだけを見て答えを言えたら「わかった」 → たとえば本の章なら、見出しだけを見て中身を30秒で言えるか試します。答えを見ながらの確認は判定に数えません。
誤解:一度思い出せたカードは、もう外していい → カーピック氏の実験で成績を分けたのは、思い出せた後に何をしたかでした。
正しいアプローチ:一度正解しても外さず、あと2回はテストに残す → 実験でテストを続けた条件は、同じ学習の中で「あと2回」でした。全部を何周もする必要はありません。
もう一つは、柳川さんが「揺らす」と呼ぶ確かめ方です。覚えた知識に「もし前提が違ったらどうなるか」と条件を変えてぶつけ、本当に消化できているかを試します。
たとえば、会議の進め方を本で学んだなら、「参加者が3人ではなく15人だったら」「全員リモートだったら」と置き換えてみる。答えが崩れたところが、まだわかっていない部分です。
今日すぐできるのは、手帳の明日の欄に、今日読んだ章の見出しを1つ書いておくことです。明日それを見て、中身を口に出せるかどうか。判定はそこでつけます。
「わかった」は、明日もう一度言えたら使っていい
「わかった」という感覚そのものは、悪者ではありません。学習を先へ進めるためには、どこかで区切る合図が要ります。
ただ、学んだ直後のその合図は、文字の大きさや、答えがまだ頭に残っていることでも鳴ります。
同じ言葉を、一晩置いて、問いだけを前にしてもう一度言えるか。そこまで待ってから、カードを束から抜いてください。
この記事で参考にした本
『東大教授が教える独学勉強法』柳川範之さん → まとめる作業が「わかった気」を生むという指摘と、条件を変えて理解を試す「揺らす」という確かめ方
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